第189話
コツコツコツコツ ツンツンツンツン 二羽のコカコッコに啄き回される俺。啄かれた瞬間、何となくチクチクはするけれど不快感があるわけでもないのでされるがまま啄かれ続ける。前世の鍼治療ってこんな感じなのかな?
コカッ!!
気が済んだのか二羽が俺から降りた。コッコッと鳴きながら俺の足元をウロチョロしている。よく見たら格好良いなぁ。
「ミーシャ=ニイトラックバーグはコカコッコに好かれたようだな」
「農業ギルド支部長さん、商業ギルド支部長さんも是非【鶏餌草】をコカコッコと一緒に食べてみてください。きっと仲良くなれます。それより何だか体が軽くなったような…」
コカーッ!!
「体に悪いものを石化したのかもしれないぞ」
「卵の浄化もする位だから、ドワーフの浄化もしているかもしれん」
それマジで? マジで細菌なんかを石化してくれてるのなら、風邪をひいたらコカコッコ療法ってよくない? もしかしたら虫歯も治るんじゃない? 虫歯菌を石化してくれて尚且つ溶けた歯の再石灰化とかできるんじゃないの? これは学園で研究対象になっているか調べてみないと。
「それより農業ギルド支部長さん、先程 “ 生で卵を食べる ” と言ってましたが、それって本当なんですか?」
「コカコッコ処理した卵は生食可だ。ミーシャ=ニイトラックバーグは僻地の出だったか。それならば知らなくても仕方ないな」
「そうだったんですね。ボク、生で卵を食べてみたいです。普通にお店で売ってるんですか?」
「『コカコッコの祝福卵』という商品名で売っている。安心して購入したければ農業ギルドか商業ギルドに行くことだ」
あ…、パッケージだけ本物で中身は未処理の鶏卵を入れて売る人がいるんだ。そして商品名、祝福と息を掛けてるんだな。コカコッコの元が元だけに石化息的な…って事? あれ、石化息はキメラだっけ? バジリスクは石化睨み? これはちゃんと調べてみないとダメだな。
「露天商の取り扱っている鶏卵は生食はしない方がよい。ドワーフ領内ではそこまで偽装販売をした話を聞かないが、ヒト族では割とよく聞く話らしい」
「わかりました。今度商業ギルドに買いに行きます」
よっしゃー!! 生卵ゲットだぜ!! 念願のトースト・オン・半熟目玉焼きが食べれるぞ!! ちなみに俺、目玉焼きには醤油派です。
コカッ コカッ コッカコッココー
「また来るよ。また一緒に【鶏餌草】を食べようね」
これが農業・商業両ギルドからの指名依頼だった訳で、クエストクリアって事で商業ギルドに戻ったところで俺の商業ギルド証に依頼達成が記録された。
「それで指名依頼の達成報酬なのだが」
「報酬の説明無しで向かってしまったからな」
「依頼指名の規定報酬を支払うと言うことでよいだろうか?」
「あ、それなら両ギルド支部長さんにお願いがあります。ボク、研磨の記録ノートを付け始めたのですが、そこに描いた絵に着色がしたいんです。何かお勧めの彩色道具があれば売っているお店を紹介してください」
「それならば彩色道具一式を報酬とすることでどうかね?」
「それでお願いします。でも、支部長さんたちが損しませんか?」
「いや、むしろミーシャ=ニイトラックバーグの方が損をしているかもしれないな」
と言う事で画材屋に行き、標準的な彩色道具一式を受け取る事となった。その他にも職校で使うノートとか『黒墨棒』も沢山渡してもらった。『黒墨棒』は前世の鉛筆的な物で、太い芯を糸でグルグル巻きにしてあるものもあれば前世同様、芯の周りが木で覆われているものもある。芯は小刀で削って尖らせて使う。削り滓は専用の瓶に貯めておく。
そして、『色墨棒』も存在した。前世の色鉛筆と同じとまではいかないけど、色芯を使ったペンシルが有りました。芯が硬くて色も薄い。ちゃんと彩色するなら絵の具を使ったほうがいいけど、出先でサッと色をつけるのなら色鉛筆の方が断然便利。ついでに画材入れも付けてもらったので、いつでも記帳が出来る幸せ。
「ついでだからノートの製作現場を見学していこうか。職校の学生証は持ってきているかね?」
画材屋の奥でノートが作られていた。職校にある出欠箱にそっくりな箱があるので学生証を通す。この箱、職校の生徒が作業や見学に来た時に学生証を通す為、様々な職人さんの作業現場に置いてあるのだという。これで一回分の現場実習が記録されたよ。
何種類かのノートが有る。前世で言うところの剥がして使うメモ帳タイプと、和綴じ装丁と言われるタイプの片側を糸で綴じているタイプ、そして二つ折りした紙の中央を糸で綴じている学習帳タイプのノートの三種類が作られていた。
ごめんなさい、俺、前世でその三種類全部自作した事があります……。
職人さんが色のついた紙をノート用紙に当て、上から定規を置き鉄筆で線を引いている。
「それは何の作業ですか?」
「これは罫線を引く作業だよ。この色紙は上から擦れば薄く色が移るんだ。それを利用してノートの紙に罫線を引いてから糸で綴じて使いやすいノートにしているのさ。嬢ちゃん、職校生かい?」
「はい。今日入校しました」
「どうせなら一冊作っていけばいい」
「ありがとうございます。あの、失礼なことを言ったかもしれませんが、回転する歯車みたいな形の鉄筆って無いですよね」
「は? どういう事だ?」
「こんな形で……」
そう言いながら、俺は手元の紙にギザギザしたピザカッターみたいな絵を描く。前世の手芸の回転して縫い印を付ける道具と言うか、切り取り用のミシン目を付けるカッターというか、そんな形状だ。
「この突起が色紙に当たると点線が引けません? 罫線の比率が少なくなります。そして罫線を交差させると方眼ノートに出来るんじゃないかな…って」
ノートを作っている職人さん、商業ギルド・農業ギルド支部長の顔色がサッと変わる。
「嬢ちゃん、あんた面白い発想するじゃないか。なぁ、商業ギルド支部長」
「そうだな。ミーシャ=ニイトラックバーグ、今から商業ギルドに行こうか」
今の、迂闊な一言だったの!? 小学生向け学習帳って言ったら方眼ノートを連想した俺が悪いのか???




