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第180話

俺がホタテビキニに視線が釘付けになっていることに気付いたオロール先生。



「ん? ミーシャも【ホヤッキー】ば欲しいってか? けねけね。たんげあるはんでな…」

訳:(ん? ミーシャも【ホヤッキー】が欲しいのかい? OK、OK。沢山あるからね…)


(共)「うっ、ぅ゙えっ!? いっいや、 だっ、大丈夫です!!!!」


「な〜もなもなも、遠慮すれば、まね!!」

訳:(いやいやいや、遠慮したらダメだよ )



気付いたらオロール先生が俺の手にホタテの貝殻を三枚握らせていた。



(共)「オロール先生、こんな大層なもの、ボク、受け取れないです!!」


(共)「何を言ってるんだい? 他愛もない素材だよ。まぁ扱いにはちょっとしたコツが要るんだけどね」


(共)「コツ…ですか?」


(共)「海中の魔素を吸っているとは言え、本当に只の貝殻だからね。魔力を浸透させて硬化処理をしないとすぐ割れるよ。しっかり処理をして魔導鍍金(メッキ)をすれば、下手なレア金属の部分鎧より防御力が出るよ」


(共)「そうなんですか!?」


(共)「まぁ、リンド=バーグ氏にそれを見せて聞いてみればいいさ」


(共)「ハ、ハイ…、ワカリマシタ……」



リンド=バーグさんが全力でホタテビキニを推してきたらどうしよう……。まぁ、処理して加工したとしても俺が使わなければいいのか。



(共)「そうそう、この戦闘服なんだけどね、見れば分かると思うが、柄が途切れることなく続いているだろう?」


ホタテビキニに気を取られていたけど、この戦闘服は冗談抜きで凄い。作務衣とモンペといった感じの上下の衣装にビッシリと刺されている刺し子柄は、柄の切り替え部分も含めてどこにも柄の乱れがない。そして柄はかなりランダムなのに始めからそうあるべきかの如く綺麗なデザインに収まっている。刺し子の糸は様々な色に染め分けられており、見ていて飽きが来ない。


(共)「凄い……」


(共)「この辺りの柄は魔力増強(サヤガタ)で、ここは防御力上昇(クルビカラ)だな。こっちは破魔(マメコ)の模様だ。私はこんな感じで柄を繋げたけど、刺す者によって好きに組み合わせられるのがこの刺し子のいいところさ」


(共)「ボクにも出来ますか?」


(共)「古代エルフは物心ついた頃から刺し始めるから、成人前には戦闘服の一つや二つは作り上げる。模様(モドコ)を手が覚えているから設計図も不要だ。まぁ覚えるまでは設計図を見て刺せばいいから問題ない」


(共)「慣れてると言っても柄の模様を間違ったりしませんか?」


(共)「その時はその時で微調整して上手く繋げていくんだ。普通の綿糸を使った練習布なら違った箇所を解いてもいいけど、魔導糸を解くわけにはいかないからね」


(共)「つまり、その戦闘服に【ホヤッキー】が付いているのって……」


(共)「多分、魔法付与(エンチャント)付きのオリハルコン鎧級じゃないかな? 単なる布鎧に貝殻を付けただけの防具だけどね。しかも金属鎧探知に引っ掛からない」


(共)「凄い…ボクもオロール先生の戦闘服とまではいかなくても作ってみたいです」


(共)「そうかそうか。間違わなければ設計図を見ながら模様(モドコ)を刺していっても問題ないからね。頑張ってみればいい。それならもっと【ホヤッキー】が必要だな…」



そこ、どうやってもホタテビキニに繋げなきゃダメなの!? ねぇ、これ何ていう罰ゲーム???



(共)「ミーシャだったら研磨した鉱石類を取り付けてもいいんじゃないのか? こんな風に…」



次元収納からキラキラ光るローブを着せられたマネキンが取り出される。



(共)「これは破魔鏡を嵌め込んだローブだよ。これは古代エルフの仕事ではないけどね。異国渡りの邪眼封じのローブだ。破魔鏡の周りに魔導糸で補強を兼ねた刺繍が施されているから若干防御力が上がっているね。勿論意味のある柄を刺繍してやればその効果も追加されるよ」



これは前世のミラーワークってやつか? 一円玉大の鏡を布に縫い付けた刺繍作品の一種だ。



(共)「これ、面白そう…」



色とりどりのスライムの死核を縫い付けたドレスをエルフに売り付けてみたいぞ。



(共)「ミーシャ、悪い笑顔だな。何を考えたんだい?」


(共)「あ、色とりどりのスライムの死核を研磨したものを縫い付けたドレスをエルフに売り付けたら面白いかなぁ……って妄想しました」


(共)「いやはや、それは面白い妄想だね。どうせなら『死神の果実』の種も縫い付けてやるといいよ。その時は “ 世界樹の巫女の為のドレスだ ” と言って売り付けるんだよ」



オロール先生も結構腹黒いと言うか…。古代エルフとエルフって、もしかして仲が悪いの?



(共)「あの、古代エルフとエルフって仲が悪いんですか?」


(共)「まぁ、お互い相容れない…って感じだね」


(共)「でも、エルフ同士ですよね?」


(共)「そりゃぁ先祖はね。今ではもう別物に近いよ。好き勝手に生きる古代エルフと、酒も煙草も手放してストイックに森の中で生きていくことを選んだエルフ。進化の過程で片方は短命故に種族の記憶を繋ぐ為に、やれ降霊術だ、やれ死霊術だ。もう片方は短命を嫌う余り、生き方を変えた挙げ句に外界と隔絶するレベルの長命種だ。どちらも等しく森の奥の雪深くなる地に暮らしていて、【角麦】も『死神の果実』も保存食の野菜の塩漬けも同じ様に好むけれどねぇ。今では言葉も通じないんだから、疾うの昔に別物になってしまったんだろうよ……」



オロール先生は自嘲気味にフッと鼻で笑うと、卓上に置いてあったガラス枡(ワンカップ)に入った『生命之水(蒸留酒)』を一気に煽った。

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