第176話
俺俺、本気を出した本職C級冒険者の実力、ナメてました。ものの十分もせずに【粗相豆】が五つ収穫され、更にイルマさんが粗相豆の草体を綺麗に根から掘り起こしてくれてました。根は拭き紙で包んで乾かないように保護してくれてるし。流石は農業ドワーフに転向した氏族、いい仕事してますね。
「自分、背負篭編むんで…ヘタクソだけど」
イルマさんはそう言いながらそこら辺に生えている椰子っぽい葉を付け根から何本か刈り取ると、器用に背負篭のような物を編み始める。やはりその辺りに生えている紙芭蕉の幼株から外葉を二枚取り、背負篭の中に敷くと簡易背負篭の出来上がりだ。その簡易背負篭に掘り起こした【粗相豆】草体が収められる。
「イルマは回復以外にもいい仕事するんだよ」
「ザック要らずですやん。買うたら結構しますやろ?」
「よせやい、照れるぜ」
「ミーシャの草知識が手に入れば、更に任務受注時の食糧費のコストカットが出来るのです」
イルマさんが背負篭を編んでいる間にチーウさんが捕獲した蛙三匹を解体していた。
「良かった、一人に脚が一本渡る」
「マヤ、フライパンを出してー」
さて、ミズは油炒めにして醤油で味付け。ハコベはお浸しもしくは茹でサラダにするとして、蛙肉の照り焼きはどう作るか…。味付けは醤油と蜂蜜レモンを合わせたタレで照り焼きにすればいいよね。最初にお酒で下処理しようかな…。フライパンを使うより、土魔法『土器』で陶板を作って竈に入れてオーブン調理風にするか……。だったら照り焼きのタレを塗る刷毛みたいな道具が欲しいぞ。
「ミーシャちゃん、調理器具は足りてる?」
「そうですね…、可能ならば刷毛というか筆のような物があれば嬉しいです。照り焼きのタレを蛙肉に塗る為に使いたいんですよね」
「フサフサなやつ?」
「有ればいいですけどね」
「アレやろ」
「アレか!!」
「マヤ、【救鼠】や!! 【救鼠草】を二〜三本採ったらイルマに渡して浄化してもろて〜」
窮鼠? 猫を噛むやつ? 九索は麻雀牌か…。
浄化済みの【救鼠草】を渡される。うん、これ前世のネコジャラシだね。『対物簡易鑑定』の結果は、
【救鼠草】: 前世のエノコログサ、別名ネコジャラシ。この草が有れば鼠の命が (猫から) 救われるのでそう呼ばれている。
ミズは醤油味の油炒め。茹でナズナは搾ってお浸しに。めっちゃ薄めた魚醤に、醤油とレモン汁を合わせたもので食べる。茹でツユクサはざく切りにして水気を絞って『土器』で作った鉢に盛っておく。やはり『土器』でコップと蓋を作り、油、岩塩、レモン汁でドレッシングを作っておく。コロッケサンドのパンを取り出し、一センチ角に刻んで油で炒めてカラッとさせる。食べる直前にツユクサ・サラダに揚げ焼きクルトンをトッピングだ。
後は蛙肉を陶板に乗せて焼いていく。何度か “ 醤油と蜂蜜レモン ” を合わせた照り焼きのタレをネコジャラシで塗って焼いていけば、蛙の照り焼きの出来上がり。脚は一人一本。その他の小肉は早い物勝ち??? お好みで青ジソで包んで召し上がれ。
「では、照り焼きの小肉を竈の神様に捧げよう。竈神キャシー、無事に煮炊き出来ました。ありがとうございます」
ひと欠片の照り焼きの小肉が竈に焚べられた。
「ヤバっ、粗相汁味の料理、ウマっっ!!」
「これ、アタリですやん」
「魚醤の豆版って言ったからもっと青臭いのかと思ってたけど、意外とそうでもなかったよ」
「むしろ魚醤の方が干物魚臭いね」
「【青花草】、意外と美味しいのです。食べ尽くされたら服職人さんが困るのです」
「照り焼き、ヤバい。もっと大きなお肉で食べたい」
「そん時はエールもぎょうさん要りますやろ」
全員のコロッケを二口分ずつ供出して貰ったので、それを水で溶かして海塩で味を整えた、なんちゃってポタージュも有るよ。茹でミズの根に近い部位を刻んで叩いた物を入れてある。ミズの根元って叩くとトロミがでるんだよね。前世で秋田に花火を見に行った時、味噌で味付けされたミズ叩きを食べた事があるんだ。
「【ポキポキ草】がトロトロ草なのです」
「コロッケってポタージュになるんだ…」
「料理じゃなくて、ミーシャがヤバいのか…」
「私の妹分だからね」
「ミーシャは寮に住むの?」
「はい。基本は職校の寮で、たまに学園の寮にも泊まる予定です。どちらも借りました」
「学生寮をダブル借りとか初耳っすよ」
「学園の寮、要らなくないか?」
いや、そこはカレー粉の研究に必要なので……
「今回の草採集作戦は成功と判断してよいだろうか?」
「ええんとちゃう? ギルドに報告やな」
「【鶏餌草】なんすけどー、鶏の前で食べたらどうなるのか知りたいっす」
「そこは奪い合いになるんじゃない?」
「鶏の人だと思われちゃうかもです」
「ブッ!! それはないやろ…」
「ミーシャ、顔色が悪いみたいだが……」
ははははは……、 それって、また、動物たちにエサ泥棒扱いされちゃうってネタでしょ? 俺、知ってる。




