第174話
食べられそうな草が無かった時の為のお昼ご飯用に冒険者ギルドで昨日も食べたコロッケサンドを買って持ってきている。
少し拓けた場所が有るので土魔法の『土饅頭』で土手を作り休憩場所を作る。チーウさんが竈や『土器』で土鍋を作り、イルマさんが水を準備。道中、適当に拾っていた薪を竈にセットしておく。着火は火魔法の使えるアリサお姉ちゃんに任せるとして、全員で食べられる草を探すことにする。
「楽しみなのです」
「蛇や蛙も獲っていいですから…」
「いやいや、今日の食材は草オンリーでいこう」
「あ、これは食べたことあるね。【ポキポキ草】だ。葉を外しながら茎をポキポキ折って、皮を剥いていけば下処理が終わる。茹でたら食べられるよ」
チーウさんが近くにあった背の高い植物をポキッと手折る。処理の仕方を説明しながら三センチ位に折っていく。では『対物簡易鑑定』を掛けまくりますか。
【ポキポキ草】: 前世のウワバミソウ、またはミズ。茎をポキポキと折りながら皮を剥いて下処理をする。軽く茹でた後、油炒めや鍋物で食べると美味。地域によっては浅漬けにしたりもする。秋に採取できるコブ状の実も湯がいて食べると美味い。
あ、これは山菜だ。前世でミズは聞いたことがある。
「それ、美味しいやつですよね。茹でてから油炒めとか鍋物いや、スープの具にする草ですね」
「えっ? そうなの? ずっと茹でてから塩付けて食べてたよ」
「私は、湯掻いた茎を塩揉みしてから【大バジル】の実と合わせて、塩味の茹でサラダとして食べるのが好きかな」
あ、それは浅漬けっぽいぞ。
「言ってる脇から【大バジル】なのです」
【大バジル】: 前世の青ジソ
おおっ!! 青ジソだ!! たしかにバジルっぽいよね。つまり【大バジル】の実はシソの実ってことだな。これは餃子に入れてもいいし、ササミを包んで揚げ物コースですよ。薬味的にも使えるし。それより赤ジソは無いの? 赤ジソが有ったら梅干しの扉が開くんじゃない?
「ボクも負けないぞ……、って、これは」
「ミーシャちゃん、何か見付かった?」
これ、ハコベじゃない? ハコベって確か食べられるよね。春の七草の一つだったハズ。
「あー、鶏の餌。ぎょうさん生えてますわ。儲けは小銭程度やけど、採って帰ります?」
「クララさん、これ、食べられます」
【鶏餌草】: 前世のハコベ。湯がいてお浸しで。粥の彩りにもよし。名前の通り鶏を始めとした鳥の餌。
「ほんまかいな!?」
「それを食べたら鶏と喧嘩なのです」
うっ…、なんだろう、この既視感。
「イェーイ、【棍棒芋】の子芋ゲット!!」
「【藪イチゴ】が有ったよー」
「【クコベリー】と、ギリ使えそうな【青胡桃】も有りましたわ」
「【魔多々媚】の実なのです」
【棍棒芋】の子芋: 前世の長芋のムカゴ。そのまま食べても塩茹ででも。
【藪イチゴ】: 前世のヘビイチゴ。甘みも酸味も弱いが問題なく食べられる。
【クコベリー】: 前世のクコの実。中華屋さんで出てくる杏仁豆腐の上に乗っている赤いアレ。薬用にもなる。クコベリーの若葉は湯がいて食べる事が出来る。
【青胡桃】: 前世のクルミの未成熟な実。草木染めの染液やインクの材料になる。
【魔多々媚】の実: 【魔多々媚】の実。猫の人が大好き。
皆、ちゃんとした植物採集をしてるよ。
「【青花草】も結構生えてるけどどうする? 花びら採集依頼って有ったかな?」
「職校が後期になるさかい、摘んだ花びらを瓶に詰めて持って行ったら買い取ってくれるんちゃうの?」
【青花草】: 前世のツユクサ。青色の花弁は友禅の下絵付けのインクとして使われる。地上部の全草が食用可。
「その【青花草】も食べられます」
「マジかー」
「ミーシャの草知識、ヤバいっすね」
「これは…ギルドに報告かな?」
「チーウもそう思う?」
「先ず、試食が先やろなー。美味い不味いの確認は大事やろ?」
「美味しかったら報告なのです」
実は俺の『対物簡易鑑定』さん、口に出してないだけで相当数の食べることの出来る草を鑑定してくれている。オオバコとかアカザとかタンポポとかは勿論だけど、この草は春の若芽が食べられるだの、灰汁抜きをしたらドングリも食べられるとか、そんな鑑定結果が見えているのだ。
そして残念ながら【粗相豆】は見つからなかった。代わりに【蔓野豆】という野生の豆の仲間が見付かった。ヤバい、これの鑑定結果……
【蔓野豆】: 前世の大豆の原種。
うおっっ!! 大豆じゃないけど大豆の仲間キターー!! これを採集して帰ろう。莢が乾燥してる物もあるし、枝豆みたいにまだ青い莢もある。このまま使うか、品種改良を目指すべきか……。取り敢えず、採れるだけ採って帰らないと。
味噌、味噌だよ味噌。味噌のこと忘れてないよ……。味噌は無理でもモヤシはいけるかもしれない。納豆は稲藁が無いと駄目だろうからまだ先か…。




