第171話
(共)「いやはや、古代エルフの戦闘術は凄いとは聞いていたが、実際目の当たりにすると迫力が違うな」
(共)「本気出して無くてこれなんでしょ? 実際にリンドのトマホーク装備で戦ったら……ねぇ。敵対してたら投擲されたくないや。それに魔導格闘術の使い手は初めて見た。あれは確かに古代エルフでないと無理ね」
アリサお姉ちゃんの説明によると、時空魔法の中の光学迷彩系統の魔法を使って姿を消し、魔法による身体能力補正を使って高速戦闘をしているので、実は魔法使いや魔導士系の戦闘術なのだとか。相撲に見えた魔導格闘術は、相手を掴んだ時に魔力を流し込んで内包魔力のバランスを崩すことにより相手を身体コントロール不能にさせる魔法使いや魔導士系の格闘術だった。破格の魔力持ちである古代エルフだからこそ成立する戦闘術だとのこと。近接攻撃のできる魔法使いはどう転んでも恐ろしい存在だ。近接攻撃からのゼロ距離魔法……ゴメンナサイします、はい。
(共)「それより、トマホークを投擲したら自動で戻って来ないと大変ですよね」
(共)「戦神トオルの戦鎚が投げれば戻る、そんな仕様だと聞いていたよ」
(共)「打破神トオルか。トオル神の持つ伝説の玄翁はドワーフの憧れであり、いつかそんな玄翁を創り上げられるまでの域に到達したいと思う目標でもある」
トオル神は半獣半人姿をしていている。その獣姿部分は片角の折れた野牛。そのパワーは一千万人力とも言われている。トオル神の武器、『黄金色の玄能』は敵を打ち砕く他、装備品や魔術補正を奪い取る能力、『強奪好機』があるのだと言う。
(共)「『黄金色の玄翁』までとはいかなくていいからね。トマホークに魔力が通ればこちらで戻すさ」
(共)「【魔包樫似】は手配するとして…、後は使うとしたら【大厄杉】と【怨蠱の樹】くらいか……」
(共)「【怨蠱の樹】なら持ってるよ」
(共)「それなら話が変わってくる…」
悩んだ末、リンド=バーグさんが出した結論は、八割方完成したところで学園に行きトマホークの刃と柄の魔導バランスを取る…だった。
(共)「もはや普通の斧じゃないだろ、それ…。俺の魔力量だとどう考えても製作中に魔力が足りなくなりそうだ。オロール女史に魔力サポートをしてもらった方が確実だろうな」
(共)「相分かった。どうせ自分用だ。始めから私の魔力を馴染ませてやった方が使い勝手も良くなるハズだね」
(共)「どうせならミーシャに柄に使う樹を磨いてもらおうか」
(共)「えっ!? ボクがですか?」
(共)「魔銘木は滅多に手に出来ないからな。ミーシャはオロール女史と知らない仲でもなさそうだから柄磨きに手を出してもいいんじゃないか? いい勉強になるぞ」
(共)「ミーシャ、頼んだぞ」
(共)「がっ、頑張ります」
リンド=バーグさん曰く、職校名物、学習題材は請けた仕事。技術を学べて工賃の一部も貰える美味しい実地です。しかもベテラン講師や職人さんの指導付きです。
(共)「それより、夫婦戦斧というのは何ですか?」
(共)「あ、それはリンドが大鍛冶師に認定された時に打った武器だよ。二つ揃いの武器を打って、それが認められたら正式に大鍛冶師を名乗れるんだって。私達がちょうど結婚するところだったから、記念に夫婦戦斧にしてもらったんだ」
(共)「二揃の理由付けがあればいいだけだから、親子剣とか双子剣とか兄弟剣とか表裏剣とか、そんな感じのシリーズ武器にするだけだ。あからさまな大小剣とかだと不可だったりするし、剣と槍で揃いだと言っても認められないな」
(共)「例えが剣ばかりだったけど、別に剣でなくてもいいんですよね?」
(共)「それはそうだ。ただ槍は少し面倒だな。投槍と馬上槍とを揃いだと言って作っても別物扱いにされる」
(共)「馬車の護衛が外で使う槍と、馬車の中で護身的に持つ槍とでは揃いになりますか?」
(共)「それは許可されるな。…って馬車内での護身用槍なんて良く知ってたな」
前世で『駕籠槍』ってのがあったのを思い出しただけなんだけどね。
(共)「後、戦斧とハルバードの組み合わせは? あと、盾は駄目なんですか?」
(共)「聞いたことはないけど多分いけそうだな。盾はタンク職用のなら認定されるぞ……ってミーシャ、聞いてくる内容がそれなりにマニアックなんだが…」
(共)「ボク、色々と興味の湧く年頃なので…」
ドワーフの武器と言えば連想される斧だけど、実は揃いで作るなら剣が楽なので、大鍛冶師を認定してもらう時に斧を選択する鍛冶師は珍しかったりする。
「それよりリンド、ミーシャちゃんの装備の件なんだけど……」
「すまん、忘れていた」
「布鎧の補強をしたいの。勿論、胴鎧もだよ」
「いや、それは俺というより軽鎧屋の仕事だろ?」
「部分的に鎖帷子を付けてもらおうかな…って」
「そう言うことか。何処の布鎧だ?」
「冒険者ギルドの売店のだよー。シンプル過ぎて留め金の一つも付いてない」
「『髭飾草面紐』でも取り付けるか。貼ったり剥がせたりする方が楽だろう?」
「あっ、あれね。バリバリ剥がすの楽しいよね」
どうやらマジックテープ的な道具が存在している様です。




