第162話
アリサお姉ちゃんの隣に知らない女性ドワーフが座っている。もしかしたらこの人がエーツ四兄弟妹の末妹さん?
「ミーシャちゃん、この娘がチーウ=エーツだよ。あの胡散臭い商人さんの妹だ」
「あたしはチーウ=エーツだ。宜しく」
「初めまして、ボクはミーシャ=ニイトラックバーグです」
この人のお兄さん達がカーン=エーツさん、ジョー=エーツさん、ホーク=エーツさんか…。きっとチーウ=エーツさんも一癖二癖あるんだろうなぁ…。
「チーウはね、『地底娘』の左の切込隊長だからね」
つまり、今ここに『地底娘』の右の特攻隊長と左の切込隊長がいると。ちなみに、特攻隊長の得物はバールのようなものと戦斧で、切込隊長の得物はツルハシとシャベルです。
「そうだチーウ=エーツ、後で武器のメンテをするからアリサと一緒に工房に運んでおいてくれ」
「今回はあまりヘタってないよ」
「いや、柄にするのに良さげな材を見つけてきたから交換しようと思っている」
「ラッキー!!」
「『ビレッジアップ』で【斧折樺】を仕入れて来たぞ」
【斧折樺】って発音的にあのオノオレカンバか? 前世でそれ製の靴ベラ持ってたんだよなぁ…。パイク=ラックさんに発注したいぞ。
俺とリンド=バーグさんはフレンチトースト的なパンを注文した。リンド=バーグさんは『生命之水』浸しの大麦パンをチーズと一緒に焼いたものを、俺は『オーリンジ』の絞り汁と『生命之水』を混ぜたものに白いパンを浸して溶かしバターで焼いたものにした。はい、クレープシュゼット風です。追加トッピングではクロテッドクリームだけでなくジャムやカリカリベーコンなんかも頼めるので勿論注文する。あー、これ、バニラアイス乗せたいわ。
「ミーシャ=ニイトラックバーグは採掘も狩りもした事がないと聞いた」
「採集したことがあるのは、道沿いの草とか木の実や果実、落ちてる鉱石とかです」
「その割に変な食材に詳しいんでしょ?」
「ホーク兄を泣かせたと聞いた。ジョー兄も手を焼くオテンバ娘で、カーン兄が「要チェックやー!!」って言ってたな」
うっわー、エーツ兄弟の俺の評価が酷い!! いや、まだマシなのか?
「ボクを辺境から連れ出してくれた老ドワーフ、ボクは爺ちゃんって呼んでいたんですけど、その爺ちゃんから色々教わりました」
「リンドもあそこで食べたんだよね?」
「ああ。中々に衝撃的だった…。商業ギルドとの約束でその話はまだ秘密なので詳しくは話せないんだが…」
「じゃあ、その秘密以外の食べられる草をその辺に探しにいこう!!」
「ボクなんかより『地底娘』の皆さんの方が詳しいんじゃ?」
「いやいやいやいや、ミーシャちゃんの草料理が食べてみたい」
「メンバーを呼ぶ?」
「謎草採集作戦は明日の決行でいいと思う?」
「明日は全員と面通しして、『スワロー』周辺の地図をミーシャ=ニイトラックバーグに確認してもらい、明後日の決行が良いと思う」
「本格的だなぁ」
「冒険者たるもの、常に本気でなくてはならない。何故ならば、我々は常に死と隣合わせなのだから」
うっわー、チーウ=エーツさんって冒険者ガチ勢だよ。いや、それは冒険者的には正解なんだけど。
「ミーシャ=ニイトラックバーグは冒険者登録はしてあるのか?」
「はい、ボクは職校の生徒枠ですが冒険者登録はしてあります」
「では『地底娘』の変則メンバーとして登録しておく。D級任務までは一緒にこなせる」
「では冒険者ギルドに職校生徒を連れて野外散策に行く申請をしておくね」
「では、今からあたしたちは仲間だ。ミーシャと呼ばせてもらう。あたしのこともチーウと呼んでくれ」
「はい、チーウさん、宜しくお願いします。アリサお姉ちゃんも改めて宜しくです」
「アリサお姉ちゃんって……」
「ミーシャちゃんはリンドの庇護養子だから、私の妹分なのだよ」
「成る程、了解した。ところでミーシャ、ミーシャに聞きたいことがある。ホーク兄の事はどう思う?」
「えっ、ホーク=エーツさんですか? そうですね…飲まなきゃいい人なんじゃないですかね?」
「いや、そう言う意味じゃなくて」
「ん…???」
「いや、年下だけどあたしの姉になってみないか?って意味で」
「いやーーー!! いやいやいやいや勘弁してください!!」
「嫌なのか?」
「遠慮しておきます」
好きとか嫌いとかの前に、あの酒癖の悪さは勘弁です。
「エーツ氏族の片棒を担いでみたくないかな?」
「ごめんなさい。間に合ってます」
「エーツ氏族に連なると『エイドパス鉱山』にフリーパスで入り放題になるけど」
「えっ…!? マジ?」
「え〜〜、反応するのそこなのぉ?」
そこはつい…ってやつです。




