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第160話

ラルフロ=レーンさんに学園入学を勧められること小一時間。まぁ、携帯鏡の仕上げをしながら勝手に喋りまくってたのを聞き流していただけなんだけども。ラルフロ=レーンさんの話だと、言われてみたら当たり前の事なんだけど、武器防具などの装備品に装着する宝石と魔道具に組み込む宝石との研磨の仕方が相当違った。ついでに言うと、只の装身具(アクセサリー)用とも違うんだけど。 「更に詳しく説明すると魔道具用と錬金術用と聖術用も違うけど今は割愛するからな。知りたかったら学園に来いと」 言われた。そうなると気になっちゃうんですけど…。


リンド=バーグさんはリンド=バーグさんで、魔道具仕様で研磨した宝石を装備品に使ってみたいらしく壁に向かってブツクサ言ってる。ただ分かったことは、知識と技術と経験が必要ということだ。あと、研磨道具も!!


携帯鏡のベースは、良く磨かれた鉄製鏡に聖銀を魔導メッキし、鏡になる面を魔石ガラスでコーティングした一種の魔道具だった。これを使うと低位アンデッドや獣化呪(ライカンスロープ)を看破することができる。そこの背側に【菊花・星留(ホシル)】を取り付けたものが今回アリサお姉ちゃんが依頼した魔道具だ。



「ミーシャ=ニイトラックバーグ、何か面白い鉱石とか持ってないか? 買い取るぞ」


「特に持ってないです。せいぜい質の悪い【黒薔薇】になりかけくらいで…」


他はマジで砂利みたいな鉱石です。


「あー、そういうのでいいんだよ」


そう言われたのでバッグパックから取り出してテーブルの上に置いた。



「これだよ、これ。こんな “ 終わりかけ ” の【愛の囁き】が最高なのよ」


ピンクの色味も薄く、かなり黒変してるロードライト。前世のパワーストーンショップでも徳用タンブル=百円(+税)にしかならない様な石だよ、それ。


「どうしてですか? 鉱石としても宝石としても価値が有るか無いか…じゃないですか?」


「まぁ…ミーシャ=ニイトラックバーグみたいな初心な嬢ちゃんには不要なんだがね。まぁヒト族ってのはなかなか面倒というか野心の塊というか……下衆というか、ワンナイトラブ、いわゆる愛の無い交際ってのを好む輩が一定数居るわけだ。そういった輩は 「この【愛の囁き】が黒くなるまでのひと時、愛を育まないか?」 とか何とか言って女性を口説く訳だ。 「この石が黒くなるまで婚約者でいてくれ」 と言って婚約破棄しようとする下級貴族もいるな」


あ〜〜〜、そう言う使い方ね。前世で言うなら捨て垢・捨てアド交換みたいなやつか。



「あははは…、確かにボクには関係ないですね」


「だから、凝ったデザインにする訳でもなく、最低限装身具として体を成している程度の作りにして安く売る訳よ。まぁ、庶民的なお値段よりは上だが」


「えっ? どうしてですか?」


「そこはほら、本当に処理したいだけなら男はそういった商売のお店に行けばいいだけだからな。口説く以上は見栄も張るだろ」


はい、前世で言うと本命相手じゃなくても、ファミレスや牛丼屋やハンバーガーチェーン店にクーポン持って食事に誘わないって感覚ですね、分かります。



「それで、こういった “ 終わりかけ ” の石にシルバーだったり真鍮だったりを使ってペンダントにすると、それを持ったカーン=エーツみたいな胡散臭い商人が暗躍する…と。でも俺も稀にイタズラをしたくなるんで、【心変わり】直前の石に『遅延』の魔法陣を刻む」


「えっ!? そっ、それって……」


「変わりそうで変わらないんだよ。下手したら三十年は持つ」


「酷いサプライズだな。産まれたばかりの子供に髭が生え始める年数じゃないか」


「魔法陣が削れたら無効化しますよね?」


「そうそう。だから縁取り金具に隠れる位置に刻んでおくのよ。只の『遅延』効果を発動させる魔法陣だから小さく描けるし、透明な魔導インクってのもあるからな…」



うわー、ラルフロ=レーンさんって結構腹黒いぞ。



「で、婚約破棄出来なかったヒト族の貴族とか実際のところ居たんですか?」


「このサプライズ、冗談みたいな話に聞こえるだろ? それがいるんだよ。婚約破棄出来ずに三男二女をもうけた貴族とか、ドロドロの三角関係になる輩とか…って、俺の仕事のやつじゃないけどな。領都にいる錬金術師の仕業らしいね」


「自業自得よね」


「ヒト族のいいゴシップ記事になってるみたいだぜ。婚約破棄も破棄出来ずも、他人(ひと)の不幸は蜜の味だってさ」


もげろ!! 爆発しろ!! 系のリアル離縁阻止系魔道具……。まぁドワーフに直接被害が及ばなければ構わないけどね。えっ、俺? 俺は浮いた話は遠慮しておきます。今の姿だと俺のお相手はオッサンになる訳でしょ……? うん、ちょっとムリかも。酒飲み友達なら欲しいけど。



「でも、魔道具なんですよね? 鑑定したら分かりませんか?」


「分かるぞ。でもまぁ、そういった輩は鑑定をかけないし、まさか街中の庶民向け装身具店にそんな効果付きの魔道具が置かれているとか思わないだろ? しかも効果は【赤薔薇】の黒変遅延のみ。見つかったところでお咎めなしだ」



という事で、『関所の集落(仮)』で拾ったロードライトともお別れです。銀貨一枚になりました。


「これ、どういった販売価格になるんですか? 後学のため教えてください」



「まぁ、俺がミーシャ=ニイトラックバーグから銀貨一枚で “ 終わりかけ ” を買って、そこに銀貨一枚か二枚程度の地金を使う。工賃に魔導インクやら諸経費を足して、カーン=エーツへの卸値が銀貨四枚〜五枚程度だ。それをカーン=エーツがヒト族に銀貨八枚程度で卸して、ヒト族の装身具店は金貨一枚程度で売ってるんだろうな」



面白がって研磨するのはいいけど最終的に持て余すのは目に見えてるから、そんな処理方法があるのはいい勉強になったかも。足ツボマットにするには勿体ない石は、ヒト族向けのチープアクセにするのがいいかな。



「 “ 終わりかけ ” の魔道具って、(かすがい)みたいですね」


「あー、その隠語、響きがいいな。それ採用!!」

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