第130話
そこそこ早く目覚めたので顔を洗って髭を整える。今日の気分は、三つ編みを三本作って毛先で一つに纏める、で。
朝食付きだったのでサッと食べておいた。たまには独りの食事もいいものだ。それから皆でポニー達を馬車組合に返却に行く。ついでに『スワロー』に行く馬車の確保だ。乗合馬車でもいいけど貸し切りにすることも出来るのだと。流石に馬車で六日ほどかかる距離をポニーに乗って移動はしたくない。
馬車組合でポニーの返却手続きをする。馬車組合『ビレッジアップ』支部長さんのご厚意でなぜか厩舎の見学をさせてもらえる事に。最大で二十頭を繋げる厩舎で、今現在は六頭が待機していた。ワギュ達が入るので計十頭になる。馬車は二頭立て用が三台、四頭立て用が一台停められている。四人だし二頭立てに乗るのかな。御者も雇うんだろうな。
「それで、ミーシャ=ニイトラックバーグ様には大変不躾ながらお願いがあるのですが…」
「はい、なんでしょう?」
「是非ともここに繋いである【運魔】達の前で【紫萌肥しの発芽したもの】を食べていただけないでしょうか」
はいっ!? 何でいきなりアルファルファ話なの!?
「先程、商業組合経由で【紫萌肥し】の情報が届きまして、それがミーシャ=ニイトラックバーグ様由来であると。本来ならば開示許可の無い報告者様や登録者様の情報を各組合等で共有利用する事は許可されてはいないのですが、商業組合『ビレッジアップ支部長が「検証実験の為に協力して貰いたいので特例開示権を発動する」と申されまして……」
俺の個人情報保護、ザルなんですけど…。
「申し訳ない。ミーシャの事は秘密にされるハズだったんだが強権発動をされてしまった。本来、この報告に対して組合本部で検証実験をするのが筋なんだが、【紫萌肥しの発芽したもの】を食べた事があるのがミーシャしかいないのと、【運魔】の前で食べるという行為の因果関係を見る事が……」
ホーク=エーツさんがもの凄く申し訳なさそうに言葉を濁しながら伝えてくる。
「申し訳ございません。人払いはしておりますので、この件について馬車組合『ビレッジアップ』支部で知るものは私しかおりません」
つまりあれか。報告が急すぎて登録も検証実験もままならないので、アルファルファを平気で食べる事のできる俺を人身御供にして試しに一回見てみたいって事だな。
「分かりました。ボクで協力できるなら」
「ありがとうございます」
「【紫萌肥し】は十分に用意出来るんですか?」
「それなら大丈夫です。育てたものを飼い葉に足して食べさせているので種は沢山保存しております」
「それは良かった。折角なので全員で食べてみましょう。きっと【運魔】達も喜んでくれますよ」
俺だけ実験台というのも面白くないので一蓮托生といこうじゃない。なーに、アルファルファは美味しいから大丈夫。一瞬、馬車組合『ビレッジアップ』支部長さんの顔が引き攣ったのは見なかった事にしておこう。
支部長さんが【紫萌肥し】の種を大皿に乗せ、【運魔】達の前まで行くと『如雨露』と『発根』の魔法を唱える。【紫萌肥し】の種が一斉に芽吹き出す。俺が勝手に勘違いしていたけれど『発根』は『汎用魔法』じゃなかった。『如雨露』も『発根』も農業ドワーフが得意としている草樹魔法だった。火魔法や水魔法といった属性魔法とは違い、草樹魔法は努力次第で取得出来るそうなので頑張って取得しようと思う。
「では実食ですね。その前に『汎用魔法』JSSトリプルコンボを【紫萌肥し】の発芽したものと、あとボクの手に掛けます。皆さんも手を洗いたかったらご自身でどうぞ」
ポニー達が発芽した紫馬肥しに気付いた。 “ 早くそれを大きく育てて!! ” って感じの無言のアピールが聞こえてくる様だ。
アルファルファを摘んで口にする。何度食べても発芽したてのアルファルファは美味しいな。モグモグと咀嚼して飲み込むとポニー達が “ ドワーフもそれ食べるんだ ” “ それ、美味しいよね ” といった表情を見せてくる。それと紫馬肥しを食べたいのか鼻息も荒くなってきているし、何かを訴えたいのかヒヒンヒヒンと鳴き始めてるよ。
「わっ、私も!!」
支部長さんもアルファルファを食べる。それを見てポニー達が頭を上下させる。ポニーのヘドバン。
全員で完食するとポニー達が更にヘドバンしたり前脚で地面をトントンしたりしてきた。さっきよりもヒヒンヒヒンと騒ぎ出してるし。支部長さん曰く、「【運魔】達が皆を仲間だと認めたけど、五人だけで餌を食べてズルい!! 俺達にも餌をちょうだい!!」状態なんだとか。申し訳ないから飼い葉にプラスして【紫萌肥し】を与える事に。
その後、なし崩し的にタワシをお披露目する羽目になったのは言うまでもない。




