第119話
唐揚げを揚げ、生姜焼きを焼く。脂身の焦げる匂いと擦り下ろし生姜の加熱した匂いとが辺りを漂う。そして遅れて鼻腔に届くほんのり焦げた醤油と水飴の香り!! 唐揚げも二度揚げをすれば、少し水分が抜けて揚げ音が「ジャーッ」から「シャーーー」と軽くなってくる。加熱し過ぎると肉のジューシー感が失われるので、油から引き上げザルの上で休ませてやる。
それぞれを千切り【玉菜】を盛った皿に乗せれば完成。唐揚げには櫛切り【リモー】を添える。生姜焼きを食べたら炭水化物が欲しくなる可能性を加味し、大麦パンのスライスも準備しておく。本当は炊き立ての白飯と一緒に食べたい。白飯にワンバウンドさせて一気にかきこみたい。慌てすぎて気管にご飯粒が闖入するところまでがワンセットか?
ご飯粒で噎せる⋯で、ふと思った。餅を喉に詰まらせた時の対処法は状態異常の回復呪文が最適解なのだろうか⋯? って。ポーションは飲み込めないだろうから使用対象から外すけど。
「いい匂いだなぁ⋯」
「【緋茄子】の追熟は一旦置いておいて、先ずはその料理で飲むか」
「パイク=ラック、すまんな」
パイク=ラックさんが追熟実験に専念してたらエールが冷やせないからね。
「全く、人使いが荒いのぅ」
そう言うもののパイク=ラックさんの声が怒っているように聞こえないのは、追熟実験に成功の兆候が見えているからだろうか?
「では、飲むぞ!!」
「イェーーイ!!」 「ヒャッホー!!」 「ウェ~イ!!」
相変わらずの賑やかさ。そしてパイク=ラックさんのエール冷却速度の上昇っぷりよ。もしかしなくても、秘匿魔法で冷やしているのではなく、単独スキルで『エール冷却(極)』とかを取得していて、そちらで冷やしているのかもしれない。是非ともスキル・オーブで確認してもらいたい。
「で、それは【猪肉の生薑焼き】と山鳩と蛙揚げか?」
「はい。【猪肉の生薑焼き】は【粗相豆】と水飴を使ったタレ味と、岩塩味との二種類があります。山鳩と蛙は【カラアゲ】です」
「【カラアゲ】?」
「はい。お肉をカラッと揚げたので」
前世で子供の頃そう思い込んでいた、唐揚げの間違った語源を採用しましたよ。
「ピリッとした【生薑】の風味が少しクドい猪肉の脂身の甘さとよく合うんだな」
「【粗相豆】と水飴って、甘じょっぱくて不思議だよ」
「【粗相豆】、確かに魚醤とは違う。だが、独特の風味は悪くないぞ」
「【カラアゲ】も軽く岩塩を振った肉にデンプンをまぶして油で揚げるだけなのに、こんなに単純なのに美味い!!」
「俺は【リモー】無しが好きだな」
出たぞ、唐揚げにレモン掛ける掛けない論争。
「【カラアゲ】全体に【リモー】を絞るとケンカになるかも⋯」
「ミーシャ、まさか〜〜」
ホーク=エーツさん、そのまさかがあるんです。しかも深刻で根深い争いに発展します。
続いてはジンジャーエールのお披露目だ。
「皆さん、エールに【生薑】の汁を加えてみてください」
「これはまた刺激的だがサッパリとした味わいに変わるな」
「有りか無しかで言ったら有りだ」
「今回は水飴と合わせてエキスを抽出しましたが、手に入るならハチミツでもいいし、甘くするのがどうしても嫌なら水飴無しでもいいです。その他には【リモー】や【ライ・ムー】なんかの柑橘類の搾り汁を加えてもいいんじゃないかと」
「ハチミツか。入手の手間を考えたら水飴を使う方が楽だな」
「擦り下ろしの方は風味も刺激も強烈で、パパッとすぐ作れます。スライスした物だと少しエキスの抽出時間はかかりますが手軽に作れます。擦り下ろし滓も出ませんし」
「ホーク、ちゃんと記録しとけよ」
ジョー=エーツさん、相変わらず鬼…いや、いい鬼いさん(お兄さん)です……。




