第114話
ポニーで盛り上がりすぎてしまった。いかん、猪肉を切ってない。パイク=ラックさんの所に肉を持っていかないと。マリイン=リッジさんは畑の世話をしてから宴会に参加するって言ってた。多分トマトの世話だ。そして恐らく豆苗を持って来ることだろう。
パイク=ラックさんに猪肉の冷却をお願いした。半冷凍状態の肉をスライスするのはジョー=エーツさん。ついでに磨いた “ 心変わり ” も見せたよ。当然というかお咎めなし。いくら俺でも毎回研磨した石類が変性したりしませんから。
生姜焼き用と酢豚用の猪肉を取り分けたら猪肉の残りは僅かだった。その僅かな猪肉と鹿肉とを【バーサーカッター】で挽き肉にする。脂っ気が足りない感じなので猪の脂身も加える。それから【玉菜】を微塵切りにするのと千切りにするのと。千切りキャベツを作るのにはピーラーを使うと楽。少し青みの残るトマトを一つ貰ってきたので擦り下ろしてから煮詰めてトマトソースにしておく。
春巻きの中身も適当に作る。細切り野菜に鹿肉と芋麺を入れてサッと炒めたら、猪骨スープと岩塩少々で味を整えて水溶きデンプンで纏めたらOK。皮で巻いたら後は揚げるだけ。春巻きはどんな名前にされるのだろう…。簀巻き揚げか? それともミイラ揚げとか?
生姜焼きと唐揚げの下処理中に手の空いている人に餃子を包んで貰う。そして予想外だったのが重曹の存在。置いてないかと思っていたらパン用に用意されてた。あまり使わないって言ってたけど。後は胃薬にしてるんだって。と言うことで、少量頂いて天ぷらの衣に使います。ベタつかないことを祈るしかない。
ピィ〜〜 ピロピロピロピロピロ ピィ〜〜
緊張感に欠けたホイッスル音が急に鳴り響いた。どこかで聞いたことがある様な…、あっ、ファックスだ!! 前世のファックスの受信音に似てるのか。
ピィ〜〜 ピロピロピロピロピロ ピィ〜〜
駄目だ、一回ファックスだと思ったら、ファックスの受信音にしか聞こえない。
「緊急号令だ!!」
「外に出てる奴は居ないよな?」
皆が慌てて『関所の集落(仮)』の広場に駆けてくる。
「一、二、三、四、五、六、七、八、ミーシャ、OK!!」
俺だけ通し番号は無いのか(苦笑) これ緊急号令だったのか。当たり前だけどファックスじゃなかったよ。
「で、何があったんじゃ?」
「今、書類を纏めてたら輸送陣が起動してエールの樽が届いたんだけど、その樽に指示書が添付されてた。それによると “ 『ビレッジアップ』近郊に嵐の近付く兆候有り、早々に出立せよ ” とのことで、遅くても明日の昼前にはここを出発しなきゃいけなくなった」
「エールだけなら最高だったのに…」
「仕方ない」
「これ、緊急号令だったんですね」
「これは『鳶』の号令、緊急号令のホイッスル音だ。他にも『 郭公』や『鶯』なんかもある」
まさかエール到着を知らせる事に緊急号令を使う訳が無いよね。と言ってもドワーフだと今一つ信用できないけど。ホーク=エーツさんが「酒来たぞー!!」の速報をしたかっただけかもしれないし。
「パイク=ラックとリンド=バーグは準備出来たか?まだなら宴会抜きで……」
「では、冷やしエールは無しでいいということじゃな」
「それは駄目だーーーっっ!!」✕ 七名
『関所の集落(仮)』内に緊急号令を越える絶叫が響き渡った。ホーク=エーツさんの声も聞こえてたから、あの 人酒は強くなくても冷やしエールにはハマったんだな。
「仕方ないから明日の夜に作る予定だった料理も出します!! 【蛇魚】料理は諦めます」
鰻の白焼きもしくは蒲焼きは諦めるしかないな。代わりに酢豚、いや “ 揚げた野菜と猪肉の甘酢あんかけ ” は出す。醤油の補充も諦めないと…か。




