第112話
ある程度研磨できて気分もスッキリしたところで手を洗って終了。餃子作りに戻らねば。マリイン=リッジさんに畑の野菜を貰おうと思ったら姿が見えない。どうやら『関所の集落(仮)』の近くに『運魔』の餌を刈りに行った模様。そりゃあ四頭も居れば草もモリモリ食べるよね。ポニー達だって持ち込み飼い葉もいいけど新鮮な草も食べたいだろうし。
マリイン=リッジさんが刈ってきた草を『対物簡易鑑定』してみる。【紫萌肥しの成長したもの】って何!?
【紫萌肥し】 :前世の 紫馬肥しアルファルファ。発芽直後のモヤシは美味しく頂ける。発芽した芽や種の詰まった鞘などが “ αアルファー ” の形に見えるのでアルファー・アルファーと呼ばれている。近縁種に【詰め物馬肥し】がある。
おおっ、アルファルファ!! アルファルファって紫馬肥しだったんだ、スーパーのカイワレ売り場で良く見ましたよ。コンビニのサラダの上にも乗ってたよなぁ…。カイワレの親戚だと思っていたけど、まさかの牧草だったよ!!
「マリイン=リッジさん、まさかボク達に食べさせませんよね?」
「まさか。育ちすぎてるからね。…って、ミーシャはコレ食べるの?」
「発芽直後のなら食べたことが……アリマ …ス」
ヤバい。前世の知識、ヤバいよヤバいよ!!
「そうか……ふふっ……」
あっ、マリイン=リッジさんが凄くいい笑顔になってる。絶対何か企んでる。
「ちょっと待っててね……」
そう言うと謎のシートを持ってくる。前世で言うところの不織布のキッチンタオルっぽい物だ。
「先ずは【紫萌肥し】から種を分離。ここにやんわりと『注水』して、種を巻いて『発根』!!」
へー、『汎用魔法』に『発根』ってあるんだ。農業ドワーフならではの取得魔法だなぁ。覚えておいたら便利かもしれない。
みるみるうちに発芽、発根してくる。見た目はとってもスーパーのカイワレ売り場に置いてある商品状態(笑)
「はい、完成。食べてみてよ」
「ワカリマシタ…」
仕方ないので『汎用魔法』JSSトリプルコンボをかける。鑑定さんが言う通りアルファルファなら食べられる。何も怖くはない。
出来たてアルファルファを摘んで口に入れ、軽く咀嚼して飲み込む。うん、多分アルファルファだ。しかも前世の物と比べると何か濃厚で美味しい気がする。
「ミーシャ、それって美味しいの?」
「美味しいですよ」
「ポニーの所に行こう。折角だから一緒に食べてあげてよ」
俺、絶対、遊ばれてる。
束にされた【紫萌肥しの成長したもの】を目にしたポニー達は大興奮。発芽直後のアルファルファも気にしてたけど量が少ないからスルーしてた。でも同じ植物だって絶対気付いてるな。
「皆のご飯だよ。マリイン=リッジさんが取ってきてくれたんだ。ボクも一緒にコレを食べるね」
そう言うとポニーの脇でアルファルファを食べた。
ポニーの目線が刺さるなぁ………。ドワーフもそれ食べるの? って声が聞こえてきそうな気がする。アルファルファ自体の量は少なかったので俺はあっという間に完食。ポニー達はムシャムシャモグモグと【紫萌肥し】を喰んでいる。
そして時々、俺に鼻先を擦り付けてきたり、頬を舐めてきたりもする。
「ミーシャ良かったね。ポニーに気に入られたみたいだよ。特にその赤毛、なかなか懐かないんだよなぁ…」
黒毛のワギュが【紫萌肥し】を咥えて寄ってきて、小首を傾げて俺を見つめてくる。何と言うか…「足りてる? これ食べる?」って感じで。
「ヤバいって。ポニーが【紫萌肥し】をお裾分けしてくれるってよ」
爆笑するマリイン=リッジさん。そうだと言わんばかりに頭を上下するポニー達。そして苦笑いするしかない俺だった。
作者注)
この世界で【紫萌肥し】と表現されているアルファルファですが、『萌』は所謂推しなどに対して使う「萌え〜」ではなく、本来の植物が芽を出す “ 萌える、萌やす ” の方を意味しております。という訳で『モヤシ』にまで繋がっています。




