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Episode:3 037 断罪


「――さて、アルドモン、バトランよ」


 名を呼ばれた二人の将軍はビクリと身体を震わせた。


 それぞれ玉のような汗を流しながら怯えている。


「そなたら、己がやったことがわかっておるだろうな。私欲の為にこの国を長き戦乱に陥れた罪、到底看過できるものではない。弁明も申し開きも、余は聞く耳を持たぬ。我が名のもとに断罪を言い渡す。悔いながらその報いを受けよ」



 二人の将軍は観念したように、石畳に手をついて項垂れた。



 その姿を見届けた後、ルネ国王はセシルのもとへ歩み寄る。


「最後はそなただ。セシル・フォーベールよ。そなたも己のやったことがわかっておるか?」


「はい、国王陛下。私は正規軍でも無い、真王国軍なる新たなる軍を興し、国軍である西軍と東軍に戦を仕掛けました。この国軍に弓引く行為、国家反逆に値すると存じます」


 国家反逆、この言葉に周囲の民衆はざわめいた。内戦を終結に導いた英雄から、まさかそんな台詞が出てくるとは思いもよらなかったからだ。


 しかしルネ国王は動じず口を開く。


「その通りだ。内戦を繰り返していようとも、国軍は国軍。それに対して軍を興して戦を仕掛けることは、国家の内乱を扇動する行為。これについて申し開くことはあるか?」


「ございません」


 セシルはきっぱりと答えた。


「罪に問われることなど、百も承知です」


「己の功績も、聖女として神に選ばれたことも、主張しないのか?」



「いたしません。国王陛下、これは私の使命であり運命でございます。この国の内乱を終結させたこと、そして罪による罰を受けること、それら全てを含めて運命。申し開きも主張も何もございません。全ては国王陛下の意のままに」



 言い終わりに深々とセシルは頭を下げた。



 広場が静まり返った。


 誰もがセシルの気高く高潔な言葉に心を打たれていた。

 中には瞳に涙を滲ませる者もいた。


 ルネ国王は静かに瞑目していた。やがて目を開けてセシルを見下ろす。


「顔を上げよ。セシル・フォーベール」


「はい」


 セシルは淀み無く顔を上げて、澄んだ瞳でルネ国王を見る。



「ここで行われた決闘、真王国軍が勝った場合の望みはなんだ?」


 意外なことを聞かれてセシルは一瞬目を丸くした。


「どうした? 決闘に何も賭けてないわけではないであろう」


「は、はい、此度の決闘で真王国軍が勝った場合には、正規軍を西軍と東軍が順番に務めるという条件を出しておりました」


「……なるほど」


 それを聞いたルネ国王は逡巡して口を開く。


「では、セシル・フォーベールよ。そなたに命じる。西軍と東軍が正規軍を順番に務める様を、しかと見届けよ」


「え? そ、それは……」


「そなたの罪を許すつもりは無い。しからば、その働きでもって償うが良い」


「こ、国王陛下……」




「そなたが聖女として運命を受け入れる覚悟はわかった。余の裁きは神の意に背くことかもしれぬ――」


 ルネ国王は言葉を切り、大きく息を吸い込む。


「――しかしだ、この国のことは余が決める。

 我こそはルネ・レオニス・クレールダルク。我こそがこの国だ!」


 何人たりとも干渉ができぬ神聖さを湛えてルネ国王は宣言した。



 その瞬間、広場は喝采に包まれた。


 国王の御前にてそのような行為は不敬だと、誰もがわかっていた。しかし人々は声をあげずにはいられなかった。人々は抱き合い喜びあった。



 そんな中、ルネ国王もかすかに微笑むのだった。



********************




 喝采を浴びながらルネ国王が去り、しばらくしてセシルのもとに中立兵団の男たちが現れた。以前、地下室でセシルの宣言を聞いた古参の兵士の男たちだった。


「セシルちゃ――あ、いや、聖女セシル。お父さんが、クリストフさんが解放されるそうだ!」


 セシルはその知らせに目を見開いた。


「お父さんが? どこですか!?」


「こっちだ。ついておいで!」


 セシルは男たちについて駆け出した。


 連れてこられたのは、街を守る警吏たちの詰め所だった。セシルが着いたちょうどその時、拘置房からクリストフが出てきた。中立兵団の男たちに肩を借りて歩いていた。


「お父さん!」

 その姿を見るなりセシルは叫んだ。


 クリストフはセシルを見つけると、穏やかな微笑みを浮かべた。


「セシル」


 娘の名を呼んだ後、その姿を見てクリストフが小首を傾げた。


「どうしたその格好は? まるで将校みたいじゃないか」


「え? ああ、これ、これは……」


 セシルは父親に指摘されて今更ながら恥ずかしくなる。今の格好はおよそ年頃の娘がするものではない。


「それに――雰囲気が変わったな」


「え、そ、そう?」

 セシルは自分の身体を見渡しながら不思議そうに言う。


「まぁ、いいさ、何があったかは、後でゆっくり聞かせてもらおう」


 そう言ってクリストフはセシルに向かって手を差し出す。


「お父さん」

 セシルは涙を滲ませながら、クリストフに抱きついた。


「ただいま、セシル」

 セシルはいっそう強く父を抱きしめた。



 もう二度と会えないと思っていた父に再会できたことを喜ぶ感情。そして契約によって自分の方がいなくなってしまうことを悲しむ感情。


 その二つが混じり合い、溢れ、セシルの頬を涙が流れた。


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