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Episode:3 035 決闘


 ライアンは中立兵団の兵士に先導されて、決闘の会場までの人垣の中を進む。


 最初は前に進むことすらできなかったが、先導する兵士が「真王国軍の代表が通る」と高らかに宣言することで、人垣は綺麗に割れた。


 笑みを緩く浮かべながらも、気迫を滲ませるライアン。


 彼の姿を見物客たちは、疑惑の眼差しで見ている。中にはライアンを指さしてヒソヒソと隣の者と囁き合う者もいる。その表情から察するに好意的な言葉では無いようだ。


 この国において、西軍のガストルと東軍のジェリスと言えば、知らぬ者はいない兵士であり剣豪だ。どんなに相手が策を弄して技術で対抗しようとも、それら全てを豪快に腕力で粉砕するガストル。対してジェリスは華麗なる体さばきで相手を翻弄し、圧倒的な速さでもって得意の双剣で相手を切り刻む。


 それに対して、ライアンはどこの馬の骨ともしれない新参者である。中立兵団の中では手練れとの評価は高いが、街の人からするとほぼ無名の存在だ。


 そんな彼がこの大事な決闘において、真王国軍の代表となることに、街の人々が懐疑的になるのも無理は無かった。


 そんな視線の中を抜けると、開けた場所に出た。確認するまでも無く決闘の会場であった。


 会場には西軍と東軍は既に揃っていた。ガストルとジェリスが会場の左右に陣取って屹立している。二人共ライアンが現れると、鋭い視線を投げかけてきた。どうやら相手も気迫充分のようだ。


「遅かったな。聖女様に頭でも撫でてもらっていたか?」

 ガストルが下品に嗤いながら言う。


「ああ、そうだな、お前も撫でてもらえ、頭の悪さが少しは治るぜ」

 ライアンは挑発的に言い返す。


「なんだとテメエ……」

 大柄なガストルの身体から殺気が溢れ出す。


「――くだらん言い合いだ。どちらも程度が知れる」

 そう言ったのはジェリスだった。彼はため息をつきながら長い前髪を払った。


「話の輪に入れてもらいたいなら、そう言えよ。根暗だなお前」

 ジェリスに対してもライアンは挑発的な口調だ。


「貴様……」

 ジェリスの切れ長の瞳からも殺気がほとばしる。


 そこへ一人の男が前に出てきた。中立兵団の古参の幹部だった。


「御三方とも、舌戦はそれぐらいでよいでしょう。この決闘の立会は中立兵団のグスタフが務める。よいな?」


 三人とも返事はない。グスタフの言葉など耳に入っていないようだ。


 グスタフは決闘場の広場の外へと視線を向ける。その視線の先には即席の矢倉が建てられていて、そこの上部には西軍のアルドモン将軍がいた。グスタフは彼の頷きを確認した。


 そして反対側に目を向けると、そこにも即席の矢倉の中にバトラン将軍の姿があった。彼も頷いている。二人とも文字通り高みの見物を決め込んでいる。


 両将軍の確認も取れたグスタフは右手を上げる。


 三人はそれぞれに剣を構える。ライアンは片手剣のロングソード。ガストルは両手剣のグレートソード、ジェリスはショートソードの双剣だ。


「はじめ!」


 グスタフの手が振り下ろされた。



 同時に観客たちの歓声が沸いた。怒号にも近い声は決闘会場を埋め尽くす。熱気は最高潮に達したのだった。


 しかし歓声とは裏腹に三人の剣士は動かなかった。


 三者とも剣を構えてはいるが、その場から一歩も動かない。いや、動けないと言った方が正解か。

 熟練の剣士であり武人である彼らは、今まで数え切れない決闘を戦い抜いてきた。一対一の決闘だけでは無く、多勢を相手にした戦いさえも経験にある。そんな彼らが動けない。その原因は、互いの実力を計りきれていないことにあった。


 ガストルとジェリスは直接に対峙することは一度や二度ではないので、互いの実力はある程度認識している。しかし、二人にとってライアンの存在は未知そのものだった。


 佇まいからして只者ではないと判断できるが、どの程度の実力かを推し量るには情報が少なすぎた。ガストルとジェリスからすると、ライアンなど無視して、宿敵との決着をつけたいところではあるが、ライアンからの横槍がどうくるのかが全く読めないので動けないのだった。


 ライアンとしても状況は同じだった。相手の二人の立ち姿は見ているが、戦う姿を全く見たことが無いのだ。ただわかるのは手練れであるということと、彼らはそれぞれの軍の多くの兵士の中で一番強いということだけ。相手が一人であれば牽制がてらに剣を振ってみるのも手の一つだが、その隙を残りの一人に突かれかねない。


 互いに実力を推し量れないこと、そして三人という特殊な決闘方式が、この膠着状態を産んでいた。


 それでも動かないことには勝負は始まらない。ライアンはそう思いながら、どちらにちょっかいをかけるかを思案していた所、ガストルの方の殺気が緩んだ。


 彼は構えも解いて剣を肩に担いでいる。


「なぁ、ジェリスよ」

 ガストルがニヤニヤと笑いながら、ジェリスの名を呼ぶ。


 ジェリスの方は構えを解くことはせずに、視線だけガストルに向けた。

「……なんだ、降参か?」


「いや、そうじゃねえ。この決闘、邪魔な奴がいないか?」


「邪魔な奴?」


「ああそうだ。俺とお前との決闘に邪魔なやつだ。そいつが居なくなりゃ、心置きなくお前とやれるんだがな」


 ガストルがニヤついた顔をライアンに向けながら言った。


 その様子を見たジェリスもニヤリと笑う。


「……なるほど。確かに邪魔だな」

 ジェリスが構えをライアンの方に向けた。


 ガストルとジェリスの話から、彼らの矛先が自分に向くことを悟ったライアン。しかし、彼は不敵に笑う。


「なんだ二人がかりか。案外、仲がいいんだなお前ら」


 ライアンの軽い挑発に、ガストルとジェリスは歯噛みする。


「その軽口、いつまで続くかな」

 そう言うジェリスの体勢が低くなった。


 ガストルも肩に担いでいた剣をライアンに向けて構えた。


「へっ、いいぜ、来いよ、二人まとめて来るなら、手間が省ける」

 ライアンは禍々しい光を瞳に宿して、舌なめずりをした。その顔つきは凶悪そのものだった。彼が体勢を低くして攻撃に備えた時だった。


 突如、ジェリスの身体が消えた。

 次の瞬間、剣がライアンの喉元をかすめた。ジェリスの刺突をライアンが紙一重でかわしたのだった。


 ジェリスのもう片方の剣が襲いかかる。それを片手剣で弾いたライアンは距離を取った。


 しかし、その逃げた先には、ガストルが待ち構えていた。


 上段から両手剣が振り下ろされる。ライアンは必死に身を捩ってガストルの一撃を避けた。

 目の前を振り下ろされた両手剣は勢い余って石畳を粉砕する。その威力にさすがのライアンも肝を冷やした。


 そのまま地面を転がるようにして、ライアンは二人の間合いから逃れた。

 再び剣を構えるライアンを、ガストルとジェリスの二人は口角を上げて見ている。


「おいおい、挨拶代わりで終わるかと思ったぜ」

 ガストルが余裕の様子で言う。


 ライアンは何も言い返さない。彼は先程のやり取りで得た相手の能力を、冷静に分析していた。ガストルたちは反応の無いライアンを怖気づいたと判断する。


「少しは楽しませろよ」

 ジェリスがそう言って再び剣を構えた。彼の身体が低く沈む。そしてライアンへ襲いかかろうとした時、彼の目の前にライアンが現れた。


「何ッ!」

 ライアンは悠然と振り上げた片手剣をジェリスめがけて振り下ろした。虚をつかれながらもジェリスが十字受けでそれを受けた。しかし威力に押されて、大きくよろめいた。


 追撃を振りかぶるライアン。そこへガストルが間合いを詰めてきた。


 ガストルの両手剣が横薙ぎでライアンに迫る。


 ライアンはジェリスへの追撃を中断して、横薙ぎの両手剣に向かって、剣を振り下ろした。

 力負けしたのはガストルの方だった。彼は攻撃をライアンの剣に弾き返されて、たたらを踏みながら、間合いの外へと逃げる。


 ジェリスの方も、今のやり取りの間に、間合いの外へ距離を取っていた。


 ライアンは不敵な笑みを浮かべながら、相手の二人を見る。



「挨拶ってのは、こんな感じでいいのか?」

 ジェリスに匹敵する速さに加えて、ガストルを弾き飛ばす力、国軍の二人はライアンの認識を大幅に上方修正した。


「上等だ」

「面白い」


 ガストルとジェリスが一斉に武器を振り上げて、ライアンへ間合いを詰める。

 先手を取ったのはガストル。大きな剣を上段から振り下ろすが、ライアンはそれを避ける。


 しかし、その隙を付いてジェリスの刺突が襲いかかってきた。


 ライアンは片手剣で弾き返した。すると背後へ回り込んでいたガストルの下段からの振り上げが来た。ライアンは巧みな足さばきで危地を脱した。

間合いを取ったライアンに対して、ガストルたちは再び襲いかかる。片方が攻撃をして、それにライアンが対応する隙をついて、もう片方が攻撃を繰り出す。シンプルであるが効果的な連携攻撃だった。


 しかし、それらはライアンの身体には届かない。ガストルの重い攻撃は無理に受けずに回避に徹して、ジェリスの双剣に対しては片手剣で弾いていく。回避と防御を巧みに織り交ぜて、ライアンは二人の連続攻撃を捌いていく。


「チィイ!」


「小癪な!」


 ガストルとジェリスは更に一段階、攻撃の鋭さを上げた。


 ジェリスが先程よりも深く踏み込んできた。至近距離からの攻撃をライアンは何とか受けるが、衝撃を殺しきれずに体勢を崩す。


 そこへ必中のタイミングでガストルの攻撃。しかし、ライアンの片手剣がピクリと動く。その動きに嫌な気配を感じたガストルは飛び退った。


 結局、ライアンは攻撃を放たずに悠々と間合いを広げた。


 ジェリスが舌打ちをする。


「おい、ガストル。何だ今のは? 何故逃げた」

 ガストルは鼻を鳴らす。


「フン、奴は俺の攻撃を待っていた。あのまま行けば、やられたのはこっちだ」


「怖気づいただけじゃないのか」


「なんだと貴様……」

 ガストルとジェリスの間に緊迫した空気が流れる。元々が怨敵同士の仲、些細なことから綻びが出るのは仕方が無いといえる。


「おいおい、喧嘩するなよ。どうした、さっきまで仲良しだったのによ」

 ライアンがニヤニヤしながら挑発的に言う。


 その言葉にガストルたち二人が揃ってライアンを睨む。


「睨むなよ。怖えなぁ」

 飄々と言うライアン。

 その態度が気に食わないガストルたちは、歯噛みしながら剣を構える。


「続けるのはいいが、そのままでいいのか?」

 襲いかかろうとしていた二人の機先を制するように、ライアンは声をかけた。


 二人が動きを止めた。


「そのまま、とはどういうことだ?」

 ジェリスが問う。


 ライアンはフッと笑う。


「お前ら二人共、次を考えているだろ?」


 ガストル、ジェリスの顔色が変わる。


「図星だな。まぁ、二人の決闘の方が大事なのはわかるけどよ、出し惜しみしているようじゃ俺は倒せねえぞ」

 ライアンは手のひらを上に向け、小さく手招きする。


 挑発するように口元には薄い笑みを浮かべて。


 ガストルが首を鳴らして、獣が牙を剥くような笑みを浮かべる。


「もう戻れねえぞ」


 ジェリスは前髪を払い、全てを凍てつかせるような眼差しを向けてきた。


「後悔する時間すら無いと思え」


 先に動いたのはジェリスだった。ずるりと崩れ落ちるように双剣をだらしなく垂らした。構えとも呼べない格好だが身体からは禍々しい殺気が溢れ出ている。

 かすかに殺気が揺らいだ。


 次の瞬間、ライアンの肩当てが弾け飛んだ。


 ジェリスの剣だった。


 彼は予備動作無しに片方の剣をライアンへと投擲したのだった。


 剣は肩当てを弾いた後、空中を回転する。しかし不自然な軌道を描いて、ジェリスの手元へと戻っていく。


「なるほど、そういう武器か」

 ライアンは剣の柄から伸びる極細の金属紐を見て言った。


 ジェリスの手元から再び剣が飛んでくる。今度は二本だ。ライアンは迎撃を諦めて足さばきで回避を試みる。避けきったと思った時、二本の剣が空中でぶつかった。そしてそのうちの一本が軌道を変えてライアンの方へ向かってきた。あらかじめ避ける方向を読んで投擲されたジェリスの絶技だった。


 流石のライアンも空中で軌道を変えた剣までは反応できず、剣は甲冑の隙間の腹部へとめり込んだ。


 使用している武器は刃潰しなので肉を貫くには至らない。しかし顔をしかめる激痛が腹部を襲う。そしてそれはライアンの足を止めるには充分なダメージだった。


 ライアンは背後に殺気を感じた。いつの間にかガストルに間合いを詰められていた。

 もう回避は間に合わない。ライアンは右手の片手剣を振り抜いた。


 横薙ぎに払われた剣はガストルの腹にめり込んだ。しかし、ライアンの手には岩を叩いたような感触が伝わる。驚いてガストルの顔を見ると彼は嗤っていた。剣を弾いたのは筋肉を極限まで硬質化させるガストルの秘術だった。


 次の瞬間、ライアンの肩口から胸にかけての強い衝撃が襲ってきた。

 ガストルの両手剣がライアンにまともに命中。


 その一撃で甲冑は無惨にも粉々に砕け、ライアンの身体は軽々と吹き飛ばされ、大きな衝撃音とともに石畳に叩きつけられた。


 ライアンはうつ伏せのまま動かなくなった。


「フン、他愛もない」

 ガストルが口の端を上げて言った。


 そして、そのままジェリスの方へと向き直る。


「さて、やっと片付いたな、ジェリス」


 ガストルがそう言うが、ジェリスの方は臨戦態勢を崩していない。


「まだ、終わっていないぞ、ガストル」

 ジェリスの視線はガストルの後ろ――ライアンの方を向いている。


 ガストルもそちらへ視線を向けると、驚愕の光景があった。


「痛てて、今のは効いた。ちょっと危なかったな」

 苦悶の表情ながらも肩を押さえて立ち上がっているライアンがいた。

 ガストルは絶句した。常人ならば三日は起きてこないようなダメージを負わせたはずだった。それなのに、ライアンはもう立ち上がっていた。


「てめえ、なんで起き上がれる……」

 驚愕に表情を歪めてガストルは呟く。


「まぁ、芯を外したからな。お前、あの技を使うのは久しぶりだろ。少し踏み込みが甘かったな」

 肩を回しながら淡々とライアンは答えた。


 ガストルたちはライアンの認識を再度書き換えることになった。先程までは「強敵」という認識だったが、今やライアンを「格上」の存在と改めた。彼らの口からそれを言うことは、プライドにかけてあり得ない。

 しかし、二人のまとう闘気は一変する。そこには打算も慢心も無く、ただ目の前の男を全身全霊で打倒する意志が現れていた。


「――ようやく、本気になったかよ」


 二人の闘気を受けてライアンの目つきも変わる。そして周囲の空間を捩じ切らんばかりの凶悪な殺気を放ち始めた。


 先手はガストル。圧縮した筋力で地面を蹴って一瞬で間合いを詰める。

 振り上げた両手剣がライアンの頭に迫る。しかし、巧みなステップで避けるライアン。

 そして避けた先にはジェリスの双剣が飛んでくる。さっき一度見ただけの技だが、ライアンは完璧に軌道を読み切り、片手剣で迎撃した。


 追いすがるようにガストルの至近距離からの攻撃、それをかわすと、ジェリスからの遠距離攻撃が飛んでくる。気の緩みどころか瞬きすら命取りになりかねない攻撃の嵐が続く。


 ガストルとジェリスは体力温存の意識など毛頭にない。ただひたすらに最善手を最大の力でもって繰り出す。


 しかし、それでもライアンの防御を崩せない。


 それどころかライアンの動きのキレは少しずつ増している感触すらあった。


 その状況下で先に焦れたのはジェリスだった。ほんの少しだけ踏み込みを深くしすぎた。そしてそのせいで投げた剣の引き戻しが遅れてしまった。



 その一瞬が命取りだった。



 手元に戻って来る剣よりも速く、ライアンに間合いを詰められた。攻撃をしようにも手元には武器は無い。

 ジェリスに腹部が両断されたかと錯覚するような衝撃が襲ってきた。それでもジェリスは歯を食いしばり、追撃から逃れる為にその場から離脱した。足は鈍っていない、距離は取れた。ここで体勢を整えて――しかし、顔を上げた彼の前には、既にライアンがいた。


 二度目の腹部への一撃。一撃目よりも深々とめりこんだ剣撃に、ジェリスの意識は抗うことはできず、彼の意識は暗転した。


「手元がおろそかだったな」

 ライアンは呟く。そしてゆっくりと振り返った。


 その視線の先に唖然とした表情のガストルが立っていた。


「おい、降参か?」

 ライアンのその言葉に、ガストルは憤怒に顔を染める。


 彼は雄叫びを上げながら突進してきた。


 ガストルは全神経を攻撃のみに集中させて、今日一番の気迫を乗せて剣を振り下ろした。


 重く硬い金属同士がぶつかる音が広場に響く。


 全体重と全精力を乗せたはずだった。


 しかし、ガストルの一撃はライアンの片手剣で完璧に受けられてしまった。


 そしてライアンからの反撃の気配。


 ガストルは全身の筋肉を硬質化してそれを迎え撃つ。ライアンの剣撃を腹部で受けた。予想通り剣撃のダメージは皆無。後は相手が怯んだ隙をついて反撃を、と考えた。


 しかし、ライアンは止まらない。彼は怯むどころか、目にも止まらない速さで連続攻撃を加えてきた。ガストルの硬質化の秘術などお構いなしに身体中を滅多打ちにする。

 ガストルはライアンの無駄な足掻きにほくそ笑んだ。

しかし次の瞬間、脇腹に強烈な衝撃が走った。ガストルは余裕の表情から一転、苦悶の表情に変わる。


 それをライアンが見逃すはずが無かった。脇腹の同じ箇所へ再度攻撃が入る、先程よりも重く鋭い一撃。ガストルは苦痛に顔を歪めてたたらを踏む。


「ガハッ!」

 うめき声が漏れた。


 次の瞬間、ガストルの顎が跳ね上がる。ライアンに顎を打ち抜かれた。

 無意識のうちに硬質化を解いてしまっていたことを、攻撃を受けて気付いた。


 崩れ落ちそうな膝を奮い立たせて、何とか反撃をと思っていたが、こめかみの辺りを手で挟むように掴まれた。


 信じられない力で掴まれて、額がミシミシと音を立てる。


 そしてそのまま後ろ向きに、後頭部を石畳に叩きつけられた。


 ガストルの巨躯が石畳の上に大の字になって横たわり、ぴくりとも動かない。


 ライアンはガストルの顔を覗き込む。


「意識はあるのか。頑丈だな」


 ガストルが虚ろに視線を向ける。


「……何故、俺の術が……」


「術? あの硬くなるやつか? 多分、穴があるんだろうなと思っていたら、あっただけだ」


「俺でも知らない穴があったのか……」


「まぁ、奥の手を過信しすぎたな。お前もお前の相棒も」


 ライアンは気絶しているジェリスを親指で指しながら言った。


 ガストルは舌打ちをして眼を閉じた。


 その瞬間、立会人のグスタフによって、ライアンの――真王国軍の勝利宣言がされた。

 中央広場に民衆の歓声が響き渡った。



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