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Episode:3 031 二人の将軍


 その後も真王国軍への加入する兵士は後を絶たなかった。


 中には真王国軍討伐の指示を受けた大隊が奇跡を見せつけられて、一切の戦闘行為を行わずにそのまま真王国軍に吸収されることさえ起きていた。


 そして遂に真王国軍の軍勢は、東軍と西軍の残った軍勢を上回るまでに至った。つまりはクレールダルク王国において、真王国軍は最大の兵力を持つ軍隊に膨れ上がったのだった。



 その状況に東西の両将軍は強烈な危機感を覚えていた。


 彼らは密書のやり取りを行い、極秘に会合を開いていた。


 そしてそこには、当然の如く、ザグノリア公国の大使ファンマも顔を揃えていた。


「――由々しき事態ですね」

 重苦しくファンマが口を開いた。


「まったくだ。何なのだ、あの聖女というのは!」

 アルドモン将軍は机を叩きながら言うが、いつもの豪放磊落な雰囲気は鳴りを潜めて、机を叩く姿も迫力が無い。


「完全な誤算だ。聖女とは名ばかりで、ただの扇動者かと思いきや、まさか本物があらわれるとは……」

 バトラン将軍もいつもの余裕は無く、険しい顔をして腕を組んでいる。


「まだ本当に神に選ばれた聖女と決まったわけではありません」


 ファンマがそう言うが、アルドモンは眉間にシワを寄せる。


「実際、奇跡を何度も起こしている。こちら側の攻撃は全て無力化されている。これを神の奇跡といわず、なんという?」


「神の奇跡ではなく、ただの魔術かもしれません」


 ファンマの言葉に、今度はバトラン将軍が口を開く。


「魔術だろうが同じことだ。あのような奇跡に近い魔術、それだけで大きな武器だ。そんな奴が内戦の終結を望み、兵を募っている。兵たちが寝返るのも必然だ」


 三人の間に重い空気が落ちる。


「いっそのこと、東軍と西軍の残った兵力で総攻撃をかけますか?」


 ファンマは最大戦力となった真王国軍に対しての、自殺行為ともいえる作戦を提案する。しかしその提案に対しての両将軍の顔は険しい。


 総攻撃をかけるのであれば、自分たちの出陣も避けられない。今まで高みの見物で戦争を遊戯として楽しんでいた自分たちが戦場に出るなど、完全に思考の埒外だったのだ。


「総攻撃をかけたとて、あの聖女の力がある限り勝ち目は薄い。また兵力を奪われるだけだ」

 アルドモン将軍は言った。


「では、邪魔な聖女を暗殺するのはどうでしょう?」


「それは何度も試みているが、全て失敗している」

 苦い顔をしてバトラン将軍が答えた。


 ファンマがいくら策を提案しようとも、その可能性は全て否定される。打開策の見つからない会合はひたすらに重くなるばかりだった。


 そんな会合の場に、一人の兵士が現れた。アルドモン将軍の側近であるガストルだった。


「なんだ、ガストル。大事な話の最中だ」


「すまねえ大将。でも、こっちもかなり大事な用なんだよ」


 ガストルはアルドモン将軍に近づいて小さな紙切れを渡した。


「なんだと?」


 アルドモン将軍がそれを見て驚くと、バトラン将軍の方にも兵士が現れた。こちらも側近であるジェリスだった。ジェリスも同じようにバトラン将軍に紙切れを渡す。


「なに?」

 バトラン将軍の方も驚いて声をあげる。


「お、お二人とも、どうかしましたか? 何か悪い知らせですか?」


 ファンマが怪訝に尋ねると、アルドモンとバトランは互いに顔を見合わせる。


「う、ううむ、バトランよ。お主の方はどこからの言伝だ?」


「それを聞くなら、そちらから申せ、アルドモン」


「お二人共、この期に及んで妙な隠し事はおやめ下さい。互いに警戒している場合ではありません」


 ファンマにそう言われて、二人の将軍は今しがた受け取った紙切れをファンマの方へ見せる。


「こ、これは、真王国軍の聖女セシルからの密書! 『交渉の用意がある』ですって?」

 ファンマは同じ内容が書かれた二つの紙切れを読んだ。


「遂に向こう側から動き始めたか」


「そのようだ。この膠着状態から脱せるかもしれん」


 二人の将軍はセシルからの呼び掛けに好意的な反応を示す。しかし、それをファンマは必死に止める。


「まさか、この呼び掛けに応じるつもりですか? 西軍と東軍の将軍ともあろう御方が、小娘一人に動かされるのですか!」


「ならば、他に打開策を出してみよ」

「そうだ、この会合では何も解決しないのは証明されている」


 二人の将軍は総攻撃によって自らが戦場に立つことだけは避けたいと思っている。そんな二人にとって相手側のセシルからの『交渉』の二文字が出たことは僥倖であった。


 意見の合う二人の将軍の考えを変える策を、ファンマは提示することはできなかった。


 ファンマはせめて自分が同席することを条件として、セシルとの交渉に賛同したのだった。



*************



「――大丈夫か? セシル」

 交渉の場へと向かう準備をするセシルに、ライアンが声をかける。


「大丈夫です。きっと交渉をうまくまとめて見せます」


「そうじゃない。お前が無理をし過ぎていないかっていう話だ」


 ライアンがそう言うと、セシルは苦笑いを浮かべる。


「……バレましたか。実はちょっと無理をしています」


「やっぱり、中立兵団の誰かにも助けを求めたらどうだ?」


「いえ、中立兵団が関わると、彼らに累が及ぶ可能性がありますから」


「……そうか」


「大丈夫ですよ。交渉の場に行くのは私だけでは無いですし、ライアンさんとリリアさんが一緒に居てくれるのなら、心強いです」


 セシルはそう言って笑顔で胸の前に握りこぶしを置いた。強がりを滲ませながらも笑顔を振る舞うセシルに、リリアは尊敬の眼差しを向ける。


 セシルは心強いと言ったが、リリアは逆の様に感じた。一緒にいて心強く感じるのはむしろこっちの方だ。


 父を助ける希望を抱いているにせよ、人はこの短期間でここまで強くなれるものなのかと。リリアはその強さを羨ましく思った。


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