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Episode:3 026 奇跡を始めよう


 グルード平原――。


 クレールダルクのほぼ中央に位置する大きな平原である。古くは牧畜が行われていて、牧歌的な風景が広がっていた。


 しかし、内戦の始まりとともに、その風景は一変した。


 平原の東側には青に染められた紋章旗が並び、反対の西側には赤に染められた紋章旗がたなびく。


 そして号令とともに、東軍の青色と西軍の赤色は平原で混ざりあうように入り乱れる。


 赤は青に剣を振り上げ、青は赤に弓を引く。


 そして、戦いの後には、平原には無数の赤と青の死体が転がる。


 そこは同じ国の民同士が殺し合う、無常と悲哀の戦野。


 人々は『屍血のグルード平原』と呼んでいた。



***************


 今、聖女セシルはその血塗られた地に降り立っていた。


 鉛色の空の下、掲げた旗は風に吹かれてたなびいている。


 その旗は白地に金色の三日月と黒色の狼が描かれたクレールダルクの紋章旗であった。


 赤色でもない青色でもないその白を基調とした色彩こそ、クレールダルク紋章旗の本来の姿であった。


 旗を掲げるセシルの前には、軽甲冑姿のライアンと、黒のローブを羽織ったリリアの姿があった。セシルが中立兵団の地下室で宣言した通り、たった三人での出陣であった。


「――さて、おっ始めるか」

 ライアンが軽快に言う。


 俯いていたセシルはその言葉に反応するように顔を上げた。


 しかし、その顔はひどくこわばっていて、凛々しさや神聖さといった聖女を想起させる姿は微塵も無かった。



「ほ、本当にやるんですか……」


 弱々しく尋ねるセシル。


 ライアンが苦笑いを浮かべる。


「やるって言ったじゃないか。中立兵団の前で真王国軍を立ち上げるって宣言したし、今頃は街中がその話で持ちきりだと思うぞ」


「うう、もう引き返せないのですね……」


 泣き出しそうに言うセシル。彼女の意気に呼応するように、たなびいていた紋章旗も萎れてしまっていた。


「この前の中立兵団の地下室じゃ、あんなに立派に聖女を演じていたのに、どうしたんだよ」


「あの時は何故かできちゃったのですけど、やっぱりいざ戦場に立ってみると……」


「大丈夫だって、あの時とやることは同じだ。セシルは聖女っぽく振る舞っていればいい。あとはリリアの力が請け負う」


「そ、それは分かっているのですが……」


 セシルはリリアの方を見やる。目があったリリアははにかみながら微笑む。


「だ、大丈夫ですよ、セシルさん」


「リリアさんも緊張しているじゃないですか……」


 その二人のやり取りを見てライアンは笑う。


「お前らしっかりしろよ。セシル、クリストフさんを助けるんだろ?」


 父の名を聞いた途端、セシルのしおれていた表情にかすかに活力が宿る。


「そ、そうですね。お父さんと、中立兵団のみんなの為ですよね」


「そうだ、みんなを救えるのは聖女のお前しかいない」

 セシルはグッと奥歯を噛みしめた。いつもライアンの言葉は心に響く。


「頑張り、ます」


「よし。リリアもいいな」


 リリアを見やりライアンは言う。


「は、はい!」


 リリアは姿勢を正してはきと返事した。




「じゃあ、起こそうか『奇跡』ってやつを」


 ライアンが不敵に笑いながらそう呟いた。



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