Episode:3 014 作戦の仕込み
それから数日の間、セシルは多忙を極めた。
クリストフに届いていた書簡を片っ端から読み漁り、国王陛下が行幸する日とその場所を特定し、その後は国王陛下に拝謁出来る機会をシェリーたちと検討を行い、その作戦会議にも長い時間を要した。
そして作戦が決まった後もその準備はセシルが一手に請け負った。ある程度、オーブクレールの勝手を知っているライアンやリリアでも代行できることもあったのだが、セシルの強い要望により、彼女が一人でオーブクレールを駆け回ることとなったのだ。
「――これがそうなのですね」
リリアが黒い生地に白いフリルが付いた服を眺めながら言った。
「あの屋敷で働いている奴らが着ているのと同じなんだな?」
ライアンも黒を基調とした仕立ての良い上下一揃いの服を眺めている。
「はい、問題ありません。屋敷に出入りしている仕立て屋さんを見つけて、同じ物をお願いしましたから」
セシルはそう答えた。
「屋敷への根回しも抜かり無いのよね」
今度はシェリーがセシルに問う。
「はい、それも問題ありません。あの屋敷の家令は父の古い友人ですから、事情を話したら承諾してくれました。立場上、限定的な協力にとどまりますが」
淀み無くセシルは答える。
彼女の顔つきは、数日前に泣きじゃくっていた柔弱な雰囲気は無く、精悍としていた。言い方を変えるのならば、覚悟を決めた表情と呼ぶにふさわしかった。
その頼もしさに微笑みながらシェリーが口を開く。
「ごめんね、セシルちゃん。あまり役に立てなくて。やっぱり、リアンダールの使者ってだけじゃ限界があったわ。それに準備も全部任せちゃって……」
「い、いえ、そんなことはありません! シェリーさんには助けられてばかりです。それに、あまり使者の立場を使うと、リアンダール王国の立場にも影響を与えますから」
シェリーはリアンダールの使者という立場を使って、国王陛下の行幸や拝謁の情報を集めようとしたのだが、やはり親書のような外交文書一つも持っていない立場では無理があった。
いっそ皇女という立場を利用することも考えたが、それはトリシアに強く止められたのだった。
「しかし、本当にやるんだな、セシル。会合の開場への潜入を」
腕組みをしながらトリシアが言う。
ぐっと唇を噛んでセシルは答える。
「仕方がありません。もうこれしか方法はありませんから」
「でも、あんまり気負っちゃだめよ。ライアンとリリアちゃんも一緒だから、彼らも頼るのよ」
シェリーが後ろからセシルの肩に手を置いて、優しく言う。
セシルは息を吐いて少しだけ肩の力を抜いた。
「有難うございます」
その姿ににこりとしてシェリーは、ライアンたちの方に視線をやる。
彼らは潜入用の服――執事服とメイド服の寸法を確かめていた。
「アナタたち、しっかりセシルちゃんを守ってあげるのよ」
「まかせろ、いざとなれば、大暴れしてやるよ」
ライアンはにやりと口角を上げて言う。
となりでもリリアがこくこくと力強く頷いている。
「セシル、もうそろそろ夕方だ。君も準備したほうがいい」
トリシアが懐中時計を見ながら言う。
「はい、わかりました」
そう言ってセシルは、リリアから手渡されたメイド服の寸法を確かめ始める。
そして準備をする三人を見渡しながらシェリーが口を開く。
「みんな確認するわよ。作戦はいたって簡単。会合の開場に執事とメイドとして潜入。会合前の国王様の控え室に行って、セシルちゃんが直訴する。それが終れば即離脱。将軍たちの護衛の兵士たちにバレた場合は、ライアンが陽動してセシルちゃんを逃がす。最悪の場合は、リリアちゃんの力も使う。これだけよ、いいわね」
その言葉に、三人は力強く頷いたのだった。




