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Episode:3 013 作戦会議


 次の日の朝、セシルは昨日と同じく、詰め所の二階へとやってきていた。


 昨晩のライアンたちとの話で、夜が明けてから作戦会議をやろうということとなった。場所は昨日と同じ、ここ詰め所の二階の執務室だ。


 セシルは父のクリストフが普段使っている机を眺める。


 大好きな父、いつもこの机で難しい顔をしながら考え事をしていた。


 あの姿をもう一度見ることはできるのだろうか。考えたくは無い、けれど頭の中では最悪の結末が浮かんでくる。


 それを振り落とす様にセシルは頭を振る。気持ちを強く持たなければ、彼女は自分にそう言い聞かせた。


 扉がノックされ、それと同時に開いた。


 現れたのは予想通りライアンだった。彼に続いてリリアも中に入ってきたが、他にもう二人予想外の人物が現れた。


「シェリーさん? トリシアさんも?」

 セシルは驚いて現れた人物の名を呼んだ。


 シェリーがそれに応えるように微笑みかけて来た。


「おはよう。セシルちゃん。ちゃんと寝られた?」


「え? ええ、まぁ、それなりに……でも、どうしてお二方がここに?」

 セシルはシェリーとトリシアの顔を眺めた後、答えを求めるようにライアンを見やる。


 ライアンが後頭部を掻きながら、申し訳ないといった顔で口を開く。


「すまない、セシル。今日のこと、こいつらにバレてしまった」


「今日のことって、お父さんを助けることですか……?」


「ああ、そうだ」


「そ、それって……リリアさんが……あの……」

 セシルはそう言いながらリリアを見る。彼女も申し訳無さそうな顔で俯いていた。


「ああ、こいつらは知っている。リリアが悪魔だってこと」


「……そ、そうなんですか……」


 リアンダールの使者とライアンたちの結びつきに驚いているセシル。立ち尽くす彼女にライアンは着席を促して皆は腰を下ろした。


 それからライアンは、リアンダールで脅威を打ち払ったことを簡単に説明した。リリアと出会い、悪魔の契約をして脅威を打ち払い、そして契約の破棄に至ったことも。


 シェリーたちの存在については皇女である身分は隠して、下級貴族の子女であることにした。


「そうなのですね。ライアンさんは騎士で、国に降りかかる脅威を……」

 感嘆とともにセシルが言葉を漏らした。


 シェリーが得意気に髪をくしけずりながら微笑む。

「そうよ、私たちは一国の救世主ってわけ。大船に乗ったつもりで頼っていいわよ」


「で、でも、この国の問題にリアンダールの方を巻き込むというのは……」


「こいつらは巻き込まれに行くのが性分なんだ、それは気にしなくいい」


 ライアンが半分呆れ顔で言った。


 次の瞬間、トリシアの射殺すような視線がライアンに刺さる。トリシアはできる限り面倒ごとにシェリーを関わらせたくない立場だ。それなのにシェリーと一緒くたにされたことが猛烈に気に食わないのだ。


 そんな視線をさらりと受け流してライアンは続ける。


「俺もリリアもこいつらを頼る気は全く無かったんだ。でも、昨日の夜、詰め所の外で待ち伏せされていてな、それで問い詰められて……」


 ライアンの言ったことは事実だった。シェリー達はクリストフが捕まったことを聞いて、セシルの様子を見に来たのだったが、ライアンとリリアが神妙な面持ちで詰め所へ入っていくところを偶然目撃したのだった。


 クリストフが捕まったこと、クリストフとは悪魔の契約の話をしていたこと、そして二人の神妙な面持ち。これだけの材料があればシェリーにとっては充分であった。


 あとは隠し事が下手なライアンたちをつつけば、興味をそそられる――否、自らが手を差し伸べるべき難題が彼女の前に現れたのだった。


「巻き込まれに行くってのは語弊があるけれど、困っている人を見過ごす訳にはいかないわ。もう私たちは知らない仲じゃないでしょ?」

 シェリーが諭すような口調で言う。

 その言葉はセシルの心に染み込んで、彼女の負い目を溶かしていく。


「……わかりました。ご厚意に甘えさせて頂きます」

 そう言うセシルは覚悟を決めた精悍な顔をしていた。


「じゃ、早速、取り掛かりましょう」


 そう言いながらシェリーがひとつ手を叩き、全員の顔を見渡す。


「……お前が仕切るのか」

 ライアンが怪訝に言う。しかしシェリーは笑みを浮かべて返す。


「何か不服でも?」


「ねえよ」


 ライアンはシェリーの笑顔から視線を逸らして言った。


 それを見てシェリーは「ふふん」と笑った。



***************



「――まずは、経緯と状況の確認ね。どういった経緯でクリストフさんは捕まったのかしら?」


 リーダー気取りの口調でシェリーが言う。

 彼女の視線はセシルに向けられていた。


「ええと、私が聞いた限りでは、何の事前情報も無く、いきなり東軍と西軍の兵士が連れ立って現れて、父はどこだと聞いてきたそうです」


「その兵士たちは誰の命令で動いたのかしら?」


「東西両軍とも、最高司令官である、将軍の命令だそうです」


「ということは……」


「はい、東のバトラン将軍、西のアルドモン将軍です……」

 そこまで聞いて、シェリーが顎に手を当てて考える素振りを見せる。


「でも、前の日の会合では、その二人との話し合いは上手くいったのでしょう?」


「はい、私もそこは妙だと思っています。父は確かに前日には会合は上手くいって、二人の将軍が策に乗ってくれるかもしれないと言っていましたから」


「それが、次の日になっていきなり国家内乱罪とはね……」

 今度はこめかみを押さえながらシェリーが呟いた。そして彼女はリリアが何かを思いついた気配を感じた。


「どうしたの? リリアちゃん」


「あ、はい、あの、一つ思ったのですが、その二人の将軍の考えを変えるような、更に偉い人っていないのでしょうか? 将軍たちは会合の終わりにクリストフさんの意見に同意する素振りを見せていた。しかし次の日に二人同時に考えを覆した上に、捕らえる命令を出した。誰か逆らえない人の介入があったのではないでしょうか?」


 リリアの言葉に頷きながらシェリーはセシルを見る。セシルはゆるゆると頭を振る。


「あの二人の将軍より偉いとなると、あとは国王陛下しか存在しません。ですが、その国王陛下は国外にいらっしゃいますし、何よりも国王陛下が、内戦を終わらせようとしている父を捕まえる指示を出すとは考えられません」


「そうなのね。じゃあ、二人の将軍が同時に心変わりをしたのか、そもそもクリストフさんの策に乗ったフリをしていただけなのか……経緯から糸口を探せないかと思ったけれど、難しいわね」


「なぜ捕まったかは、一旦置いておいて、どうするかを考えますか?」

 そう言ったのはトリシアだった。行き詰まった話を違う方向に導く意見だった。


「そうね、これからの事を考えましょうか」

 切り替えるようにシェリーは顔を上げて、一同の顔を見渡した。


「しかし、助け出すにしても、東西の両軍が相手じゃ、実力行使って訳にもいかないだろうな」

 口を開いたのはライアンだった。

 その言葉にはセシルも頷く。

「中立兵団の武力では到底無理ですね。何よりも内戦を終わらせようとしている父が、武力行使を望んでいるはずがありません」


「そうね、それに無理やり助けたところで、疑いが晴れるわけでもないし、根本的な解決にはならないわね」

 シェリーがセシルの言葉に続けた。


 そして、そこで再びリリアが口を開く気配を見せる。


「いいわよ、リリアちゃん」

 シェリーが促すとリリアはおずおずと口を開く。


「あの、先程と似たような話になるのですが、二人の将軍よりも唯一上の立場にいる、国王陛下に助けてもらうというのはどうでしょうか?」


「国王陛下に?」

 シェリーが言うと、リリアは頷く。


「はい、国王陛下にお口添えを頂いて、正しく調査して貰えれば、あらぬ疑いは晴れるのではないでしょうか?」


「でも、国王様は隣の国に居るのよね?」

 シェリーが確認の為にセシルに視線を向けた。セシルはぼんやりと空中を眺めて何かを考えている。


「セシルちゃん?」

 シェリーが問うと、セシルはハッと我に返る。


「……す、すっかり、忘れていました。今度、国王陛下がお忍びで来られるのでした」


「来るって、この街に?」


「はい、国王陛下は内戦を終わらせるために、不定期ですが二人の将軍との会合を開いているのです」


「その会合が今度、このオーブクレールで開かれるの?」


「はい、極秘の会合なのですが、父は中立兵団の団長という立場で出席を許されていたので、密かに情報が伝えられていたのです。ですから、父は国王陛下が来られる前に、何とかして宥和の策を事前に進めたかったのだと……」


「なるほどね。クリストフさんの策が潰されたのは残念だけど、国王様が来るなら、この機会を利用しない手は無いわね」


「と、いうことは……」


 セシルの言葉に、シェリーの瞳が鋭く輝く。


「会いに行って――直訴するのよ」



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