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 空の赤と金のまだら模様の下、真っ平らな大地がどこまでも広がっている光景は心が痛むほど美しかった。

 この大地は空白だった。

 全ての生き物は一掃され、地球上には他に存在しない静けさに包まれている。

 だが。それも今だけだ。

 やがては、目的を持った動植物が移民としてここへなだれ込み、以前とは違った様相の自然を作り上げるのだ。

 そして、人間もーー。

 一陣の風が海の方からやってきて、自分の髪/感覚毛を揺らすのを感じた。

 自分?

 自分の名はーー。

『ラミタイ』

 そうだ。それだ。

 自身の内からの声が何度ともなくその名を強調したのを思い出した。

 その声は、こちらが質問したり、相づちを打ったりしてやらなくても、好き勝手なことを喋り続けた。

「なあ、同居人」

 そして、こちらが話しかけると即座に反応が返ってきた。

「この大地を焼き付くした炎はおまえを、そしておれを殺さなかったのかい?」

『では、ラミタイ、他者の遺伝子の中でその存在を保てる我らにとって死とは何なのだろう?』

「他の遺伝子強化人間は死に絶えたじゃないか……」

『ああ。それは実に悲しいことだ。彼らは皆方法を間違えてしまった。みんな、破壊と殺戮に耽ってしまった。生存のためにはそんな事よりも重要なことがあったのだが、思い出せなかったのか』

 同居人は溜め息をついたようだ。ラミタイの頭にファレリアのことが浮かんだ。

『その少女の同居人が私に統合を尋ねてきて、私もそれを受け入れた。他に統合ができそうな同胞は見当たらなかったからな。統合は私の体液を介して行われ、なんの問題もなく済んだ』

「でも、二種類の生き物が一つの体に生きるのは無理ではーー」

『その誤った考えは何に由来するのだね? すでに君と私がその反証ではないか。所詮は容量の問題でしかないんだ。人類を含む、普通の生き物に二種類の精神は無理だ。容量過大で破綻してしまう。だが、統合のおかげで容量が二倍になった私/私たちにとって炎に耐えれるように自身/君を作り替えることは造作もなかったというわけだ』

 同居人は誇らしげだった。

「そ……そんな単純な?」

『何を期待していたのだね? 私/私たちは単純な種なのだよ。付言すれば、その少女を殺した暴走体を君が始末したことにも、少女の同居人はいたく感銘をうけたそうだよ。自分よりも強い個体に勝つ行為というのは、私たちにとって重要な意味を持つものだからな』

「ふうん」

『そうそう、統合相手によると、少女は君が生き延びることを強く望んでいたそうだ。そのためにも、私と統合する気になったのだとさ』

「ファレリア……なぜだ?」

『私は知らないな。自分で尋ねたまえ』

 ラミタイは同居人の存在のさらにその向こう側に、ファレリアの存在をかすかに感じて目を丸くした。

 なんてこった。

 ファレリアまでもが同居人なのか。

 ……まあ、これも他の全てのことと同じように慣れていくべき事柄の一つなのだろう。

 ラミタイはゆっくりと立ち上がった。

「これからどうするんだい、同居人?」

『君次第だ、ラミタイ』

 同居人は何だか眠たげに言った。生存に成功して満ち足りた思いなのだろうか。

『死はいまや回避された。だが、君がかつて探していた平安が見つかるかどうかは、保証できない』

「そうか」

 平安は探すことができるだろうし、そうするつもりだった。

 ラミタイは背中から黒い羽を伸ばし、遠くの世界へと飛び去っていった。

私が初めて書いた長編がこれですね。

複数同時主人公にも挑戦しています。

舞台はなぜか和歌山県。

原爆、レーダー、コンピューターが登場せず、代わりに不思議なバイオテクノロジーが主役な第2次世界大戦に敗北した日本の昭和を描こう! というプロジェクトのはずでしたが、あまり原型とどめていません……

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