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23 県軍人

 イルヒラムはラミタイの体を抱えると、選果場をあとにした。

 集結していた遺伝子強化の化け物たちはザーゴが破れるとともに、霧散していった。彼らがラミタイとイルヒラムに恐怖したのか、それともザーゴの敗北など気にせず政府軍と一戦交えようというのか。人間には分からないことだが、とにかくイルヒラムへと近づいてくるものはいなかった。

 イルヒラムは、もう人間の姿をしていない、しかし化け物でもない姿のラミタイをアカデミーの床の上、ファレリアの隣に横たえた。

 イルヒラムは手銃に弾をこめるが、もう使う必要がないのは明らかだった。ラミタイはザーゴを破ったときにはすでに虫の息だった。変異した部位も活気を失い、ひび割れていく。

 すでにファレリアの血で一度黒ずんだ床に、ラミタイの黒い血が広がっていった。

 イルヒラムにできることは何もなかった。



 やがて、イルヒラムはラミタイが死んだのを知り、立ち上がるとバルコニーへと歩み出た。

 和歌山市は燃えていて、守るべき県民の姿は全く見えなかった。生を見いだすことさえできなかった。県民がいないのならば、県軍の存在する必要も、もうないのだろう。

 政府軍の包囲を遺伝子強化人間たちが破っているのなら、日本中の都市が間もなくこのような姿となる。

 だが、イルヒラムは何ももたず、何の任務も与えられていない。

 イルヒラムにできることが何もないことに変わりはなかった。

 空はやはり赤い色だが、こころなしか暗くなってきたようだった。煙の柱は今なお太く、静まる気配はない。

 遥か高空を銀色の鳥らしきものが横切るのが見える。

 イルヒラムは無言でそれを見上げていた。



 そして。

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