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15 ハチノヘとクジ

ネクサスの中は騒がしかった。クルーの叫びに、大阪を迂回して届く他ネクサスからのくぐもった報告。廊下の先には飛行甲板へと続くハッチがあって、その向こうはもう外だ。機関銃がうなるたびに、閃光が薄暗いネクサスの中にまで差し込んだ。

 ジョビ大佐がイルヒラム曹長に託した通信機はその優秀さを現すかのように、一瞬で転送を終えた。

 ネクサスがそれを受信して、ジョビ大佐の眼前でデコードされて、解凍されていく。

 ジョビ大佐がいじっているのは通信機の母機だ。

 おそらくはネクサスからサルベージされた技術をもとに作られたのだろうそれから、ケーブルが伸びて大画面ディスプレイにデータを表示している。

 作戦を把握して、他ネクサスをせかすのに忙殺されていたクジは、ジョビ大佐が受け取ったものに気付いた。

 画面が解凍を終えたことを告げ、フジームが産んだ遺伝子強化人間情報の最初のページにあたるコンテンツを表示した。

「素晴らしい……」

 ジョビ大佐がつぶやいた。

 ネクサスのディスプレイが表す光の乱舞のことを言っているのか、それとも、まさかその内容のことを言っているのか。

「なんて大胆で恐れ知らずなプロジェクトなのでしょうね、これは。見てくださいよ。遺伝子強化プロジェクト主任のフジームという人の発想力は本当にすごい。人間という種族の上限を増すために、こんなことをしようと考えつき、しかも、実行するだなんて素晴らしい。遺伝子強化人間はシェルやソヴィエテを相手取るために設計されたんだ……ただ早死にする子供のわけがありませんでした」

 後者らしい。

 まるで革新的な芸術品をほめるような、熱っぽい口調。

 どこかジョビ大佐の雰囲気が違うように思えた。どこか、遺伝子強化技術を作ったあの科学者たちを想像させる動き。

 この呪われた技術は、触れるもの全てに感染していく力でもあるというのか。

「PCOのお二方も、そう思いませんか? これに国家単位のプロジェクトとして取り組み、そしてあなたたちの自慢の新型爆弾があれば、鬼に金棒です。そうじゃありません?」

 もう、クジは顔に友好的な表情を作るのがうまくいかなくなっていた。ハチノヘはもともとそんな努力はしていない。

 二人とも殺気立っていた。不眠症患者がやっと眠れた途端、隣室でバグパイプの演奏会が始まったときでさえ、こんなことにはならないだろう。

 せっかく葬れようとしていた情報を、和歌山県軍なんて連中がこっちへ送って来ようとしている。

「例え、政府がこれに興味を示さなくても、和歌山県は違いますよ。この遺伝子強化の技術は和歌山県を蘇らせる。そうは思いませんか?」

 ジョビ大佐は挑戦的にさえも聞こえる口調で言った。

 この男はネクサスの装甲の向こうで何が起こっているのか理解していないのか?

「私たちが努力すれば、より洗練された遺伝子強化技術さえも手に入るかも入れません」

 そう言って、ジョビ大佐は歯を見せて笑った。

 気がつけば、ハチノヘが立ち上がってサーベルの鞘で床を規則正しく打っていた。

「だろうよ」

「今回私たちがこの事件から学ぶべきことはーー」

 クジが言いながら、ハチノヘに小さくうなずいてみせた。彼に仕事を始めろと命じるサインだ。

「ーー私たちは自分の分を越えたものを作ろうとはしないこと、ね」

 ハチノヘは抜く手を見せずサーベルを抜き放ち、銀光が正面から凍り付くジョビ大佐を襲った。

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