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12 歴史の隙間

 1945年、唯物主義論決定連合とアジア高等精神議会、二つの哲学体系の衝突、第二次世界大戦は、前者の勝利で幕を閉じた。

 連合を構成していた国家により、アジアの諸国は制圧された。

 日本を占領する仕事は、アメリカという国から派生した新国家リビルダーに任された。だが、やがて、その仕事はアメリカ人が予測していたほど楽な物ではなさそうだということに、リビルダー人は気付いた。

 日本軍は能率の良い戦力配置というものを知らず、太平洋各地や、バングラデッシュで連合軍に各個撃破されたと思われていた。だが、終戦の後にどういったわけか無傷の部隊が続々と帰国してきたのだ。その軍勢は盟主のアジア高等精神議会指揮機関でさえ把握していない、日本が独自に配置した兵力だった。日本軍最高指導者はアジア高等精神議会に対して謀反でもたくらんでいたのかもしれない、と思わせるほどの不自然な大軍だった。その軍勢の指揮官たちに問いただしてみても、誰の司令でそのような場所に配置されたのか、詳しくは知らない、と困惑顔をしてみせるばかりなのだ。

 この妙な展開に、リビルダーの戦後執行官たちは顔をしかめた。そして、帰国してくる兵員輸送船に加えて、困惑顔のクルーを満載した無傷のネクサスまでがぞくぞくと赤道地帯から帰ってくるのを見て、彼らは青ざめはじめた。

 日本軍は十分すぎるほどの戦力を残しながら、降伏していた。日本本土は焦土になったのに、それを守るべき軍はなぜかほとんど傷を負っていなかった。

 不可解極めた。

 リビルダーが彼らを下手に扱った場合、彼らは連合にいま一度反旗をひるがえすことができるのだ。そうなれば、それは連合の勝利に水をさすだけにとどまらず、連合が戦勝で得た利益を台無しにしかねない。

 リビルダーはどうやったらこの国を上手く占領したままにしておけるのか、頭をひねらなければならなかった。それでも、上手い方法は見当たらず、リビルダーは日本の歴史からその方法を拝借することにした。幸い、日本の歴史は実例に事欠かなかった。

 リビルダーは日本の各地に基地を築くと、そこに致命的な毒を秘めた、伝播力の高い改造されたマイコトキシンのタンクを大量に備蓄した。日本が連合、あるいはリビルダーの気に食わないことをしようとすれば、直ちにこれらの毒は解き放たれ、死の天蓋が列島を覆うのだ。これは安土桃山時代に日本の統治者によってよく使われた手法だった。

 なにかあればリビルダーは列島で暮らす一億近い人間を一日で殺すことができるし、そのあと他の属領の民を日本に強制移民させて、今まで通りの生産を続けさせることすら可能だ。

 1963年のいまなお、リビルダー基地は全て稼働している。


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