you pocketful life,child
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時の始まりはいつも「なぜこの時なのか分からない」ものだ。
ムシノシラセが鳴りやまない。若返り薬を飲んでからずっとこうだ。
自分の危機を知らせる便利な機械だが、こうなっては地球では目立ちすぎる。
自由に宇宙旅行に行ける時代になっても人間は地球に留まり続けている。
宇宙人もいないし、残ってるのは壁画の「宇宙人の恋人」だけだ。
さきわかは白いダウンを羽織って、「ピーッ、ピーッ」と鳴るムシノシラセを極力隠しながら外に出た。
夜空には宇宙がいっぱいあるが、その地球から目の届く範囲はどれも地球のゴミ箱になっている。
それか開拓のためにスペードールが置かれているかだ。月自治区が見える。どんなモノ好きが行くのだろう。
さきわかは行く所もないのでコンコースに行った。ムシノシラセが一層響いて目立つ。
「鳴ってますよ」
「いえ、これはいいんです」
「電車、乗らない方がいいんじゃ」
「いえ、違うんです」
「警察、呼びましょうか」
「いえ、実は、宇宙飛行士なんです」
周りは驚いた顔をした。
「何だ、それじゃ」
「ええ、ご心配おかけして・・」
とっさについた嘘だったが、宇宙飛行士になったらムシノシラセが外される。元々、危険だからだ。
このままだと薬の副作用が効きすぎて小さくなっていくかも知れない。それはそれで困る。
さきわかは電話で宇宙飛行士に名乗り出た。
一緒に乗るクルーは入理という変わった名前の女だ。
「ハハ、もう鳴ってる」さきわかはやっとムシノシラセを外せた。
宇宙船にはその二人の他にSRー1と呼ばれるスペードールが一台乗っている。遠隔操作されるロボットだ。
「置いてきてくれ、その星に」
「了解」
入理はそのSRー1に「オーショー」という名前をつけた。
「よろしくね、オーショー」
「俺はロボットをオーショーなんて呼ばないぞ」
入理はフン、と笑った。
いよいよ打ち上げ、それから切り離し・・。工程を考えている内にもう、あっという間に宇宙空間に来ていた。
「まずは月に行くぞ。物資補給だ」
「何で? そんな必要ないはずよ」
さきわかは入理にだけ自分の若返りが止まらないことを話した。
「体質に合わなかったらしい」
「考え過ぎよ。あの薬にそんな効き目ないわ」
「そうか? てっきり俺は赤ん坊にまで戻るんだと・・」
入理は鼻でため息を吐いて笑った。
「でも、宇宙のどこまで行けるかなんて面白そうね」
「オーショーを置いてくるんだ。せっかくだから遠くにしよう」
「あっ、オーショーって呼んだ」
ハハハ、と二人で笑った。
月自治区はあまり開発されないで文化が遅れていた。
さきわかは口に棒キャンディーを舐めながら必要な物資を買い集めた。
入理は宇宙船に手を当てて待っていた。
「ホントに地球って青いのね」
「出発だ。地球が青くっても赤くっても構わんさ」
「あの穴みたいなのを抜けたら、私たちの銀河系じゃないのね」
「第二銀河系だ。誰も行ったことのない」
さきわかは腹の上に置いたスナック菓子を食べていた。
「食べ盛りね」
そうこうしてる間に銀河系を抜けた。
「あら、青い星があるわ」
「その隣に黄色い星も。あれは月か」
「まさか。もう抜けたのに・・」
第二銀河系をさまよっている内に惑星の配置が地球の銀河系と同じことに気が付いた。
「ここはまた同じ銀河系だよ。銀河系を抜けても同じ銀河系にいるんだ。不思議だな」
「そんなこと誰が予測したかしら」
入理は月自治区であるはずの隣の黄色い星に宇宙船を付けた。
「ゴミばっかり」
「降りてみよう」
さきわかは色の抜けたブルーのスニーカーに履き替えた。
「足の踏み場もない」
「ゴミ箱がいっぱいになってこの星まで来たんじゃない」
「空気はそのままだ」
二人は宇宙帽を脱いだ。
「あそこに人がいる」
ゴミの山の上を動き回る人影がある。
おーい、と声をかけたらゴミから顔を上げた。その顔はとても醜い。
「私たちノティルターといいます。どこから来たの?」
「地球からさ」
「地球? あの?」ノティルターの一人が指差したのは隣の青い惑星だった。
「やっぱりあれも地球なのか」
「変な事、言いますね」
そう言ったきり、またノティルターはゴミの分別らしいことを続けに行った。
「どこかで進化を間違えたらしい。ここは未来なのかも知れない」
さきわかは月から地球を見るだけにした。
「行ってもいいんだぜ」
入理は靴の踵を伸ばして首を傾けた。
「オーショーだけ・・」
「そうだな、オーショー出て来いよ」
SRー1は出て来てただ命令を待っている。
「あの地球に行ってみてくれ」
オーショーは命令を処理できないのかしばらく人間が見ている限りは迷っているような様子を見せた。
宇宙船から地球のそばまで来てオーショーを落下させた。
「今から、帰還します」
「いや、君たちが出て行ってから、言いにくいことなんだが・・」
「何ですか、言ってくださいよ」
「いや、君たちの目で・・」
「言ってください」
「人間は進化を遂げた」
「どのような?」
「およそ半数がこうだ」
映し出された画面には耳が伏せられてまるで愛玩動物になったような人間が街中を歩いていた。
「なぜこの時なのか分からない」
「月は? 月はどうなりました?」
「まだ報告が来てないので・・」
二人は銀河系に入って、宇宙船は月自治区を通り過ぎた。
ムシノシラセがそれだったのか。
今となっては分からない。
どんな人類も風に吹かれているのでは一緒。
「宇宙はアメーバのように増え続けているって説、知ってるか」
「ええ」
ゴミのこはいった。
神様が承知してくれてる気がする。
全ての罪は許された、と。
鶏が先か卵が先か分からない。
なぜこの時なのか、考えなければいけないわけだが・・。