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短編 82 一撃必殺ヘイホウコン

作者: スモークされたサーモン


 響きが素敵! 


 きゃー! ヘイホウコン様ー!


 そんなノリで書きました。




「師匠! 今日こそは奥義を教えてもらえるんですよね!?」


「……お主にはまだ早い」


「そんな!? 僕はもう……中学生なんですよ!?」


「……お主にはまだ早い」


「……意地悪な師匠なんて死んじゃえー。グサッとな」


「ぎゃー!」


 こうして僕は師匠から奥義を会得した。どんな相手も一撃で倒せるという伝説の奥義。


 その名も『ヘイホウコン』


 漢字の書き方は師匠が死んでしまったので分からない。きっと『兵砲魂』とか『幣峰棍』と書くのだろう。


 ひげじじいの死体には何も残されていないので完全に想像になるけど。


 この奥義さえあれば僕は……僕は隣の席に座る可愛い女の子のパンチラだって怯まずにガン見出来るようになるはずなんだ!


「では……渡辺君」


「……ふぁい!?」


 名前を呼ばれ、現実にいきなり戻された。驚きのあまり、喉から変な声が出た。黒板の前に立つ先生が怪訝な顔をしているが特に触れることなく続きを話していく。


「9の平方根は幾つですか?」


「……徳川家康ですか?」


「平方根だっつーの! 今は数学の授業なのになんで徳川家康なんだよ!」


 だって……数学苦手なんだもん。


 数学の先生はすぐに怒る。そして口調が崩れる。方程式に小野小町が出てきても良いと思うんだ、僕は。


 小野さんが( )の中からひょっこりと顔を出してきたら面白いと思うんだ、僕は。


 (゜ロ゜) 


 こんな感じでさ。ところで小野さん、どこ見てんの? 


 うん。方程式って意味が分かんないよね。aって何よ。落ち込んでいるデブのおっさんを横から見た図なの? お腹出すぎ~。


 僕には分からないよ。分からないんだよ。


 数学なんてものはな!


 そんなことより日本語が大切でしょ! ね! 先生なら分かってくれるよね!


 とりあえずウィンクしてみた。ぱちこーんとね。


「渡辺君。君……居残りね」


 ……通用しなかった。先生は真面目な数学者。僕とは生きる世界が違いすぎるんだ。彼女は理系の世界で目まぐるしく数字に追われている。僕には無理さ。


 僕達は……一緒には居られなかったのさ。どだい、最初からね。


「……数学なんて滅びれば良いのに。人類全てが謎の病気にかかって数字を理解出来なくなれば世界は平和になるのになぁ」


「渡辺ぇ! 物騒な事を言うなぁ!」


 このあと物凄く怒られた。女性だけど男前な先生だと思う。




 僕は数学が苦手だ。


 中学生になって、いきなりの挫折を味わった。


 ごめん、嘘。


 小学生の時から算数が苦手だった。それはもう、算数なんて世界から消えてしまえとお百度参りを百回するくらいには算数が嫌いだった。


 塩分濃度とか出してどうすんの? 


 三角形の面積求めてどうすんの?


 なに? 自己満足? はっ! 止めてくれないかな。僕の大切な時間を君達の自己満足に使われるなんて堪ったもんじゃないよ。


 僕はね、もっと日本語を大切にするべきだと思うんだよ! だって今の子達は『やべー』とか『マジでウケるー』とか『それな』とかしか言えないあっぱっぱーだらけなんだぞ!?


 そんな奴らがこれからの日本を担うなんて恐怖しかねぇじゃねぇかと僕はね! 思うんですよ! ええ! だから数学の授業を全て国語に代えて良いと思うんだ! だって文化は言葉ありきでしょ? ね?


 日本語って……良いよね。熟女とか……良いよねぇ。熟れた女の子。すごい直球で素敵過ぎるよ。僕は日本人で良かったぁ。


「渡辺君って面白いよねー」


「そ、そうかな。普通だよ。普通」


 脳内でハッスルしてたら隣のパンチラ子ちゃんが話し掛けてきた。いきなり話し掛けられると心臓が跳ねるので少し手加減して欲しいと切に願っている。

 

 パンチラ子ちゃんはすごく可愛い女の子だ。太ももの白さはクラス一。太さもクラスで一番だ。僕はそんな彼女の太ももに少なからず欲情していると認めるのも吝かではないと思っている。


 ……むちむちだー。すげー。


「渡辺君ってさ……スケベだよね」


「断定されてる!? いや、ほら! 人は美しいものに目を奪われる習性があるんだよ!? 君の太ももは学年三位の成績優秀者なんだから僕が見とれるのも当然の結論と言えるんだよ、うん」


 この太ももこそ国の宝。そう! 国宝にするべきだと僕は思うんだ! 


「……渡辺君って変わってるよね」


「人は誰しも違うんだよ。だからこそ人は人を求めるんだ。みんなが同じだったら君と僕が違う人間である理由もないんだよ」


 そんなことを言いながら僕が見ているのは彼女の太ももである。スカートに隠されているが、それが良い。隠されたチラリズム。これも日本の文化と伝統なのだから。


「……渡辺君って残念な人って言われない?」


「……確かに親類縁者一同からも言われてるけど……そこまで残念じゃないと僕は主張するね!」


 太ももの先……すね……いや、流石にここには魅力は……あるけども。美は罪だね。


「……足、見すぎだよ!」


 ガン見してるのがバレていたようだ。パンチラ子ちゃんに背中を向けられてしまった。彼女の髪の毛がさらりと踊る様子に僕の心も踊り出す。


「うん。白くて綺麗な……新雪の降り注いだ冬の朝。窓を開けて深く息を吸い込んで真っ白な息を吐く……そんな情景が浮かぶくらいに君の太ももは綺麗な太ももなんだから仕方無い!」


 文学的に表現してみた! 何故なら僕は日本人だからね!


「……渡辺。お前、今日は進路指導室に来い」


「……あい」


 背後にいたぶちギレ先生にアイアンクローを頂きました。彼女は女子バスケの顧問で片手でボールを保持できるバスケ経験者です。素は男前な感じなんです。


 ……超痛いです。はい。


 この日はこってりと絞られてから家に帰りました。酒粕の気分がすごく分かりました。とてもカスカスです。



 


「師匠ー! ヘイホウコンの奥義はどうやって凌げば良いのですかー!」


「……受け入れなされ」


「わっかんねーんだよ! このハゲ!」


「……受け入れなされ」


「ヘイホウコンってなんなのよ!? なんでわざわざヘイホウコンにするのさ! あとルートって変な形だよねー」


「……受け入れなされ」


「うるせー! このハゲー!」


 そんな夢を見ました。今日も朝から寝覚めは最悪です。ヘイホウコンってなに?


 とりあえず学校に行きました。今日は朝からヘイホウコンです。



「おはよー」


「おはよう渡辺君。なんか酷い顔だよ? 大丈夫?」


 クラスに入るや否や、パンチラ子ちゃんに酷い事を言われてしまった。


「朝から貶しスタートなの!? そんなに僕は嫌われていたなんて……それでも僕は君の太ももが好きなんだけど!」


 朝の教室に僕の魂の叫びが響き渡る! 僕は君を愛しく想っているのだよ! 特に太もも! 月は綺麗ですよね!


「おばか! 朝から変なことを言わないでよ! 顔色が悪いって言ってるの!」


 なんだー。そういうことかー。


「悪夢を見たんだ。ヘイホウコンがどこまでも僕を追ってくる悪夢をね」


 奴はどれだけ距離を稼いでも僕の後ろに現れるのだ。そう、昨日の女数学教師のように。正に悪夢。英語で言うとナイトメア! ナイトベアだと夜の熊さんだ。それはそれで可愛いかも。


「……へ、へぇ?」


「ヘイホウコンなんて日本人の生活には必要ない。君もそう思わないか? 本当に必要なのはこうして気持ちを伝えあう技術の修練だと思うんだよ僕は! さあ二人で愛を囁く練習してみないか! きっと近い未来で役に立つと思うんだ! うん!」


 そしてあわよくばその太ももを……ぐふふのふ。


「朝から元気だな、渡辺。先生とも遊んでくれるか?」


「あだだだだだ!?」


 またしても頭をバスケットボールにされた。熱中していたらいつの間にか朝のホームルームの時間になっていたらしい。


 頭をかち割られる前に大人しくすることにした。ホームルームは恙無く進んでいく。今日も担任は男前だ。


 ……あれ? なんで僕は折檻されたんだろうか。


「渡辺君って……悪い人ではないんだよねぇ」


 席に座り一人で悩んでいると隣から呟きが聞こえた。パンチラ子ちゃんのため息混じりの呟きだ。彼女はとても真面目な女学生。そんなところも好ましいと思ってる。まぁ一番の魅力は太ももだけどね。


「人はすべからく悪人だよ? 僕も勿論悪人さ」


 僕は彼女の太ももが大好きではあるけど、他の女の子の太ももも大好きなのだ。出来るならスカートを捲って太もも様を拝みたい。三十分くらい。


 僕もこれは世間の一般常識に照らし合わせて『犯罪』だと認識している。物凄くやりたいけどやることはないだろう。物凄くやりたいけども。


「渡辺……お前は今度のテストで赤点取ったら……分かってるな?」


 朝のホームルームは佳境に来ていた。来週に迫った定期テストの話題である。僕は数学が苦手だ。なのでテストは毎回ゼロに近い点数を取っている。


 どっかに猫型ロボはいないものか。


「他の科目はそこそこなのに、なんで数学だけが飛び抜けて駄目なのかしら?」


「きっとそういう星のもとに生まれたのでしょう。僕はヘイホウコンとは相容れない存在なのです」


 そう。僕の生きる世界は言葉と文字に埋もれた世界。今も空から漢字が降り注ぐ様が窓の外に見えて……ないけどね。そこまでは病んでない。


「……渡辺。ダースって幾つか知ってるか?」

 

 担任が変なことを聞いてきた。男前になるのが早いなー。僕も一応現代人の端くれである。ダースという単位に馴染みはなくとも、それが幾つかなのかぐらいは当然知っている。常識として。


「ダースは十二個をひとつとして数える単位ですよね?」


 お菓子で有名ですし。


「うん。ではそのダースを更に1ダース集めた単位は知っているか?」


「……そんなのあるんですか?」


 初耳である。僕はそんなことを知らなかった。教室もざわめいているので多分誰も知らないのだろう。


「釘とかでそういう単位を使うことがある。グロスと言ってな。で、このグロス……幾つか分かるか?」


 ……ぬ? ダースをダース集めた数と言っていたな。つまり……。


「沢山ですね」


 なんか一杯。そんな感じだよね。ダースをダースも集めたら。笑顔で答えてみたよ。笑顔は大事!


「……正確な正解を導き出せたら太ももチラ見せご褒美をくれてやろう。隣の女子の」


「えぇ!?」


 パンチラ子ちゃんが驚きの声をあげた。これは頑張らねばなるまい。


「144個ですね」


「はやっ!? 渡辺君計算早いよ!?」


「いや、流石に掛け算は出来ますので。12掛ける12で……」


「それが平方根だ。144の平方根が12。自乗の反対が平方根、それだけの事だ」


「へー。太もも……撫でても良いですか?」


 よく分からないがとりあえずご褒美をいただく事にしよう。


「だめー!」


「そうだぞ。チラ見せまでは許すがそれ以上は教師として許さん」


「チラ見せもだめですー!」


 パンチラ子ちゃんの悲鳴がクラスに響いた。まだ朝のホームルームなんだけどね。隣のクラスに聞こえてないかな。まぁいいや。


「……つまりガン見だね?」


 僕、鼻血噴いちゃうかも。でへへ。


「渡辺君のえっちー!」


 その日、僕の頬に真っ赤な紅葉が現れることになった。




 ……拝啓、猫型ロボさんへ。


 僕はテストで赤点を取ってますけど、わりと幸せな日々を過ごしています。いつかは、パンチラ子ちゃんのお風呂に突入してラッキースケベを……むふふ。


 で、ヘイホウコンって結局なんなの?


 


 今回の感想。


 主人公をあえて面倒な感じにしましたが……どうかな。文系男子っぽさが出てますでしょうか。


 で、ヘイホウコンってなに?


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