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異世界証券取引所  作者: はみびとノベルズ
序章:勇者のその後と異世界証券取引所
5/15

5.そこそこの勇者の報奨

ユタカの隣で、大柄な男がカウンターの向こう側で受付をしている兎に怒鳴っている。


「どういうことだ!」

またドンと音がした。立ち上がって机に拳を叩きつけている。

頭に冠、マントに鎧、腰には聖剣とテンプレな勇者だ。


「俺の働きが、こんなちっぽけな金にしかならないなんて」

その穏やかじゃない様子を見て、帰ろうとしたユタカの足が止まった。


いつの間にか、猫がヘルプに行っていた。

「いかがしましたかニャ」

「何だ、お前は?」

「こちら窓口の責任者ですニャ。いかがなさったのですニャ」


「ニャァニャァうるせぇ奴だな。お前らの言ってることがおかしいって言ってるんだよ!」

「えっと、どういうことですニャ?」

「また説明させんのかよ。これ見ろよ」


その男が、手に持った紙を示した。

「これ、金になるんだろ?それなのに、たった500万クラウンぽっちにしかならないって、どういうことだよ」

「えっと、あなた様の世界、レヴァナントのお金だと思いますが」

「そんなことは分かってるよ。俺は世界を救ったんだぜ。あのドラッケンだかいう世界を、不死の王とかいうの倒して」

「えぇ、それは存じ上げてますニャ」

「それに対して、これっぽっちのお金しかもらえないなんて、どういうことなんだよ!」


どうやら、報酬の額が気に入らないらしい。

「私どもはあくまで取引所ですので詳細は分かりかねますが、ただあなた様の功績を見るに、妥当な金額かと思いますニャ」

「なんだと?」

「だって、不死の王はそんなに強くないですし。たまたまですが、ちょうどいま隣にいらっしゃるキサラギ様のほうが、よほど大変だったと思いますニャ」


勇者?はギロリ、とユタカの方を見て睨んできた。

「どいつもこいつもふざけやがって。お前ら全員許さねぇからな。俺の力を見くびるなよ」

そう言って、勇者は腰の聖剣に手をかけようとした。その瞬間、猫の目つきが変わった。


「もう、それくらいにしておいた方が良いですニャよ」

「なんだと、お前、神の祝福を受けた俺を脅す気か?」

男が体にオーラをまとわせたそのとき、


「その辺でやめておけ」

ユタカが男の腕をつかんだ。

「なんだ、お前は」

その男はユタカの腕を振り払おうとするが、びくともしない。


「ここの皆さんが困ってるよ。あなた曲がりなりにも世界を救ったのでしょう?そんなことして恥ずかしくないの?」

「ぐぬぬ」

男の顔が赤くなった。しかしあきらめたのか、落ち着きを取り戻してその場に座りなおした。

「けっ、畜生が。わかったよ」

見ると、先ほどの勇者はすっかりおとなしくなり、素直に手続きをはじめた。


いちおうは勇者である、キサラギのただならぬオーラに気づいたのだろう。

「キサラギ様、ありがとうございますニャ」

そういって、猫が礼を言ってきた。


「別にそんな大したことじゃ」

「いえいえ、もしあのままあの方が暴れていたら、SECを呼ぶ事態になってました」

「SEC?」

「セック、異世界取引監視委員会(Securities and Exchange surveillance Commission in another world)ですニャ」

「異世界取引監視委員会?」


「この取引所を統括する、最高統制機関ですニャ。そこには局長と6名の次長がいるのですが、その次長の1人で警備の責任者の方がいらっしゃるですニャ。あらごとがあれば、最悪その御方を呼ぶ必要があるですニャ」


「なんか、ものすごい強そうですね」

「ハイですニャ。本来、あまり現場には来てはいけない方なのですが、問題があるときは特別にお呼びして、事態の収拾にあたっていただきますニャ」

「そうだったんですね」


「はい。正直なところ、こういうことは少なくないものでして」

猫はバツが悪い感じで言った。


「色々大変ですね。なんとなく、分かる気がします。私もサラリーマンの時はクレーム対応してましたので」

「そうでしたかニャ。お互い大変ですニャ」

「はい。あ、でも私、サラリーマンじゃなくなってそうですね」

そう言って、ユタカと猫は笑った。

改行の調整と、頭字語SECの説明を追加しました。(2023/1/9)

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