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異世界証券取引所  作者: はみびとノベルズ
異世界証券取引にかかる検査事例:当該世界で行われた勇者召喚とそれに関わる異世界債発行について、その根拠となる事象に疑義が持たれ指摘した事案
15/15

15.次長

この世界での勇者と魔王の戦いは、大精霊がでっち上げだった。

だが、そこまでしてこの世界を生かそうとした大精霊が、簡単に引き下がるだろうか。


疑問を持ったユタカだったが、その視線に気がついたのか、大精霊は言った。

「私が正直に話していることが不思議ですか?」

「ええ、そうですね。そこまでして仕組んだことを、簡単に諦められるのかなと」


その様子を見て、ゴードンが言った。

「この場合、二つの可能性が考えられます。ひとつは観念しているケースで、もう一つは・・・」

ゴードンが話している最中、大精霊にまばゆい光の波が集まっていく。

そして何かが放たれようとした瞬間。大精霊の元へ飛び込んでいく影。

「こらーッ!!」

それはゴードンと一緒に来ていた少女で、大精霊に向けて背負っていたハンマーを思い切り振り下ろした。

大きな破壊音とともに衝撃波が広がり、土煙がモクモクと立つ。それらが収まると、少女に首根っこを抑えられている大精霊の姿が見えた。

「まったく、ためらいなく皆殺しにしようなんて大胆だなぁ」

少女はプンスカしていた。

「きさま、何者だ」

大精霊は怒りに震えているものの、抑えられて身動きがとれない。

そして二人のそばにやってきたゴードンが言った。

「先程申し上げましたが、この方はイエレンさん、証券取引等監視委員会の”次長”です」


大精霊の狼藉に動けずにいたユタカはその様子をポカンと見ていた。そして、ゴードンに声をかけた。

「ゴードンさん、イエレンさんって、、」

「はい、異世界証券取引所のトップのひとりですよ」

「トップ、、」

ユタカは信じられない様子でイエレンを見たが、その視線に気づいた彼女はユタカに向かってピースサインを出した。

「ま、そういうこと。よろしくね!新人クン」

「は、はい、よろしくおねがいします!」

ユタカは慌てて頭を下げた。その様子を見て、イエレンはニャハハと笑った。

「ちなみに、ワタシは暴力担当ね!」


イエレンに捕まった大精霊はすっかり大人しくなり、二人に言われるがまま連れていかれることとなった。

大精霊というだけあり、イエレンの実力を感じとり抵抗しても無駄だと理解したのだろう。

この世界のためだとか、小さな犠牲は仕方がないとか、連行される間ブツブツと呟いている姿には、神々しさは一切なかった。

「それでは、私どもはこの大精霊を取引所に連れて帰ります。後は、よろしくお願いいたします」

ゴードンはそう言い、イエレンとともに大精霊を連れて取引所に帰っていった。


ビショップ、フィーナとともに検査室に戻ったユタカは、イーリンに報告を行った。

「大変だったな。次長がこなければ、我々はみんな殺されていただろうな」

イーリンが事もなげに言った様子から、ある程度想定していた事態だったのだろうとユタカは思った。


「大精霊と名乗っていましたが、実際は悪霊の類いだったのでしょうか」

ユタカは思ったことを口にした。

「どうでしょう。この世界に対する思いは本物のようでしたし、手段が良くなかったということかもしれません。最初から大精霊ということも無いでしょうし、いつの間にかあの地位を手に入れて、考え違いをするようになってしまったのでしょうね」


そこでふと気になったことを、ユタカは聞いた。

「もし大精霊が勇者対魔王をでっちあげなかったら、この世界って、、」

「まぁ、確実に滅んでいたでしょうね。もっと早くに」

「そうですよね」


はたして、あの大精霊のしたことは間違っていたのだろうか。ユタカは短い間だが、この世界の人々の生活に触れていた。そこには、ただ慎ましやかに暮らす人々の姿があった。

ユタカが考えていることがわかったのか、イーリンが優しく声をかけた。

「きっと、世界は平等には出来ていません。だからこそ、私達は少しでも平等に行動し、世界のバランスをとる必要があります。それは法の元の平等で、それを守るのが私達の仕事なんです」

離れたところで事情聴取を受けるフィーナや王族を傍目に、ユタカは思いを巡らせていた。

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