13.大精霊
ネコマルをカタカナに直しました(すまぬ、ネコマル課長)。(2023/2/19)
イーリンはビショップの報告を受けて、すぐに指示書を書いた。
そしてを封をしてから近くにいた検査官に手渡し、指示を出した。
「取引所にもどって、ネコマル課長に渡してください。急ぎです」
封書を受け取った検査官は、大急ぎで検査室を出ていった。
「さて、どうしましょうか」
「まぁ次長殿が来るまでに、話を聞いておかなきゃならんでしょうな」
「そうですよね、、」
二人はうぅむと唸っていたが、事情の分からないユタカはポカンとした表情で様子を見ていた。
頭をポリポリとかきながら、ビショップは言った。
「仕方ない、行ってくるわ。イーリンさんはここを空けるわけにはいかないし、次長のお迎えも必要だろ」
「すみません、お願いします」
「はいよ。じゃ、キサラギもいこうぜ」
当然のように声をかけられたユタカは、事情は分からなかったが、何か面倒が起きていることだけは分かった。
「厄介事ですか?」
「楽しくお話するだけだよ」
「どなたとですか?」
呆れ顔でビショップは言った。
「いままでの話、聞いてた?きまってるだろ、大精霊様だよ」
「神殿はこの城の横にあるんですよね?」
ビショップが神殿ではなく王の間の方に向かったためユタカは尋ねた。
「先に、王の間に寄っていく。聖女さまがいなきゃ話ができないだろうから、一緒に来てもらう」
人智を超えた存在と話せるのは、たいていは聖なるホニャララだということを、ユタカは思い出した。
「まぁ、最初だけな気がするがな。とにかく次長殿が来るまでに聞き取りを終わらせておかないと」
先程までとは打って変わり急ぐビショップの後を、ユタカはついていった。
王の間についた二人が大精霊と話をしたいというと、フィーナが案内を引き受けてくれた。
「大精霊様に何かございましたか?」
神殿に向かう途中、フィーナは不安そうにビショップに尋ねた。
「いや、ちょっと話を聞くだけだよ。確認したいことがあってね」
「そうでしたか。私の問いかけに応えてくださるか分かりませんが、がんばります」
フィーナは真剣な様子だったが、ビショップはどちらかというと渋々やっている様子だった。
城から出て左手すぐに、教会のような石造りの建物があった。
その神殿の中に入ると天井の高い大きな部屋だった。明り取りの窓にはステンドグラスがはめられていて、いかにもな空間に仕上がっている。
そして、正面にはこちらを向いて手を広げている大きな石像があった。
「ここで、祈りを捧げます。お二方は、少し下がってお待ち下さい」
フィーナはそういって二人を止め、自らは石像の前に膝をついて祈り始めた。
一心不乱に祈りを捧げるフィーナを見ながら、二人は変化が起きるのを待った。
「ああいうのって、どこ行っても、おんなじだよな。俺らの知らんルールでもあるのかね」
「ビショップさん、静かに」
「はいはい」
フィーナがしばらく祈りを捧げていると、その場に変化が現れた。
何もない天井の空間から、キラキラと光が降り注ぐ。
そして、荘厳な声が聞こえてきた。
「現し世の者」
姿は見えないが、その声は後ろでフィーナを見守る二人にも聞こえた。
いや、聞こえたというよりは、直接頭の中に語りかけてくるようだった。
「大精霊様、いつも私達を見守ってくださり、感謝いたします」
フィーナは慣れているらしく、そのまま大精霊と対話を続ける。
「我がいとしの子よ、どうしましたか?」
「いつも私どもを祝福して下さりありがとうございます。先日は魔王討伐のおり、祝福をいただき感謝いたします」
「世界を蹂躙する邪なるものが消え、私も喜ばしく思っていますよ。その後、どうですか?」
「はい、世界の復興に向けて、みんながんばっております」
「それは良かった。まだまだこれからですよ」
「はい、」
「あー、ちょっと良いですかね」
ユタカは空気を読んで静かにしていたが、ビショップは長くなりそうな話を待つ気はなかったらしい。
不躾に声を出したビショップを見て、フィーナはオロオロした。
「どちらさまかな」
頭に直接響く声で、大精霊は尋ねてきた。
「異世界証券取引所から来たビショップと言います」
光だけがあふれる天井に向かって、ビショップは話しかけた。
「異世界証券取引所。俗世ですね、その存在は把握しておりますよ」
「光栄です。それで、貴方から聞かないといけないことが出てきちゃったので、ちょっと教えてほしいなと思いまして」
「俗世から、不敬なことですね。ただ聖女の手前、話を聞きましょうか。私があなた達と話をするために、彼女は来たのでしょう」
へへへ、と悪びれる様子もなくビショップは続けた。
「先日勇者に倒された魔王について、話を聞かせてください。あの不死の王、でしたっけ」
「この世界を恐怖に陥れた邪悪についてですね」
「はい」
「あれが本当に、諸悪の根源だったんですか?」
「そうでは無いと?」
頭に響く声質に違いはなかったが、その場の空気が張り詰めたように感じた。
「魔王は数年前に現れたとか」
「そのようです」
「本当に?」
「本当、とはどういうことですか?」
「誰もその当時は魔王の姿を見てないんじゃないかなと。数年前に現れたのは、四将軍と声だけですよね?」
「私はここ天上から世界をみておりますが、魔王の気配は感じましたよ」
「へぇ、じゃぁ、魔王はどこかに引きこもってたって訳ですか?」
「それについては、私から説明させてください」
そこで、フィーナが口を挟んできた。
「魔王はその時はまだ復活しておらず、四将軍は魔王復活のために世界を瘴気で満たそうとしていたんです」
「なるほど、要するに、魔王復活のためにそれが始まったと」
「はい」
「つまり、復活するようなヤツが元からいた、ということなんです?」
「そうではないかと」
フィーナは怯えるように答えた。
「じゃ、昔はどうやってやっつけたんですか?今回は勇者を召喚したみたいですが」
「その時は倒せたんです。でも、魔王はより強力になって復活したんです」
「なるほど」
「お前はどう思う?直感でいいぜ」
話を振られたユタカは、正直に言った。
「そうですね、、あくまで僕基準ですけど、戦いの跡は激戦というほどには感じられませんでした。僕が別の世界で魔王と戦ったときは、もっとひどい状況でした」
フィーナは緊張した様子でユタカの話を聞いている。
「それでも今回、対処しきれずに他の世界の勇者に頼ったとすると、過去に同じようなことがあったら、この世界は耐えきれなかった気がします」
「なるほど。それなのに、いままで勇者召喚のようなものはなかった、と。ちょっと、辻褄が合わないなぁ」
「黙って聞いていれば、憶測で失礼なことを言ってくれますね」
大精霊が、初めて感情らしきものを表した。明らかに、怒っているようだ。
「まぁ、真相は分かりませんが。状況からすると、何かおかしいですよね〜」
「何か、言いたいことがあるのですが?」
「言いたいこと、ね。うーん、そうですねぇ、、」
そこで、ビショップは目をスッと細めた。
「魔王、貴方が呼んだんですよね?大精霊さま」
フィーナの表情が凍りつく。
そして、その異変にユタカが気づいた瞬間。
「あっ!」
ドスン、という大きな音。
ユタカの真横、ビショップがいたその場所には、落下してきた天井があった。