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異世界証券取引所  作者: はみびとノベルズ
序章:勇者のその後と異世界証券取引所
1/15

1.旅の終わり

がんばります

「ユタカ殿。この度はこの世界を救ってくれてありがとう。心から礼を言う」


エロ―ル王は、恭しく頭を下げた。頭を下げた相手は、キサラギユタカという若者だ。

王のねぎらいに応じながら、彼は頭の中でこの世界に来てからのことを思い出していた。


日本で平凡なサラリーマンをしていたユタカは、ある日この世界に召喚された。

目的は魔王の討伐だ。当初は他力本願な世界に理不尽さを感じ、何もかもが信じられなかった。

だが、召喚時に与えられた精霊力を鍛える旅で人々と触れ合うにつれ、次第にこの世界が好きになっていった。


だからいま、こうしてこの世界の象徴に頭を下げられ、人々に喜ばれていることが単純にうれしかった。

ただ一方で、もう一つの想いも大きくなっていた。


自分は、元の世界に戻らなければならない。その気持ちを察したエロ―ル王が敢えて言う。

「ユタカ殿。これからもこの世界で暮らしてはどうだろう。きっと、ソーシャも喜ぶ」

この申し出があることは分かっていた。だが、ユタカに受け入れることはできなかった。


「王様、申し訳ございません。私には帰らなければならない場所があります。どうか私の我儘をお許しください」


自分のわがままと言ったが、ユタカは本当は残りたかった。

だが大きな力を持つ自分がこの世界に残ることで、その行く末に大きな影響を与えてしまい、果ては魔王と同じような存在になってしまうかもしれない。

きっかけはどうあれ、どこの誰ともわからない自分に良くしてくれたこの世界を最後まで守りきりたい、ユタカはそう思った。


「そうよな。無理を言ってすまなかった」

一瞬エロ―ル王は悲しそうな表情を浮かべた。そして脇の従者に指示を出した。

「ユタカ殿が世界に戻るための準備を」


そして、元の表情に戻ったエロ―ル王は再びユタカに向き直った。

「あらためて、この世界を救ってくれてありがとう。また、功績とは見合わぬもので申し訳ないが餞別も用意させてもらう。叶うならまたいつか会えることを楽しみにしている」

こうして、ユタカの冒険は終わりを告げた。


謁見後、ユタカは用意された城の一室に戻り、この世界に転移してきた時に着ていたよれよれのスーツに着替えた。


窓から外を眺めると、青空と緑にあふれた美しい世界が広がっている。

この景色を目に焼き付けておこうと眺めていると、従者が部屋にやって来た。


「ユタカ様、王よりお礼の品でございます。どうかお納めください」

従者から渡されたのは小さな封筒で、数枚の紙が入っていた。

ユタカは日常会話程度の読み書きはできるものの、紙に書かれた内容は難解でほとんど読めなかった。


「大切な書類でございます。大事にお取り扱いください」

褒美目当てで戦っていた訳ではなかったので、封筒に戻しそのまま上着のポケットに入れた。

「それでは、準備が整いましたので召喚の間においでください」


ユタカはこの世界に呼ばれた部屋へと再び案内された。

薄暗い石壁の部屋は床に魔法陣が描かれており、それを囲うように火のついたろうそくが置かれている。


そしてその魔法陣の前に、1人の女性が待ち構えていた。

「ソーシャ・・・」

「私、わかっています。でも、どうしても最後にお礼が言いたくて」

そういって、彼女は深々と頭をさげた。


「ユタカ様、この世界を救ってくれてありがとう」

頭を下げたソーシャは、肩を震わせていた。ユタカは彼女の前で跪き、手をとった。

「ありがとうございます。なかなか力が発揮できない私を、最初から信じてくれていたのはあなただけでした。あなたがいたから、最後まで戦えました」

「もう、行ってしまうのですね」

「はい」

「・・・わかりました。ユタカ様、お元気で」


ユタカは彼女の手を離し、魔法陣の中心に入った。

すると、魔法陣が輝き始める。そこで、従者が言った。

「まずは、異世界証券取引所にお送りします。そちらで、証券を交換なさってください」


ん?

何だと?

いま何と言った?

証券?交換?


戸惑いを見せるユタカに向けて、ソーシャが悲痛な表情で叫んだ。

「いつか、、いつかまた、お会いできますよね?」

だが、ソーシャ投げかけた言葉は、魔法陣からあふれた光にかき消された。

改行を少し調整しました。(2023/1/9)

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