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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レトロラジオ

作者: 紀希



このラジオをたまたま買った。


買った次の日にはもうその店は、閉店していた。



その時は、運命だと。


喜ぶくらいにしか思って居なかった。



今考えれば。


おかしかったんだ。



「今日買い物に付き合ってくれね??」


「オッケー」


腐れ縁。とでも言うべきか。



小学生からの付き合いで。


気付けば同じ高校にまで通っていた。



親友は趣味でキャンプをやっていて、


今度一緒に泊まろうかなんて話しをしていた。



「何かお探しで?」


親友「いや。キャンプ道具をさ?」


中古品が安く売られているお店に。


学校帰り、2人で寄った。



買い物には、良く付き合わされる。


こんな時間でも。社会人に成れば、、


一緒に出掛ける時間なんてものは減ってくるのだろう。



一緒に行きはするが。


一緒に見る訳じゃない。



適当に。


時間を潰す。



金に余裕が在る訳じゃあ無かったし。



「アルバイト募集、、か。」


店内に貼られた求人の紙を見つめながら、


今しかない時間を犠牲にするのかを考えながらも。


独特な臭いのする店内をゆっくりと見渡していた。



本当にいろんなのが売っている、、


買う訳もない商品を触ったり、見たりして。


自分の買いたい衝動は抑えられた。



けれど。俺は、それに出会ってしまったのだ。



「おぉ、、。」



今じゃあまり使わないであろう本体は、


数字の消えかけているディスプレイに。


後ろには、アンテナまでもが付いている、


真っ赤な機械だった。


下には何かを入れる場所まであった。


「レトロ、ってヤツか??」



これでラジオが聴けるのだろうか、、


趣味で好きなアーティストが出ているラジオを。


たまに聴いたりもしていた。


「へー、、」



手に取ると、少し重みのある重量感と。


そのデザインが何とも言えなかった。



親友「おー、、居た居た。



それ。買うのか??」


かごの中には、購入するであろう商品が入っていた。



親友「何かお洒落だなあ??」


「ね。


良いのあったん?」


親友「ちっと見て貰いたいんだけど。」


「オッケー。」


親友「それ入れとけば??」


「あぁ。


うん、、」



こうして。


これが今。


目の前にある。



親友「はいこれ。」


帰り際に渡されたそれは。


俺の誕生日プレゼントとして。


親友が買ってくれたのだった。



「カッコいい。。」


部屋の中で、唯一の存在感を出すそれに、


電池を入れてみる。



ジィー、、ジッジジー、、



いきなり出た大音量にビックリしながらも。


ボリュームを下げて、アンテナを伸ばす。



少し汚れたパネルの中の針を動かし、


数字の中を移動させる。



ジー、、こっ、、ジージー、、でっ。。



「すげぇ!!」


初めて触ったおもちゃではしゃぐ子供の様に。


俺は受信出来る放送局を、ゆっくりと針を動かして。


自分の回す指に集中しながら探っていた。



ジー、、ジジー、、



時折聞こえる人の声にワクワクしながら、


目当てのチャンネルに合わす。



すると、聞き慣れたBGMが流れた。


俺は、興奮した。



ジィー、、



いつも聞いている音よりも濁っている様な感じの、


雑音の入り混じったラジオ。


高い音や、電波の乱れを音で感じた。



何と言うか、それが堪らなかった。



翌日。


同じラジオを聞いている稀少な友達と、


昨日聴いたラジオの話をする。



友達「昨日も聞いた?」


「聞いた聞いた。


ってか、ラジオの本体買ってさ?」


友達「マジか。


実は俺もアプリじゃなくて、


本体で聞いてたんだよ。」


「マジ!!?」



その時は何だかもっと仲良くなれた気がした。 


いつもラジオを聴く時は集中して聴きたいから、


電気を消して。静かに聴く様にしていたのだけれども。


まさかの友達も、電気を消して聴くスタイルだったのだ。



アルミホイルを巻いたり。窓の近くに置いたり。


手で握ったりしたりすると、聞こえやすくなる。


とか、そうゆう裏ワザみたいのを聞いて。


その放送の日が来るのを楽しみにしていた。



自分で工夫して、考えて。


自分で位置を決め、自分で合わせる。



それは、何だか味わった事の無い経験だった。


俺は、その日が来るのが待ち遠しかったから、


その前から完璧な、場所。完璧な改造。


完璧なチャンネルをセットしてあった。



「よしっ!!」


遂に待ちに待ったその日がやって来た。



いつもの様に、電気を消して目を閉じる。


耳を澄ませ、音に集中する。



何回も聞き慣れたBGM。


だが、完璧だったはずなのに今日は雑音が多い。


カーテンをめくり外を見るが、風が強い訳でもない。



ジィー、、ジジジジ、、


ジー、、



「あれ??」



俺は、電気を付けてチャンネルを調整した。


ジー、、ジジ。ジー、、



ラジオ「私は、、殺された、、


私は、、」



やっと入った音は、怖い話をしていた。


「まあ、良いか。」


ラジオは、アプリでいつでも聞けた。


友達は自分で局を探すのも楽しいと言っていた。



俺もそれをしてみたいと思ってたから、


丁度良かったのだ。



俺は再び電気を消して目を閉じ、耳を澄ます。



ラジオ「私は、、殺された、、



○○○○○の△△丁目。


△△-△の、、、号室で。」



ん?。


今○○○○○って言ったか??



ジー、、ジジ、、ジィー、、


いつも雑音混じりの音になのに。


部屋の番号以外は全て聞き取れた。


今、△△丁目の△△-△って。。



「私は、、殺された。」



生温かい温度と一緒に。


それはすぐ耳元で聞こえた。

  


「えっ、、」


身体を起こし、電気を付けた。



その瞬間。



「うわぁああ!!!」


目の前には、頭から血を流した女性が立っていた。



女性「私は、、殺された、、」



初めて見る幽霊に恐怖を感じたが。


血が伝う女性の顔には、涙が流れていた。



「、、大丈夫ですか?」



不思議と、恐怖心よりも強く。


"可哀想"だと思った。


女性は泣きながら住所を言っていたが、


その音はラジオから放たれていた。



所々聞こえなかったが、大体は分かった。



「はっ!!」


付いていたはずの冷房は切れていて、


全身汗びっしょりだった。



ラジオからは、


ジー、、


と言うノイズだけが伝わった。



夢か??


いや、、



恒例のいつものラジオのトークは、せず。


その日は真っ直ぐ親友の所へ行った。



「今日、、空いてるか??」


親友「どうした?急用か??」


顔色の優れない俺を見て察した親友は、


友達に部活を休む事を伝え。


何も言わずに、放課後付き合ってくれた。



俺は1度帰って、ラジオを手に持った。


何かが分かる様な気がしたから。



「ここだ。。」


昨日言われた住所に赴く。



行きながら、親友には昨日の話をした。


親友「まさか、な、、



何か。


悪かったな??」


そう言い、一緒にエレベーターに乗った。



親友「部屋番号は分かるのか??」


「きっと、


あそこ。」



エレベーターを降りて、暫く歩くと。


玄関の前の扉には、花束が置かれていた。


「ったく、、困るんだよなあ」


そう言いながら、


おじさんがその花束を拾っていた。


親友「あの!!!」


親友は、花束を持ったおじさんに話し掛けた。


おじさん「何だい??」


めんどくさそうに、嫌々話す。


親友「それは??」


おじさん「あぁ。


誰かが置いていくんだよ。



もしかして君達かい!??


困るんだよなあ。」



そう言って、花束を渡して来た時。


俺の持っていたラジオを見るなり、顔色を変え。


そのまま逃げる様にして行ってしまった。


親友「何だ、アイツ?」



部屋の前に行き、親友はそっと花束を置いた。


俺達は静かに目を瞑って手を合わせた。



ガチャ、、



誰かが出て来た音がした。


帰ろうとした時。


扉の隙間から覗くおばさんに手招きされた。



親友と一緒にその人の家の扉の前まで行く。


おばさん「あんた達は、あそこん家の知り合いかい??」


親友「知り合いって訳じゃあ、、」



ガチャン、、


他の人の家の扉が開くと、


「上がって上がって、、」


と中へと催促された。



正直。上がるか迷ったが、


急かされたので、上がってしまった。


おばさん「適当に座って。」



何だか変な感じだった。


知らない人の家に上がるなんてのは、


生まれて初めてだったから。



おばさん「はい、どうぞ。」


テーブルには、氷の入った麦茶が置かれた。


おばさん「座りなさい?」



目の前に揺れる麦茶の入ったコップを出される。


親友「頂きます。」


「い、頂きます。」


おばさん「それで。



どうしたんだい??」


真剣な表情をして、俺達の顔を見る。



親友「いや、、


何て言うか。



あの人と、前に話した事があって、、」


親友は上手く話をしてくれた。


おばさん「そのラジオは何だい?」


「えと、、」


俺の持っていたラジオを気にする。



親友「ラジオ友達だったんです!!」


少し、疑いの眼差し向けられたが。


にっこりと微笑み、話を続けた。



おばさん「そうかい、そうかい。



あの子は良い子だったよ。


今時の子にしては、しっかりしていて。



全く、悲惨な事件だよ、、」


お菓子を勧められ、俺達はお菓子を頂く。


おばさん「何でも、隣の家が疑われててね??


騒音のトラブルか何かがあったらしくてね。



犯人はまだ見付かって無いんだよ、、」


「えっ、、」


おばさんはせんべえを齧りながら話す。


「なんだい!


知らなかったのかい??」


親友「はい、、


亡くなったと言う話しか。」


おばさん「そうかい、、



玄関が開いていたらしくてね、、


強盗か、乱暴されて抵抗してか。



頭を強く撲られてしまって。


それで、亡くなってしまったみたいだよ??」



彼女はあの時泣いていた。


そんな事を考えていると、丁度時報が鳴った。


おばさん「あら嫌だ、、


買い物行かなきゃ。



話したい事があったらまた来ると良いよ?


おばさんで良ければ話しくらい聞いてあげるから。」


親友「ありがとうございます、、」


「あの、、彼女のお墓って、、」



おばさん「あぁ。



そこの御寺だよ。」


カレンダーには、寺の写真があった。



『ありがとうございました!』



おばさん「またね??」



忙しいそうに歩くおばさんを見ながら、


親友はぼそっと言った。


親友「何だか報われないな??」


「うん、、」



暗くなった道の先を歩く親友は、背中で話した。


親友「寺。


行くんだろ?


週末にでも、、」


「うぅん。


大丈夫。


部活あるでしょ?



今日はありがとう。」


親友「、、そか。


じゃあ、また明日な?」


「うん。」



犯人はまだ見付かってない。


それに、これ以上巻き込みたくなかった。



大切な、親友だったから。



次の日の放課後に。


俺は、寺に向かった。


昨日と同じくラジオを持って。



敷地に入ると、中年の男性が居た。


「あの、、」


男性「はいはい。。



もしかして、女性の??」


何も言ってないのに、男性は察した様に話した。


「えっ、、?」


俺は、何だか怖かった。



男性「こちらへ。



あぁ、、自己紹介が遅れたね。」


歩きながら話す男性はここの住職だった。


座敷に通され、そこには神様の像があった。



俺は、これまでの話をした。



住職は穏やかな顔で話を聞いてくれた。


でも何だか全てを知っていた様だった。



全てを話し終えると。


住職は置いてあったラジオを手に取って口を開いた。


「モノには人の思いや、記憶が。


"こうして"、残る事もある。



きっと。


同じ様に、これに引かれていた君に。


自分の思いを知って欲しかったんだろう。」



俺は、住職の持って来た彼女の遺骨に手を合わせ。


その寺を後にした。



最後に住職は教えてくれた。


あのラジオは、



殺された女性が持っていた遺品



だった事を。



だからラジオは寺に預かって貰った。


親友には謝ったが、


「気にすんな。


それより悪かったな??



今思えば、買う時。


変な感じだったし、、


何より。


店もすぐ閉店したしな??



早く犯人が掴まると良いな?」


と言ってくれた。



俺はそれ以来。ラジオは聞けなくなったし。


誰かの想いの入った物を買うことすらもしなくなった。





























ああ。 


それから。



犯人は直ぐに逮捕された。



犯人は、このラジオを売った。

























花を回収してた奴だった。










































犯人は現場に戻るとは言ったものだ。


いや、、もしかしたら。


彼女は、ラジオを通して。


彼にアピールしていたのかも知れない。。




















「私は、、殺された、、




































お前になぁあ!!!!!!」
















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― 新着の感想 ―
[良い点] この後はどうなるのかと、終始ワクワクできました! すぐに閉店してしまった中古品店の謎が残ったままなところが好きです。被害女性の無念が生んだものだったのでしょうか…… ほんのり良い話でもあり…
[良い点] 彼女の強い思いが犯人を捕まえさせたんですね。 怖いけれど、怖いだけじゃないお話でしんみりしてしまいました。
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