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#8.夢ついて語り合うようになった俺

※主な登場人物

俺:本作の主人公。今の夢は皆でわいわい騒げるレストラン経営。

メリーさん:ヒロイン。今の夢は……内緒。

ボビー:第三の男。今の夢は実家の牧場を盛り上げ、沢山の人に利用してもらえるようにする事。

 三人、いつもの夕食の時間にて。


「ソウイエバキョウ、バイトサキデセンパイニ、ナリタイモノハナイノカトキカレマーシタ」


 ちょうどメリーさんがいつもの調子で「すき焼きには生卵でしょ」と持論を展開してきたところで、ボビーが話題を提供。

おかげでぷりぷりしていたメリーさんのほっぺたもいつものキリッとした形に戻る。


「夢とか将来の話?」

「Oh、Yes。チョットクウキヨメナカッタデスカ?」

「いやいや。それでボビーはなんて答えたんだよ?」

「ハイ、ワタシ『マイサンノボクジョウヲモリアゲタイ』トコタエマシタ」

「マイサンの牧場……? ああ、親父さん、牧場やってるんだっけ?」


 ボビーのご実家は、テキサスで牧場を営んでいるらしい。

ボビー自身学生時代はカウボーイの真似事とかして父親を手伝っていたのだとか。

中々の孝行息子である。


「デモ、ワタシ、ステイツヲデルトキニ、マイサントケンカシマシタ……」

「あら、どうして? 海外に行かせるのはやっぱり嫌だから?」

「イイエ……ワタシ、ケイエイガクヲマナブタメニ、ジャパンニキマシタ。ステイツデモ、ダイガクデケイエイガク、マナビマシタ」

「おー、つまりボビーは経営を学ぶことで、親父さんの牧場を手伝おうと……あれ?」

「マイサンハ、ソウイウノヨリモ、スグニツイデホシカッタヨウデ……ワタシガ、ボクジョウカラニゲタヨウニオモッタラシイデス……ホントハチガウノニ」


 夢とは、必ずしも理解されるものではないのだろう。

父親と言えど、しっかり話し合わなければ、間違った方向に受け取られてしまうことだってある。

ボビーは、夢の為にわざわざ日本まで来たのだ。すごいと思う。

だが、それだけでは、家族は納得させられないのだろう。


「手紙を出そう、ボビー」

「レター? ホワイ?」

「手紙を出してさ、親父さんに近況を伝えようぜ。それで、今のボビーの想いを手紙にありったけ書くんだよ。下手糞でもいい。とにかく、書いて知らせるんだ」


 こんな時、俺のできるアドバイスなんて大したものではない。

俺はボビーのように夢の為に外国に渡ったりはできなかった。

ただ、ボビーが実家に帰れば両親に会えるのに対し、俺は二度と会えないくらい。

だから、その部分では伝えられることもあると思うのだ。


「ボビーは今元気だろ? こうやってうまいもの食って、毎日楽しく話を聞かせてくれるじゃないか。俺やメリーさんと話しててどうだ?」

「タノシイ……タノシイ、デス」

「じゃ、それを書いてみろよ。きっと笑ってくれるぜ。一通だけじゃなく二通でも三通でも、毎日でも送ってやれよ。きっと、安心してくれる」


 もしボビーの両親がボビーの事を愛してくれているなら、それだけでも違うはずだ。

遠い異国の地にケンカ別れのまま送り出して、気が気じゃないかもしれない。

もしかしたら後悔しているかもしれない。そうじゃなくたって、腹を曲げたままよりは楽しい近況でも読んだ方がいいに決まっていた。


「ボビー、話せるうちに話せるだけ親と話しとこうぜ。いなくなってからじゃ遅いからな」


 俺は、あまりにも唐突に親がいなくなったせいで、その辺全く分からなかった。

何が起きたのかわからなかったし、なんでそうなったのかもわからない。

ただ、いきなりいなくなって、「え、なんで?」と、悲しみより先に困惑のほうが強かったのが未だに記憶から消えない。

そうして、後になってから後悔が噴き出す。

話せるだけ話した方がいい。

『孝行したいときに親はなし』なんて言葉もあるが、孝行以前に、もっと思い出が欲しかったのだ、失った身としては。


「生きてればケンカすらいい思い出になるぜ。今ここでメリーさんがすき焼きの卵についてぶちぶち言ってたのすらいい思い出になるんだ」

「むっ、いいこと言ってたと思ったら急に私をいじるのやめなさいよっ! すき焼きに生卵投下はおかしいでしょ! 割下に生卵入れるならともかく! これじゃ他人丼の具みたいじゃない!」

「HAHAHA! 生卵苦手なボビーに配慮したすき焼きだぜ! メリーさんだって文句言いながら食べてるじゃん」

「う、だって、それは……すき焼きだし。ほっとくとお豆腐崩れちゃうし」


 寂しい話はここまでだ。

すき焼きは、楽しい時に食べるものだろう。

食べていて楽しくなる食べ物の筆頭だろう。

そう、幸せの形はここにある。

俺の夢もここにあった。


「夢の話をするなら、俺はここで、にぎやかな食卓を囲みたいと思ってたんだ」

「えっ」

「アニキ……?」

「メリーさんが来てくれて、ボビーもいてくれて、俺は夢がかなったみたいだよ。だから、毎日が楽しい」


 ちょっとエンゲル係数高めだけど。

その為にバイトを増やすくらい訳もないくらいには毎日が充実していた。

新しいメニューを考えるのも楽しい。

料理の腕を振るえるのは生きがいとすら思える。

そして、ボビーやメリーさんがその都度反応してくれるのが、今の俺の幸せだった。


「……まあ、確かにここでの食事は悪くないけど、ね。一人で食べるよりは沢山のほうが楽しいのは確かにそうよ」

「ハイ……ジャパンニキテ、アニキノイエノトナリニコシテコラレタノハ、ラッキーデシタ」

「そう言ってくれるならこの場を提供する甲斐があるぜ。これからもいろいろ作って、色々食わせてやるからな」

「でもあれよ」

「うん?」

「納豆は勘弁ね」

「Oh……ワタシモ、ナットウダケハカンベンデース……アレハアクマノマメデース」


 ボビーはともかくメリーさんからまで拒絶されるのは悲しすぎる。

納豆、だめっすか?


「あああ、涙目にならないでよっ、納豆はほんとダメなの! あのネバネバ髪とかにもくっつくしー!!」

「クサッタマメニナマタマゴ……ワタシ、アノシュンカンエクソシストヲヨビヨセルベキカトマヨイマシタ……!」

「え……なんで、あのネバネバが健康にいいのに。納豆菌最強なのに」

「別に私ご飯に最強は求めてないし……あまつさえあれをお味噌汁に入れようとするのは赦せなかった」

「ナットウジルハ、ハイキョウノアジデース……」


 なんだろう、こうまで否定されるともしかして納豆は本当に悪い存在なのだろうか。

悪魔の食べ物なのだろうか?

いいやそんなはずはない。納豆は最強だ。

これほどご飯にあうおかずはそうはないはずだ。


「よし、すき焼きに納豆を投下して――」

「そんなことしたらちょん切るわよ!!!」

「アニキ、タモトヲワカツトキガキタヨウデース……テキハホンノウジ!!」


 ちょっとした納豆ジョークも許されないらしい。

何この非寛容。怖い。

ていうかメリーさんの鋏は見慣れたけどボビー、お前はフォークで何をするつもりだ。


「わかったわかった。俺もさすがにすき焼きに納豆投下はどうかと思ったしな……でもそうか、納豆ダメかー」

「他のものならともかく納豆だけは許せないわー」

「ナットウ、ダメ、ゼッタイ!!」


 新たな悲しみが生まれた瞬間だった。

幸せとは、かくも残酷なものなのか。

だが受け入れねばなるまい。彼らが言うのだ。

だが、受け入れたうえで、それでも俺は納豆を推したい!!


「納豆餃子とかは……」

「普通の餃子にしなさいよ」

「納豆巻き」

「カンピョウマキノホウガヘルシーネ!」

「ならば納豆カレーとか」

「「カレーに対しての冒涜」デース!!」


 その後、すき焼きをおかずに、深夜まで納豆のセーフラインを語り合ったのだった

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