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#6.妖怪たちの頂点に立つ私

※主な登場人物

俺:本作のヒロイン。炊飯器真拳究極奥義を体得している。

メリーさん:主人公。テレポーテーションとバックスタブ(即死率激高)を体得している。

ボビー:第三の男。父親譲りのテキサスクローバーホールドとスピニングトーホールドを体得している。

 突然だけれど、怪奇現象や妖怪たちは、現代においては寄り合いという形でコミュニティを持っている。

大体は国ごと、場合によっては地域ごとにそういう会合があるのだけれど、基本いつも大したことは話していなくて、近況を話し合ったり雑談をする程度で終わってしまう。

けれど今日はいつもとちょっと流れが違っていた。


「ねえねえメリーさん、最近ちょっと噂になってたのを小耳にはさんだんだけどさー」

「どうしたのよ隙間女」


 普段からよく噂話を振ってくる隙間女が、隣の席から今日もいつものように話しかけてきた。


「メリーさん、最近彼氏ができたってほんと?」

「ぶっ」

「うぉっ、きたねぇっ」


 あまりに突拍子もないと人は飲み物を吹き出すのだ。

おかげで正面で食事をとっていたぬらりひょんが顔に浴びることになる。

まあ、ぬらりひょんだからいいか。


「ちょ、ちょっと、その噂誰から聞いたのよ……」

「えー? 隙間ネットワークから」

「またいつもの憶測か」

「違うわよーっ、ちゃんと友達の友達から聞いたことですー、真実ですー」


 唇を前に突き出しぶーぶー言う隙間女。

けれどこいつの噂はいつもろくでもない。

大体にしてくだらない事ばかりだから聞き流すに限るのだけれど、今回に関しては自分の関わる事なので無視はできない。


「情報のソースを提示しなさいソースを」

「ソースいりますかー? あげますよっ」

「いらないわよ」

「はぅ……欲しいって言ったのに……」


 逆隣からものすごくいい笑顔でソースを寄越してきた座敷童(幼女)に手を振り振り、また隙間女を睨む。


「メリーさん醤油派でしょ?」

「あんたもボケるな収拾つかなくなる……この情報化社会で根拠も何もなしに言うのはダメでしょ。混乱の元でしょ」

「普段聞き流す癖に自分の事になると必死になる奴」

「刻むわよ!」


 話していて面倒くさくなる。

そして面倒くさくなったら斬り刻んでしまえばいいと思うのが私という怪奇現象だった。

私達の世界ではパワーオブジャスティスなのだ。


「ひぃっ、やめてよメリーさん穏便に行こうよー? ね? ナルトあげるから」

「自分が苦手だからって練り物を皿に放り込まないでよ」

「えー、じゃあはんぺんもあげるし」

「せめてブリの照り焼きよこしなさいよ」

「えーやだぁ。メリーさんこわーい! 私からメインディッシュ奪うのー?」


 本当に刻みたくなってきた。

鋏を手に取り立ち上がろうとする。


「あっ、ちょっ、ごめんて! 鋏持つのやめよ? 割とマジでシャレにならないから! やめてっ、ちょっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい二度と言いませんから真面目に話しますからぁっ」

「……茶化すと怖いわよ」

「はい、ごめんなさい。反省します……うう、本気で髪切ろうとするから怖いよぉ」


 私に冗談などない。

刻もうと思ったら刻むし、邪魔なら切り落とす。

けれど今回は素直に謝ったので許す。私も食事の場で隙間女の断髪ショーなんてやりたくないし。


「隙間女さんはおかっぱ頭にでもなればいいのです……」

「はははっ! その鬱陶しい湿っぽい黒髪がばっさりいかれるのは面白そうだったのになーっ」

「うぅ、皆酷いよぉ……新参者虐めだよぉ」


 これに関しては他の奴らも止めようとしない辺り、自分に被害が来なければどうでもいいと思ってる節がある。

まあ私もそうだから怪奇現象や妖怪なんてこんなものである。


「それで、ソースは?」

「うぅ……メリーさんファンの幽霊から」

「どんな?」

「最近、男の家に入り浸ってるって。だから『その男に憑りついてやるそして俺がメリーさんとウヒヒヒヒ』とか話してた」

「それファンって言うかストーカーよね……」

「違うよー、ファンだったけどメリーさんに殺されてストーカーになったんだよー」


 幽霊になってまで私を追い続けるのは流石に引く。


「除霊しとこう」

「それで、本当のところは?」

「あによ?」

「ひぃっ、睨まないで……だって、気になるじゃないのー」

「……別に。恋人って訳じゃないし。ていうか私が人形だってわかってるでしょ?」


 人形が、人形としての需要を求められ、それを満たしているだけ。

ただそれだけのはずだった。

あいつと私の関係は、究極それに尽きる。

最近は、まあ、ボビーとかもいるしよくわからないことになってるけれど。


「はー、そうなんだぁ。ああよかった。メリーさんに彼氏できたら近代怪奇現象仲間としてショック受けるところだったわー」

「どういうショックよ」

「先こされた感あるでしょ?」

「あんたは目をつけた男を異空間に閉じ込める悪癖をやめればいいんじゃないかしら……?」

「うぇーまたそんなこと言ってー、存在意義がおかしくなっちゃうでしょー」


 こんな頭アーパーな怪奇現象でも、空間系の能力者なので獲物の捕縛率は高い。

こいつ自身の知名度は全盛期から見ると劇的に落ち始めているけれど、こういう特定の相手だけを確実を殺れる奴はかなりしぶとく生き残る。

何より高級マンションだろうが安アパートだろうが一人暮らしの男がいれば存在が成立するのは生存面において優秀過ぎる。

隙間女のこれからに読者様の愛の手を。みたいな。




「ポポポポ」

「八尺様がいらしたぞー」

「八尺様のおでましだーっ、お前ら席をどけろーっ」


 こういった緩い場なので、当然遅刻してくる奴もいる。

今現れた八尺ちゃんは、最近にわかに力をつけ始めた怪奇現象の一人。

文字通り八尺ほどもある巨女である。


「久しぶりね八尺ちゃん」

「ぽぽっ! ぽぽぽーっ」


 お久しぶりですメリー姉さん、くらいのニュアンスでぺこりと頭を下げてくれる。

本人はとても気のいい女の子である。

幾分力が強すぎるのと、ショタ大好き過ぎて犯罪者感が抜けないのがネックだけれど、私には害がないのでよしとする。


「へいへいメリーさんよぉ! 八尺様をちゃん付で呼ぶのはちょっとルール違反だと思わねえかい?」

「ちゃんと様づけで呼べよぉ! 聞こえてんだろぉ!?」


 周りの取り巻きがうざい。

これだけ威勢のいいことを言っているがこいつらは名もなき雑魚妖怪である。

昔はそれなりに勢力を持っていたらしいけれど、令和の世では知名度も皆無に等しい。

私達は知名度が薄れるとどんどん弱体化し、自力で知名度を得られなくなったが最後、強い奴の傘下にいておこぼれにあずかるくらいしかできなくなるのだ。

こうなるとみじめなものである。


「それはそうと隙間女」

「無視かよっ!」

「シカトすんじゃねえ! 八尺様舐めてんのかおらぁっ!」

「どうしたのメリーさん」


 相手にするのも面倒くさいのでスルー安定。

どうせ大したことはできない。八尺ちゃんもおろおろするだけである。

隙間女もその辺り解ってるのか普通に空気を読む。


あいつ(・・・)きてないけど、どうしたのかしらね?」

「あー、最近は色々疲れてるみたいだし。一昔前の大戦争の疲れが抜けてないみたいだよ?」

「それは残念ね」


 かつて私達日本の怪奇現象や妖怪を率いていた奴は、今日も欠席。

ここ最近会合で姿を見ていない。

いろいろ気になるけれど、来ないものは仕方ないかな、といった感じ。


「まああいつの知名度なら、私達がいちいち記憶にとどめておかなくても余裕で残れるでしょうけどね」

「いくら弱体化したとはいえ、それくらいはできるでしょうしねえ」


 この会合、定期的に開いている最大の理由は、各々が互い互いに存在を認知して、最低限の知名度を稼ぐために行われている。

私や隙間女みたいな都市伝説にもなった怪奇現象や、事あるごとに漫画やアニメでネタにされているような有名どころの奴はそこまで必要でもないけれど、そうじゃない、つまり話題性に乏しい古い時代の妖怪や完全に忘れられつつある怪奇現象にとっては死活問題にもなりうるわけで。


 ただ、そういう性質上、「駄サイクルみたいで嫌」というプライドの高い奴は来たがらない。

最近会ってないから話したいのだけれど、その辺りちょっと残念だった。




「――という事があってね」


 いつもの食卓。

いつものあいつの家。

今日もあいつとボビーと三人で食卓を囲む。

今日の夕飯は……ブリ大根。

またブリか。ブリ被りかと思ったけれど、大変美味しいのでよしとする。


「怪奇現象の会合とかあるんだ……やっぱ、ぬらりひょんとかがトップだったりするのか?」

「……? ぬらりひょん? なんであいつが?」


 こいつは時々変なことを言う。

いやさっきも「炊飯器神拳究極奥義・ブリ大根!!」とか言いながら炊飯器からブリ大根をよそり始めて「こいつ正気か」と思ったものだけれど。

ブリ大根は美味しい。

大根がほどよい硬さなのにしっかり芯まで味が染みていて……出汁の旨味がたまらない。


「ワタシシッテマース! ヌラリヒョンハ、ジャパニーズアニメヤコミックスデ、ダイニンキノアクヤクデース!!」

「ああ……ごめん、そういうの見ないから……」

「違うのか?」

「全然違うわよ。あいつそんなに強い妖怪じゃないし」


 ただ家に居座ってるだけの妖怪がなんでそんな扱いなのか意味が解らない。

確かに強面ではあるけれど。見た目だけならボスの風格感じなくもないけれど。


「えっとね、大体江戸時代から明治維新くらいまでは、狐と狸の大妖怪がツートップだったみたいね。それでまあ、時代と共に廃れていって、ちょっと前までトップだったのが」

「トップだったのが?」

「トイレの花子」

「花子さん!?」

「Oh!? HANAKOSAN!? リアリー!?」


 人間視点で見ると驚きらしいけれど、普通に考えればわかりそうなもの。

そう、知名度である。


「私達は知名度が高いほうが存在感が増していって、どんどん力を得ていくのよ。ただ、ぬらりひょんみたいに間違った方向に信じられてもあんまり意味はなくて、正しく知られていかないとダメなの」


 このあたり神様の信仰に近いものがある。

神様は正確に信仰されなければその力を(ふる)えない。

私達怪奇現象や妖怪も、正しく知られることでパワーが増してゆく。


「知名度がっていうなら……確かにめっちゃ有名だったんだろ、花子さんは」

「ワタシモアニメヤマンガデミマーシタ! カワイカッタデース!」

「そうね。あいつはその可愛らしい容姿から学校の少年少女だけじゃなく、大きなお友達にも大人気だったから、一時は間違いなく日本最強だったのよ」


 そう、一時は。

どれだけ強くとも、流行はいつまでも続かない。


「でも、なんかその話っぷりみると過去形っぽいよな……?」

「ええ、あいつは確かに強かった。けれど、強すぎたから……調子に乗っちゃってねえ」

「ほう」

「ジョウシャヒッスイノコトワリデース?」



『より取り見取り、嬉しいねえ……うふふふ!』


『うるさいっ、私は故あれば寝返るんだよ!!』


『こ、こんなことになるなんて、私は知らなかったんだよぉぉぉぉっ』



……あの時の事を思い出すと今でもにやけそうになってしまう。

いけないいけない、二人が不思議そうな顔で私を見ているわ。


「海外勢との戦の中で色々カオスなことになってたんだけど、突然現れた第三勢力『ねこ』によってすべてがねこになってねこがねこねこっぽくなってねこー」

「メリーさん?」

「おっといけないいけない。そう、第三勢力の登場で海外勢と協力したのはよかったんだけど、なんか次第に弱体化していっちゃったのよねえ」

「NEKOハサイキョウデース……NEKOヲアガメヨ……」

「それじゃ、今は別の人がトップになってるのか?」

「そうよ。今の日本代表は八尺ちゃん」

「おー、あのでかくてぽっぽ言うっていう」


 こんな都会に住んでる奴でも知ってるのだから八尺ちゃんは大したもの。

既に流行と言うよりは定番の存在と化して全盛期の力を失った花子と比べると、まだまだ鮮度もあって更に花子並におっきなお友達に愛されているので強い。


「じゃあ一番強いのも八尺様なのか」

「ううん。違うわよ」

「ダレナンデス?」

「私よ」

「は……?」

「リアリー?」

「だから、私」


 当時No.2で花子の弱体化の際にてっぺん獲ってそのまま居座ってるのが私です。


「ははっ、ナイスジョーク!」

「メリーサンジョウダンガオジョーズデース!!」

「おい」


 冗談にしか取られなかったのでちょっとむっとした。

これはちゃんと説明してあげないといけないみたい。


「怪奇現象ってさー、意外と殺意高い奴少なくって、更に対象も限定されやすいから強さに直に反映されにくいのよ。その点私はほら、殺人特化だから、直に影響残せる」

「そういえばそうだったな……忘れてたけど」

「メリーサン、ヘイワガイチバンデース……」

「全盛期の花子は確かに強かったけど、同じ時期の私はそれに準ずるくらいには強かったのよ。もう一人めちゃ強な奴いたんだけど、そいつは見る影もなく落ちぶれていったわ」

「もう一人って?」

「口裂け女」

「あー……」

「ワタシシリマセーン」


 そう、ボビーくらいになると知らないくらいには知名度が低くなっているのだ。

一時期は花子や私と比肩するくらいに知名度が高く、自治体まで対応しようとしたくらいには有名だったけれど、昨今では子供たちもほとんど知らない。


「存在がショッキング過ぎると大人が警戒して子供の噂にもならなくなるのよ」

「なんか……怪奇現象も大変なんだなあ」

「ショギョウムジョウデース……」


 話してて楽しくなったので、その日はそのまま二人に怪奇現象・妖怪世界の話を聞かせてあげることにした。

 

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