#5.政治的な話にはちょっと弱い俺
※主な登場人物
俺:本作の主人公。先行逃げ切りこそドラマティックと考えている。卵焼きにはマヨネーズ派。
メリーさん:ヒロイン。最後尾から最前列ごぼう抜きがロマン。卵焼きには醤油派。
ボビー:第三の男。ライバルとの熾烈な殴り合いで勝利を掴みたい。卵焼きにはケチャップ派
前回のあらすじ。
隣の家にメリー・ボビンソンjr.(ボビー)が引っ越してきました。
「いけぇっ、アカのマキバクイーン!!」
「ohシット!! セイホウムハイ、イマコソオウギノツカイドコロデース!!」
「ふふっ、まだよまだまだ……」
現在ゲーム中。
メリーさんもプリケツグランプリはご存じだったので三人でダービーに挑んでいる。
『おおっと逃げの一手に入ったマキバクイーンを差し切りウフフンサエキ前に出たっ、ウフフンサエキ強いウフフンサエキ強い! このまま逃げ切るか!? 逃げ切るのかぁっ!? しかしマキバクイーンも食い下がる! これは両雄見逃せない戦いだぁ!!』
かなり熱い展開になってきた。実況も熱が入ろうというものだ。
しかしボビーめ、前回は俺のマキバクイーンより三馬身も後ろを走っていたというのに……わずか三日でここまで仕上げてくるとは。やるなボビー。
「今よっ! 行けっ、ジンメンケン!!」
『うぉぉぉっ! ここでジンメンケンきた! 小柄な身体に見合わぬパワー! ジンメンケン速い! ジンメンケン速い! これはほんとに馬なのかぁ!?』
「うぉマジかっ」
「オーマイガッ!?」
『ゴール直前でウフフンサエキに追いつき追い抜き! 今堂々の、ゴォォォォォォォォォルッ!!! 一着はジンメンケンです!!』
まさかのメリーさんの勝利だった。
一位を取ったジンメンケンは……どうみても人の顔をした犬。人面犬である。
これには俺もボビーも思わず立ち上がってしまう。
「人面犬とかありなのかよ!? どんなデータ使ったんだ!」
「コレハチートデェス! メリーサンチョットズルイデース!」
「ちょっとやめてくれる? 私は自分で作ったデータを使っただけよ」
「こんな小さい馬がいる訳ないだろっ」
「ポニーよ」
「は?」
「ポニーの中でも特に体の小さい子を選んだのよ」
確かにポニーはサラブレッドより小さいが。
子供並のサイズもいるが。
「ポニーハサイジャクヒンシュ……フツウニキタエタラゼッタイニカテナイシュミノコデース」
「どんな鍛え方したらこんなになるんだよ……」
「根性値最高の子選んで一睡もさせずひたすら鍛え続けた」
「鬼畜かっ」
「oh......メリーサンコワイネ」
鬼のような所業を平然とやるメリーさん怖い。
「ふふ、勝てなければどんなにいい馬も馬刺しよ。勝てればいい草を食べられるんだから頑張ってもらわないと」
「馬刺し反対! 馬を大事にしない馬主許すまじっ」
「ホースハトモダチデース!!」
結果として俺とボビーの結束が増した気がした。
『えー、それでは次のニュースです』
ゲームで親睦を深め合った後は夕飯の時間である。
最近はテレビをつけてボビーが不思議に思ったことに答えたりすることも増えた。
因みに今日は卵焼きである。
「貴方さあ、卵焼きには醤油って相場が決まってるじゃない? ケチャップってどういうつもりよ?」
「oh! ケチャップハヤサイデスカラ、バランスヲトルタメニカケテマース!」
「ケチャップはケチャップでしょ! 野菜じゃなくて調味料でしょうが!」
「卵焼きにマヨネーズ派ですんません……」
「話ややこしくするような事横から言わないでよっ!」
メリーさんは自分の知ってる食文化以外には割と突っかかる口なのでボビーとはよく衝突している。
だが互いに険悪になる事はない。
どちらかというと俺の方に飛び火してくるのが辛い。
マヨネーズダメすか……?
『最近、件の名前を出しはいけない国の主席が暗殺された件ですが……』
「一国のトップが暗殺とかすげえことになってるなあ」
「コノヒト、コロサレタンデス? リアリー?」
「ああ、こいつかあ」
話を変えるためにテレビの話題に食いつくが、メリーさんは気にした様子もなく卵焼きにぱくつく。
「まあ、悪逆の限り尽くした人らしいしなあ。いずれはそうなるよなあ」
「HAHAHA! セイギハシッコウサレタッテコトデスネ! グッジョッ!」
「こいつ、私が殺したのよねえ」
「なに!?」
「What!?」
衝撃の事実が隣から聞こえてきたんだが。
あまりの衝撃に口に入れようとした卵焼きがポロリと落ちたんだが。
ああ、ボビーに至っては箸がへし折れてるじゃないか。また買いに行かないと。
「先月の話だったかしらねえ。何度か電話して、寝てるところに入り込んで起こしてやったのよ」
「おお……メリーさん外国でも平気でいける口なのか」
「怪奇現象もグローバル化してるからねえ。入り放題よ。それで、起こしたのはよかったんだけど……なんか、私の顔を見て普通とは違う怯え方してさあ」
「普通とは違う?」
「そうそう。『お前たち母娘は殺すつもりはなかったんだ』とか『父さんを許してくれ』とか、そんなようなこと言いながら……勝手に苦しみだして胸を押さえて死んじゃったのよ」
アレは何だったのかしらねえ、と、メリーさんはため息交じりにテレビ画面を見る。
画面に映っているのはいかにも悪党面をしたふとっちょのおっさんだ。
「暗殺ってのは……?」
「さあ、一番の権力者が倒れたんだから、その座に就きたい人が何か利用しようとしたんじゃないの?」
「oh……シンジツハヤミノナカ……」
「怖えなあ。何が起きたのかも知りたくないけど、知りたくないこと知っちゃった気分だぜ……」
「ちなみに私は隣国の元大統領とも山で会っててー」
「うわあ知りたくない知りたくないっ」
「デモチョットダケキニナリマァス……」
結局その日はメリーさんの怖い話(政治的な意味で)を寝るまで聞かされることになった。