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#1.隙あらばご飯に誘う俺

※主な登場人物

俺:主人公。大学四年、一人暮らし歴10年のベテランぼっち。得意料理はブリ大根。

メリーさん:本作のヒロイン。怪奇歴30年、一人暮らし歴30年の伝説的ぼっち。得意料理は卵かけご飯。

『もしもし、私メリーさん』


 ある時、突然こんな電話がかかってきたら皆はどうするだろうか?

「おいおい今時メリーさんの電話かよ」と笑って流すだろうか。

「もう誰よこんないたずら電話かけたの」と怒る人もいるだろうか。

人によっては、「まさかほんとにこんな電話かかってくるなんて」と喜んでしまう人もいるかもしれない。

俺はと言えば――



 これはある夜の話だ。


『もしもし、私メリーさん。今貴方の家の前にいるの』


 ちょうど夕飯時。

いささかおかずを作りすぎてしまった俺は、そんな珍妙な電話にこう答えた。


「そうかよし分かった。うちに来いよ」

『……えっ?』


 少女らしい電話主の、その声のトーンが明らかに変わった。

悪戯か危ない人かはたまた本当に怪奇の類か、いずれにしても驚くとちょっと上ずった声になるらしい。

これは昼飯時のいい話題になる。


「丁度おかず作りすぎたんだよ」

『いや、あの私メリーさんで……』

「いいから来いって。遠慮するなよ」


 作りすぎてしまったのだ。

いくらかはタッパに入れて冷蔵庫に入れられるが、一人で食うには絶対に食い飽きる量だった。

これというのも近所の業者スーパーが悪い。

安くて大量に入ってる肉のパックとか絶対に一人暮らしでは使いきれない奴だった。


『わたし』

「いいから」

『わた』

「早く来いよ冷めちゃうぜ」

『……』

「さあさあさあハリィハリィハリィ!」


 勢いのまままくしたてると黙り込むメリーさん(自称)。

そのまましばらくすると『解ったわよ』とだけ返し電話は切れた。




「来てやったわよ。感謝しなさい!」

「よう、よく来たな! お客さん大歓迎だぜ!」


 飯の支度をしているうちに部屋のドアを開け現れたのは、ゴスロリ衣装の金髪碧眼の女の子だった。

正確には女の子を模した、巨大な鋏を持つ等身大の人形か。

そういえば人形属性あったなあと思いながらテーブルの一席を手で指し示す。


「さあどうぞ! もう準備できてるぜ!!」

「メリーさんを誘い込む人とか前代未聞過ぎるんだけど……何考えてるの?」

「電話で言っただろ! おかずが! 余る!!」

「……え、本気?」

「俺は嘘が大嫌いだ!」

「……」


 メリーさん、黙る。

流石にサプライズ過ぎただろうか?

まあいい、相手が人形だろうと人の形をしていればそれは人なのだ。

飯くらい食えるだろう。


「さあどうぞ」

「いや……うん」


 明らかに迷って視線をうろうろさせていたが特に反論などはせず素直に座ってくれた。

無論ご飯はよそってある。

今日のおかずは……牛筋の煮物である。


「牛……?」

「牛筋煮込みだ」

「ああ、何日間も弱火で煮込み続けるとかいう……」

「炊飯器で作った」

「炊飯器? 炊飯器って言ったの今? 貴方大丈夫? 炊飯器ってご飯を炊く為にあるのよ?」


 メリーさんの電話を受けた人は数多あれど、炊飯器の存在意義について語られるのは珍しいのではなかろうか。

だが俺も一人暮らし歴十年のベテランぼっちだ。

料理に関しては一家言ある。


「炊飯器はな……弱火でコトコト煮込むのにとても向いてるんだ」

「はあ……」

「硬い牛筋もプルプルに仕上がるんだぜ。さあ食ってみろ!」

「食べるけど……食べるけど、はあ……なんなのこの人」


 何なのと言われても俺は俺としか言いようがないが、メリーさんも不承不承と言った様子で食べてくれる。


「……うま」

「うま?」

「……普通! 普通って言ったのよ! あんたねえ、わざわざメリーさん呼びつけておいて牛筋って何よ!」

「コラーゲンたっぷりだぜ?」

「確かにぷるぷるだけど! お肌の調子とかよくなっちゃいそうだけど! そうじゃなくて、もっと、こう! ね!?」

「くくく安心しろ食後のデザートにはなんとゼリーもあるんだぜ」

「小学生なら喜びそうだけど!」


 今度五年生になる俺の姪っ子には爆受けだったゼリーが通じない……?

そんな馬鹿な。

だってゼリーだぜ? ゼリーなんだぜ?


「ゼリーの……ゼリーの何がダメなんすか!?」

「ゼリーは何も悪くないわよ!?」

「何かトラウマがあるのか?」

「そうじゃなくて……いや、ゼリーは好きよ? 好きだけど」

「なら遠慮なく食って行けよ! さあ、牛筋はまだあるぜ!!」

「ああもう無茶苦茶よ!」


 お箸片手に長い金髪を振り乱し。

メリーさんは目をぎゅっとつむって頭をぶるぶる。

しかし牛筋煮込みにはしっかり箸を伸ばしてくれる。

気に入ってくれたらしい。よかった。


「なんで私怖がらせようとした相手にご飯食べさせられてるんだろう……」

「そこにおかずがあるから?」

「哲学ぅ!?」

「まあそう言わず、ほらおかわりもあるからー」

「ていうかね……ていうかね、悪いけど言わせてもらっていい?」


 文句を言いながらも食べてくれるメリーさんだが、次第にぶるぶる震えてやがりくわ、と目を見開く。可愛い。

小動物的な意味で可愛い。

コミカルである。ご飯粒とかほっぺたにつけているあたりが特に。


「なんで食卓にご飯と水と牛筋しか並んでないの!?」

「おいおいゼリーは食事のデザートだぜ? 仕方ないなあ」

「デザート催促したわけじゃないからね!?」


 そんなこと言いながらゼリーを出したら目を輝かせるに決まってるぜ。


「ほらよゼリーだ」

「喜ばないからね!? ていうかご飯食べきってないのに食べないからねっ!?」

「えー」

「えーって何よ! そんな残念そうな顔しないでよ! いや、だからゼリーは別に嫌いじゃないんだってば!!」


 いったい何が不満だというのか。

メリーさん大暴走である。

因みに大鋏はテーブル脇に立てかけられている。

まだそれに手が伸びていないあたり殺意はないらしい。


「なんで! 食卓におかずが一品なのかって聞いてるの!?」

「食い足りないのか? 食いしん坊さんだなあ」

「ちがっ、そうじゃなくてっ」

「わかったわかった、たんとおあがり……ゆっくり食べるんだよぉ」

「おかんか!?」


 その後二人で無茶苦茶食べた。




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