追うもの
キレイな女の人に助けを求められる。漫画とかではベタだけど、現実では起きない出来事だ…
だけど、相手は拳銃を持った男だ。
「お願い…助けて…」
手を握られ、涙目で懇願される。明光は我ながら単純だけど、なんとかこの女性を連れて逃げられないものかと考えた。
しかし、この男はあの放送で言っていた凶悪犯だろう。映画で見たような非日常、いざその状況になると、銃を持った相手に恐怖で体が震えてくる。
女性は不意に驚いた表情をすると、一瞬笑みを浮かべた。
その笑みは背筋が凍るような表情だった。
握られた手に急にものすごい力が入り、明光の思わず顔をしかめた瞬間のことだった。
二発の銃声と同時に女の手を握っていない方の手から炎が放たれた。
炎は二発の銃弾をかき消し男に向けて迫ってきたが、素早く横に飛び事なきを得た。
「おかしいなお前のSSD壊れてたはずなんだが…」
女は、明光の腕を掴み捻り上げ、首に人差し指を向け人質にする。困惑する明光。
「少年、いい勉強になっただろ。一見、加害者の不審な男が被害者の女の人にを追いかけているに見えるが、加害者は女だったり。まあ女じゃないんだけど…なあ多美男」
「本名かわいくないので言わないでくれる?」
「じゃあ、地声で話せ。反応に困る。少年…能力者か?他人のSSDは調整しないと使えないはずだが…」
明光は、状況についていけず、言葉をはっすることが出来なかった。
「さあ、わたしにもわからないけど…あと、キャラは最後まで通す主義なんだよね。さて、イレギュラーはいつまで続くかわからないから、銃を下ろして、その銃をいただこうかしら」
男は明光を一瞥する。
「やむなし」
男はくるっと拳銃を回し、グリップから銃身に持ち替え、ゆっくり地面に置いた。
「ちょうだい」
多美男は手を出して拳銃を要求する。
ため息を一つつくと、地面に拳銃を滑らせる。多美男の前にピッタリ拳銃は止まった。
「えらく素直ね」
「日本では人命第一らしいしな」
左腕を明光の首に回し人差し指を突きつけ、右手で拳銃を拾う。
「キレイな花のグリップね」
拳銃のグリップには花の彫刻が彫られていた。
「デンドロビウムだ。丁重に扱ってくれ」
「わかったわ。だけど、あなたの命を貰うね」
拳銃を男に向ける。
「セーフティ外れてないぞ」
「えっ!!」
引き金がかっちりとロックがかかっている。
それは拳銃に意識がいきすぎた、大きなスキだった。
まるで小さな大砲が轟いた音が響き渡った。
ハンドキャノン、そう呼ばれるような大型リボルバー式の拳銃。なかでも、それは一際大型の物だ。
一瞬の隙をついた見事な早撃ち、多美男の顔には大きな穴が開き貫通していた。
「持ってるのは一丁じゃなかったりするんだよ」
血飛沫を撒き散らし、血溜まりの中に多美男は倒れていた。
辺りには、血生臭い匂いが漂っていた。
その惨状を前に山県は絶句して立ち尽くすしかなかった。