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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
9/222

07


 聞き間違いかな?聞き間違いだよね!全く、まだ耳が遠くなるには早すぎると思うんだけどな?


「?何をしている、早く脱げ」


 間違えてなかった!!!!

 白昼堂々何言ってんのこの人!!?

 国民に囁かれている噂じゃ相当素晴らしい人物なのに、これが裏の顔ってこと!?



「で、殿下…ボク達はこれでも男です…。もしや殿下には、()()()()趣味がおありで…?」


 エリゼの発言に、僕も全力で頷いた。

 中性的なエリゼと、隠してはいるが女顔の僕(女ですから)。女性に手を出したら後が面倒だから、僕らみたいのを食いものにする気か…!!?

 イヤー!けだもの〜〜〜!!


 エリゼと身を寄せ合って、いつでも逃げられるよう準備する。こんな時、仲間がいるって頼もしい…!



「???お前は何を言っている?」


「兄上、兄上。言葉が足りてませんよ」


 ここで初めて第二皇子殿下が言葉を発した。こいつも、あいつもグルか…!?

 第二皇子が皇太子に耳打ちする。なんの作戦を立てているんだ!!?

 弟の言葉を聞き終えたであろう変態殿下は、表情こそは変わらないものの大量の汗を噴き出させ、全身を小刻みに揺らした。



「ちちちち、違…っ、わたわたしは、そうっ意味じゃ…。かっかっかっ確認、しっことが…でだ、な…!

 ……ランドール!!」


「はい」


 誰だよランドール。

 あ、宰相様の息子か!やっぱりグルか!!?

 後ろに控えていた美形が、僕達の横に立つ。相変わらず無表情なんだけど…心なしか返事の声弾んでない?


「申し訳ない、2人共。殿下には下心は無い、多分」


「「多分!?」」


「全く無いっっっ!!早く済ませろ!!」


 ひいいいい!!変態皇子がいきなり怒鳴るもんだから、僕達は抱き合って震えた。ただし僕もエリゼも…見えないようにニヤついてるが。

 …うん、まあ。ここまでくれば勘違いだって分かってるからね。皇太子殿下の反応が面白くて…ねえ?

 

 僕達が察しているであろうことを察していそうなランドール様は、やっぱり楽しげだ。少しだけ目元が緩くなってるし、口角も上がっている。



「殿下がむっつりですまない。「誰がむっ…むぐ!?」「はいはい、兄上は静かにしててくださいね」確認したいことがあり、この…鎖骨の下辺り。見せてもらえないか?」


 ランドール様が自分の胸を指す。…そこなら、ギリギリ…いけるか…!?

 僕が苦悩している横でエリゼは「そのくらいなら」とジャケットを脱ぎ、さっさとボタンを外している。何を確認するんだろう?と思い、ひょいっと覗き込んだ。だが彼は「……お前は見るな」と身体を逸らしてしまう。けちんぼ。


 ランドール様は「少し触れるよ。ふむ…ありがとう、もういい」と言い、僕のほうを向く。…逃げられませんよね!!

 大丈夫、この位置ならギリ見えない…!ゆっくりボタンを外す。

 だがランドール様が()()()を目にし、険しい顔をする。


「…?ラサーニュ君、怪我をしているのか?」


 いいえ、サラシです。

 なんて言えませんよ!!!成長期ですからね、ここも出てきちゃってるんですよ!


「え…まさか、それ…」


 まずい、エリゼが誤解してる!違う、怪我じゃないし君は何も悪くない!


 そして出てきた言い訳は、ジスランとの稽古で胸を強打した。だ。

 冤罪で申し訳ないけど、実際今までに何度も怪我させられたし。1つくらい前科が増えても変わらないでしょ、うん。


 その答えにエリゼも納得してくれたようだ。…君だって覗き込んでるじゃないか、見るなよ!

 ただでさえランドール様に胸元を凝視されているというのに!そして左側の鎖骨の下に触れられた。指が当たる部分が、熱を帯びている。

 意識するな、診察だと思え…!!彼は男僕も男…いや無理恥ずかしい早く終われ!


「……あった」


 え、何?なんかあった?カリエ先生も何も言ってなかったけど。

 鎖骨の下なんて、自分じゃ見えないよ!ああ、鏡欲しい。



「見せてみろ」


 皇太子殿下が立ち上がり、僕の正面に立つ。…背え高っ!ランドール様よりずっと高い、威圧感増した!

 なんて事を考えていたら…彼はその大きな手を伸ばしてきて、僕の脇下にええええ!!?浮いた!


 これは…俗に言う高い高い状態じゃないか!?

 確かに目の前で膝をつかれたりしゃがまれるよりマシ…か?もうどうにでもなれ、と思いされるがままになる僕。しかし12歳にもなって高い高いとは。


 …ちょっと楽しい。

 親子のスキンシップなんて皆無だったから…僕を膝に乗せてくれたり、抱っこしてくれたのは乳母だけだった。

 なので少しだけ、この状況を楽しんでいる僕がいる。絶対言わないが。



「これか…不死鳥の刻印」


「刻印?」


 ゆっくりと降ろされ、ボタンを留める。

 首を傾げる僕達に、第二皇子殿下が説明をしてくれた。


「フェニックスが残した咆哮、あれは歓喜の表現と言われています。急に喚び出されて憤慨しているかと思えば、気分良く帰って行ったみたいなのですよ。

 今貴方の胸元にある小さな刻印、フェニックスのお気に入りの証です。よかったですね」


 にこっとそう言われても、全然良くありませんが?僕は特別なことはしていない、命乞いをしただけだ。

 気に入られる要素あったか?しかもなんでカリエ先生は何も言わなかった?…今度会ったら聞いてみようっと。


 

「それを確認したかっただけだ。もうよい、教室に戻れ。

 …くれぐれも、くれぐれも私が変態皇子などと言い触らさないように!」


 あ、聴こえてましたかね?えへへ。なんか最初の印象と違って、面白い人だな。天然というか不器用というか。

 退室の許可が降りたのでさっさと退散…いや待て?


「あの、僕達の罰は?」


 肝心なことを忘れていた。今回怒られる為に呼ばれたんじゃないの?そんな僕の疑問に、ランドール様が答えてくれた。


 召喚自体、禁止されている訳では無い。命令形で強制召喚したことは禁忌だが、それに関しては魔術師総団長がすでにエリゼに罰を与えていると。何があったんだ…。

 だから叱責の為に呼んだのではなく、注意と確認をしたかっただけだと。



「お前の軽率な行いは評価されたものではないが、その年で最上級の精霊を呼び出せる魔力量とセンスは素晴らしいものだ。

 今後は己の力の使い所を間違えぬよう、鍛錬に励むがいい。エリゼ・ラブレー」


「!ありがとう、ございます…!二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、精進致します」


 エリゼは深く礼をし、その表情は…晴れやかだけど涙を堪えている。なんでだろう?殿下にお褒めいただいたから?

 


 今度こそ退室しようと、挨拶をして背を向ける。するとランドール様が先回りをし、また扉を開けてくれた。紳士か。


「ありがとうございます。…先輩」


 僕の言葉に、彼は微笑んだ。そして「ランドール・ナハトだ。ランドール先輩と呼ぶがいい」と言った。機会があればね!

 横を通り過ぎざま、ランドール先輩が待ったをかける。



「ラサーニュ君に聞こうと思っていたんだが…結局なんで危険を冒して間に入った?

 ラブレー君が別行動をしていたことなど、他にも気付いている生徒がいただろう。自分には関係無いと、見て見ぬ振りをしようとは思わなかったのか?」



 …それは…




「知ってしまったからには…無関係ではいられません。それだけのことなんです」




 もしもあの時エリゼが死にでもすれば、僕は一生引き摺る。

「あの時止めておけば」「なぜ漫画と違った」「もしも僕が」「目の前で人が」と。結局は自分の為。


 僕は卑怯者だから。

 だから、あの時…僕は死んでもいいと思った。責任感も少しはあったけど、エリゼと一緒に燃え尽きてもいい、そう考えた。

 もちろん生き残るのが最善だから命乞いもしたけど。それでも生涯後悔を背負うより、潔く死んでしまったほうがマシだと思ったのも事実。


 だから…まるで勇敢な者みたいに言われても困る。




「僕は勇者ではありません。矮小な…人間です」



 最後に失礼します、と言い廊下に出た。扉が閉まる瞬間、第二皇子殿下が手を振っているのが見える。

 なので僕も、控えめに振り返したのであった。








「「…………」」



 互いに無言で廊下を歩く。馬鹿みたいに広い校舎だもんで、教室まで時間がかかるのだ。

 しかも目的地は一緒なので、わざわざ別行動するのも変だし。必然的に並んで歩く事になる。



 だが沈黙に耐えかねたのか、エリゼから口を開いた。



「…皇太子殿下、怖かったな」


「…怖かったね」



 てくてくてく



「…でも厳しくて優しくて、面白い人だったね」


「…面白かったな」



 てくてくてくてく



「…今、授業中だよな」


「…授業中だね」



 てくてくて…ぴた



「…サボっちゃおうか」


「…サボるか」



 こうして僕達は、来た道を少し戻るのであった。









「その流れでなんでここにいるんだお前ら?」


「他に思いつかなかったので」


「それよりゲルシェ教諭、コーヒーか何か無いのか?」


「担任にチクるぞお前」


 やって来たのは医務室である。

 他の先生にサボりが見つかるのは困るが、このゲルシェ先生ならいいだろう、という考えの結果である。

 それに先生は、文句を言いながらも本当にコーヒーを淹れてくれた。ああ、美味しい。


「そいつぁどうも。飲んだら戻れよ」


 結局サボりは見逃してくれるのね。それより…僕はさっきから気になっている事がある。


 先生、なんで顔隠してるんですか?こう、パパラッチに撮られたくない芸能人のように、手で目元を覆っている。しかも僕に対してのみ。


「先生がラサーニュの顔を見ると、お前の呼吸が止まるんだ」


「なんの因果でそうなるんです!?」


 ま、冗談だと言いながら手を下ろした。しかし過程が気になる…。

 やっぱこの先生はよく分からない。ただ…医務室は嫌いだが、先生が白衣じゃないだけで大分マシになる。

 薬品の匂い、白いシーツのベッド。そこにいる全身真っ黒の男。…死神みたいだな、余計縁起悪かった。




「それより教諭!!なんで医務室の扉が壊れてボクの家が弁償するんだ!?それのせいで余計に怒られたんだぞ!」

 

 そうなの?エリゼが強い口調で先生に噛み付く。言われて見れば、扉が新しいような…?


「仕方ないだろう、ラブレーがフェニックスを召喚したせいで扉が壊れたんだから」


「なんの因果でそうなるんだっ!?」


 あ、僕のセリフパクったな。



 本当に、この先生はよく分からない。






 ※※※






 時は数分遡り、セレスタン達が退室した後の生徒会室にて。


 生徒会長である5年生のルキウス・グランツ。

 ルキウスの弟である4年生のルクトル・グランツ。

 彼らの幼馴染、5年生のランドール・ナハト。


 いずれも見目麗しく、身分も相まって女子生徒からは慕情を抱かれ、男子生徒からは畏怖と尊敬の目で見られている。


 そんな彼らは今、何やら争っているようだ。

 机を叩き手を振り上げ険しい顔で声を荒げ、討論、問答を繰り返している。

 

 側から見れば、恐らく高度な会話をしているように見えるだろう。

 国政に関してか、輝く未来についてか、とにかくなんか凄そうな会話をしていると思うだろう。



 その内容さえ聞こえなければ。






「だからっ!!お前達が『威厳に満ちた感じでいこう』と言うからああなったんだろうがっ!!

 可哀想に、2人共怯えて震えていたではないか!」


「一番ノリノリだったのは兄上でしょうが!それに僕は最初、『きさくな先輩風』がいいと言ったじゃないですか!!」


「それにお前の強面は元々だろうが。どう足掻いても結果は同じだ、諦めろ」


「…っ、しかもなんだお前、自分だけ『先輩』呼ばわりされおって!私だって『ルキウス先輩』と呼ばれたかったのにっ!!」


「羨ましいか、はっはっはっ!!

 今度会ったら『セレスタン』『エリゼ』と呼んでみよう。俺は先輩だからな、先・輩!だからなあ!」


「「ぐぎぎぎぎ…!!」」


「ふっ…。しかもルキウスお前、どうせ2人が怯えている姿を見て『可愛い』とか思っていたんじゃないか?

 いつもより眉間の皺が深くなっていたぞ」


「そんな事は…!まあ…多少は…」


「変態皇子ですね…」


「変態皇子だ…」


「お前らああああああっっっ!!!!」




 これである。


 この3人、普段の会話はこんなものである。

 次期皇帝という自覚を持ち、日々精進し勉学を欠かさない皇太子。

 兄を支えられるよう己に出来ることを模索し、主に外交関連に携わる第二皇子。

 共に国を支える柱となるべく、父親の元で早くから業務を遂行している宰相子息。


 それぞれ優秀であることは間違いない。彼らならきっと、今後も国を守り発展させていくだろう。と断言出来る。



 その反動か…普段はこんなものである。




「ああ疲れた…少し休憩だ」


 そう言って3人はソファーに腰を下ろす。話題の中心は、先程までこの部屋にいた2人。

 


「やはり茶と菓子を用意しておくべきだったんじゃないのか?」


「何度も言っているだろう、初対面の皇族の前で茶など飲んでいられるか。

 どうせ緊張で味も分かるまい、もう少し親しくなってからにするんだな」


「そういえば見ましたか?ラサーニュ君。最後に僕に手を振ってくれましたよ」


「「何っ!?」」


「ふっふっふ…これで僕もランドールと並びましたね」


「くっ…!」


「ならば私は、ラサーニュを持ち上げてみせたぞ!」


「あ、それなんですけど。その時彼、なんだか楽しそうでしたよ?」


「そうだったか?俺からは見えなかった」


「こう、へにゃっとした笑顔でしたね。目元は見えませんでしたが、口元と雰囲気で分かりました」


「そうか…ふむ、そうか」



 この会話が原因で、セレスタンはルキウスと顔を合わせる度高い高いをされる羽目になるのだが…彼はまだ知らない。


 


「それより…不死鳥の刻印、本当にあったとは」


「俺も信じられなかったが…本物だ。文献に載っていた通りの紋だった」


「フェニックスのお気に入り、ということですが。何か変化はあるのですか?」


 彼らはようやく真面目な会話を始めた。

 フェニックスに関する記述は少ない。滅多に人前に現れないため、伝説とされているのだ。


 だが今より数百年前、今回の一件と同じようにフェニックスが咆哮をあげた後、人間に刻印を残した事例があったとされている。

 最上級精霊のお気に入りに認定された人間は、上級以下全ての精霊が傅きその言葉を聞くだろう。

 ただし契約とは違い、一方的なものである。セレスタンが好きな時にフェニックスを呼び出せる訳ではないのだ。


 それでも国にとっては益であり脅威にもなる。彼らは国からの命により、刻印を刻まれた者がいないか調べていた。



「この件を父上に報告したら…彼はどうなるだろうか…」


「前例が500年も前の話ですから…囲おうとするのは確実でしょうが」


「優遇はされるだろうな。だが下手をすれば…良くて軟禁悪くて魔力を封じられ監禁もあり得る。

 陛下がそのような指示を下すとは考え難いが。良からぬ事を考える者も、少なからず出てくるだろうな」



 自分達の決断次第で、1人の未来が変わってしまう。簡単に答えを出せるはずもあるまいが…




「……皇太子としてお前達に命を下す。

 刻印を持つ者は学園には存在しなかった。

 全責任は私が負う。お前達は何も知らない、いいな」


「「…仰せのままに」」



 彼らは秘匿する事に決めた。公になってしまえば皇族といえどただでは済まないが…3人の顔は晴れやかなものだった。




「しっかしお前がそんなに気にかけるとは。そんなに彼の事を気に入ったのか?」


 真面目な話は終了し、彼らはいつも通り砕けた態度になる。

 この男ランドールも、他に人がいればこのような大きな態度は見せない。今のように皇族を差し置いてソファーの上座に座ることなんてしないとも。


「それもあるが…あの2人が弟の友人になってくれれば、と思ってな…」


「ルシアンですか…確かに。良い関係を築いてくれそうですね」


 

 グランツ皇国第三皇子、ルシアン・グランツ。セレスタンとは同じクラスである。

 兄皇子2人はこの末っ子の弟が可愛くて仕方ないのだが…どうやら最近反抗期のようで、あまり顔を合わせてくれないと嘆いているのだ。

 自分達だけでなく、他の家族や使用人にも同様。親しい友人もいないようで…お兄ちゃん達は心配なのである。



 甘やかしすぎた訳ではない。厳しすぎることもしていない。なのに何故ルシアンは自分達を拒絶するのか…彼らがどう頭を捻っても、答えを出せずにいるのであった。




他に人がいないと男子高校生のノリになっちゃうトリオ。

それぞれの好きな動物:

ルキウス→うさぎ(小さい、丸い、可愛い!)

ルクトル→羊(ふわふわ、もこもこ)

ランドール→ライオン(強い、格好いい!)

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