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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
82/222

sideエリゼ



「おはよう」


「……おはよう」



 なんでこの精霊王(笑)は、朝っぱらからボクんちにいるんだ?

 時計を確認するが、何度見ても朝7時。人んちのダイニングで優雅に茶を飲んでやがる。

 


「パスカル君、おかわりいかが?」


「いただきます」


「いただくな!!!」


 全く!!話があるとは聞いていたが、こんな早くに来るとは聞いていないぞ!母上もなんでここにいる!!

 …しかも、気になる事が。ボクは席に座り朝食を用意するよう言ってから問うてみた。



「…おい。なんだその顔は?」


「………昨日、お祖父様に殴られた」


 パスカルは、左の頬を青く腫れさせていた。

 殴られたって…セレネが止めなかったのか?


「俺がセレネに手を出さないように言ったんだ。

 まあ…結局我慢できなくて、俺が殴られた瞬間にお祖父様も吹っ飛ばされたが。死なないよう加減はしてくれた」


「そうか…」



 ボクはあまり、痛々しいのは好きじゃない。

 面倒だが治してやる。すると奴は「…ありがとう」と呟いた。



 しかし、昨日か…確実にあの令嬢が絡んでるな…。


「お前、昨日首都にいただろ?」


「…やっぱりあれはエリゼだったか」


 ボクはさっさと朝食を済ませる。コイツには言いたい事聞きたい事、山程あるんでな。



「エリゼ、お友達に失礼な事言っては駄目よ?」


「こいつも中々失礼だけどな!?

 ほら、ボクの部屋行くぞ!」


「いや、出掛ける支度をしてくれ」


「は?どこ行くんだ」


「皇宮」



 ………なんで!!?





 ※※※





 結局セレネに乗せられ、皇宮に来てしまった。



「なんなんだお前は一体?今年末で忙しいのだが。

 急に『話があるんで明日行きます』なんて送って来て…」



 そして当然、向かうはルシアンの部屋。

 どうやらルシアンもコイツの奇行に困惑しているようだ。


「殿下は以前、俺を応援すると言ったでしょうが。

 早速ですが、相談があります。エリゼも聞いてくれ」



 パスカルはそう言って、ルシアンより先にソファーに座り神妙な顔をする。

 何か、重大な事態が…!?少し怖くなったボク達は、それ以上何も言わずにパスカルの向かい側に並んで座った。


 そしてパスカルは口を開いた。



「………エリゼ」


「…なんだ…?」


 ボクはごくりと喉を鳴らし、続きを待つ。




「………昨日、一緒にいた女性。あれは誰だ?」



「「…………は???」」



 昨日…って、セレス(エレナ)の事、だよな?

 誰って…なんで?



「セレネもその時、お前と一緒にいただろ。だがセレネは、「エリゼはいたが、同行者は分からん」としか言わない。

 だからもう、直接聞く事にした」


 セレネ…そういや、ボクの事は口止めしなかったもんな…。セレネはパスカルの肩に乗っている。ボクと目が合うと…すいっと逸らしやがった。

 


「おい、なんの話だ…?」


 ルシアンが小声で聞いてくる。そりゃ訳分からんだろうよ。



「昨日の夜、ボクはエレナと2人で歩いていた。その現場をコイツに見られた。詳細は後で話す」


「はあ…」



 今はこれで納得しろ。それよりも、何故エレナを気にする?

 まさか…惚れたか?顔はセレスのままだもんな…コイツはセレスの顔が好きなのか?

 いやでも、それならシャルロットの事も好きなのか?…まっさかー。



「で、誰なんだ?」


「…名前はエレナ・デュラン。それ以上は…お前の用件によって教える」


「…………」



 パスカルは何も言わない。

 暫く沈黙が続いていたが…ぐいっと紅茶を煽って、観念したのか言葉を続けた。



「…以前セレスタンが、あの女性の写真を大事に持ち歩いていたんだ」


「「ブファッ!!!」」


「つまり…デュラン嬢は、セレスタンの想い人なんだろう!?失恋したばかりだという…!なのに何故お前と一緒に、しかも手を繋いで歩いていた!?

 まさか…お前は、デュラン嬢を奪ったのか…!?」


「待て待て待て待てっ!!!」


 なんつー勘違いを!!?しかもボクが間男みたいな言い方やめろ!!

 ああもう、ルシアンは笑いを堪えちゃってるじゃんか!!なんて答えればいいんだ…!


「彼女は、その、だな」


「エリゼにしては歯切れが悪いな。やはり、大声で言えないような関係なのか…!?」



「違っ、だ、そっ………エレナはボクの婚約者だ!!!!」


「「えええーーーーー!!!??」」




 …やってしまった…もう引き返せねえ…。



「あの、えっと…ボク達は親が決めた許嫁同士で。

 婚約者なんだから、クリスマスを一緒に過ごしても問題ないだろう?」


「それは、そうだが…婚約者、いたのか…」


「………うん」



「(おいエリゼ…そんな適当言っていいのか…!?)」


「(他にどうしろってんだ!?ボクに兄しかいないのは知ってるんだよコイツ!!)」


 頼むからもう、これ以上突っ込まないでくれ。だがそのボクの願いは届かない。



「じゃあ…お前はセレスタンには友情以上何も無いな?デュラン嬢一筋なんだな?」


「おう…ボクは男には興味無いから…。

 婚約者しか見てないから…安心しろ…」


「よし…だがセレスタンが彼女を慕っているのは確かだろう?忘れられずに写真を持っているなんて…俺は、傷心につけ込むような真似はしたくない…」



「「…………」」


  

 パスカルが男らしいのは結構だが。

 えーと…どういう状況?




   エリゼ♡エレナ

        ♡⇅?

 パスカル♡→セレスタン

   


「こういう事だろ」


「なんつー四角関係!!!」


 ルシアンが紙に書き出した。ボクを巻き込むな!実際はこうだ!!


            

 セレスタン(♡?)←←←(♡♡♡)パスカル

           


「どうだ!!!」


「え、セレスも♡なのか?」


「ああ、まだ気になる程度だが」


「セレスタン…君はやはり、女性のほうがいいのか…?俺だって君以外の男なんざ死んでも嫌だが…ブツブツ」


「あー…人間って…ほんっっっとうに面倒くさいぞ……」



 





 数十分後。脱線しまくっていたがなんとか話題を戻す。



「エレナとセレスタンはなんでもない!!面識はあるが、セレスには最初からボクの婚約者だと紹介してある!!!

 嘘だと思うのならセレスに聞いてみろ、お前はセレスの言葉も疑うのか!!?」


「い、いや…お前がそこまで言うのならそうなんだろう。分かった、信じる。

 だがそうなると…彼の失恋相手とは…?」


「知らん!!!」


 知ってるけどな。

 はー…疲れた。後でセレスに口裏合わせるよう言っておこう。


 ボクはお茶を飲み、さっきから怒鳴ってばかりで痛い喉を潤す。

 さて、エレナは片付いた。次はパスカルの番だ。



「パスカル。お前こそ…昨日一緒に歩いていた女は誰だ?」


「ああ…あれはお祖父様が、俺の婚約者にしようとしている侯爵令嬢だ。

 だが当然受ける気は無い。昨日は無理矢理ああなったが…ちゃんと彼女本人にも、お祖父様にも婚約する気は無いと伝えた。

 まあ…その所為で殴られた訳だが」


「殴られた?どういう事だ?」


「コイツ今朝、顔面腫らしてウチに来たんだよ」


 ボクの言葉に、ルシアンは顔を顰めた。気持ちは分かる、ボクだって同じだ。


「それで…「言う事を聞けぬのであれば、廃嫡も視野に入れる」と言われた」


「「はあ!!?」」


「まあ、俺はそれでもいいけど。でもなあ…」


 良いのかよ。自由だな…平民になるって事だぞ?


「俺は別に、構わん。だが…セレスタンに苦労はかけたくない…」


 おおっとぉ?コイツの中ではセレスとの明るい未来が展開されているな?一度コイツの頭ん中を覗いてみたい。



「もしもそうなった場合、侯爵家の後継はどうなる?他に男児はいなかっただろう」


「あー…実は俺、下に弟か妹が生まれるんです。その子が男だったら…お祖父様は本当に、俺を追い出すかもしれませんね」


「へー、おめでとう。

 ……でだ、お前はその侯爵令嬢は、まっっったく好きじゃないんだな?」


「断言する」


「ちょっと録音するから、もっかい」


「なんで!?」


 セレスに聞かせるんだよ!あーもう、なんでボクがこんな面倒な事を!



『クリスマスの夜一緒に歩いていた女性は、祖父の命令でエスコートしていただけ。恋愛感情は全く無いと断言する』



 …よし。これでいいか。

 今度セレスに会ったら聞かせよう。年末で忙しいから、暫く会えないんだよな。




「それで…結局なんで私は巻き込まれたんだ?今の会話、私要らなかったよな?」


 そういやそうだ。なんでルシアンも?

 相談って言ってたよな。



「……さっき廃嫡の話をしましたけど。俺は本当に構わないと思っている。

 お祖父様は家の為と言って縁談をいくつも持って来るが…その実、自分の思い通りに家族を支配したいだけだから。

 まあ貴族である以上、政略結婚も必要だとは思ってるさ。でも…それでも、足掻きたいんだ…。

 …俺はセレスタンと結婚したくて、同性婚の法案が可決出来るよう調べていた」


「「ボフォア!!?」」


 ボクとルシアンはまたも同時に吹き出した。

 コイツは!一々スケールがデカい!!!



「だが、今の立場では…何十年掛かるか分からない。

 俺が侯爵なら…もしくは父上が全面協力してくれれば、なんとかなりそうなんだ。

 実際他国では同性婚が普通のとこもあるし。でも…父上はお祖父様に頭が上がらない。俺が男に惚れ込んでいるなど…言えるはずもない。

 長い時間を掛けて…その間に彼が、誰かと結ばれてしまったらと考えると…!」



 …なんかもう、コイツにはセレスが女だって言っていいんじゃないか?って思う。

 そうすれば…全員幸せになれるのに。全部伯爵のせいだ…!



「だから、もう…駆け落ちするしかねえ、と思って」


「「飛躍しすぎだ!!!」」


 なんでだよ!!?結婚に拘らなくても、ただ一緒にいたいって思わないのか!?



「俺は…誰よりもセレスタンの近くにいたいんだ!妹のロッティよりも、兄(貴分)のナハト様よりも!

 彼の隣は俺のものだと、誰に憚る事なく宣言したいんだ!」


「……お前、独占欲強かったのか…」


 ルシアンの言葉にボクも頷く。

 はー、恋愛って大変だな。



「そうですか?好きな人の一番でありたい、側にいたい。触れ合いたい、俺だけを見て欲しい…そう願うのは、普通だと思ってましたが…」


 そう言われると、そうなのかな?

 これで他の男とは会話もさせねえ、家から出さねえだったら異常だが。

 

 うーん…それで、相談って?




「だから…そろそろ…特別な関係になりたいんです!!

 でも俺、女性も口説いた事も無いのに…男相手に何をすればいいんですか!?

 強引な人が好き、ぐいぐい引っ張ってくれる人が好きって言ってたけど…どこまで踏み込んでいいのか、ラインが分からん!!!」



「「………………」」



 パスカルは頭を抱えながら言った。

 それを…ボク達に相談してどうすんの?力になれると思ってるのか?



「………あー。その、セレスは…女性を口説く感じでいいと思うぞ…?」


「何を言ってるんですか、彼だって立派な男性でしょう。

 殿下もエリゼも、もしも俺に口説かれたら…どう思います?俺だったら俺をぶん殴る」




 

 想像してみた。


 セレスの部屋にあった本を参考に…。



 パスカルに愛を囁かれるボク。

 手を繋いで、額をこつんとされるボク。

 ちょっとした拍子に事故で口付けをしてしまい、気まずい雰囲気になるボク達。

 後ろからパスカルに抱き締められるボク。

 


 ……殺意が湧くわ。



「そうだな…ボクだったら…パスカルを亡き者にし、悲恋として終わらせる」


「俺が何をしたって言うんだ!?

 …で、最悪駆け落ちするにも彼の同意が必要だし…無理矢理連れ去るのは嫌だし…そんな事したら俺、ロッティに殺されるし…」


「………前から思っていたが。どうしてお前はラサーニュ嬢はロッティで、セレスはセレスタンと呼ぶ?」


 あ、ボクもそれ気になってた。

 ルシアンに訊ねられたパスカルは、もじもじと頬を赤らめた。きしょい。




「その…愛称は…特別な関係になった時に、呼びたいっていうか…」




 めん どく せえ!!!



 今ボクとルシアンの心は1つだ。




「なあ、もうたらふく酒飲ませて突撃させるか」


「そうだな、また兄上の部屋から拝借するか」


「セレスは素面にさせとけよ、ややこしい事になるから」


「それとこの男が暴走した時止めるよう、私達も待機していなくてはな」


「本当はシャーリィと呼びたいんだが…彼が困るし。ならいっそ2人の時だけならいいかな?と思うけど、今は2人きりになるのは自重してるし…」


「というかコイツ、フェンリルと契約してるんだから…祖父さんより立場上じゃないか?」


「その通りだがな。マクロン本人が精霊様の威光を借りたくないって考えなんだろう」


「ふーん…ボクだったら借りまくるのにな」


「其方が契約者じゃなくて良かったわ」


「ああ…昨日の夜も、シャーリィと過ごせたらどれだけ幸福だったか。

 でもそうしたら、俺は彼を家に帰したくない、ずっと一緒にいたいと願う。あわよくば………はっっっ!!?俺は何を……!?」





「あー…めんど。シャーリィに会いに行こうかな…」




 こうしてボク達は、年末というクソ忙しい時期を…1日パスカルに付き合わされる事となったのだった。


 

 

エリゼが漫画と違って面倒見の良い性格になったワケは、自分より更に手のかかる友人(セレスタンとルシアン、時々パスカル)が出来たせいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] エリゼsideありがとうございます! 最高ですd=(^o^)=b [一言] エリゼ、後戻りできない感じが…笑 パスカルってほんとに誠実ですね!! セレス愛されてるなぁ…
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