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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
74/222

59



 抜き足差し足忍び足。ゆっくりと…子供達が寝静まった廊下を歩きます。


 


 ドス、ドス、ドスン



 ………ヘルクリスの足音うるせえ…誰にもバレませんようにと祈りつつ礼拝堂に到着!!

 ランプに火を点け早速祭壇を調べます。さて、何かあるかしら?階段があるはずだが…どこ?



「ねえヨミ、秘密のスイッチとか合言葉とかで開くの?」


「確か…そこ、演台ずらして…」


 どれどれ…壇上の、演台をずずいと移動させると…おん?床に小さな窪み発見!

 まさか、鍵が必要?そんなの持ってないよう。


「違う。ラサーニュ家、ラブレー家、皇家の血で開くって…」


「血!!?なんつー物騒な鍵…!」


 セレスティア様とエデルトルート様とルシュフォード陛下ってどういう関係だったんだ?と思いつつ、左の人差し指をエアにちょいと切ってもらう。

 ヘルクリスに頼むと…指全部持っていかれそうだし…。そこからぽたっと一滴垂らす。

 

 


 すると…ゴゴゴゴゴ…と床が開いて行く…!!素晴らしきかなファンタジー!!!

 早速突入じゃーい!と精霊達皆で「おーっ!」と気合を入れていたら…。



「おい」


「きゃーーー!!!?」


「そ、そんなに驚かなくても…」


 誰かの声と共に、肩に手を置かれ…僕は飛び上がった。振り向くと、目を丸くしたグラスが立っていた…!



「なんで起きてるの!?」


「いや…廊下から、ドスドス聞こえて来て。目が覚めた」


 ……んもう!やっぱヘルクリスの足音…ん?

 あれ。ヘルクリスも僕と契約してるんだから…ヨミの能力で僕の影の中に入れるんじゃない!!?

 

「あ…そっか。入ってみる?」


「試してやろう。…入れたな」


 ヤッターこれで色々楽になる!と思いきや。


「私は太陽の光が好きだ。日中は影に収まる気は無い。

 そして夜は必ず布団で寝る」



 ……結局ほとんど外に出っ放しかい!!!

 僕達のやり取りを黙って見ていたグラスが、僕の怪我に気付いて手を取った。


「なんだ、これは」


「え…ああ、すぐに治る…!!?」


 !!!??そのまま…僕の指を、舐めた!!?

 慌てて引っ込めようとしても、全然離してくんない!結構力あんのね!?



「ななななにしてるのお!!?」


「痛そうだから。舐めると治るって、聞いた」


 違う、それ違う!!って指を舐めるどころか、口に含んで…!しかも僕が顔を真っ赤にしているのを見て、ニヤっと笑いおった…!!

 なんか、舌使いがエロい…じゃなくて!!


「は、離して!汚いよ!!」


 と言ってもお構いなしである。なんなん急に!?


「シャーリィ…嫌がってる…?」


 ぎゃー!!!ヨミが怒りそう!!ヘルクリスも、いかん!!


「嫌じゃない!…訳じゃないけど!あの、その、良くないって…って」


「「「?」」」



 あれ…傷、塞がってない?え、本当に治った?すっごーい!…そんな訳あるかい!!


「もしかして、グラス…治癒の適性あるの?」


「?いや、知らない。おれはただ、痛いのがなくなればいいと思っただけ」


 へー…。でもすごい!治癒が使えるなら…就職とか有利だぞ!

 今度エリゼ連れて来よう。そしたらグラスに治癒魔術教えてもーらおっと。怪我が見つかる度に舐められちゃたまんないからね!



 とまあ、話はこの辺で。グラスも来ちゃったなら仕方ない、一緒に地下行ってみよう!

 という訳で僕達は、真っ暗な階段を僅かな灯を頼りにゆっくりと降りる。が…!


「通れん!!」


 入り口が狭くて…ヘルクリスが詰まった…。結局彼を影に収納し、事なきを得たが。


 長い階段の下には、短い廊下がありすぐ扉に行き着く。

 この扉には鍵が掛かってないようで…僕とグラスは、顔を合わせて頷いた。


「お邪魔しま〜す…」



 キイィ…と開けると…そこは、大きな空間だった…。

 少し、ホコリのにおいがする。でもどこかに換気口でもあるのか、ジメジメした感じは無い。


 広い部屋だけど、物はあまりない。探索用にランプは3つあるので、僕とグラスとヨミが持つ。

 しかし調べるまでもなく…僕達の目を引く一際大きな物が壁に掛かっていた。


 それは、肖像画。大分古そうだけど…状態は良好。

 描かれているのは、椅子に座って微笑む…セレスティア様。同じく椅子に足を組んで座るエデルトルート様。

 その2人の後ろ、困ったように笑って真ん中に立つのはルシュフォード陛下…。なんで陛下を立たせてんのこの2人?


 しかし、それぞれのお姿は皇宮とかうちにある肖像画で見た事あるけど…3人揃っている絵は初めて見た。……これ、とんでもないお宝なのでは…!?



「この3人、お嬢様とエリゼと…この前来た、ルシアンだったか?まるでそのままだな」


「へ?」


 グラスが僕の横で肖像画を見上げながら言った。

 そう言われてみれば…似てるかも。まだ僕達は子供だが、大きくなったらこうなるのかな…?まあエリゼは男性だが。


 そして肖像画の下…墓石が、3つ並んでいる…。

 刻まれた名前は、左から『セレスティア・ラサーニュ』『ルシュフォード・グランツ』『エデルトルート・ラブレー』だ…。



 ここは…彼らのお墓なんだ。でも2人の体は無く、陛下のご遺体は皇家の墓地に埋葬されているのでは?


「ここには…それぞれの遺髪が納められているみたいだよ」


 僕の疑問には、ヨミが答えてくれた。

 …そっか。墓荒らしは良くないね、もう戻ろうか。


 僕はお墓の前で手を合わせた。グラスも真似してやってくれた。



「平和な世界を作ってくださり…ありがとうございます。

 これからは僕達が引き継ぎます、どうか見守ってください…」



 

 少しだけ祈った後、僕達は部屋を後にする。


「ねえヨミ。肖像画の事…皇家に報告して大丈夫だと思う?」


「ん………あまり大勢で押しかけない。肖像画を持ち出さなければ、いいって…」




 ………………誰が言ったそれ…?





 ※※※





「……って事があったよ!」


「「………………」」


 月曜日。放課後エリゼとルシアンの2人を医務室に呼び出し、早速報告した。先生はいなかった。



「………その話、誰かにしたか?」


 ルシアンが珍しく顔を引き攣らせているぞ。


「いや?知ってるのも僕と精霊とグラスだけ。グラスには口止めしといた!」


「賢明だな…なあルシアン、その肖像画って…」


「ああ…ルシュフォード陛下がどこかに持ち出し、行方知れずになっていた物だろう…」


「え……」


 そういえば、聞いた事あったっけ。陛下が退位した後…宮からいくつか宝を持ち出しどこかに隠していたって。

 あの部屋…ちゃんと調べなかったけど、棚とか色々あったよね。まさか…!

 

「とりあえず…兄上に報告してくる…」


「「いってらっしゃ〜い…」」



 足取り重く出て行ったルシアン。

 その数分後…ルキウス殿下とルクトル殿下が医務室に血相を変えて乗り込んで来たのは、言うまでもあるまい…。


 そして僕は皇宮に連行さ。僕は何も悪くないのに…犯罪者の気分さ!!




 ※※※




 皇宮で僕は全て説明した。秘密の地下室の存在と、そこに眠るお宝について。

 陛下は当然調査隊を派遣するって仰った。でも大勢で押しかけちゃ駄目らしいと伝えると…なんと陛下自ら来おった…!その日のうちにな!!

 しかも殿下三兄弟も…どうしてこうなった!!?更にエリゼも加え、護衛は両総団長という計7人で来た。このくらいなら大丈夫かな…?

 今は大人3人が、礼拝堂を見て回っている。


「ほう…美しいステンドグラスだな」


「ありがとうございます…」


 レナートさん含む大人は陛下のお顔を知ってるから…「なんでここにいる!?」な顔してるぞ。僕に接待を全て押し付け、子供達と一緒に教会の奥に引っ込んだ!!!


「あのう…本日は、お忍びですよね!?父に見つかると大変なので…!!」


「ああ、地下室を見たらすぐ帰るので心配は要らない。

 して…階段は、そこに?」


「はい」


 僕が以前と同じように演台をどかし、入り口を開けようとしたら…ルキウス殿下に止められた。



「皇族の血でも開くのだろう?私に試させてくれ」


「え、でも…いつの間に!?」


 殿下に血を流させる訳には!と言う間もなく垂らしてるよこの人!!

 まあ、きちんと開いたので…証明はされましたが。

 エリゼがすぐに殿下を癒やしてくれたので良しとしよう。


 自由だなこの人達…とか考えていたら、陛下とテランス様とルキウス殿下が我先にと階段を降りようとしてる!


「ここは危険が無いか儂が先に下りて確認しましょう!!!」


「いや、危険が無いのはラサーニュが確認済みだろう。ここは私が先陣を切ろう」


「いやいや、やはり私が先に行くべきだろう。現皇帝として!」



「「「「……………」」」」


 パシャ、カシャッ!「いいアングルだ!」


 

 僕とエリゼとルクトル殿下と総騎士団長…モーリス・ミュール様はその様子に笑っていいのか諫めるべきか分からずにいた。

 ルシアンは楽しそうに写真を撮っている…その姿、歴史の教科書に載せてやろうか?


 結局モーリス様(名前で呼んで欲しいと言われた)・陛下・ルキウス殿下・ルクトル殿下・ルシアン・僕・エリゼ・テランス様の順で降りる。

 そして部屋に着くと…荒らさないよう、各々探索を開始した。



「あ…コレ、即位する時に先帝から贈られる宝剣だ」

「陛下!!この王冠は国宝では!?」

「これは…!ルシュフォード陛下が奥方に送ったというラブレターです!」

 

 おお…色々出てきてるみたい。…なんでラブレターここに保管しようと考えた?

 探索は大人組が。僕達学生組は…肖像画を見上げる。



「これは確かに…現存する唯一の、3人が揃って描かれた肖像画だ…」


「素晴らしいですね…」


 そんなに凄かったんか…年長組はじっくり見ている。その後ろで僕達は雑談してるが。



「ねえエリゼ。グラスがさあ、治癒の適性あるんだ。教えてあげてよ」


「グラスが?まあ、いいけど。

 …前から思ってたんだけど…セレスも適性あるんじゃないか?」


「え、そうなの?」


「エリゼ、適性はどこで判断するんだ?」


 僕も知りたい。僕にあると思えないんだけど。



「体が頑丈。そして自然治癒力が非常に高い。

 セレスは何度もジスランに骨を折られたとか言ってただろ?でもロッティはセレスが怪我をしている所を見た事があまり無いらしい。

 回復が早いんじゃないのか?」


「ああ…骨折くらいなら2〜3日で治るよ」


「「気付け!!!」」


 うお!反響するんだから大声出さないで!!

 そりゃ自分でも早いなーって思ってたけど!…よく考えりゃ異常だね!!?

 僕も一緒に教わる約束をした。僕はあんまり魔術は興味無いけど、使えれば便利だしね。



「ルシアン、カメラを貸してください」


 そんな話をしていたら、ルクトル殿下が声を掛けて来た。肖像画の写真でも撮るのかな?


「3人で…前に並んでくれ。…うん、それでいい」


 ?僕らは顔を見合わせて、ルキウス殿下の言う通りに。



 肖像画の前に…ルシアンを真ん中に、右側に僕。左側にエリゼが。…あ、これって。


「やっぱり…そっくりですね」


「ああ…そのまま撮るぞ」


 彼らの意図を理解した僕達は…少し照れくさいけど…僕は微笑み、エリゼはドヤ顔をし、ルシアンは困ったように笑った。


 その様子を大人組も微笑ましく見ていた。


 僕らが彼の英雄と同一視されるなど、畏れ多い事だが…きっとセレスティア様達も同じような関係だったんだろうな。

 男女のものではなく、戦友…親友だったのだろう。僕もこの2人と、そんな関係でありたい…この時そう願ったんだ。






 でも…この写真が十数年後、教科書に載るとは思わなかったなあ!!!




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