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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
73/222

58



 それから2日、ヨミはまだ帰らない。

 代わりの護衛、ヘルクリスだが…彼はヨミのように姿を消せないので、どうしても目立つ。

 授業中は教室の後ろでたまに「ほお〜…」とか言いながら見学してるし。

 寮の部屋では…寝る時ベッドに乗りたがる…!



「狭い!!」


「このベッドが小さいのであろう。ドワーフよ、もう少し大きくしなさい」


 どっからか木材持って来て勝手に命令して、僕のベッドはダブルサイズになっちゃったよ!!

 そうなると布団が合わなくなるので、わざわざ買ったよ!!僕の貯金があ…!


 まあ…快適になったのでいいけど。今日も今日とて僕はヘルクリスを抱き枕に眠るのだ。





 そして僕は今日、ラディ兄様と僕の部屋で勉強会。11月後半に冬季のテストがあるからね。

 兄様は前言っていた通り、教えるのが上手だ。すっごい分かりやすいので…順位も上がるといいな!



「そうだ、セレス。クリスマスは予定はあるか?」


「ん?いや、無いよ」




 この世界にも12月25日、クリスマスがある。


 だが前世と違って、サンタがいるとか降誕祭とかそういうのではない。イブも無いし。

 愛する人や家族と過ごし、プレゼントを贈り合うのだ。なので僕的には、バレンタインデーと言ったほうがしっくりくる。

 それでも街は彩られるし、首都では花火も上がるらしい。ちょっとテンション上がるよね!



 ちなみに前日の24日は、僕とロッティの誕生日。そろそろ13歳になります。

 なのでうちは、毎年2日に渡ってパーティーが開かれるのだが…。僕は、両親から…いつも形だけのプレゼントしか貰っていない。

 ロッティは綺麗なドレスやアクセサリー、色々な物を貰っていた。

 対する僕は日用品とか…そういうのばっか。


 …今まではそれがすごく悲しかった。

 ロッティは両親はもちろん、使用人達からも貰っていた。僕は形だけの両親と、ロッティとバジル、ジスランからしか貰っていない。

 

 これまでは毎年僕は、誕生日とクリスマスが大嫌いだった。祝ってもらえないのも…差別、されるのも。

 今までは誕生日もロッティのついで扱いだったけど、今年からはそれすらなさそうだな〜。


 もう今年から、誕生日も帰る気は無い。でもロッティにはプレゼントあげたいな。クリスマスの分も含めて、2つ用意しなくちゃ!

 で、兄様クリスマスがなんだって?


 

「その…クレール先生を、デートに誘いたいのだが…2人きりだと、了承してくれないんだ…。

 だからお前と、あと1人くらいいれば…来てくれるかと思うんだ」


「なるほど…!じゃあ僕達は、途中で消えればいいんだね!?」


「消えなくていい。

 で…その。卒業前にもう一度、告白してみようと思ってるんだ」


 兄様は頬を染めながら言った。おお!いいじゃん!


「じゃあもう1人…誰かいるかなあ…」


 まず、ロッティはダメ。バジルは…ロッティの執事だし。

 ジスランは毎年うちに来ているので却下。

 ルネちゃんは公爵家の1人娘だし…ルシアンも皇族だし…忙しそう。


「エリゼかパスカル…かな?」


「……両方に声を掛けてみるか」



 ゲルシェ先生…とも思ったが。

 どう考えても…「父親が再婚相手とデートするのについて行く兄妹」にしか見えなくなるんだよなあ。




 

 ※※※





 次の日、早速2人に予定を聞いてみた。


「ぐ…!俺はその日…予定が…!!」


「いや…そんなに悲しまなくても…」


 パスカルはダメか。…予定って、前に言ってた心に決めた人と…かな?


 …………じゃあ仕方ないか。



「じゃ、クリスマス楽しんでね!」


「せめて!来年は一緒に…っていない!

 ……ん?」


 パスカルは何かを拾い上げる。

 それはセレスタンが落とした…


「女性の…写真?今、彼が落として行ったよな…。

 ………!!?」



 よく撮れていたから記念に持ち歩いていた…パンダのぬいぐるみ(お土産用)を抱えて笑うエレナの写真だった。







「ん…昼は無理だが、夕方からなら行ける」


 よっしゃ!エリゼ確保!!

 そんなこんなでクリスマスの予定も埋まった僕ですが。

 やっぱ途中で抜けるべきだよね〜!いい雰囲気にしてあげたいよね。

 詳しい予定はまた近くなってから、という事で。エリゼにちゃんと予定空けとくように!と念を押す。


「はいはい…」






 しかし…先生は、兄様の告白を受け入れてくれるだろうか?僕は自室で考え込む。

 もしも2人が両想いで、先生が素直になれないだけだったら…どうにかしたい、と思う。

 余計なお世話かもしれない。それでも…兄様が本気だってのは、僕にも伝わってくるから。

 


 それで僕は…今、お守りを製作中。

 以前のヘルメットのように、僕の力を込めて…2人が、幸せになれますようにと願いを込めて。

 ルネちゃんとロッティに刺繍を教わって、コツコツ作ってるのだ。

『恋愛成就』という文字を!すっごい難しいけど!!

 寮の部屋で、教会で、勉強の合間を縫って。ちくちくと、兄様とバルバストル先生を思い浮かべて。


 ついでに…成功したら、コレ売れないかな…?という欲もちょびっと。僕縁結びの神様として君臨しちゃう?なんてね。



「ふう…」

 


 今僕の手元には、練習で作ったお守りが。

 やっぱ初めてじゃ難しいなあ。でも…




『お姉ちゃん、ぼくお姉ちゃんがげんきになれるよう、神さまにおねがいして来た!』


『今年は効果がご利益があるっつー遠い神社行って来たぞ!絶対効くだろ!』


『…はい、姉ちゃん。早く元気になれよ』



「…………優也……」



 毎年毎年…前世の家族は初詣で、優花の為に祈ってお守りを買って来てくれた。

 年々増えるお守りが、嬉しかったけど…悲しくもあった。

 

 

 

 今度は僕が、誰かにあげたい。願いの籠ったお守りを。


 でも…恋がただ「上手くいく」だけじゃダメなんだよね。

 例えばこのお守りを持って告白すれば、100%成功する!なんてのはいかん。ストーカー大勝利してしまう。

 人の心を操るような物…そんなの、嫌。


 なので僕はこの『恋愛成就』お守りを、ちょっとした手助けになるよう願って針を刺している。


 本当に、両想いの時のみ効果があるように。

 告白の…最後の一歩を後押しする為。相手を受け入れる為の、ほんのちょっとの勇気をもらえるように。


 そんな事を願いながら、手を動かす。




 ※※※




「ただいま…」


「おわっ!…ヨミ、おかえり」



 ヨミがいなくなって5日後。教会の部屋で刺繍をしていたら…突然ヨミが現れて針で指刺しちゃったよ!


「いてて…何か分かった?この土地の秘密」


「うん…ヘルクリス、ありがとう」


「私は何もしていないがな。しかし人を背に乗せ飛ぶというのも…たまには悪くない」

 

 だから大丈夫って言ったのに…。結局このドラゴン、僕の周りでウロウロしてただけだぞ。

 …まあ、一緒にいてハラハラする事は多いけど、楽しくもあった。これからもよろしくね。




「じゃ…早速報告ね。

 結論から言うと、あの時の残留思念の女性はセレスティア・ラサーニュ。シャーリィの血縁にあたるみたいだね」


「セレスティア様…!?」



 あの世界戦争の折、ルシュフォード陛下の右腕として戦場を駆け回った女傑・セレスティア様!?

 

「うん。どうやらこの地も戦禍に巻き込まれたみたい。

 そこで…セレスティアと…エデルトルート・ラブレーは、たった2人で市民をこの教会に匿いながら、徹底抗戦を続けたらしい」



 エデルトルート様…って、エリゼの血縁だったよな。歴代最恐の魔術師、彼女の魔術は災害級。ついた異名が災禍のエデル。

 セレスティア様が右腕なら、彼女は左腕。ルシュフォード陛下は2人の女傑を従えて、この国を勝利に導いたとか。


 …噂では陛下は、2人に頭が上がらなかったとか。更に皇后陛下も気がお強い方だったから…革命王は気苦労が絶えなかったとかなんとか。

 



「戦争もあと少しで終息って時だったらしいんだけど…。

 ここが霊脈だって…敵に知られちゃったみたいなんだよね。どうやら国にスパイがいたみたいで。

 そして敵はこの霊脈を確保する為、数十の精鋭と数千の兵士で制圧に来たらしい。

 多分、最終決戦だったんだろう。敵もほぼ全ての戦力を注ぎ込んだんじゃないかな…。


 しかしそこには2人がいた。霊脈を狙ってるって情報をギリギリで得て、先回りしていたらしい。

 ここを守護していた騎士、魔術師、兵士は全て逃げ遅れた市民と共に、邪魔だからって教会に蹴り入れたんだって…。

 同時に別の場所でも戦が起きていたから…こっちには最強の2人を派遣して、ルシュフォードは別部隊の指揮を執っていたんだ。

 間の悪い事に魔物の大量発生とか重なって…本当に大変そうだったらしいよ」


 

 おおう…霊脈さえ確保してしまえば、魔術使い放題だもんね。ここでいくらでも魔力を補充して、皇宮を落とすつもりだったんだろう…。

 そしてそれを阻止したのが2人か。



「エデルトルートは…セレスティアの「町がぶっ壊れても構わない!!むしろ瓦礫で諸共潰してしまいなさい!」という言葉にノリノリで、超ド級の魔術を連発していたらしい…。

 それでも取りこぼしはあるから…それを全て、セレスティアが始末していた。

 でも向こうも、霊脈に近くなるほど魔術も強くなって…2人では、やっぱりキツかったみたいだね…」



 思いがけず歴史の勉強になってしまったが…僕はヨミの言葉を真剣に聞く。

 


「それにいくらエデルトルートの魔術が強力とはいえ…それを扱う彼女はただの人。

 霊脈の恩恵で魔力が尽きる事が無くても、身体は保たないんだよ…。


 エデルトルートはついに血を吐いて倒れた。彼女は相当の数を減らしたけど…まだまだ敵は多くいた。

 それらを…教会に隠しておいた騎士達を従えて掃討したのがセレスティア。

 援軍が来るまで堪えれば良かったんだけど…本当に全員倒しちゃったんだよね。彼女は敵の返り血を全身に浴びながら…戦い続けた。


 腕を落とされ体を槍に貫かれても…息絶える時まで、剣を振り続けたんだよ…」


「息絶える…?」



 歴史では…2人は戦争の最中命を落としたと教わった。それがここだったの…!?





 ※※※※※



 

『あー…酷い姿ね、セレス』


『うっさいわね。貴女だって…魔力回路もズタズタじゃない。もうお得意の魔術は使えないんじゃない?』


 全身を血に染めながら、ついにセレスティアは力尽き倒れた。

 空が青いなあ…と思いながら、大空を見上げる。

 

 そんな彼女によろめきながら近付くのは…同じく満身創痍のエデルトルート。

 残された騎士達は…もう2人が助からない事を悟り、涙を堪えながらも遠くから見送る事にした。


 エデルトルートもセレスティアの横に倒れ込む。



『そうねー…全くスパイがいたなんて。ルシュフォードは詰めが甘いのよ』


『今更じゃない。それをカバーするのが私達だったでしょうが』


『あーもー、コレは助からないわね。ていうかセレス…その槍心臓貫いてない?あんたよく生きてるわね…』


『ギリギリ逸れてんのよ。ま…もう死ぬけどね。

 後処理はぜーんぶルシュフォードに押し付けてやるわ。

 …もう、戦争なんて嫌よ。平和な世界を…この目で見たかったけど』


 セレスティアもエデルトルートも…戦なんて大嫌いだ。敵を殺したくて殺している訳では無い。

 でも殺らないと…自分達の大切な人が、死んでしまうから。

 敵にだって、帰る家が…家族がいるだろう。そういった全てを呑み込んで、2人は大勢を屠った。平和の為の犠牲だ等と…綺麗事だと思いながら。




 遠くから援軍の声が聞こえる。つまり別部隊も制圧完了し、こちらに来たのだろう。

 勝利を確信した2人は…一筋の涙を流した。



『そうね…アタシ達、生まれた時から戦争の渦中で…平和な世界なんて、最期まで見れなかったわ。

 これからの世界を作るのは、子孫達とルシュフォードに丸投げね』


『私達、どっちも子なんていないけど…』


『いいのよ!!…う、げほっ、が、は…!』


『……ごぼっ…、お別れ、ね。

 ねえエデル。最期のお願い…聞いてくれる?』


『…分かってる、わよ…!』



 2人は倒れたまま手を握り…最後の力を振り絞る。



 平和な世界にこの霊脈は…争いの火種になってしまう。だから、完全に封印する。


 自分達が生きている間なら監視も出来るけれど、それも不可能。だから、本当にこの地を必要とする人にだけ辿り着けるよう…結界を張る。

 ここに教会を建てたのは、セレスティアの祖父だった。戦争で家を、家族を失くした人々が集まれるようにと…。

 


『…っ、マリア!こちらへ…』


『は、はい!!』



 マリアと呼ばれた女性は、この教会のシスターだった。命じられ2人の元に駆け付けると…それぞれの、髪を一房切るよう告げられた。


『これ、は、遺品…ルシュフォードに、届けて…』


『はい…はい!必ず、命に代えても、お渡し致します…!』



 涙を流しながら、2人の髪を胸に抱くマリア。




 確かにそれは、ルシュフォードの下に届けられた。





 ※※※※※





「それで…2人は自身の肉体と魔力を楔に、この辺一帯に強力な結界を張った。身体は耐え切れず砂になって消えたって…。

 その結果ここは、世界屈指の安全地帯になった。


 この周辺を入り組んだ道にするよう指示したのは、ルシュフォード。すると次第に…目印として緋色の十字架が浮かび上がった。

 それが見えるのは…迷っている人と、彼女達が認めた人だけみたいだね。ぼく達精霊には関係無いけど。

 彼は晩年まで、2人の命日には欠かさずここを訪れていたらしいよ…。

 霊脈としての力も結界内に封じ込めたから、次第にここが霊脈だと知る人も減っていったみたい。

 

 で、ここは孤児院になった訳だけど…シャーリィのお祖父さんが、閉じたんだってね…。

 どうやら彼は受け入れられなかったみたい…。他の職員なんかは大丈夫だったんだけどね、怒って閉鎖したらしいよ…」



 そっか…じゃあこの地は、2人の力が…。



 …………。




「……ここは…いつまでも孤児院として使えないかもね…」


「…シャーリィがそう思うのなら、そうなんだろうね。ぼくには分からないけど…」



 お祖父様がどんな人間だったか、僕は話でしか知らない。

 僕が生まれる前に…お祖母様と一緒に事故死しているのだ。

 でも…やっぱり入れる人間が限られているって、良くないよねえ。子供達もいずれ外の世界で生きていくんだもの、町中に孤児院を作るべきだ。


 いずれにせよ、今の伯爵をどうにかしてからか…。



「あ…そういえば、ここって地下もあるらしいよ」


「…え、教会に?」


 ヨミはこくんと頷いた。

 なんと、礼拝堂の祭壇の下に秘密の階段があるらしいのだ。

 そんなもん…行くっきゃないでしょ!!



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