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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
65/222

53



「え。僕が、生徒会役員…?」


「候補だそうですわ。私としては…お2人にお任せしたいのですが。どうでしょう?」


「俺は構わないが」



 皆食べたい物を注文してきて、席に着き食事を始めた。するとルネちゃんが、そんな話をしてきたのだ。

 さっきラディ兄様が僕達に声を掛けてきて、ルネちゃんに何か言ってたと思ったら、そういう…なんで僕?



「成績で考えるなら、ロッティとかじゃ…」


 実際、漫画ではシャルロットとパスカルが選ばれていたはず。17歳時…5年生で、パスカルが生徒会長やってたもん。



「あら、私には向かないと思うわよ?任命されたら引き受けるけど…お兄様なら適任だわ。

 ルネは忙しいみたいだし…でもパスカルと、ねえ…?」


「(生徒会…放課後誰もいない生徒会室で2人きり…いやセレネとヨミが…くそう)

 ……ん?なんだロッティ、その顔は?」


「なんでもないわ…」


 うーん…僕に務まるのか不安。そもそも僕、5年生になる頃には学園にいない可能性も高い。

 だったら最初から…役職に就くべきじゃない…。



「いいじゃないか、やってみれば。何事も経験だ。

 5年まで続けなければいけないと言っても、どうしても無理だったら辞めればいいさ」


 エリゼがパンを齧りながらそう言った。さっきまでふにゃふにゃだったのに、もう復活したようだ。

 でもねえ…そりゃ君は「無理だから辞めるわ」って言えるだろうけど!言えない人間もいるんですー。


「じゃあそん時は、ボクが代わってやるよ。

 というかボク、皇族は生徒会に入るのが伝統だと思ってたぞ」


「も?…ごくん。まあ近いものはあるな。

 でもなあ…私に生徒会が務まると思うか?私は思わん」



 …………。



 その場の全員が黙った。確かに、無理かもしれんと。




「全員正直だな…。

 でもまあ…少し前の私だったら、当たり前のように選ばれると思っていただろうな。もちろん、仕事をする気は無い上で。

 でも兄上達は公正に判断し、私を選びはしなかったろうが」


 ルシアンは朗らかに笑いながら言った。自分の黒歴史を笑い飛ばせるようになったんだな…。



「そんな事より。今の私はコレが気になる」


 ルシアンはゴソゴソとポケットから1枚の紙を取り出す。何々…[首都に移動動物園がやって来る!]ですって?

 


「昨日街に行った時、このビラを配っていたんだ!

 動物園って地方にしか無いだろう?行ってみたい!

 という事でセレス、エリゼ。連れて行ってくれ!来週の日曜日に来るって」


「「…………」」


 僕とエリゼは顔を見合わせ…ビラに目を通し…目を輝かせるルシアンの顔を見た…。



「ルシアン…動物園に男3人て…かなりキツいぞ…」


「そうなのか?じゃあ女性陣…誰か一緒に行かないか?」


「申し訳ありませんが、私はお茶会に呼ばれていまして…」


「私はその日、両親と用事が…」


 あちゃー。ロッティもルネちゃんも駄目か。

 でもルシアンは、「じゃあやっぱ3人で行こう」と諦める様子が無い。



 動物園か…カップルや家族連れの中に、子供とはいえ男3人…ちょっと、恥ずかしい…。

 僕達がそんな事を考えているのがバレたのだろう、ルシアンのテンションがみるみる下がる…!!



「そっか…駄目か…。じゃあ、仕方ないか…」


「「駄目じゃないって!!…あ」」



 僕らの返答に、ルシアンはぺかーっと笑顔になった。



 仕方ない…腹を括るか…!


「よし…最終手段に出るぞ」


「へ?」


 エリゼがイイ笑顔で…僕の肩を掴む。

 セレス知ってる。エリゼがこんな顔をする時は…良からぬ事を企んでいると…!!!


 彼は詳細は後で!とか言うし。やな予感…。







「ところでお嬢様。どうしてご自分には向かないと仰るのですか?」


「だって…私が役員に、何かの間違いで会長になってしまったら。生徒会を私物化する自信があるわ。

 手始めに校則をちょっといじって…お兄様の」


「も、もう結構です!!!」


「そう?」



 ロッティとバジルがそんな会話をしているのを、ジスランが遠い目で見ていたとかなんとか。






 ※※※






 放課後、僕は教室で兄様を待つ。

 すでに教室には僕しかいない。以前のようにエリゼが一緒に待つと言ってくれたのだが、今の僕にはヨミがいるから大丈夫!と断った。


 するとドアが開く音がしたので、来た!と思って目を向けたらバルバストル先生だった。


「あら…?まだ残っていたの?」


「はい。ラディ兄様が迎えに来てくれるので待ってるんです。…あ」


「!!!そ、そう…じゃあ先生は帰り…きゃあ!?」



 ちょっと遅かったね、先生。

 ナイスタイミングで兄様が現れ…僕に「静かに!」のジェスチャーをしながら先生の後ろに立っていた。

 振り返った先生は目の前に兄様の胸があったから…飛び上がり素早く僕の後ろに避難した。


 全然隠れられてないんだが…兄様は愉快そうに笑っている。そうしてゆっくりと歩を進め、にこにこしながら話し掛けてきた。



「こんにちは、2人共。

 今日俺はセレスとお出掛けですが…先生も一緒ですか?嬉しいです、では行きましょうか」


「こっこん、こんにちは!先生はまだ仕事が残ってるので、楽しんでらっしゃーい!!!」


 先生は反対側のドアからぴゅーっと逃げた。

 んもう、兄様。あんまりからかっちゃダメだよ?



「ん?いやあ…可愛らしい反応をしてくれるもので、ついな」


「まあ…分かる。先生ってば、顔真っ赤にしてどもっちゃって…意識してるのバレバレですぜ。

 ま、その辺も含めて…じっくりお話、聞かせてもらいましょか?」


 兄様の肩をポンと叩き、親指を立てながら僕は言った。

 すると兄様は声をあげて笑い、一緒に教室を出た。







 そして街で適当なお店に入り飲み物を注文し、ラディ兄様の話を聞くスタイルに入った。

 本当はカツ丼かラーメンでも用意したかったが…この国にそんなもんは無い。

 


「そうだなあ…どこから聞きたい?

 出会いは学園。入学式で見かけて…普通に生徒として魔術の授業が初会話…だったと思う」


「うーん…先に兄様のほうから好きになったんでしょ?」


「まあな。当然向こうからすれば、俺は大勢の教え子の1人。

 俺が告白してから、先生も意識してくれるようになった」


 

 じゃあ…やっぱり、兄様が初めて先生を意識したイベントからお願いします!!




「じゃ…長くなるが…。


 まず。俺は皇子2人と幼馴染で、物心ついた頃から一緒に遊んで喧嘩して。時にルシファー様から全員纏めてぶっ飛ばされて…仲良しだったんだ。


 だからかな。学園に入学してから俺は、妬まれる事も多かった。お前もあっただろう?どこにでもいるもんだ、そういう奴は。

 更に自分で言うのもなんだが…俺は女性から人気もあった。するとまあ一部の男に妬まれ、疎まれるようになった。

 大体向こうは複数で、俺が1人の時を狙うんだ。そしてお前何様だ?とか嫌味を言われたり、手を出してきたりする」



 そうだね…この間の決闘相手とかね…。

 兄様にもあったんだなあ…そういうの。皇子と幼馴染で宰相の息子という立場。

 それに成績も良かったはずだし…更にモテてりゃ、モテない男に僻まれるんだな…。


 兄様はテーブルに片肘を突き目を細めた。

 うーん…モデルっぽい…雑誌の表紙飾ってそう…。



「で、俺が初めて先生を意識した日だったか。

 俺は3年生、15歳になる直前くらいだった。その日俺は…放課後の誰もいない教室で、1人泣いていた」



 兄様…。





「その日俺は朝から…歯が痛かったんだ…。

 俺を無理矢理医者に連れて行こうとする皇子共から泣き喚きながら逃げて、教室で隠れ泣いていた…」


 ごすんっ!!!!


 


 ……なんだそれ!?思わずテーブルに頭を打ちつけちゃったよ!!?



「なんっで!?直前の話はどこ行った!?」


「え。だって…そんなもん、蹴散らしたに決まってるじゃないか。

 俺は腕っ節も口喧嘩も強い。数人でつるまなきゃ俺に喧嘩も売れないような連中、相手になる訳ないだろ?

 とっとと痛い目見せて俺に楯突けないようにして、1年生のうちに自分の立場を確保したとも」



 兄様、強え…!

 じゃなくて!!!じゃあ最初の話要らなかったよねえ!?

 と訴えたら、知っておいて欲しかったから。と返されてしまった。うん…なら、ね。


 

「そしてそこに現れたのが、当時担任だったクレール先生だった。

 彼女は涙を流す俺を見つけた途端、焦った顔で近付き声を掛けてきた」






『ナハト君!?どうしたんですか、誰かに何かされ…た訳ありませんね、貴方なら。

 殿下と喧嘩でもしたんですか?』


『違います…俺…歯が、痛いんです……!』


『…………は?』



 うん、は?しか言えないねその状況。

 


『……では…医者に行きましょうか…』


『嫌です!!!俺は骨を折ろうが斬られようが痛くても我慢出来ますが、歯の治療だけは嫌なんです!!

 でも、このままではいたくない…俺は、どうすればいいんですか!!?』



 医者に行きゃいいんだよ。



「あの時は俺も若かったからな…」


「2年前じゃん…」



 兄様はうわーん!!と大泣きしながら先生に訴えたらしい。そんなん言われても…先生も困るわな。


「ああ、超困ってた。でも次第に…顔を手で覆って震え始めたんだ」




『…だから、医者に行きなさいと……ふ…んふふ…。

 あは…あははっ!ごめ、あっはは!!』


『…?』



「先生は堪え切れず…ついに腹を抱えて笑った」


「僕だったら指差して笑ってあげるよ」




『先生、笑い事じゃありません!

 俺は今、生きるか死ぬかの瀬戸際なんです!!』


『そ、そうね。虫歯も放置すれば命にかかわるからね。

 でも…ぶふぁっ!ふっ、普段、他の生徒から一目置かれている貴方が、その、顔!あはははは!!』


 

「先生は俺が拳を握り熱弁するも、全て笑い飛ばした…」


「滑稽だったろうね」


 先生はひとしきり笑った後、ようやく落ち着いたらしい。



『はー……ごめんね。

 貴方、いつも毅然としてるから…大人っぽい子だと思ってたのよ。

 でも本当は、歯が痛くて泣いちゃう子だったのね。ふふ、意外な一面を見てしまったわ』



「先生は俺の頭を撫でながら、笑いすぎて出てきた自分の涙を指で拭った。

 その時俺はようやく、なんか俺…恥ずかしいとこ見せちゃった?と思い至った」


「いっそ気付かなければよかったね」


 

 あ、ジュース無くなっちゃった。

 おかわりを注文し、飲みながら続きを聞く。



「先生はどこの歯が痛いの?と聞いてきた。

 俺は正直に、こことこことここ、あとここ。と答えた」


「何箇所あんの…」


「先生もそう言ってまた笑った。そして…俺の頬を両手で包み、癒やしてくれた」


 へえ…虫歯も治癒出来るんだ。

 魔術で病気は治せないはずだけど、虫歯ってこの世界において怪我のカテゴリーなのかな?




『……ふう、どう?痛くない?』


『…痛くない、です…』


『よかった。……おっと』


『あ!』



「先生は治癒魔術を使った影響か、貧血のように倒れてしまったんだ。

 俺は慌てて彼女を支え、椅子に座らせた」



『ふふ、ありがとう』


『俺のセリフですよ…。

 先生、ありがとうございます…』



「先生は俺の虫歯の為に、自分が倒れるまで力を使ってくれたんだ。

 俺は自分が情けなくて恥ずかしくて…先生の顔をまともに見れなかった」


「一応人並みのプライドはあったんだね」




『ほら、顔を上げて。そう、それでいいの。

 ふふ。今度からちゃんと歯磨きをするのよ?それと、悪化する前にお医者さんに行きましょうね』




「そう微笑む彼女が、すごく眩しく見えて…それがきっかけだった…」


「ムードも何もありゃしねえ…」



 完全に子供扱いされてんね。

 先生は教師として、大人として取った行動だとしても。それが兄様には嬉しかったみたい。


 その後は先生が回復するまで数分間、他愛もない話を楽しんだとか。




「きっかけはそれ。その後は、先生の姿を見る度に目で追うようになった。

 授業している姿。本を読んでいる姿。売店で良い物が買えたのか…笑顔でスキップしている姿。

 そんな姿を見ているだけで…自然と笑みが溢れた。


 恋心だと気付いたのは、1ヶ月くらい経ってから。男性教師や男子生徒と楽しげに話している姿を見ると…嫉妬に燃えた。


 でも俺はまだまだ子供で、彼女は大人で教師だ。相手にされるはずが無い。

 なので少しずつ距離を縮めようと、授業で分からない所があったと嘘をついて…聞きに行ったり。


 地道な努力を積み重ね、ついに去年。俺は先生に告白した。

 まあ、笑い飛ばされたが…。それでもめげずに何度も何度もアタックし続けたら、5年になった今年、ようやく本気だって信じてくれた。


 で、今に至る…という訳だ」


 

 そっかあ…やっぱり兄様は、本気なんだ…。どうにかして、先生に伝わるといいなあ…。

 僕が「兄様は本気だよ!!」って言っても伝わらないだろうし、それじゃ駄目だし。これは2人の問題だもの。



「でも…やっぱり恋ってそういうものなのかな?」


「そういうって?」


「何かきっかけがあって…そこから発展していくのかなって」


 僕にはまだよく分からない。前世だって、恋なんてした事ない。

 兄様は少し考えてから、口を開いた。



「そうだな…俺の場合は、そうだった。

 ふとしたきっかけで小さい火が灯り、少しずつ燃料を与えて炎を大きくした感じ。

 でも、それこそ一目惚れで…一瞬で燃え上がらせる人もいるだろう。

 もしくは、なんか気付いたら燃えてた。とか言うパターンもな。


 セレスには、まだ分かんないかな?」


「うーん…分かんないなあ…」


 僕にはまだ早いのだろうか。うーんと唸っていたら、兄様は僕の頭を優しく撫でた。

「少しずつでいい。いつかきっと、分かる日が来るから」と…。そうだと…いいな。



 

 気付くと外は茜色。結構時間経ってたみたい、帰らなきゃ!!

 兄様が伝票を手にしたのを見て…なんか忘れてるような?……あ!!!大事な話を思い出した!



「ちょっとー!僕にお金使っちゃ駄目だってば!」


「もう払った」


 はっや!!?兄様はニヤニヤしながらレシートを見せる。

 そしてお店を出てしまうので、僕は急いで追いかけた。



「セレスは俺に、先生に金を使えと言いたいんだろうけど。

 彼女に贈る分の宝石代、ドレス代、結婚パーティー資金等々。ちゃーんと確保してある。かなり多めにな。

 お前に使っている分は、俺が自由に使う分。俺自身本当に使わないから、余ってるんだ。


 それに…可愛い妹が美味しそうに飯を食う姿。

 贈り物をすると嬉しそうに笑う顔。

 それを見たいんだ、良いだろう?

 俺は強欲だからな。愛する人と可愛い妹。どっちも大事にしたいんだよ」


「う…うー…ん?」



 今、なんて。



 兄様の顔は、夕日の逆光で少し見えにくくなっていた。だが…確かに、微笑んでいる。



 知ってたんだ…そう、なんだ…。

 

 


 ラディ兄様はゆっくりと歩き出す。僕も、並んで歩く。



「……妹がそんなに可愛いのなら、厳しくするのも必要だよ?」


「お前の父親が必要以上に厳しくしてるだろう。

 俺はその分、それ以上にお前を甘やかすのさ。

 お前が望むものは全て与えたい。もしも皇后の座を狙うなら…俺があらゆる手を使ってルキウスの婚約者にしてやるぞ?」


「ふふ。僕がそれを望まないって知ってるくせにね」


「まあな。…俺は、何があっても。絶対にお前の味方で、兄様だ。

 恋愛相談だって受け付けるぞ。気になる奴とかいないのか?(マクロンとか、マクロンとか)」


「いないねー」


「(憐れな男がここにも…)ぶふ…っ、そっか」

 

 何がそんなにおかしかったのだろうか。兄様は吹き出したぞ。


 でも、そうだね。兄様は、兄様だ!!




「ねえ兄様、僕ね…髪を伸ばしたいの」


 本当は女っぽくなるから駄目だった。

 でも、やっぱり憧れるの。ロッティの、ルネちゃんの長い髪。

 伸びても、毎朝セットして結んでれば…あんまり目立たないと思うんだけどなあ。



「…いいじゃないか。そうだ、俺も伸ばそうかな」


「え?」


 兄様は今、銀色の髪を肩に届かない辺りで切っている。

 男性はこのくらいが平均的だ、長い人は少ない。刈り上げている人だって多いし。

 


「男が長髪で何が悪い?

 ゲルシェ先生だって、養護教諭が白衣を着なくてはならないと誰が決めた。なんて言い切ってるぞ。

 お前が他人の目を気にするのは仕方がないが…誰かに何か言われたら、必ず俺に言え。

 俺がなんとかする。約束だ」



 にい、さま…。



「ありがと…」


「………」



 差し出された手を取り、ぎゅっと握って歩き出す。

 通行人は皆、家族の待つ家へ帰るのだろう。忙しく歩いているから、僕達の事なんて誰も見ていない。



 他愛もない会話を楽しみながらゆっくり歩く。鼻声になってないといいな…。



「僕に…生徒会役員が務まるかなあ?」


「俺の推薦だ。お前の仕事に文句を言う奴は、俺に文句があるって事だ。

 そうだ、そろそろ冬のテストも近い。勉強、教えてやるぞ」


「そうだったね、お願いしよっかな!

 にしても、兄様は来年卒業かあ…寂しくなるなあ」


「俺は皇宮にいるから。いつでも会いにおいで。

 あ。そういえば昼間…なんでエリゼはふにゃふにゃになっていたんだ?」


「あー…僕、医務室で寝たんだけど。エリゼもベッドの脇で寝ちゃったみたいで…。

 ヨミがエリゼを僕の横に寝かせるもんだから、目が覚めたらエリゼの顔が目の前にあったんだよね。

 僕は驚いて硬直しちゃったんだけど。彼も目を覚まして…暫く見つめ合った後、一瞬で首まで真っ赤にして絶叫しながらベッドから転がり落ちてた。

 いやあ、エリゼがテンパっていたおかげで僕は冷静になれたよ」


「あいつ……」

 


 あはは、怒らないであげてね。



 

 いつもの倍ほどの時間をかけ、学園に帰る。その時、ふと思い出した。

 以前……誰か1人でいい、僕の事情を全て知っていて、無条件で味方になってくれる人がいれば…と願った事。

 


 兄様の顔をちらりと見上げる。すると兄様はすぐ気付き、ニコッと笑った。


 多分この人は、前世の記憶があると言っても…信じてくれる気がする。流石に言わないけどね。



 でも、そうだ。僕は…一番欲しかったものを、手に入れた。


 

 ならば次は…僕が、兄様の力になれたらいいな。何か僕に出来ることはないだろうか…。

 そんな事を考えながら、僕達は学園で別れたのだった。

 


互いに遠慮しなくなってきた兄妹。

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