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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
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52

ほんのり日常



 さて、兄様との約束は放課後。教室に迎えに来るって言ってたし、今日も1日頑張るぞ!





「セレスタン。今日の体育、テニスのダブルスだったよな。俺と組まないか?」


「パスカル。いーよ!」


 体育は2人1組になる事が多いのだ。初期の僕はバジルかジスランと組んでいたが、最近はエリゼとが多い。

 そして着替えはトイレでしていたが、今度から医務室使わせてもらおうかな?





「という訳で、ここ貸してください」


「先生いるんだけど?」


「カーテン開けないでしょ?」


「そりゃそうだが…」


 何か言いたげなゲルシェ先生をガン無視し、僕は着替えを始める。医務室なら僕の着替えを先生に預けられるし!

 とは言えここも他に生徒がいたら使えないな…どこか絶対安全な場所探すか。



「じゃ、お邪魔しました!僕の制服預かっといてくださーい!」


「おう……あいつ、(オレ)がいる真横で着替えるって…どういう神経してんだ…?」


 とっとと医務室を出た僕に、先生の呟きは届かない。






「うわ…セレスタン、柔らかいな」


「まあねー!」


 まずは体操、そして柔軟。体が柔らかいほうが怪我しにくいからね、僕って180度開脚も出来ちゃうのさ。パスカルが僕の背中を押すが、必要無いほど前屈だってペタッとしてしまうのさ!

 

「(背中…小さいな…)このくらいでいいか」


「よし、交代だね」


 なんか少し離れた所から、エリゼとルシアンがチラチラこっち見てる。自分のほう集中しなさいよ。



「かた!!パスカル、硬いよ!」


「いだだだだ!!!ちょっ、もう少しっ、優しく!!」


 パスカルが面白いくらいに硬い!前屈どころか、足も真っ直ぐ伸びてない!!

 あんまり無理させるのはよくないんだけど…楽しくなってしまって、全身で彼の背中を押す!


「おらーっ!って、パスカル細身に見えるけど…背中大きいね」


「!?セレ、顔近い!?」


 いやあ、腕の力だけじゃ君の体、曲がりそうにないので。ほぼ全体重で押してます。ぐいーっとね。


「う、羨ましい…!」ぐいぐい


「ぎゃあああ!!ジスラン様、僕の体がっ、折れます!!力、抜いてくださいいいい!!!」


「こらジスラン!!バジルを殺す気か!?」


「セレス、少し離れなさい!マクロンが茹で上がってるぞ!」


 ん?騒がしいな…君達真面目に授業受けなさいよね。

 ちなみに体育の授業中、セレネとヨミは木陰で待機。以前ヨミが影使って、ボール打ち返したりしちゃったから…。



 準備完了、さあ勝負!最初の相手はジスラン&バジルペア!

 コートに立つ僕達。なんか…ギャラリー多くない?試合がない生徒は観戦してるんだけど、もう少し他のコートにバラけたら?


「お兄様頑張ってー!」


「セレスちゃん、ファイトですわ!」


 最前列にはこの場にいないはずの2人の姿が。うーん、女子はこの時間マナーの授業じゃなかったっけ。

 …………うん、この2人はマナー完璧だから免除されたんだな!そうじゃなきゃただのサボりだもんね!

 ふふ、可愛い妹が見てるんだもの。絶対勝ーつ!


「いくよパスカル!」


「おう!」


「(格好いい姿をセレスに見せたい…だけど負けてしょんぼりする姿を見たくない…!俺は、どうすればいいんだ…!?)」


「(……とか考えてんだろうなー、ジスラン様…)」


 ううん?やる気満々の僕達と違い、向こうは静かだ。授業とはいえ、手ぇ抜いたら怒るからね!




 僕のサーブから試合は始まり、中々いい勝負。ジスランは剣術は飛び抜けてるけど、球技は人並みなんだよね。

 ロッティの声援を受けながら、僕達のほうが押してるぞ!


「あっ!」


 しまった、打ち上げちゃった!!その先にはバジルが!


「もらいますよ、坊ちゃん!」


 きゃー!強烈なスマッシュ喰らった!!頑張って追いかけたが…一歩届かず!

 お、とと。眼鏡落ちちゃった。



「はい、セレスタン」


「ありがとう。…あ、レンズ汚れちゃった」


 もう、この学園金あるんだから、テニスコートを芝生にしてくれてもいいんじゃない!?そんな理不尽な怒りを抱きながら、何か拭くものを探す。

 うーん…ジャージのポケットにはハンカチ入れてないし…仕方ないか。



「ごふっ」


「ジスラン様ーーー!!?」


「きゃーーー!!お兄様、何してるの!!」


「え」


 何って…ジャージの裾で眼鏡拭いてるだけですが。歓声上がってんの、何?

 どうしてジスランは顔を真っ赤にして仰向けに倒れてるの?熱中症か?そんなに暑くないと思うんだけど…。

 同様に顔を赤らめたパスカルが僕の手から眼鏡をシュバッと奪い、僕の服を直し…自分の服で眼鏡をゴシゴシ拭いて返却してきた。なんなの…。


 ジスランが戦闘不能になってしまったので、僕達の不戦勝で終わった。なんという消化不良…。

 そのまま彼は医務室に連行された。お達者で〜。



「セレスちゃん、こっち!」


 ルネちゃんに手を引かれ、セレネ達のいる木陰に移動しロッティと3人で座り込む。いつの間にシート持って来たの?


「もう、服をたくし上げるなんてはしたなくてよ!」


「そうよお兄様!皆お兄様のキュートなお腹に釘付けになっちゃってたのよ!?」


 キュートなお腹て。ああ、見えちゃってたのか。

 でも別に…脱いだ訳じゃあるまいし。ちょっと神経質になりすぎだよう。


 それよりこの絵面、良くないのでは?僕が女の子2人侍らせてる状況じゃない?他の生徒に誤解されたらどうしよう?



「(可愛い女の子が3人いる…)」

「(ラサーニュの座り方、完全に女子…)」

「(あれが男って、嘘だろ…?)」

「(あわよくば混ざりたい…)」

「(いいや、あそこは不可侵領域だ)」

「(言えてる…)」



 と思ったが。よく考えりゃロッティは妹で、ルネちゃんは大事なお友達だって皆知ってるもんね。安心した僕は、次の出番まで3人仲良くおしゃべりに興じるのであった。

 





「まだジスランいるの?」


「お前、なんかやったか?」


「いや何も…?」


 体育も終わり、着替えの為に医務室にやって来た僕。

 ジスランはベッドの上で安らかに眠っている。困るな、彼がいちゃ着替えらんないじゃん。

 …寝てるし、いいかな?


「よくない!!!」


 あらー?制服と一緒に追い出されてしまった。

 んもう…仕方ない、トイレ行くか…。




「お前も起きてんだろ!さっさと教室に戻れ!!」


「……何故邪魔をする教諭!!セレスに優しく介抱されたかったのに…!!」






 ※※※






 うーん…体育の次はやはり眠い…しかも、算術の授業…。てか、ジスランいるじゃ、ん…。

 算術は女性の先生で…軽やかな声が…眠気を誘う…。



「……………」


「………!!!ラ、ラサーニュ!」


 …………んあ?いかん、少し寝てた…今小声で呼んだの、誰?ああ、隣の男子か。

 って、近くの席の生徒が全員僕に注目しとる!!恥っず、居眠りバレちゃったかな?

 僕は教科書で顔を隠し、真面目に聞いてますよアピールをする。


 だが…やはり、眠い…。なんで皆、眠くないの…?

 船を漕いでいたら、後ろからロッティが突ついてくる。


「お兄様…どうかした?体が揺れてるけど」


「ロッティ〜…」


 情けない姿でごめんよ。でも眠気にゃ勝てんのよ…もういっそ、少し寝るか…。


「ごめんね…すっごく眠くてえ…すこし、ねる…」


「え、ちょ、お兄様!?」


「…………」




 ガタンッ



「先生!セレスの具合が悪いようなので、医務室に連れて行くぞ!!」


「え、どうぞ…?」


「っ!俺のほうが力があるぞ!」


「お前は馬鹿なんだからちゃんと授業を聞いて少しでも成績を上げてろ!!」


「馬鹿野郎!馬鹿だから授業を聞いたところで何も変わらんのだ!!」


「ブラジリエ君、堂々と言う事じゃないわよ?補習受けたいの?」



 騒がしくて、眠れん…と思っていたら、ぐいっと腕を引かれて、脇の下に手を入れられ、誰かに持ち上げられた…?

 足のほうにも腕を回され、横抱き状態に。

 その誰かは…僕をあまり揺らさないように、気を遣いながら歩いてくれている…。

 それが心地よくて…僕は………zzz




 ※




 ドンドン!「あーけーろー」


 ガチャ


「先生、こいつを寝かせてくれ」


「なんなのお前ら…」



 エリゼは両手が塞がっている為、足で扉を蹴っ飛ばしゲルシェに開けさせた。

 そうして完全に眠るセレスタンを優しく布団に寝かせるのであった。


「また寝不足か?そんならさっき帰さなきゃよかったな」


「昨日魔力切れで倒れたからな。まだ回復しきってなかったのか、も…」


「?どうした」


 エリゼが言葉を途中で切ったので、何事かとゲルシェがベッドを覗き込む。

 するとそこには…エリゼの手をがっちりと掴むセレスタンの姿が。


「「………………」」



「……おっと先生は用事を思い出した。留守番よろしく!」


「逃げるな!!!」


「こらこら、大きい声を出すな。ラサーニュ姉が起きるぞ。闇の精霊殿もついてんだ、心配いらん!じゃっ」


「こんの不良教師ィ…!!」



 エリゼは暫く扉を睨み付けていたが、諦めてセレスタンのほうに顔を向ける。

 ベッドに腰掛けなんの気なしに寝顔を観察し…ここで眠るセレスタンと、初めて会った日を思い出していた。

 


 すやすや…すぴー…



「(あの時は顔色も悪く酷い隈だったが…穏やかに眠っちゃって、まあ…。

 そういやあの直後、ボクは死を覚悟したっけな…正直本物の死神である精霊様より、あの時のシャルロットのほうが恐ろしかった…)」



 もしもセレスタンと仲良くなっていなかったら。今の自分は…何をしていたのだろう?エリゼはそう考え始めた。


 多分、シャルロットとはそれなりに親しくなっていたと思う。パスカルも世間話くらいはする仲だったと思う。

 ルネやジスランやバジルは…顔見知り程度か。ルシアンとは、絶対に親しくなどならなかっただろう。

 ルキウスも、ルクトルも、ランドールも。特に皇族2人は、本来雲の上の存在だから。

 その分、他に親しい友人がいたかもしれない。…想像出来ないが。



 そう考えると…エリゼの頬は、自然と緩んでしまう。

 だって今の生活が楽しいから。騒がしくて大変だけど、充実した毎日を送っているから。


 彼が笑っている時は大体、誰かを馬鹿にするような大笑いだが。

 今だけは…誰にも滅多に見せない穏やかな笑みで、セレスタンの髪を優しく撫でている。





「……ん…(いかん、セレスの顔を見てたら…ボクも、眠い…)

 精霊様…申し訳ないけど、あと、お願いしま…す……」



「…………………」



 エリゼはそのまま…眠りについてしまった…。






 暫くするとチャイムが鳴り、授業が終了した。

 2人の友人達は、エリゼが戻って来ないことが気に掛かり…代表してパスカルとシャルロットが医務室に様子を見に行く。



「貴方、まだお兄様の事諦めてないのかしら?」


「諦めてたまるか。前途多難だが…俺は、絶対に彼を振り向かせてみせる!」


「そう……あら?」



「ん?」


 

 医務室の近くまでやって来た2人は、廊下の反対側から歩いてくるゲルシェに気が付いた。そして扉の前で合流する。



「なんで先生が外にいるんですか?つまり今、お兄様とエリゼは2人きり…!?」


「まあ…急用で。闇の精霊殿がいるし大丈夫だって」


 ゲルシェもいるから安心だと思っていた彼らは…急激に不安感に襲われる。

 逸る気持ちを抑え切れず、医務室になだれ込む2人。そこには。

 



「「「………………」」」



「……あ、戻って来た…」



 ベッドの上で穏やかに眠るセレスタン。

 

 そして…そんな彼女を腕に抱き、ぴったりとくっ付き眠るエリゼの姿が……。



「精霊、殿…一体、どういう状況で……?」


 呆気に取られる3人だが、ゲルシェがなんとか声を絞り出した。

 セレスタン達の枕元に立つヨミに、説明を求めたのだ。



「…?エリゼも寝ちゃったから、シャ…セレスの横に並べただけ。

 人間は眠る時、布団に横になるんでしょ?そうしたら、セレスがエリゼにくっ付いて…こうなった。

 今2人共ぐっすり眠ってるんだから…起こしちゃ駄目」



 最上級精霊にそう言われては…流石のシャルロットも怒りを露わに出来ない。

 パスカルはヨミに意見も出来るが、近づこうとするとヨミに止められてしまう。

 そしてパスカルの肩に乗っていたセレネは、「セレネも一緒に寝るぞ!」と2人の間に入ってしまった。



「エリゼエエェ…やはりお前も、ライバルなのかあ…!!

 しかも、最大級の…!!!」


 パスカルは全身を震わせ、血の涙を流さんばかりに悔しがっている。

 それはシャルロットも同様だが。


「(こうなったらいっそ、私も最上級の精霊と契約を…出来る気がしないわ。なんてこと…!!)

 く…っ!せめて私も、端っこに…」


「やめんかい。いくらなんでも3人はキツい。

 (え、何?マクロン…ラサーニュ姉を?男だと、思ってるよな…?)」


 ゲルシェは医務室を離れた事を後悔していた。それと同時に、ヨミの事を護衛には向かないんじゃね?と思った。

 




 眠る2人を起こす事も出来ず、彼らは途方に暮れる。


 ゲルシェはなんとかパスカル達を説得して教室に帰し(セレネは残ってる)…抱き合うセレスタン達をハラハラしながら見守っている。

 何せ顔が近過ぎて、今にもキスをしてしまいそうなのである。



「精霊殿…貴方にとって、ラサーニュ姉を守る基準はなんなのですか…?」


「ん…シャーリィの許可無しに、彼女の体に触れる輩は止める…。でも、シャーリィが嫌がってなければいい。あと、殺意や悪意を持つ奴…。

 でもエリゼとかは…シャーリィが心を許してる相手だから…いい。

 それにキスとかハグとかの触れ合いって…人間にとって愛情表現の一種でしょ?」



 ゲルシェは頭を抱えた。



「(駄目だ…人間と感覚が違いすぎる…!!!でも、どう説明すりゃいいんだ!?)

 では…例えば。もしもですが。俺が意識の無い彼女の上に覆い被さり…キスをしたりその身体に触れたり、服を脱がしたりしたら…貴方はどうするのですか?」


「え…見守る…」


「(止めろや!!!!!

 ………待てよ?もしそれが、人工呼吸や心臓マッサージなんかの救命活動だったら?

 止めるように教えて、救命の邪魔までされてしまったら?)」



 ゲルシェは更に頭を抱え…バルバストル、ルネ、ルシアン、エリゼを召集して作戦会議をする事を、固く誓ったのである。




 

 そしてこの数十分後。

 目を覚ましたエリゼが…顔を真っ赤にさせて絶叫したのは言うまでもない。




ヨミがセレスタンをセレスと呼ぶのは、エリゼ・パスカル・ルネ・ルシアン・ゲルシェ・バルバストル以外の人間がいる時だけ。

セレネは誰がいようと構わずシャーリィと呼ぶが。

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