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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
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 連行された先は応接間のようで、テーブルとソファーがメインのシンプルな部屋だ。

 魔術師のお姉さんにお茶を淹れてもらい一服。美味しゅうございます。


「ふふ、光栄です」


 彼女はそう言って壁に控えた。そしてテランス様が僕の前に座り…ある物をテーブルの上に置く。


「早速本題に入らせていただこう!!!

 コレに見覚えはあるかな!?」


 それは…ヘルメット。ルシアンと友人になった日、3人でたかぽんで遊んだ時の。

 僕が『安全第一』と書き込んだやつじゃん。


「はい…僕が文字を書いたやつです。でも字が掠れて…見えにくくなってますね」


 僕がこれを書いてから、もう1ヶ月は経つ。これがどうしたんだろう、と疑問に思っていたら…テランス様が驚きの話をしてくれた。





 

 つい先日の事…とある土木作業員が、このヘルメットを被って仕事をしていたらしい。

 だが運悪く落石事故が起こり…その作業員が巻き込まれた。

 本人も誰もが「駄目だ」と覚悟を決めたらしいのだが…なんと奇跡的に彼は助かった。

 頭の上に、直径1メートルを超える巨岩も降ってきたというのに、だ。




「流石に無傷とはいかんかったらしいのだが!!巨岩も直撃はせんでも真横に落ちれば衝撃もあるし破片やらは当たろう。肩等の骨を折る重傷だった!

 だがその巨岩がな、目撃者の証言によると作業員にぶつかる直前で僅かに逸れたらしいのだ!!

 そんなの、魔術師でもなければ出来ん芸当だ。そこで調べた結果、このヘルメットに魔術が掛かっていた痕跡があったのだ!!!」


「え…でも僕、そんな心当たり無いです。他の方がお掛けになったのでは?」


「いいや!!!正確にはヘルメットに書かれていた、文字に魔術が掛かっていたのだ!!

 そこでこれを書いたという君に話を聞きたいと思ってな!」



 一々声がデカい…テランス様の話によると。

 すでに魔術師団のほうで、色々と実験・検証はしてみたらしい。

 まず僕が使ったペン。そのペンで同じ文字を書き、装着者に死なない程度の魔術をぶつけてみた。


 結果。普通に喰らったとか。

 字が違うんじゃないかと思って実験に使ったというヘルメットを見せてもらったが…ちゃんと『安全第一』と書かれている。少し歪だが。



「これは漢語なんだろう?ちゃんと専門家に見てもらったから、スペルは合ってると思うんだ。

 そしてこれは安全祈願の意味らしいね。だから…その効果が現れたのではないかという結論に至ったんだ」



 やかましいテランス様に代わり、ブラン様が続きを言ってくれた。

 そして僕に…もう一度書いて欲しい、と?

 まあ、そのくらいいいけど…。渡された新ヘルメットに書こうとして、手が止まる。


 ……気まぐれに僕が書いた事によって、本当に1人の命が救われたのならば。それは、すごく嬉しいな…。

 なので今度は祈りを込めながら書いた。どうかコレを被った人が、息災でありますように…と。




「おお、ありがとう!!では早速、分析をしてくれ!」


「かしこまりました」


 テランス様は壁際に控えていた女性にそれを渡して、彼女は出て行った。

 そして僕はもう1つ書かされ…そのまま同じようにテランス様に抱えられ、外に移動した。自分で歩けますが。






「さあ来い!!!」



 ん?魔術師の皆さんが使うという鍛錬場に連れて行かれた僕。ここは強力な結界が施されており、魔術の影響が一切外に漏れないらしい。

 テランス様はヘルメットを被り、鍛錬場の中央で腕を組んで仁王立ちしている。ま、まさか。



「行きますよ!」


「行っちゃうの!?」


 ブラン様がその手に巨大な水球を作り出す。それ、テランス様にぶつける気!!?


「うん。早速試そうと思ってね」


「いやいやいや!!?なんでテランス様が直々に喰らおうとしてんの!?

 人形にヘルメット被せるとかでいいじゃん!?ゴーレムだって創れるでしょ!!?」



 魔術師ってもっと、理知的な人の集団だと思ってたなあ!!

 ギャラリーの皆さんも「やったれー!!」とかヤジ飛ばしてる!あんたらのトップですよその実験台!!!



「直接経験せねば分からぬ事もある!!さあ来い!!」


「では……喰らいやがれええーーー!!!」


「ブラン様ーーー!!?」



 ゴオォッ!!と水球が豪速球で放たれた!!ぎゃああああ!避けてー!!僕は思わず目を瞑った。



 ……………!!




 だが…暫く待っても悲鳴は聞こえて来ない。でも歓声も聞こえて来ない。

 まさか、テランス様が肉片になってしまい誰も声が出ないのか……!?恐る恐る目を開けると…。



「……………」


「……………」


「「「…………………」」」



 あ、あれ?テランス様は、寸分違わず仁王立ちのままだ。

 だがそのお顔は…驚愕の色が見える。

 そして僕の隣に立つブラン様も。ギャラリーの皆さんも。顎が外れそうなほど大きく口を開けている…。

 何が起きた…?



「…あ。文字が薄くなってる…」


 誰も動けず声も発せない状況の中、僕の声だけが響いた。テランス様のヘルメットに書いた字が、消えてはいないが薄くなっていたのだ。





「総団長ー!解析終了しました!!

 ……あら、なんで皆固まってるのでしょう?」


「分かりません……」


 そこへ現れたのはお茶を淹れてくれた女性。皆さんの様子に首を傾げつつも、特に気にせず報告を続けた。これ、日常風景ですか?



「じゃあそのまま聞いてくださいね。

 結果、なんと高性能の危機回避魔術が掛かっていました!恐らくですが、以前より遥かに強力なものだと思われます。

 文字は同じなのに、効果が桁違いです。多分これなら、あの作業員さんも無傷で生還したのでは?

 ラサーニュ君、何かしました?」


「うーん……?

 前回は何気なく書いたけど……今回は、「どうかコレが誰かを守ってくれますように」って祈りながら書きました。それくらいしか心当たりはありません…」


「!それです!!魔術の強さは想いの強さですからね」


 ああ、それは聞いた事ある。……でも、魔法陣とか使って無いけど。


「そうですね、どうやらこの文字自体が、魔法陣と同等の効果を持っているんですよ。

 すごいですよラサーニュ君!新しい魔術を開発したようなものなんですから!!」


「でも、それならこの文字を書ける人全員が同じ事を出来るのでは?

 もっと言ってしまえば、箏の人達がそうなりますが…」


「そうなんですよねえ…言葉の意味を理解しているから、だったら箏では全員出来ますもんね。

 でもそんな話は聞きませんし。ラサーニュ君だけが特別だと思われます。

 もしかして…闇の精霊様は、何かご存知ではありませんか?」


 お姉さんの言葉に、ヨミが影の中から反応した。



「ぼくにそんな能力は無い。あったとしても、最初にセレスが書いたという時、まだぼくは契約してない。

 でも……心当たりはある。だが教えない。ぼくはそれほど、人間を信用してないから…」



 と。心当たり、あるの?僕には全くありませんが。

 そのまま僕とお姉さんは、あーでもないこーでもないと意見を出し合う。

 すると復活したテランス様が、僕のほうにずんずん歩いて来て……僕の両肩を、ぐわしっと掴む!


「ひい!?」


「素晴らしい!!!魔術を無効化してしまった、もう一度書いてくれ!!!」


「えええええ!!?」


 テランス様を皮切りに、ブラン様その他の皆さんも盛り上がり始めたぞ。

 なんと水球は彼に届く前に霧散してしまったらしい。魔術無効化(マジックキャンセル)…僕が、そんな芸当を…?

 そしてテランス様に言われるがままにもう一度、薄くなった上から書いた。

 ってまだ実験するの!?もういいじゃん、結果出たじゃん!!



「次は即死級の魔術をくれ!!」


「はい!!」


「はいじゃねええーーー!!!?」


 またもスタンバイするテランス様に、今度は3人がかりで… バチバチバチ…とテランス様の上空に嫌な雲が!!

 ぎゃー!!雷落とそうとしてる!!?それは死ぬマジで死ぬよ!!!



「行きますよ団長!!!」


「いーーーやーーー!!!!」



 僕の絶叫なんてなんのその。彼らは容赦なく上官に雷を落とす。

 落ちた瞬間…轟音と突風がその場を支配する。僕はヨミがなんとか支えてくれたけど…何人か吹っ飛んだね!?

 げほ、土煙が…!


「テランス様あーーー!!?」


 生きてますか!!?



「げほっ…少し焦げたな!!!はははははっ!!!」


 煙が晴れたと思ったら、ほんのり焦げたテランスが豪快に笑っていた。そのヘルメットの文字は、完全に消えている…。


「素晴らしい!!!即死級を完全とはいかんが無効化するなんて!!」


 魔術師の皆さんの興奮は最高潮のようでございます。

 凄まじい熱気で、テランス様の様子を観察したり、僕の魔術の効果について意見を出し合っていた。

 僕はその場に座り込んで動けないというのに…。

 そんな僕に、またもテランス様は…

 


「ラサーニュ君、次は…あれ?」


「う…うう…!!」


 もう…もう我慢出来ん!!!!





「馬鹿ーーー!!!!し、しんっ死んじゃうかと思ったじゃんかああーーー!!!

 何やってるの、もしも魔術が効かなくて…テランス様死んじゃったらどうするのおー!!?」


「「「!!!?」」」



 僕はもう、泣きじゃくった。うわああああああん!!!!と、周囲の目も憚らず泣きまくった。

 解析のお姉さんが僕の涙を拭いてくれて、他の皆をキッと睨み付ける。

 更にヨミが怒ってる気配を感じるが…君はシャレにならんので、影に引っ込んでてね。



 だって…本当に、絶対に大丈夫なんて保証ないじゃん!!?

 最初の水球ならともかく、雷はアウトでしょ!?しかもちょっと焦げてるし!!まだプスプス言ってるし!!!醤油かけたらいい匂いしそうな感じだし!!!!


 文字が完全に消えて彼が焦げてるって事は、僕の魔術で消しきれなかった分のダメージを受けたって事でしょ!?

 下手すりゃもっと大ダメージ負ってたんじゃん!!!



「僕エリゼのお祖父ちゃん殺したくないよお!!もう無茶な実験やめてよおおお!!!!」


「す、すまない…!泣かないでおくれ…!」



 テランス様はその巨体を縮こまらせて、眉毛をハの字にして困ってる。

 他の人達もごめんね、って言ってるけど、僕がなんで泣いてるか分かってないよね!!?




「すまん!じいちゃんが悪かった!ほら、泣き止んでおくれ…!」


「ごめんなさい、ラサーニュ君!興奮して、つい…」



 誰になんと言われようとも、溢れる感情と涙は止められないのである…。



魔術師団って大体、体育会系マッドサイエンティストの集まり。

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