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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
49/222

41



 パスカルが何をやらかしたのか気になるけど…本人があんな顔するくらいだし、詮索はやめ、やめ、て、おこ……



「……ねえロッティ…なんか覚えてる…?」


「え?う〜ん…ふふ、私もすぐ寝ちゃったみたい!」


 こそっとロッティに訊ねてみたが…残念、良い答えは聞けなかったか。

 うん、詮索は良くないね!




 …気になる。後でルシアンに聞いてみよっと。

 そう考えながら美味しいパンを齧っていたら、ラディ兄様が隣から声を掛けてきた。


「セレス、マクロンの食事姿をどう思う?」


「!!!!?」


 なんかパスカルが、すんごいビクッとした…。どうって言われても…目の前に座る彼をじっと見つめる。


 すると…パスカルは手を止めてしまった。そしてまた、急激に顔を赤くする。どしたん?


「どうって…綺麗な食べ方だなあ、と…」


「…そう、か」


 ???何故…年長組とルシアンは肩を震わせている?


「あら?お兄様…首、赤くなってるわ?」


 ガシャン!!


「え?赤いって…?」


「あ、ごめんなさい。見間違えたみたい」


 ふふっとロッティが可愛らしく笑う。おっちょこちょいだなあ、ってそれはいいんだけど…パスカルが珍しく、食事中に大きな音を立てた。

 そしてルクトル殿下とルシアンが、カトラリーを置いて両手で顔を覆っている。




 ?????






 変な空気の中、朝食は終わった。そしてお茶をもらってまったりタイム。僕はそこで、朝から気になっていたことを聞いてみた。



「あの…誰か、僕の眼鏡知りませんか?どこにも見当たらなくて…」



「「「「ブフォーッッッ!!!」」」」


「え!!?」


 なんで!?ラディ兄様・パスカル・ルシアン・ジェルマン様が盛大に噴き出した。そんな面白いこと言った今!!?



 ルネちゃんは「汚いですわよ!」と怒ってるし、バジルは急いで布巾を持って来て拭き始めた。

 やっぱ皆、様子おかしいなあ…昨日パスカルがやらかしたってのと、関係あるのかな?




「眼鏡なら…パスカルが持ってんぞ…」



 エリゼの弱々しい声が聞こえて来た。まだ回復しないの君…。

 にしても、またパスカルか。本当に、何があった?



「…………」



 パスカルは無言で眼鏡を取り出し……



 何故か、自分が掛けた。


 そしてブリッジの部分を…人差し指と中指でクイっと押し上げ…



「……ふっ、私を誰だとお思いですか?」


「ボファアッ!!!」


 げほっけほ…な、何!!?急に…ふ…ふ、ふふ…



「あは、は・は、あっははは!!!何、やってん…だははは!!!」



 なんで!?しかもそんな顔赤くして震えるくらいなら、なんでやった!!?ひい、駄目だ…お腹痛いいい…!!

 僕はそのまま…暫く笑い続けたのであった。




 そうしてマナーも何もありゃしない時間は過ぎて行ったのである。

 




 ※※※


 




 その後僕は…何故かルキウス殿下の部屋に呼ばれた。他の皆は、昨日の談話室で待っている。なんか用かね…?

 シックな部屋に集まるのは、年長組と僕のみ。


 というか、予定外に泊まっちゃったけどもう帰らないと。殿下達は忙しいだろうし、いつまでもお邪魔している訳には…

 ……そもそも僕達、なんで皇宮に来たんだっけ?


 

 確か昨日は剣術大会で…学園でパーティーして…そうだ、ルシアンのお誘いで、皇宮で二次会やってたんだ!!!…他になんか忘れて……あ!!!ジェルマン様が抱えているアレ…!!



「ジェルマン様!刀見せて刀見せて刀見せて!!!」


「おわ!?…カタナ?ってこの剣か」


 その剣です!忘れるとこだった、それを楽しみにしてたんだ!!


「はは、これを渡したかったんだよ」



 おお、ついにこの手に…!!「よいしょ」と言いながらジェルマン様が刀を持ち直す。おおお、近くで見るとやっぱ格好いい…!


 だが僕が両手を出しているのに、彼は渡してくれない。なんでー!?

 何故焦らす、いじわるー!!!


「あー、座ったほうがいいんじゃないか?重いし…ってこら…!?」



「おおおおお!!かあっこいいい!!手に馴染みますなあ!

 って、ジェルマン様、なんか言いました?」

 

 待ちきれずに奪ってしまったぞ。だって中々渡してくれないんだもん!!

 しかし、これが真剣…!この重量感…がまるで無いな?軽っ。でもそれがいい!

 僕は両手で掲げた。いいなあ…!やっぱいいなあ…!!



「ラサーニュ…重くないか…?」


「え?全然」


 頬擦りしそうになっていた僕に、ルキウス殿下が声を掛けてきた。

 興奮し過ぎて気付かなかったけど…部屋にいる皆が、僕のことを凝視してる…なんで?



「…ちょっとそのまま持ってなさい」


 ?ルキウス殿下が僕を持ち上げた。いつもの高い高いだ。なんで今?


「…?軽い…」


 うおうをう。上下に揺さぶられる。そしてゆっくり降ろされて、今度は刀を渡すよう言われた。…このまま取らないでね?


「すぐ返すから…って重っ!!」


「え?」


 僕は普通に渡しただけだ。なのに殿下は、両足に力を入れて踏ん張っている。

 ……そういえばこの刀、持つ人によって重さが変わるって言ってたっけ?

 殿下にまた渡されたので受け取った。…うん、軽い。





「どうでしたか、兄上?」


「ああ…ラサーニュごと持っている時は、彼本人の重さしか感じなかった。

 剣だけ持つと…彼の3倍くらいの重さがあった」


「と、いうことは…」


 殿下2人がこそこそ会話してる。兄様とジェルマン様は、不思議そうに僕と刀を見比べた。


「なあセレス、抜けるか?」


 兄様にそう言われ、僕は左手に鞘を、右手で柄を握り…スラリと抜いた。



「おお…これだよこれ!!この輝く銀の刀身!!」


「「抜けた!!?」」


「「え!!?」」



 いえーい!!!!僕のテンションが最高潮の中、兄様達は唖然としている。そしてルキウス殿下が手を伸ばし…駄目っ!


「駄目ですよ、刀は斬れ味が鋭いんですから!!」


 僕がそう叫ぶと、彼はすぐに手を引っ込めた。

 確か…西洋剣は叩き斬るのが主流で、日本刀は断ち切る、だったかな?

 なんか斬ってみたい。斬れ味試したいなー。


 うーん…刀の扱い方なんて知らないよう。竹刀ならなんとか、優也に教わったから…でも竹刀と真剣は、持ち方違うって聞いたことあるような。

 


 僕が刀を睨みつけうんうん唸ってたら、ルクトル殿下が何かに気付く。



「あれ、何か…書いて、いや彫ってありません?」


「え?あ、本当ですね…」


 漢字だ。刀身に文字が刻まれている。




『魅禍槌丸』…???




「み…か。つ、つち?まる…?」


「読めるのですか?」


「合ってるかは分かりません…漢字って色々読み方あるし…」


 しかし、この『みかつちまる』って、刀匠の名前?それとも…刀の名前…?うーん?




【ミカヅチマル】



「あ、つちじゃなくてづちか。君はミカヅチマルって言うのね!僕はセレスタン、よろしく!」



【相分かった】



「ふふ…ん?どうしました?」


 危ないので刀を鞘に戻す。すると…4人はこれ以上無いってほどに目を見開いている。



「セレス…今、誰と喋った?」


「この子だよ?それより…」


「?」


 僕はジェルマン様に目を向けた。そして…刀を差し出す。

 本当は返したくない、本当に、本気で、マジで。でもこれは彼の戦利品だし……。

 …………ダメ…?




「…………殿下」


「…ああ。セレスタン・ラサーニュ」


「はっはい!」


 突然ルキウス殿下にフルネームで呼ばれ、自然と背筋が伸びる。


「お前は、この剣を軽々持ってみせ、誰も出来なかった抜刀をしてみせた。

 …皇太子ルキウス・グランツの名の下に、ジェルマン・ブラジリエよりセレスタン・ラサーニュへの譲渡を許可しよう」



「………!?…はい、ありがとうございます!」



 やった…やったあ!!じゃあ魅禍槌丸は、僕が貰っていいの!?

 魅禍槌丸…長い!ミカさんでいっか!!


「よろしくね、ミカさん!!」


【宜しくお願い致す】


 

 堅い、お堅いよミカさん!!

 ミカさんを抱えてくるくる回る僕を、兄様達は優しい目で見つめているのであった。



 


 

 すぐに斬れ味を確かめたかったが、下手に扱って怪我をするのは嫌だ。

 このミカさん、自我があるって聞いたけど…簡単な返事しか出来ないようなので、自分の扱い方は教えてくれないのだ。


 するとルクトル殿下が、箏とは半年に一度交易があるから…何か本を取り寄せてくれるって!!


「欲しい物を紙に書いておいてくださいね。

 出来れば漢語なら、相手方にも伝わりやすいですよ」


 漢語か。……平仮名とか片仮名とか、あんのかな?日本語で通じるかな?

 すると殿下が、箏の本を見せてくれた!いやあ、何から何まで申し訳ない。どれどれ…。


「お…まんま日本語じゃん…いける!」


 ローマ字は存在しなそうだが、僕の日本語で通じそう!!

 という訳で…僕がリクエストしたのはこちらでございます。



・剣術指南書

・竹刀

・木刀

・刀の手入れ道具と方法が記された書物



 竹刀が存在するかは知らんが、一応書いといた。練習用である!

 これで数ヶ月経てば…僕、侍の仲間入りですかね!?格好いいなあ、袴も頼もっかな!?

 なんてねー!そんなにお金無いからねー!!




 そうして僕はもう一度深々と頭を下げてお礼を言って下がった。

 友人達に見せびらかしに行くと…皆おめでとう、良かったねと言ってくれた。



「ふふ、うっふっふ〜」


「ご機嫌だな」


「まあね〜っと、ねえルシアン」


「なんだ?」


 僕達は帰るべく、外に出る。ルネちゃん、ブラジリエ兄弟とロッティ&バジルは、家から迎えが来ているのでそっちで帰る。

 学園に帰る予定の僕とパスカルとエリゼは、ルシアンが手配してくれた馬車に乗る。ラディ兄様はこのまま仕事するらしい。

 ロッティは…なんかエリゼに、めっちゃ圧をかけていた。聞き取れなかったけど…。



 そして僕は馬車に乗る前に…パスカルが何をやらかしたのか、ルシアンに訊ねる。どうしても気になるもん。



「えっと………その、うーん…。

 …すまん、それは言えない…というか、本人に聞いてみるといい」


 えー…?答えてくれるかなあ?





 モヤモヤしたまま馬車に乗る。パスカルは朝からずっと落ち込んでいたが、今は普通に戻っている。

 …今なら、聞けるかな?ちらり。



「………」



 向かい側のエリゼは寝ているようだ。走り出して暫く経ってから…僕は右隣に座っているパスカルに小声で訊ねた。



「ね…ほんとのとこ、昨日何したの…?」


「…!それは、その…」


 駄目か?またほんのり顔を赤らめた。彼は目を左右に泳がせて、もにょもにょと口ごもり…意を決したような顔になり…僕のほうに身体を向けた?

 そして僕の右手を掴み、引き寄せ、て?



「……知りたいか?」


「え…うん…」


 ?????

 彼は僕の手を離したと思ったら…僕の背中と頭の後ろに手を回して…

 ……!!?な、なんで抱き締められてるの僕!!?



「ちょ、パスカル!?」


「俺は昨日、こうして…」


 ぎゃあああああ!!!耳元で囁かないでくれませんかね!!?



「…………」



「?…ど、どうしたの…?」


 突然のことで驚いたが…彼はそのままプルプル震えるばかり。昨日、何?酔っ払って、こうして僕に抱きついちゃったの?それが恥ずかしかっただけ?

 まあ確かに…普段クールな君がそんな事したら恥と思うかもしれないけど、いいじゃん別に。


 僕も彼の背中に手を回して…ぽんぽん叩いた。すると……彼の腕がだらんと力無くずり落ちた。



「………zzz」


「………あれえ!?寝た!!!?」



 うっそだろお!?しかも、意識を失った彼の体は、重…!僕はそのまま後ろに倒れ…やばっ、ぶつける!




「………?」


 ぎゅっと目を瞑り馬車の壁に頭をぶつける覚悟をしたのに…いつまで経っても衝撃が来なかった。というか、何かが僕の頭と壁の間に…あ。


「エリゼ!起きたの?」


「あー…まあ(最初から起きてたけど…)」


 咄嗟に間に挟まれたのは、エリゼの手だった。

 良かったー、起きたんならパスカルを起こすの手伝って!!

 今彼は、僕の胸元に顔を埋めるという超恥ずかしい格好になっちゃってるから!!早く引っ張って!!!


「わかった。…しかし、別に面白くもなんともなかったな…なんでボク、あんなに大笑いしてたんだろうな…?」


 なんかぶつぶつ言ってるが、彼のお陰で助かったー。

 …って、なんで僕がパスカルを膝枕してんの?



「ま、いいじゃん。…それより」


「ん?」


 まあいいんだけどね。急にエリゼの声のトーンが下がったのが気になる…。




「お前…誰か、好きな奴いたのか?」


「ごふっ…!?」


 僕は、吹き出した。

 待って、僕誰にもそんな事言ってない、よね!?


「昨日、最近失恋したばっかって言ってたぞ」


 昨日の僕をぶん殴りたい。いや、酒を持ち出したルシアンをぶん殴りたい……!月曜になったら覚えてろよ!!!

 しかしエリゼのこの様子だと、名前は言ってないみたいだな…そこは昨日の僕を褒めよう。



「ま、あね…いたよ、好きな人…」


「ふーん…」



 なんだよう、ふーんって。興味無いなら聞かんといて!



「(次をすぐには考えられないって事は…それほど深く愛していたか、長く想っていたかのどっちかか?

 最有力候補はジスランかバジル…でもどっちも、最近恋人が出来たとか聞かないし。勝手に諦めただけか?

 まあ…ボクも、パスカルにしとけとは思うけど。でもコイツ、普段クールで有能なクセに、セレスが絡むと途端にポンコツになるなあ…。


 ロッティに「パスカルがお兄様を口説くのは良いけれど、手を出しそうになったら止めなさい」なんて言われなくても、止めてやるっての。

 今だってキスでもしそうだったら止めようと思ってたわ。コイツ、僕が同乗してなかったら…どうする気だったんだ?直前でヘタれたが。

 どうせ昨日寝てないんだろうけど、ぐっすり寝ちゃってまあ…)」


 …?エリゼは黙りこくった。「誰だよー?」「えー?秘密!」なんていう会話しなくて済んだが…。



 僕の膝の上で寝息を立てるパスカルに目を落とす。

 サラサラの髪が良い手触りで気持ちいい…。頬に手を当てると擦ってきた。…少し可愛いな。

 エリゼはそんな僕達をじっと見つめている。


「ふふ」


「セレス…お前、護身用に闇の精霊と契約しろ。

 彼らは契約が難しいけど、影に潜り込むことが出来る。いざとなったら名前を呼ばなくても現れてくれるだろう」


「え、闇?……うーん?まあ君がそう言うなら…」




 帰ったら召喚してみるよと言ったら、エリゼは満足気に頷いた。


 ゴトゴトと馬車が走る。

 会話はそこで終了し、エリゼは馬車の外の風景を眺めている。

 僕はパスカルの寝顔を見つめ…先程のことを思い出していた。



 僕を抱き締める彼の手は意外と大きくて、びっくりしたけど…なんだか落ち着くというか、安らぐ。

 このままぎゅーっとしてたいなあ…と思ったくらい…。




 …………?



 な、なんか顔が熱いな…?風邪でも引いたかな…帰ったら、今日はもう寝てしまおう…。

 グラスには、今週は行けないって手紙送っておこう。月曜になれば…きっと治ってる、よね?





「(その男、パンツ一丁でお前を抱き締めてたぞと言ってやりたいが………やめてやろう…)」




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