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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
46/222

40



 そうして僕は、2度目となる皇宮にやって来た。


 談話室に沢山の軽食やデザートが用意されている…!飲み物もいっぱいで、僕は目を輝かせた。

 年長組(ルキウス殿下・ルクトル殿下・ラディ兄様・ジェルマン様)は後から来るということで、僕達1年生組は先に始めることに!ただバジルは「自分は使用人です、皆様と同じ席に着く訳には…!」と遠慮してた。

 彼の言い分もよく分かるが、今は貴族とか関係ないただの友人同士の二次会だ。メイドさんとか侍従にもこの部屋に入らないようルシアンが言い聞かせてくれているので…さあ一緒に楽しむぞ!



「…はい、ありがとうございます」


 うんうん。さ、一緒にケーキ食べよ!


「ふふ、いきなりデザートですか」

 

「こういうのはねえ、好きな物から食べればいいんだよ!」


「では、僕はあちらのお肉から…」


「よし!いってらっしゃーい!」





 そんな風に僕達は楽しんだ。

 皆僕とジスランに、「おめでとう!」と声を掛けてくれた。ジスランに勝てなかったのは悔しいが、ロッティに格好良いところを見せられたのならそれでいい。

 来年こそ、絶対勝つんだから!


 そのジスランは相変わらず肉ばっか食べてるし。


 バジルはバランス良く食べている。そして恐らく無意識にだが、ロッティはじめ僕達のお世話をしている。いいっての。


 女の子2人はカロリーの心配をしている。


 エリゼはジュース飲みながら本を読んでいる。自由すぎ。


 ルシアンはさっき部屋を出て行って、まだ戻って来ないな?




「セレスタン、隣…いいか?」


「パスカル。もちろんいいよ」


 パスカルはグラスを2つ持って、僕が座るソファーの隣に腰掛けた。

 そして僕にグラスを渡しながら改めて準優勝おめでとう。と言ってくれたので、乾杯して飲んだ。



「セレスタン、本当に君は強いな。俺なんて、ジスラン相手に30秒保たなかったのに…」


「あはは、昔から彼に扱かれてきたからねえ…」


「その、以前言っていた…骨が折れても血反吐吐いても続けたって…」


「忘れてよ…」



 実際、腕や足、肋骨鎖骨など色々折られたよ。全然手加減してくれないんだもん、何度泣いたことか…。

 疲労とダメージでしょっ中吐いてたし、本当にたまに血も吐いてた。いやあ、カリエ先生も忙しそうにしてたわ。



 ちなみに、ロッティはそのことを知らなかった。僕達の鍛錬の見学はしないし、使用人達は僕に興味無いし。

 真実を知っていたバジルは、ロッティに教えたらジスランが地獄を見ると理解していたので黙ってくれていた。それでも何度もジスランに苦言を呈してくれてたし、僕とジスランの間に入ってくれた。

 身体的にも精神的にもキツかったけど…だって、好きな男の子から厳しくされたらショックでしょう!?

 それでも手に入れたこの強さは、今後僕の力になるだろう。



 ただ…ジスラン、僕へのスパルタをやめた後、ロッティに全部打ち明けたらしいんだよね。「今まで剣の修行と称して、セレスタンに散々怪我をさせてきた。ラサーニュ伯爵は全て知っているはずだが…申し訳なかった」と言ったらしい。その後彼は、1週間学園を休んだ…。



 そしてロッティはその日から暫く、すんごい荒れていた。

 伯爵の書斎に怒鳴り込みに行き、数日間僕から離れようとしなかった。流石にトイレまでついて来られるのは勘弁して欲しかったけど…。

 ジスランは誠心誠意謝罪し、ロッティも今は許している。


 ただ今後同じことをしたら…殺すと断言してた…。


 

 でも今の僕が強いというのなら、間違いなくその努力の成果だと思う。

 僕は、努力は必ず報われる…とは思わない。どれだけ頑張ろうと、無理なもんは無理なんだ。

 ただそれでも…よほどセンスが無いとかじゃなければ、必ず結果に反映されるとは思っている。だから…。



「例えばパスカルが僕と同じだけの修練を積んだら…絶対に僕と同じくらいか、それ以上の強さを手に入れる。そう断言出来る」


「……いや。そもそも俺は、常人はそこまで続けられない。ジスランのようにそういう家系なら分かるが、ラサーニュ家は違うだろ。

 大多数の人間が途中で辞めるか手を抜くだろう。だから…今まで続けて来た君を、俺は尊敬する」


「あ…り…がと……」



 なんだよう…そんな真正面から褒められたら照れるじゃん…。

 というか、泣きそう…こんなにストレートに言われることなんて、滅多にないし…。

 パスカルの顔を見ることが出来ず、僕はちびちびとジュースを飲む。


「いいや、パスカルだって凄いよ」「最近なんて、法律について勉強しているらしいじゃない?」「座学はトップクラスだし魔術だって上手いし。きっとすぐに剣術だって上達するよ」とか色々言いたいことはあるのだが…言葉が出ない。

 多分彼は、笑って「ありがとう」って答えてくれると思う。ただ…それ以上に僕をベタ褒めしそうで、居た堪れなくなっちゃうよ。


 にしても…パスカル、二人称「お前」じゃなかったっけ?いつの間に「君」なんて言うようになった…?

 僕は何も言えなくなってしまい、ソファーの上で膝を抱えて座った。パスカルも何も言わず、ただ隣にいてくれる。





 そんな空気をぶち壊したのは、何やら大荷物で戻って来たルシアンだった。



「セレス!ほらコレ、皆でやろう!」


「あ、それ…双六じゃん!」



 雰囲気に耐えきれなかった僕は、彼が持っている大きな紙に飛び付いた。

 それは最近2人で作成していた双六だ。意見を出し合って、僕が図を考えルシアンが紙に書き込んでいた。完成してたんだね!

 よくある1回休むとか振り出しに戻る以外に、沢山のマスを作ってしまった。

 なんかスイッチ入っちゃって…超大作になってしまったぞ。こりゃクリアするのに何時間かかるやら…。



「なんだコレ?文字が書いてあるな、なんの図形だ…?」


 エリゼは興味深そうに眺めている。ルール自体は簡単なので、僕がやって見せながら大まかに説明した。



「まず…この紙を囲って皆で円状に並ぶの。

 ほらココ、スタートって書いてあるでしょ?

 まず全員ココに自分の分身である駒を置いて…1人ずつこのサイコロを転がす。

 4だから、1、2、3、4…と駒を4マス進める。文字が書いてあるでしょ?振り出しに戻…って早速かい!!スタート地点に戻りまーす。1回振ったらその人は次の番まで待機。僕進まなかったけど…。


 とまあ…マスに書かれた事に従って、進んで行くの。中にはただの白いマスもあるから、ここは何もしないで終わり。

 ここには「右隣の人と1回腕相撲。負けたら3マス戻る、勝ったら3マス進む」とか「赤ちゃん言葉で話す」とかあるじゃない?回数指定や時間指定が無い指令は、ゲーム終了まで守るんだよ!」


 すると全員興味深そうに頷いた。一気に説明したけど…伝わったかな?まあやっていくうちに慣れるでしょう!



 懐かしいなぁ…手作り双六。

 昔…スタート地点の5マス先まで全部「振り出しに戻る」にして、6を出さないといつまで経ってもスタート出来ないやつとか作ったなあ…。

 あとゴール目前で1つ飛びに「振り出し」マス作ったなあ…優也がゴール出来なくて泣いちゃった…。優花、振り出し好きだな…。


 まあ今回は、ゴールに到達したら数字が余っていても終了にしよう。なんか賞品欲しい?



「まずは試しでやってみたいな。順番はどうやって決めるんだ?」


「大体最初の人が決まれば、次は時計回りとかだよ」


「ふうん…じゃあ詳しそうなセレスから頼む。次が隣のルシアン、でそのまま回ればいいんだろう?」


 エリゼがそう提案し、皆もそれで良いと言うので…僕からスタートだ!!



 順番は、僕・ルシアン・パスカル・エリゼ・ジスラン・バジル・ロッティ・ルネちゃんだ。

 駒はすでに作ってあり、分かりやすくそれぞれの髪色で出来ている。


 ようし、スタート!の前に。




「ねえルシアン。その瓶…何?」


 僕はルシアンが持ってきた大荷物の1つ、4本ほどある瓶が気になってしょうがない。

 注目された彼は、得意気に言った。


「ふっふ…これはな、ルキウス兄上がこっそり隠し持っていたジュースだ!私も欲しいと言ったのに、駄目だと言って分けてくれなかった!

 という訳で皆で飲もう」


「良いのですかそれは!?」


「まあ堅いことを言うな、マクロン。大丈夫、他にもいっぱいあったし。責任は私が取る!

 ただ外国産らしく…書かれている文字が読めないんだよなあ」


 どれどれ…うへ、全然読めん!本当にいいのかなあ?


「まあ開けてみれば分かるだろ」


 とか言いながら、エリゼはとっとと栓を開けている!僕、パスカル、ルネちゃんが反対し、バジルは何も言えずあたふたしているぞ。


「あ、これ苺の匂いがするわ。美味しそう…!」


「え、ほんと?…こっちはメロンだ!」


「こら、セレスタン!」


 フルーツの匂いにつられた僕はあっさり裏切り、乗り気チームに鞍替えした。

 ルシアンが全員のグラスに注ぎ…いや、バジルが「自分がやります!」と奪ったぞ。

 最後まで渋っていた2人も、「責任は全部ルシアン」と念入りに確認してグラスを手に取った。やっぱ興味はあんのね。

 まあジスランちも、兄弟で奪い合いとかしょっ中だったしね!大丈夫、兄弟の戯れに付き合うだけだから!




「よーしそれじゃ改めて…乾杯!!」



「「「かんぱーい!!!」」」




 ルシアンが音頭を取り乾杯し、その場にいた全員が一気に飲み干した。

 ん?変な味だけど…美味しいな。




 ほんでは、すごろく始めよっかーあ!ぼくは元気よくサイコロを転がした。







 そして…それ以降の記憶がないのである……。






 ※※※






「……………あ?」




 ……どこだ、ココ…?

 というか、僕いつの間に寝た…?



 上等な布団から身体を起こせば、見慣れぬ部屋…?客間って感じ。

 って僕、サラシ巻いたまま寝てた。それどころか着替えてないじゃん!!上着は脱いでるけど…?

 ベッドから降りてカーテンを開けると…本当にどこだよ!?

 しかも夕方だったはずなのに、どう見ても朝の空だ…。


 まさか…皇宮に泊めてもらった…??




 ?????

 

 あ、着替えっぽいのある…。顔を洗ってからとりあえず着替え…昨日の記憶を手繰る。



 ルシアンの持って来たジュースを飲んでサイコロを振って……そこまでしか覚えてない!?

 こりゃ1人じゃどうにもならんと諦めた僕は、サイドテーブルに置いてあったベルを鳴らした。するとすぐに扉がノックされ、メイドさんが姿を現す。



「おはようございます、ラサーニュ様。お支度が整っておいででしたら、ダイニングへご案内致します」


「あ、はい…」


 メイドさんと共に歩きながら、昨日のことを聞いてみた。


「あのう…何故僕はこちらでお世話になったのでしょう…?」


「私に敬語は不要でございます。

 そしてお答えですが…この後、皇太子殿下が説明してくださいますよ」


 益々訳分からん。






 そしてダイニングに着くと…おや、すでに誰かいる。

 大きな細長いテーブルに…忘れてた年長組4人と。あれ、パスカルがテーブルに突っ伏している。マナーの良い彼にしては珍しい光景だ。

 あと、ルネちゃんにルシアン?バジルもいるが、座っていない。多分断固拒否したんだろうな…。



「皇太子殿下、ラサーニュ様をお連れ致しました」


「ん?ああ、ご苦労。下がっていいぞ。

 おはようラサーニュ、よく眠れたか?」


「おはようございます、ぐっすり眠れました…けど…」


「ああ…ぶっ、とにかく、座りなさい。お前かラサーニュ嬢が座らないと、リオも座れぬそうだ」


 ぶ?とにかくバジルも座らせて…僕はラディ兄様の隣に座った。


「おは、よう。…んぶ」


 んぶ?兄様の逆の隣に座ってるルクトル殿下は…僕と目が合うと顔を逸らしてしまった。僕の斜め向かいのジェルマン様もだ。

 ルネちゃんとバジルも頭の上にハテナを浮かべている。それ以外の人は僕から目を逸らしてる…?


 ???するとジェルマン様の隣、僕の向かいに座っているパスカルがゆっくりと顔を上げた…。この世の終わりのような顔で…僕と目が合うと、顔が急激に赤く染まった。



「…おはよう………」


「おはよう…どしたの?」


「……………昨日の、こと。どこまで覚えてる……?」


 昨日?僕が答えようとしたら…顔を逸らしている全員が聞き耳を立てている気がした。なんなの…?



「それが…なんにも覚えてないの。乾杯してサイコロ振って、そこまで」


「っ本当か!?」


「おわっ!本当だよ!?」


 彼は勢い良く立ち上がった。そして「そっかそっか!!」と満面の笑みだ。




「……んふふ…っ!」


 パスカルの隣に座っているルシアンが軽く吹いた。パスカルはそんな彼をキッと睨みつけ…ねえ、何があった…?

 もう聞いてしまおう。



「ルキウス殿下…昨日は何が?」


「まあ待て、全員揃ったら朝食にして、その場で説明しよう」


 えー?仕方ない、待つか…ってやっぱ皆いるのね。





「おはようございます」


 しばらくすると、ロッティが現れた。バジルが席を譲り、僕の隣に座る。バジルはそのまま隣にずれた。

 僕には微笑んでくれたロッティが…パスカルには絶対零度の視線を送っている…。



「おはよう…ござい、ます…」


 次に現れたのはエリゼ。真っ青な顔で、頭を押さえている。朝食はいいので、水だけ欲しいと言ってルネちゃんの隣に座った。

 そして僕の顔を見ると…憐れみの顔をした…?




「おはようございます!」


 そして最後はやっぱりジスラン。彼はいつもと変わらないようだ、バジルの隣に座る。


 こうして全員揃い、朝食が始まった。だが何故か、ルキウス殿下は給仕の人を全員追い出してしまった。



「えっと、まず…ごめんなさい。昨日私が持ち出したアレ…酒でした…」


 開始早々、ルシアンが全員に謝罪する。

 酒。酒かアレ!じゃあエリゼは二日酔いか!?

 この国の成人は17歳だが、酒は15歳から飲めるのだ。僕達1年生は12歳と13歳だから、まだ飲んじゃ駄目ですとも。

 じゃあきっと、ルシアンすんごい怒られたんだろうなー。元気無いもん。




「そうでしたのね…あの、恥ずかしながら私全く記憶がございませんの…」


 ルネちゃんもか!僕も僕も。


「俺もです」


「あの、僕も…」


 ほう、ジスランとバジルもですか。じゃあ他の皆は覚えてんのね。

 ルシアンは順を追って、昨日の出来事を説明してくれた。



「まず…ルネとブラジリエは、早々に寝た」


「……お見苦しい姿を…」


 ルネちゃんは顔を両手で覆っている。ジスランはなるほど!と言ってるだけだが。



「それで、その…他の全員はしっかり酔っ払って、な…。

 セレスもリオも暴れてたぞ…」


 今度はバジルが顔を覆った。僕は…まさか、なんかやらかした…!!?

 まさか、「僕実は女の子なの〜」とか言っちゃった…!?ヤバい、血の気が引く感覚に襲われる…。


「あ、安心しろセレス!其方は…まあ、大丈夫だ、と、思う…」


 そ、そうなの?なら信じるけど。

 ただルシアンは、隣に座るパスカルをチラッと見ながら言葉を続けた。




「うん、どちらかというと…やらかしたのはマクロンのほうでな…。

 まあ本人の名誉の為、覚えている皆は口外しないようにな」



 

 …………パスカル!!?何したの君は!!!




お酒は20歳になってからにしましょうね。

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