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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
44/222

38



 闘技場の中央で対峙する殿下と兄様。会場の盛り上がりは最高潮でございます。これじゃあ決勝がオマケになっちゃいそう?

 というか、めっちゃ睨み合ってる。はよ距離取れや。何か会話しているが、流石に聞こえないや。




「ルキウス…今まで俺たちの戦績は五分五分だったよな。

 今日の俺は絶対勝つ。可愛い弟が声援を送ってくれているからな」


「ふ、それは私も同じこと。可愛い弟と、ついでに愛しい家族の声援がある。私が負ける訳がない」



 きっと試合前に、「良い勝負をしよう」とか挨拶してるんだろう。2人共格好いいなあ…!




「いやお前、可愛さでウチの子に勝てると思ってんのかボケ」


「お前の目は節穴か?ラサーニュが可愛いのは認めるが、素直になったルシアンの可愛さを理解出来ないのか?」


「は?」


「なんでキレてるんだお前は!!」



 おお、どっちもやる気十分!!頑張って兄様ー!!

 僕の隣でルクトル殿下が頭を抱えているけど気にしない。


 ようやく離れた2人は互いに剣を構える。うーんなんか迫力ある。





「始めっ!!!」



 ダッ!!ガキンッ!!!


「くっ…!」


 最初に仕掛けたのは殿下のほう。真正面から袈裟斬りにするが、兄様はなんとか弾いた!

 だが殿下はバランスを崩すことなくすぐに次の攻撃に入る。兄様は防戦一方だ、頑張って…!!



「どうした!!!私に勝つんだろう!?」


「当然だ!!今まで何度お前の相手をしてきたと思っている、何もかもお見通しだ!!」


「な——っと!!!」


「お前は4度斬りかかると、必ず隙が出来るんだよ!!」


 ギィン!!




「おおっ!」


 兄様が攻めに転じた!殿下の剣を狙って鋭い突きを繰り出し、よろめいたところに次の攻撃を仕掛ける。


 そのまま息つく暇も無く剣戟が繰り広げられる。

 あんなにも騒がしかったギャラリーも、今は固唾を飲んで勝負を見守っている。僕も手を握り締め見守って……




 ……なんでだろう…兄様の姿が、優也と重なって見える。あの子も小さい頃から剣道やってたなあ… 。

 いつか絶対応援に行くって約束したのに…結局、一度も行けなかった…。

 それでも試合の日は、必ず病室まで来てくれて…





『姉ちゃーーーん!!!オレ負けちった、2位だったああああ!!』


『ありゃ。よしよし、頑張ったね』


『うう〜…!姉ちゃんが応援してくれてたら、絶対勝てたのにい!!』


『人のせいにすんじゃなーい。

 でも…うん、良くなったら絶対応援行くから!』


『約束だぞ!?』


『うん!!…ってくさっ!!優也汗臭ーい!!』




『病院では静かになさーーーい!!!』


『『ぎゃーーーーー!!!!』』






「おうえん………」




 僕は大きく息を吸い込んだ。そして…



「…ラディ兄様、勝ってーーー!!!」



 会場を金属がぶつかり合う音が支配する中、僕の声が響き渡る。

 すると兄様が、微笑んだ気がした。




「ふ…っ俺は、負けない!!!」



「…くそっ…!」



 ガギイィ…ン





 殿下の剣が…その手を離れ、地面に突き刺さった…。




 

「勝者、ランドール・ナハト!!」




 わああああぁぁぁぁ…!!!!



 

 お、おおお…おおお!!!兄様勝ったーーー!!


「やったー!!!ラディ兄様強い!!格好良い!すっごーい!!!」


 手に汗握る戦いは終わりを迎えた。殿下と兄様は握手を交わし、2人共こっちに向かって来る。

 僕は走り出し、兄様に飛び付いた。



「兄様おめでとーーー!!!凄かったよ!!」


「ああ、お前のお陰だ」


 いやあ、応援しただけだよう。

 ラディ兄様が僕を抱え上げると、令嬢達の悲鳴が響き渡った。落ち着いて、僕男ですから!!!


 そしてルキウス殿下は、ルクトル殿下とジスランに慰められている。ん…ジスラン?




「あ!!!僕達の試合この後じゃん!!!この空気の中やれと!!?」



 忘れとった!!!10分休憩の後、1年生の決勝だよ!!ひえー、今の試合の後に!?僕は三度緊張に襲われた。

 だがラディ兄様が…優しく僕の背中を叩く。



「大丈夫だ。俺が付いている、精一杯やればいい」


「……うん!」


 うん、ロッティと兄様の応援があれば、僕だって負けないんだから!!!


「という訳でジスラン!!初勝利貰うからね!!」


「ふふ…やってみろ!」


 やったるわい!!休憩も終わり、僕達は並んで闘技場の中央に向かい歩き出す。僕はもう、震えることは無かった。




「なんだ、ずいぶんちびっ子じゃん」

「あっちのデカいほう、ブラジリエ家の末っ子だぞ」

「あちゃー、勝負になんねー」

「よくあの子決勝まで来れたわね」

「セレス!!絶対勝てよ!!!」

「可愛いから応援しちゃお」

「まあ1年の試合なんて、毎年お遊びみたいなモンじゃないか」

「お兄様ーーー!!!急所を狙うのよ、一撃必殺よーーーーー!!!」

「どっちも頑張れー!!」



 

「…ふふっ、ロッティってば」


 可愛い妹と大切な友人の声援があれば、有象無象のヤジなど気にもならんわ!!!







 互いに距離を取り、礼をして剣を構えた。




 こうして立つと…うん、僕集中出来てるな。


 もう周囲の声は届かず、目の前のジスランしか見えない。彼の一挙手一投足…僅かでも見落としてたまるものか。




「ラサーニュ君、すごい集中力ですね…」


「ああ…」


「セレスは負けんぞ」





「では…始め!!」


 先手必勝!!!さっきの殿下に倣い、一気に距離を詰める!!!



 ガンッ!!!



「…ふっ!」


 僕にはパワーがまるでない、ならばスピードと手数で勝負!!!右から上から下からひたすら仕掛ける!

 

 カン、ガキッガガッ!!キンッ!


 ジスランは全て防いでいる。ふんだ、余裕ぶってるなよ、見てろ…!


「え!?」


「いつまでも、僕が弱いと思うなよ!!」


 ガガカガンッカカン、ガスッ!


 ここ最近の僕は、パワーを捨ててスピードを重点的に鍛えた。

 ジスランが一撃で倒せる相手でも、僕は一撃では倒せない。

 ならば彼が一撃喰らわせている間に、僕が三でも四でも叩き込めばいいだけでしょう!?


 という訳で、スピードアーップ!!ジスランが動揺している隙に、畳み掛ける!!連撃喰らえい!


「…っやるじゃないか!だが俺だって…!」


「つあっ!」


 うわ、わわわ!!逆に一瞬の隙を突かれて、反撃を許してしまった。今度は僕が防戦一方だよ!やっば、このままじゃ彼のペースだ!

 ゴスッガギン!ドゴッ!と、僕の時と音が全然違う。こんなん受けてたら腕壊れるわ!息も乱れてきたし…!

 なんとか流して躱して距離を取る!だが僕が後ろに下がると、ジスランも前に一歩踏み出し…!


「そこだっ!!」


「!!?」


 僕は下がった振りをしながら、地面を蹴る足に力を込め…体勢を低くして逆に突っ込んだ。そして両手でぎゅっと剣を握り締め…剣を狙って一撃必殺、渾身の刺突をくれてや…あ!?



「あ…」



 嘘でしょ、完璧に不意をついたと思ったのに…




 こんにゃろう、本能で躱しやがったーーー!!?



「くっそう…!」


 僕の剣と体はジスランの横を通り抜け…突っ込んだまま倒れたら、僕の負け…!その前にジスランの剣を飛ばすつもりだったのにい!

 僕はなんとか体を捻り、倒れることなく地面に左手と両足で着地を……へ、左手?


「あ」


「あ?」





「…勝者、ジスラン・ブラジリエ!!」



「「あーーーーー!!!?」」

 

「「「あ〜〜〜…」」」


 僕とジスランは揃って絶叫し、兄様達の抜けた声も聞こえてきた…。

 


 え…終わり?今ので?

 過去最高に接戦出来たのに?あとちょっと…!ってトコだったのに…?




 …えええええぇぇぇえ!!!?そんなあー!!?


 僕は張り詰めていた糸がプツンと切れてしまい、その場に崩れ落ち…


「おっと。……今回は今までで一番良い勝負だったぞ、セレス」


 る前に、ジスランに受け止められた。ううう、勝者の余裕…!


 く・や・し・いいぃ〜〜〜!ふんぐうううう…!!

 もう僕が場所も弁えず泣き喚いてしまおうかと思っていたら…。




 どわああああッッッ!!!と会場が湧いた。そうだ、ギャラリーの存在忘れてた。



「すっごーい!!」

「やるじゃん!」

「ラサーニュ様カッコいいー!!」

「お兄様は格好良くて可愛いのよ!?」

「可愛い〜!!」

「惜しかったなー」

「今年の1年レベル高いな」

「セレスちゃーん!!」

「お疲れ様でしたー!!」



 と…試合前とは全く違う声が多々聞こえて来る。

 そ、そうですかね?僕格好良かったですかね??



 しかし僕は歩けないので…そのままジスランに…うおい!?


「ちょっとー!なんで横抱きにすんの!?」


「良いじゃないか別に」


 よくねーーー!!お姫様抱っことか、周囲の視線が痛…


「「「きゃー!可愛いいい!!!」」」


 なんで!?

 だが僕は抵抗する体力も残っていないので、大人しく運ばれた…。

 …?よく見ると、ジスランも汗をかき息を乱している。今まで一度も無かったことだ、これは…。


 僕本当に、彼を追い詰めた?




 ……おお…!僕強くなった!!




「セレス、惜しかったな!」


「ラディ兄様!!」


 ジスランの腕から、兄様の腕に移動した。実家のような安心感、そのまま一緒にベンチに座る。兄様に渡されたタオルで顔を拭いていたら…あら、眼鏡は?

 僕が顔に手を当てていたら、ジスランが何かを差し出してきた。


「ほら。早々に落としていたぞ」


「ありがとう。って、粉々!?」


「2人共踏んづけまくってたから…仕方ないよな、また新しいの買いに行こう」


 いや、まだいっぱいあるし…と言ったのに、兄様はすでに出掛ける気満々のようだ。…ま、いっか!




 にしても、全然身体に力が入んない。今だってラディ兄様に両側から支えられていなければ、僕は真っ直ぐ座ってられないもの。腕はプルプルするし。


「仕方ありませんよ、10分以上激しい攻防を繰り広げていたのですから。僕達も魅入ってしまいました」


「そうだな。ブラジリエはともかくラサーニュも…素晴らしい試合だった」


 10分。……そんなに!?うわ、体感では2、3分くらいだと思ってた。

 でもそっかー、僕体力もちょびっとついたかな?負けて悔しいけど…自分の成長が嬉しい。

 それにルキウス殿下、ルクトル殿下に褒められちった。っしゃー!

 ジスランも僕達の隣に座り、残りの試合を観戦する。彼はまだ最終トーナメントも残ってるからね。

 だがその前に、ゲルシェ先生が近付いて来た。


「2人共、お疲れ。怪我はしてないか?」


「あ、先生!怪我は…無いかな。身体が動かないのと、腕が痺れてるだけ」


「俺は疲労だけだ、セレスを見てくれ」


 怪我は無いっつの。腕だけ見てもらったが、問題は無いとのこと。でしょうね。

 一応テーピングだけしてもらった。こりゃどうも、じゃあ気を取り直して観戦しますか!




 続く2年3年の試合は…イマイチ盛り上がりに欠けるなあ。

 勝敗が決しても観客の拍手もまばらだし。というか3年生のあの挑発してきた男子、アッサリやられてんじゃないか。どうでもいいけど…。

 そして4年生。結構良い勝負だったが…やっぱり盛り上がらない。これはもう、ラディ兄様に期待するよ…!!



「兄様頑張って、優勝してね!」


 そして最終的にジスランを下して僕の仇を取ってね!!

 兄様はドヤ顔で親指を立てて、戦場に赴くのであった………。






「負けちゃった」


「負けちゃったね!!!!」


 負けちゃったよラディ兄様!!!あんなドヤ顔しといて!!


 ……でもまあ、仕方ない。何せ相手は…。



「久しぶりだな、セレス。さっきのは良い試合だったぞ」


「お久しぶりです、ジェルマン様」


 ラディ兄様の決勝の相手は…ジェルマン・ブラジリエ様。そう、ジスランのお兄様である。

 この方身長190センチを越しており、すでに卒業後騎士団への入隊が決まっている武人である。

 なのだが…なんか地味なんだよね。よく存在を忘れられている人だ。今回も決勝始めるまで、相手がジェルマン様だって気付かなかったし…。

 でも昔から、ジスランの家に行くと一緒に本を読んだり遊んでくれたりした。優しいお兄ちゃんなのだ。

 負けてしまったラディ兄様はしょんぼりしてる。うん、相手が悪かったとしか言いようがない。



「セレス、父上も褒めていたぞ。卒業後は騎士になれ!と仰っていた」


 ジェルマン様が指差す方向には、ブラジリエ伯爵がいる。こっちを見て手を振っていたので、会釈して返した。

 あの辺り、騎士団長の集まりかな…?ガタイのいい人が揃ってると圧巻だよね。近付きたくねえ。


「僕が騎士に?いやあ〜…どうでしょうね?」


「はは、謙遜するなよ。今の2〜4年生の試合、見てて物足りなかっただろう?

 さっきのお前達が桁違いだったから、観客も冷めちゃってたんだよ」


 そうですかね?いやあ、照れちゃうなあ!

 僕が照れ照れしている間に、最終トーナメントが発表された。



 くじの結果、ジスランがシードだ。ジェルマン様は反対側なので、決勝は兄弟対決か…!ぶっちゃけ、他の人が勝つとは考え難いので。


「面白い…兄上、全力で頼むぞ」


「当然だ。すぐ行くから待ってろよ」


 おお…!!頑張れジェルマン様!「セレス!?」いやだって、ジェルマン様に仇を取ってもらうんじゃーい!!

 しかし、もしジスランが優勝しちゃったら…1年生が優勝なんて前代未聞じゃない!?うーん、どっち応援するか迷うなあ。





 僕はラディ兄様と一緒に観戦した。殿下達は皇族の席に行ったようだ。


 そしてトーナメントは進み、予想通り兄弟対決となる。



 ジスランは、さっきはやっぱり本気出して無かったんじゃない?と言わんばかりの迫力を見せた。

 だがジェルマン様には数歩及ばず……ジェルマン様の総合優勝で大会は幕を閉じる。





「ジスラン…元気出してよう」


「負けた…まだまだ兄上には遠く及ばない…。

 ならば、鍛錬あるのみ!!」


 復活した。立ち直り早いなー…僕も見習おう!!!


 



 ※※※





『選手の皆様、お疲れ様でした!これより閉会式を行います』



 またまたバルバストル先生の司会で式が始まる。

 今闘技場に立っている生徒は、決勝まで残った僕含む10人だ。

 3年生の名無し先輩は僕と目が合うと、忌々しそうに顔を背けた。なんなんだ一体。


 はあ、結果的にまたまたジスランには勝てなかったけど…得るものはあった、かな?




『ジェルマン・ブラジリエ君。どうぞ前に出て来てください』


「はい!!!」


 お、優勝賞品の贈与か!と言っても、毎年似たような宝剣らしいんだけどね。

 しかもジェルマン様は去年も優勝してるらしいから、2本目になっちゃうね。

 

 陛下と共に、賞品を持ったルキウス殿下が現れた。

 しかし、あれが宝剣…?なんか、違くない??



「優勝おめでとう、ジェルマン・ブラジリエ。

 昨年も其方は素晴らしい試合を見せてくれたな。今後もその力を、この国に貸してもらいたい」


「はっ!!身に余る光栄でございます!!」



 そんな感じのやり取りの後…殿下が一歩前に出る。

 近付くと彼が持つ剣がよく見え…………はああぁ!!!?





「おめでとう、ブラジリエ。今年の剣は少し趣向を変えていてな。

 こちら、数十年前に箏より贈られた剣だ」



 な、な、な……!!!



「…?どうした、セレス?」


 ジスランが小声で尋ねて来た。だが今の僕は返事をする余裕がない。




 あれは、まさか、そんな……!この世界でお目に掛かるなんてえ…!!





 あの細い剣……どっからどう見ても、ジャパニーズKATANA☆、日本刀じゃねーか!!?






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