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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
28/222

24



 次の日。僕が恐れていた…調理実習の時間!!



 不安の種であるロッティとルネちゃんは、和気藹々と準備に取り掛かっている。よきかな。

 とりあえず勝負の展開は防いだが…おっと、ルネちゃんの友人登場だ。


「ルネ様、ご一緒してよろしいですか?」


「もちろん、よろしくてよ」


「あら、よろしくお願いしますわ」


「!?ラサーニュ令嬢もご一緒…ですか?」


 令嬢じゃないほうもご一緒してますわよ。よろしくですわ。

 漫画だったら確か「手出し無用!」的な感じになり、2人は次のページでダークマターとヘドロ(クッキー)を錬成してたっけ…。


 ここは僕が頑張って軌道修正せねば!!!

 僕は前世も今世も料理などほぼした事なかったけど、レシピを見ながらだったら大体の物は作れそう。よっし、頑張るぞ!!



「あ…人数も多いようなので、私達はやはり別行動にしますわ…」


「そうですの?わかりましたわ」



 ルネちゃんの友人達はロッティが苦手なのだ。ロッティが美少女で成績優秀で、公爵令嬢のルネと並んでも遜色ないハイスペックさだから。

 彼女達は全員、ルネちゃんに公爵家という肩書きがあるから側にいる。決して友人になりたいからではなく、その権力にあやかるため。


 そのため常にルネちゃんの太鼓持ち。そこに真の友人であるロッティが現れたら…「ルネの友人」というポジションを失う。


 漫画ではロッティに喧嘩売ってくるんだけど…すでに、ルネちゃんが「ティーちゃんは私のお友達です。以前から言っていますが、今後陰口を叩くようなら…貴女達との付き合いも考え直さなければなりません」と宣言している。

 そうなると下手なことも出来ず、指を咥えて見ているしかない。

 きっとこのまま…いつの間にかただのクラスメイトポジに納まってるんだろうな。




「ルネ、それは片栗粉よ!小麦粉はこっち」


「あら。ありがとうございます」



 ……今回に限っては、巻き込まれたくないから逃げたのかもしれないけど。

 ロッティ、それは重曹だよ。薄力粉はこっちね。



 …調理実習、不安だなあ…。





「ふるいにかける…こうね!?」ボフォッ


「けほっ…ロッティ、1袋全部入れないで!?」


「あら、バター混ざりにくいですわ…」ゴスッ、グッ


「常温バター用意してあるよ!?」


「塩少々…このくらいかしら?」わしっ


「それ砂糖!!!」


「卵を割るのって存外難しいですわ…」グシャ


「殻が!!!」


「切るように混ぜる…ジスラン、剣を貸しなさい」「えっ」


「ヘ・ラ・で!!」


 発想が恐ろしいよ!せめて包丁使おうとして!?





「「ふう…」」


「ううぅ…」



 …なんとか…生地を冷やすとこまで来た…。


 ちなみにこの授業は男女混合。ただ人数が多くなってしまうため、ジスラン達は別グループ。

 向こうは四苦八苦しながらも、バジルがなんとか頑張っている。微笑ましいなあ…。


 ……あれ?ロッティとルネちゃん、分ければよかったんじゃ……もういい!!!



 20分休憩で、お茶にする。ふい〜…後半戦、ここからが本番だ…!!!






「生地伸ばしすぎ!何これ餃子の皮!?ある意味すごい!!」


「ロッティ、作業台までくり抜いてるよ!?」


「オーブンあっっっつ!!!170°って書いてあるじゃんかあ!!300°はやり過ぎだよう!!!」


「「料理は火力!!」」


「うわーーーん!!!」



 クラスメイトはおろか、先生すらここの台に近付かない。

 皆2人の才女には疑いの視線を送り、僕には憐憫の眼差しを向ける。助けてくれても、いいんだよ!?




 ※※※




「完成ですわ!」


「ふふ、意外と簡単だったわね!」


 僕はもう何も言わないぞ…その気力も無い…。

 あ…後片付けは…僕がやっとくから…今日皿、何枚割った…?



 

 クッキー作りを終えたらお茶会だ。男子グループと合流し、互いに作品を出し合う。

 僕に気遣ってか、彼らがバジル主導の元全て準備してくれた。サンクス…。




「ボク達のは少し歪で焦げてしまったぞ」


 どれ…うん、美味しい…甘味が疲れた体と精神に染みるう…。


「そちらは…見た目は綺麗ですね…」


 彼らは僕達のクッキーを凝視し、誰が先に逝くか水面下の争いを始めた。

 ここで一番立場の低いバジルに押し付けないあたり、彼らの人柄が窺い知れるね。


 しかし決まらない。



「いいよう…僕から逝くから…」


 女子2人は早く感想を欲しそうな顔をしているので…僕が…!

 だが僕が女子グループのクッキーに手を伸ばすと、ジスランがその手を掴む。


「まっ、待て!!ならば俺が!!(これ以上セレスに負担を掛ける訳には…!って手首細っ!?)」


 あらそう?じゃあよろしく!

 何故か彼は赤い顔をしているが…覚悟を決めて、クッキーを口に放り込んだ!!!




 おおおおおっっっ!!!




 おや?何やらギャラリーが…。クラスメイト達も固唾を飲んで見守っていたらしい。

 ジスランが男を見せた時、観衆が沸いた。


 さあ、お味は!!?



「むぐ……味は、悪くない…。

 だが食感が……こう、もにょもにょしている…?」


「へっ?」


 確かに、サクッと聞こえなかったけど…。

 どれ、僕も。



「………んんん?こっちはべちょっとしてる…半生??」


 僕とジスランの様子を見た残りのメンバーも、恐る恐る手を伸ばす。



「ボクのは…硬!?噛めない…!」


「グミを食べているようだ…」


「あの、全然溶けません。噛みきれないし…」



「あら…おかしいですわね」


「隠し味がマズかったかしら?」


「………ねえ、何入れた…?」


 そう尋ねると、2人はにっこり笑って目を逸らした。

 


 お腹…壊れませんように…。





 片付けも終え、今日の授業は終了。後は帰るだけなので、教室に鞄を取りに戻る。

 食べるのにも片付けにも大分時間掛かっちゃったから、もう僕達しか残ってないや。


「坊っちゃん、それは?」


 え?ああ…これ?

 バジルが指しているのは、僕がポケットから取り出した小さい包み。

 今日この後どうする?という会話をしている時だった。


 いつも一緒にいると思われがちな僕らだが、放課後は結構思い思いに過ごしている。

 学園にも部活…サークル活動ってあるんだけど、僕らは誰もやっていない。


 普段僕は図書館だったり部屋に戻ってたり、買い物に行ったり。

 ロッティも似たようなもの。一緒の時もあれば、別々の日もある。

 バジルは大体ロッティについてるが、たまに僕と一緒の時もある。

 ジスランは修業。

 エリゼは魔術の勉強。でも最近は、僕と過ごす事も多い。

 パスカルは勉強、たまに社交、そして僕達とお茶したり。

 ルネちゃんは今までお友達と過ごしてたらしいけど…今後はロッティと過ごす事も増えるだろうな。


 早速今日、何か2人で話があるらしい。僕も用事あるからちょうどいいか。


 

 

 そしてこの包みは…さっきの騒動の中、こっそり作ったクッキー。2人を見ながら作るの、ほんっとうに大変だった…。だが味も食感も全部確認済みさ!!



「これはプレゼント用のクッキーだよ」


「へえ…どなたに贈るのですか?(お嬢様かな?)」



 バジルの言葉に、それぞれの席にいた面々が反応する。なんというか、すんごい聞き耳立てている…。


「ゲルシェ先生だよ」


「え!?」


 え?って…そんなに驚く事?

 実はルネちゃんにもこっそり渡した。もちろん、お礼さ。

 だが他のメンバーが…「なんで先生に!?」という顔をしている。いいじゃん別に。


 皆に挨拶をして、先に教室を出る。背中に視線めっちゃ感じるけど…無視です。






「……ルネ、悪いけど私急用が」


「はいはい、セレスちゃんは大丈夫ですわよー。行きましょう」


「くっ…!バジル、ジスラン!お兄様を追ってちょうだい!!」


「ええ!?お嬢様、それは…」


「よし!行くぞバジル!!」


「ええー!?」



 

 バタバタバタ…




「……マクロン、お前は行かないのか?」


「セレスタンにだって付き合いがあるだろう」


「ふーん…(こいつのセレスに対する感情、イマイチ読めないなあ…)

 まあいい。じゃ、また明日な」


「ああ、また明日」





 ※※※





 コンコンコン


「失礼しまーす。お、いた」


「いるわ。…1人か?」


 1人です。…うわ!!


 い、医務室が…豪華になってませんかね!?

 ベッドは4つともパイプの物から木製になってるし、布団モファっとしてる!!仕切りのカーテンも…何これシルク!?

 しかも…何あのスペース…ミニキッチン!?確かに先生はよく飲食してるけどさあ…!


 まさかこれって…。先生に視線を向けると、やや嬉しそうな顔をしている。初めて見たぞ、そんな締まりのない顔。



「いやあ、流石公爵家。仕事が早い。医務室が破壊されるのも悪いことばかりじゃないな。

 午前中には作業は終わったぞ。それとコレ、ヴィヴィエ嬢からだ」


 ほれっと先生が僕に寄越したのは…マグカップ?


「それはラサーニュ姉の、コレは先生の。そしてこっちがヴィヴィエ嬢の分らしい。

 他の連中は、必要なら自分で用意しろとさ」


 …このマグカップ、可愛い…。ペンギンが描かれてる。


「昨日怯えさせたお詫びだと」


 ……ふふ。ありがとう、ルネちゃん。

 僕はクッキーを取り出し、提案する。


「先生、ここに美味しいクッキーがあるんですが…このマグカップで、コーヒーでもどう?」


 すると先生は、「しょうがねえなあ」と準備してくれるのだった。







「しかしこの布団、ふかふかだねえ!寝てもいい?」


「いいが、完全に寝るなよ。ちなみに先生はすでに堪能済みだ」


「えー?僕が初めてじゃないのか!

 うーん、ふわふわー」


「疲れも吹っ飛ぶ柔らかさだろう。ほれ、コーヒー入ったぞ」


 わーい!

 今日は先生と2人でお茶会だ。

 僕の中で先生は、完全に甘えていい大人に分類された。この人がお父さんだったら良かったなー…なんてね。



「へえ、お前の手作りか。中々美味そうじゃないか」


「もう、恥ずかしいからあんまりじろじろ見ないでよ」


「はは、いいじゃないか」


 先生、なんかテンション高いね?医務室が綺麗になったから?それとも…僕が女子だって判明したから?

 僕が知らなかっただけで、先生は女子相手にはこのテンションなのかもしれない。



「…ねえ先生、ありがとう。僕を、女の子扱いしてくれて。

 でも無理しないで?呼び方だって…うっかり人前で間違えたら大変だよ」


「……先生を誰だと思ってる。お前やヴィヴィエ嬢と違って、うっかりミスなんぞしないわ。

 少しは、大人に甘えることを覚えるんだな」


 

 ……そっか。もう十分、甘えてるけどね。



 そんな風に穏やかな時間を過ごしていたら…。





 ミシ…ミシシ…



「「ん?」」



 変な音と共に…扉が、なんか…ま、曲がって、ませんかね……!?

 僕も先生も、扉を凝視して固まった。



「……さい、せめて、普通に………!」



 んんん?聞き覚えのある声がしたと思ったら……



 

 バギィッッ!!



「こんの…淫交教師があああーーー!!!!!

 ……………あ?」




「「……………」」



 

 

 僕達は穏やかなお茶会を楽しんでいたはずなのに…いきなり扉がぶっ壊れて…。

 現れたのは………皇太子殿下……?後ろにはジスランとバジルも…?



 ていうか、淫交教師て……誰が?





 ※※※





 時は少し遡り。セレスタンが医務室に入ってすぐ。



「く…なんとか会話が聞こえないものか…!」


「ジスラン様、せめて堂々と中に入りましょう!?」


「だが…!!」


 シャルロットの命により、セレスタンを尾行していたジスランとバジル。

 ジスランは医務室の扉に耳を押し付け、中の様子を探ろうとしている。


 本来の彼であればこのような真似はしないのだが…現在少々混乱しているようだ。


「(俺もクッキー欲しかった…が、それは今はどうでもいい。

 セレスがロッティにもあげていないクッキーを…何故ゲルシェ教諭に…!?

 あの、誰よりも妹を可愛がっているセレスが…!)」



 ちなみに現在、シャルロットはルネと共にクッキーを食べている。

 ちゃんとセレスタンが「2人で食べてね」と言っておいたのだ。


 そんな事、ジスランが知る由もないが。




「……何をしている?」


「「え…で、殿下!?」」(小声)



 そこに現れたのが、皇太子であるルキウスだ。

 彼は礼を執ろうとする2人に、「今はただの学生だ」と主張し普段通りにするよう言った。




「しかし殿下、何故ここへ…」(小声)


「いや…ラサーニュとラブレーに用があり探していた。医務室にラサーニュがいると聞いて来たのだが…」(小声)


 ルキウスもつられて小声になる。


 その時。




『……いい…寝る、よ…堪能…』


『…僕、初めて……ん、ふわ…』


『柔らか……ほれ、入った…』



「「「!!!!!??」」」



 中からセレスタンとゲルシェの会話が途切れ途切れ聞こえてきて…今度は3人揃って扉に貼り付いた。



『……お前…美味そう…』


『もう、恥ずかし……見ないで…

 先生、ありがと…僕を、女の子…してく……。でも………変だよ…』


『……を、だと思って……甘え…だな』



 ミシミシミシ……



「ひいいいい!!落ち着いてください、お2人共!!きっと勘違いで……!!」



 バジルの叫びは2人には届かない。

 哀れ扉は、怒り狂う2人の力により形を変える。



「おやめください、せめて普通に扉を開けてくださいいい!!鍵閉まってませんからあああー!!!」



 バギィッッ!!



 バジルの絶叫と共に、扉は破壊された。



「こんの…淫交教師があああーーー!!!!!

 ……………あ?」


 


 だが…3人の目の前には、目を丸くしながらただ座ってコーヒーを飲んでいる2人の姿が。





「「……………」」



 

「「「………………」」」



 クルッ


「………では、私はこれで………」


「おう……なんて、言うと思ったか……?」



 皇族相手にも怯まないゲルシェは、立ち去ろうとするルキウスの肩を掴む。同時にこっそり帰ろうとしていたジスランの頭も。


 状況は理解できないが、彼らが何か勘違いを起こしたということは察したのだ。

 以前片手でセレスタンをも持ち上げた彼は、意外にも握力がある。鍛えているルキウスとジスランでも容易には振り解けない。





「なあ………先生は、この扉の修理費…ドコに請求すりゃあいいんだ……?」



 先程までセレスタンと談笑していたゲルシェは、静かに怒っている。

 壊された扉のせいか、淫交教師という不名誉な呼び名のせいか…お茶会を邪魔されたからか。全てかもしれないし、どれも違うかもしれない。


 一方ルキウスは、自分が酷い勘違いを起こしたと瞬時に理解した。

 そして頭に血が昇り物に当たった事を後悔し…一旦帰って落ち着こうと考えた。



「修理費か…。…………皇室に請求してくれ」


「出来るかあーーー!!!!」



 その間セレスタンは、開いた口が塞がらないのであった…。



どうしてこう、都合のいい部分しか聞こえないのか。

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