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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
24/222

20



 休暇明け。久しぶりの教室で再会を喜ぶ…でもないな。

 エリゼは結構うちに来てたし、ジスランも最後の1週間くらいは入り浸っていた。なので久しぶり!なんて感じしないんだよね。


 


「おはよう、セレスタン」


「あ。おはよう、パスカル」


 そうだ、この人がいたか。

 久しぶり、休暇中どうしてた?という一通りの会話をしていると、早速ロッティがやって来た。

 

 さて、彼の反応やいかに!?



「おはよう、ラサーニュ嬢」


「おはようございます。マクロン様。

 …お兄様とは、ご友人でしたの?」


「ああ。それじゃ」




 ……あれ、そんだけ?


 おいこら、え?なんで?

 本当に自分の席に行ってしまった。

 …まあ、漫画でも初恋の少女がロッティだって判明するのはもっと後だしね。しょうがないか。



 それより!!僕は気合を入れる。

 来週早速…イベントがある!!もちろん漫画の。


 そう、ロッティの親友・ルネ登場!です!




 来週、魔術による創造の授業があるのだ。

 創るものは花。いかに本物そっくりに出来るかが評価の分かれ目。

 そしてこの授業、面白い伝統がある。作った花を、異性にプレゼントするというもの。



 何代前の誰が始めたか知らないが、婚約者、恋人、意中の人、親しい友人に贈る。僕はもちろんロッティに。

 そこでまあ、ロッティは他の人からも沢山もらうのだ。なんか人気投票っぽいよね。

 

 もちろん、絶対に渡さなきゃいけない事は無い。現代で言うと「いいね!」くらいの感覚。

 男子一番人気はルシアン殿下で、女子は当然ロッティ。そこで僅差の2番だったルネがロッティに話しかける。



「まあ。ラサーニュ伯爵令嬢、人気者ですわね」


「あら、ヴィヴィエ公爵令嬢。

 いいえ、令嬢ほどではありませんわ」



 という女のバトル。多分彼女、ロッティと友達になりたかったんじゃないかな。そんで話すキッカケを探ってたんだと思う。

 しばらくは成績とか調理とかで勝負するけど、すぐ打ち解けて仲良しになるし。

 

 ルネの周囲には沢山のご令嬢がいるけど、友人って言うより取り巻きっぽいんだよね。

 常にルネをヨイショしてるし、可愛いロッティの事悪く言うから僕はあの子達嫌い。

 ルネ本人は陰口とか大嫌いだから、彼女達の事を快く思っていない。でも寄ってくるものを拒めない。



 だから、本当の友達が欲しいんだと思う。エリゼも言ってた、互いに尊敬し合える友人。

 


 

 僕も早くルネと友達になりたいなー。早く来週にならないかな!








「セレスタン。俺も昼食を一緒していいか?」



 ほ?お昼になったので学食に移動しようとしたら…パスカルがそう言ってきた。

 随分積極的だね…?もちろん僕は構わないけど。



「いいよ。でもいつも誰かと一緒じゃないの?」


「いいや、1人で食べていた。弁当だったからな。

 今日から学食にするから…折角だからな」


「分かった!一応妹達にも聞いておくね」


 当然いつもの面子である。「なんでマクロンが?」という反応だったけど、「友達になったんだー」と言えば驚きながらも了承してくれた。


 パスカルのほうも皆一緒でいいと言ってくれた。

 実は…今までロッティと一緒に食べたくて声を掛けてくる人は沢山いた。

 だが、大体バジルがいる事に嫌な顔をするのだ。酷い人は僕とジスランの事も煙たがる。ロッティと2人きりになりたいから。

 するとロッティは「今後話しかけないでくださいね?」とにこやかに言い放つ。当然だよね!


 でもエリゼやパスカルは、バジルの事もちゃんと気遣ってくれる。それが嬉しいのだ。


 前まで僕、ロッティ、バジル、ジスランの4人で食べていて。途中からエリゼも追加して、今日からパスカルか。賑やかになってきたね!




 大きいテーブルに並んで座ると、パスカルは僕達の幼少期の話を聞きたがった。それにエリゼも便乗し、ランチタイムは昔話に花が咲く。



「…それで、セレスはよく泣いていたな。「へびさんふんじゃったあああ!」と絶叫していた時は驚いたぞ。まあその蛇はピンピンしてたが」


「それと、よく屋根の上でお昼寝をされていましたね。危なくてハラハラしていたのですが…これが器用に寝返りをうたれて」


「ふふ、お兄様がオネショした時…」


「勘弁してえ…!!」



 なんで!僕の黒歴史暴露大会になってるの!?

 さっきから両手で真っ赤な顔を覆っている僕なぞお構いなしに、3人は僕の恥ずかしい話題ばっかり!

 エリゼ、感心しない!!パスカルは何メモとってるの!?



「もおおおー!!もっと話題あるでしょ!?」


「でも私のエピソードはつまらないわよ?」


「俺は剣ばかりだ」


「僕は論外です」


 じゃあエリゼとパスカルの幼少期は!?


「魔術漬けの日々」


「勉強ばかり(姉が2人いることは黙っておこう…)」



 そうして必然的に僕の話題になる。恥ずかしいエピソードいっぱいで、話している分にはさぞ楽しかろう!!

 僕はヤケクソになり、開き直った。もう、なんでも話しちゃえば!

 そうやって拗ねている僕のことを、ロッティは愛おしそうに見つめていた。そんな顔されちゃあ…許すしかないじゃん、もう。




「そういえばお兄様。昔よく、アイシャと一緒に町に行ってたわよね?

 あ、アイシャっていうのは、お兄様の乳母をしていた女性よ。私達が6歳の時…バジルがうちに来る前に辞めてしまったのよね。

 町に行く時…いつも彼女、大きな荷物持っていたじゃない?何してたの?」


「アイシャ…と、町に…」


 ロッティの質問に、全員の視線が僕に集まる。




 そう。僕の全てを知っていて最大の味方でいてくれた、アイシャ・リオ。彼女はよく、僕を町に連れて行ってくれた。

 それは、単なる気晴らし。家で窮屈な思いをしている僕の為に、伯爵を説得して連れ出してくれた。



「何も…ただ歩いて、お店に入って、お茶にして…」



 ただ…その時だけ僕は、女の子になれた。


 アイシャが持っていた大きな荷物は、僕の服。可愛いワンピースや靴。そして髪飾り…アイシャが、買ってくれたもの。

 馬車の中で着替えて、乗り降りする時は御者に見られないよう彼女が抱っこしてくれて…。


 あの頃僕は、アイシャがお母さんだったらよかったのにって…ずっとそう思っていた。

 お母さんと手を繋いで歩き、疲れた時は抱っこしてもらって。「あれ食べたい〜!」とねだってみたり。

 あの時間だけ、僕は彼女の事を「お母さん」と呼んでいた。




『おかあさん、アイスかってー!』


『あらあら、お夕飯が食べられなくなってしまうわよ?』


『ちゃんとたべるからあー!』


『キノコもちゃんと食べられるかしら?』


『………それは、ろんてんがずれてるよ…?』



 その後彼女は笑いながら、アイスを買ってくれた。

 やり取りを見ていたアイス屋のお姉さんは、

『お母さんに買ってもらえて良かったね〜お嬢ちゃん!はい、サービスしちゃう!でもキノコもちゃんと食べるんだよ〜?』

 と、上に1つ小さいアイスを乗っけてくれた。それをアイシャが「あらあら、ごめんなさいね〜」と礼を言い…まるで、本当の親娘のようだと感じたのを覚えている。



「…その時だけ…僕は……あ」



 あ。いかん、つい思い出に浸っていた!!

 顔を上げると、ポカンとしている面々が。そうだよね!ロッティは軽い感じで聞いてきたのに、僕勝手にしんみりしちゃったよ!!


「あ、はは!ほら、父上がやたらと厳しかったじゃない?だからアイシャが、気分転換に外に連れて行ってくれたの!

 その時は…普通の平民の子みたいに、アイシャと手を繋いでいっぱい歩いて、僕の我儘を全部聞いてくれたの。

 荷物は…なんだったかな?なんせ6歳以前の事だからね、忘れちゃった」


 そう誤魔化すと、皆納得してくれた。ふう…危ない危ない。



 ちょうどランチタイムも終わり、気付けば学食には僕達以外誰もいない。結局僕の話題で全部終わった…。

 席を立ち教室に戻ろうとすると…誰かが、僕の袖を引っ張った。

 振り返ってみればそこにはパスカルが。どうしたの?ほら、皆先に行っちゃうよ?


 …なんでそんな真剣な顔で、僕を見つめるの?



「セレスタン、1つだけ…シャーリィという名に心当たりは?」


「シャーリィ…?」



 どこかで、聞いたことあるような…?

 空いている右手を顎に当て、目を閉じて考える。



 シャーリィは…





『ねー、おかあさん。あれ、あれたべたい!』


『ふふ、シャーリィは食べ物ばっかりねえ』





 女の子としていられたあの時だけの、シャルロットの名前を借りた僕の偽名…。





 …………!!!!??




 ぐりんっ!と顔をパスカルのほうに向けると、そこには穏やかな笑みを浮かべた彼がいた。


 

 パスカルは僕の前髪をかき上げ目を合わせる。

 そうして目をまん丸に見開き、口を半開きにするという僕の間抜け面に顔を寄せ…




「この髪、この瞳…間違いない。

 久しぶり…シャーリィ」



 なんと、僕の頬に口付けをした。


 



「おい、何してるんだ2人共?午後の授業に遅れるぞ」


「ああ、今行く」



 …何かエリゼの声が聞こえたが…なんて言ったのか聞き取れなかった。

 そのまま呆然とする僕の左手を掴み、パスカルは歩き出す。



「!なな、なぜセレスと手を繋いでいる!?」


「うるさいぞ、ブラジリエ。彼の調子が悪そうだからこうしているだけだ」



 いや、頬にキスとか挨拶だから。日本人感覚で考えちゃ駄目だから。

 通常の挨拶はリップ音を鳴らすだけで、本当に口を付ける訳じゃないとか知らないから。



「え、大丈夫?お兄様。具合が悪いようなら午後の授業は…」



 そう、再会の挨拶。再会の…



「あれ…お兄様?お兄様ーーー!?」



 キャパオーバーです、はい。

 僕は手を繋がれたまま倒れた。僕を抱きとめてくれたのは誰だろう…温かい…。




 パスカル・マクロンの初恋の少女って……僕かよ!!!!








「先生ーーーっっっ!!!お兄様が、お兄様がぁーーー!!!!」



「新学期早々…はあ、なんなんだこの兄妹…」



 その場にいた男子4人を差し置いて僕を抱えて、医務室まで疾走するロッティの姿は多くの生徒に見られていたのでした。



抱きとめてくれたのはロッティでした。

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