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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
22/222

19

誤字報告感謝します



「おにーちゃん」


「……ん?」



 礼拝堂で長椅子に腰掛け、書類に目を通していたルキウス様の左腕をアーティがくいくい引っ張る。どうやらあれは彼女の癖らしいね。

 当のルキウス様は、何故か固まっている?彼の右側に座っていたルクトル様とランドール先輩は、何事かと首を伸ばしている。


 そんな彼らの様子は完全無視して、アーティは満面の笑みを見せた。



「あのねー、ごはんとおようふく、ありがとうね!」


「「「……どういたしまして…」」」


 

 元気よくお礼を言うアーティと、ワンテンポ遅れて返事するトリオ。ルキウス様は目を擦っている、ゴミでも入った?

 アーティはきゃー!と楽しそうに、少し離れて様子を見ていた僕の元に走ってきた。



「おねえちゃん、アーティちゃんとありがとう言えた!」


「そだねー、偉い偉い!それじゃあバジルお兄ちゃんと一緒に、ご飯食べておいで?」


「はーい!」


 にこにこ笑顔で戻っていくアーティとバジル。その様子を見ていた他の子達も、ちょっと近付いたり僕の後ろからだったり次々お礼を言う。



「あり、あ、ありがとうっございます!」

「……いただきます」

「このご恩は忘れませぬ…」

「あいがとー」


 

 うんうん、いい感じ?最後にセージ率いる4兄妹がトリオの前に立つ。



「えっと…ルキウス様、ルクトル様、ランドール様…今日はありがとうございました」


 ふかぶかと礼をする4人に、ルキウス様は優しい声で顔を上げるように言った。

 だが…その眉間の皺が深く刻まれているせいで、折角勇気を出した4人はまた震え上がってしまう。


 わかる、僕も経験者だから!怖いよねあれ!怒らせた心当たりも無いから余計に戸惑うよね。

 子供達(と言っても、多分セージはトリオと同年代)の様子がおかしい事に気付いたルクトル様が、横から手を伸ばし兄の皺をぐいぐい伸ばした。



「ごめんなさい!実はこの人、機嫌がいい時、困っている時、焦っている時にこうなってしまうんですよ。

 不機嫌だったり怒っている時は、逆に笑顔になりますから。多分今は、さっきまで警戒していた君達がこうやって歩み寄ってくれて、喜んでいるんですよ」


「そうだ。この強面はこう見えて子供好きでな。だがこの顔のせいでいつも逃げられるんだ。

 だからさっき女の子が笑ってくれた時、自分の目がおかしくなったのかと思っていたんだろうな」


 へー、そうだったんだ!というかランドール先輩、殿下相手に容赦無いね?

 そのルキウス様は2人にチョップを喰らわせた。そして咳払いをし、仕切り直す。



「そういう事だ、気にするな。今まで苦労してきたことだろう。

 見たところお前が年長者のようだ。名は?」


「セージ、です。セレスタン…様につけてもらいました」


「セージか、いい名だ。お前達は?」


「グラス」


「ミントです…!」


「パッパパセリで、す」


 

 ルキウス様は今までご苦労だった、と4人を労ってくれた。その言葉を受けたミントとパセリは僕にくっついて泣いてしまい、セージは俯いた。

 ただ…グラスだけは、複雑な表情だ。涙を堪えているようにも見えるし、怒りを堪えているようにも見える。彼だけは、最初からよく分からないな…。






 ※※※





「僕、ここに植えようと思うんだけど!」


「待ってください、坊っちゃん。どのくらい成長するか分かりませんから…もし巨木になったら、畑(予定地)に日が当たらなくなってしまいます」


 あ。そっか…いい場所だと思ったんだけどなあ…。



 あの後お腹いっぱいになった子供達は、新しい服に着替えて騎士様達にもお礼を言った。

 堅物な騎士様は「命じられた通りにこなしただけだ」と言っていたが、その頬は緩んでいた。


 そろそろ伯爵家に帰ろうとなったが、僕が果実の種を植えたいと申し出た。

 今日の記念…という訳でもないけど、殿下達と一緒に植えたいと思ったのだ。彼らも快諾してくれて、現在どこに植えるか話し合い中。


 僕が予定していた場所は没になってしまったよ。方角は考えてたのに、何故日当たりを忘れる…。



「じゃあ、畑はもうちょっとズラして教会の側に植えよう」


「今度は教会に影が出来てしまいますよ?」


 うぐ…バジル厳しい。



 最終的に、教会の正面から左手側、北のほうに植える事に。

 小さいスコップで穴を掘り、種を植える。



「これはなんの種なのだ?」


 ルキウス様は、積極的に手伝ってくださった。僕とルキウス様が並んでしゃがみ作業し、今土を被せている。他の皆は上から覗き込んでいる状態だ。

 前もってノモさんが周辺を植物が育ちやすい土にしてくれたので、芽が出るといいなあ。トト◯の夢のように、おっきい木にならないかな!?


 …ってルキウス様、知らずに手伝ってたんかい!!



「うーん、僕にも名前は分かりません。果実の形は林檎に近いけど真っ白で、甘くて栄養満点なんですよ!

 だからここで採れるようになったら、子供達がいつでも食べられると思って」


「白い果物…?まさか、トワの実?」


 え?ルクトル様、何か知ってるの?

 ねえ、ラナ。あれってトワの実って言うの?



「ふんふん…「人間がつけた名前は知らない、自分達は白の実と呼んでいる。精霊界から採って来た」…だそうです。あれっ、じゃあ人間界じゃ成長しない!?

 あ、ちゃんと育つ?そりゃよかった」



 植えた所に、アクアが水を撒いてくれた。そしてラナが魔力を与えてくれたので、きっと育ってくれるはず!

 実は…植物の精霊、ドライアドを喚びたいなあと思ったんだが。ドライアドは最上級なので、あのフェニックスと同格。諦めた。

 僕の精霊達も「やめとけ」って言うし。最上級は、人間の手に負える相手じゃなさそうだ。




 そして、教会をバックにロッティのカメラで記念撮影をする事に。僕達、子供達、精霊達全員で!

 本当は騎士様にも一緒に入って欲しかったんだけど、撮る人がいなくなるから…残念。


 僕の右側にはロッティが。左手側にはルキウス様。僕の隣に誰が…と少し揉めたが、ロッティは強引に、ルキウス様もしれっと収まった。

 まあ、僕はいいんだけど…そんなやり取りが楽しくて、自然と笑顔になった。



 この後屋敷で話し合いもあるし、急ぎ帰る。子供達が総出でお見送りしてくれた。

 その時…バジルとグラスが何か言葉を交わしているのが見える。帰り道に何を話してたの?と聞いたがバジルは教えてくれなかった。

 もしかしたら…知り合いだったのかな。そうだとしてもおかしくないしね。彼が語りたくないと言うのなら、僕は何も見なかった事にしようっと。




 そうして僕らは帰路に着く。



 今度は殿下も何も言わず、皇家の馬車に乗った。だが。



「なんだかこっちに乗せてもらえと…追い出されました」



 グストフ様も一緒である。ふーむ、内緒話でもしてんのかな?

 まあ僕もロッティも歓迎するし、バジルも嬉しそうだし。



 一体、なんの話をしてるのやら?





 ※





「見たか!!ついに私も名前で呼んでもらったぞ!!」


「ふん、どうせ今日だけだろうが!!俺はこれからも先輩だ!!」


「そうですね、僕も残念ですが…これからいくらでも機会はあると考えましょう」



 こんな話をしていた。

 しばらくこのような会話が続いた後、真面目な話題に入る。

 彼らは一度脱線しないと、厳かな雰囲気になれないのである。




「それよりルクトル。トワの実って、あの伝説の?」


 ランドールの問い掛けに、ルクトルは厳しい顔をした。


「育ってみないとなんとも。

 ただ…人間界では数百年前に消え去った幻の果実。

 人体に必要な栄養素は全て入っていて、毎日一口食べるだけで飢える事も病気になる事もない。1つの果実を巡って戦争が起きる代物です」


「しかし過剰摂取すると、人体に影響がある…だったか?」


「そうです、兄上…。ただ、その影響というのが具体的には伝わっていません」


「ふむ…じゃあ、芽が出ないほうがいいな…こっそり掘り返して、それこそ林檎の種でも植えておくか?」


「駄目ですよ。僕達じゃ教会に辿り着けませんし…いずれ、ラサーニュ君にだけ事情を説明しましょう」


「ならば帰りも同じ馬車に乗せれば良かったであろうが」


「そうしたらラサーニュ嬢もついて来るだろうが。考えろ阿呆」


「誰が阿呆か!!!」



 真面目な時間は終了し、またいつものノリに戻る3人。そして3人共、同じ事を考えているのであった。




「「「(抜け駆けして、こっそり連絡を取ろう。ついでに朝日に輝くステンドグラスも見せてもらって、自慢してやろう!)」」」



 


 ※※※





 その後伯爵邸。

 伯爵も交えて話し合いとなったのだが、皇太子殿下に「今まで何をしていた!!」と叱責されていた。

 彼は言い訳を繰り返していたが、もう皇家からの信用は薄いだろうな。




 そもそもうちが皇族に一目置かれていたのは、三代前の当主…の妹、セレスティア様の功績によるものだ。

 



 当時の皇帝陛下、革命王ルシュフォード。


 彼は数百年に渡る世界戦争を終息させ近隣諸国を統一し、グランツ皇国を大国にしてみせたお方。

 その革命王と共に戦場を駆け巡り数々の功績を挙げ、敵はおろか仲間からも恐れられていたセレスティア様。


 彼女なくして統一は有り得なかったと言われるほど、偉大な人物だったそうだ。

 


 だがそれ以降ラサーニュ家は大した功績もなく…むしろ現当主になってからは一気に衰退している。

 僕にも、セレスティア様のような強さがあれば…と、何度思ったことか。

 彼女は僕にとって、憧れの存在だ。力強く、周囲の声に惑わされず、我が道を行く…格好いい!!




 とにかく。もう伯爵の信用は失われていることだろう。この後の話し合い、彼が口を挟む余裕は無かった。

 何も知らないんだ、意見などあるものか。殿下達も全て僕達に意見を聞き、取り入れてくれた。


 補助金は、僕に新しく口座を作りそこに振り込んでもらう事に。

 伯爵は「まだ子供に大金を持たせるなど!」とほざいていたが、「貴様に口を挟む権利は無い!!」と一蹴されていた。学習しないな、この人。


 ほんと僕、なんでこんな情けない人を恐れていたんだろう?

 怖い、嫌われたくないって…洗脳って怖いね。

 まあ単に…ロッティ達や精霊達が僕の味方でいてくれる、それが心強いってのもある。




 もう僕は、この人を恐れない。それでもまだ女である事を周囲にバラす気もないけど。


 実際、次期当主っていう肩書きは役に立つ。

 この国の女性の立場はまだまだ低い。それでもセレスティア様の活躍以前はもっと酷かったらしい、まさに男尊女卑。

 現在はそこまでじゃないけど…今の立場のほうが発言権とかはあるしね。


 他にも理由はいくつかあるけど、僕が本当の自分になれる時…その時は、僕が伯爵家から去る時だけだ。

 

 




 ※※※





 それからは、恐るべきスピードで話は進んだ。

 僕達が希望していた物は全部揃ったし、畑も作れた!エリゼやジスランも古着なんかをくれたし、設備も充実してきた。

 今では、少ないけど午後のおやつもあるのだ!

 うーん、やっぱお金は偉大ですね。家具は当初の予定通り、ドワーフ職人に作ってもらったのだが…ちょっと、ね?ズルじゃないけど…楽させていただきました。




 家具屋にて。


「太一、五右衛門、七味。君達はベッド担当、この形よーく覚えて!

 次郎、三助はテーブル担当。あの大きいの、見といてね。

 よっちゃんは椅子、ろくろは棚!」


 商品を実際にドワーフ職人に見せて、同じ物を作ってもらいましたー!!

 ごめんなさい、いつか必ず買い物に来ますから…!とお店の人に心の中で謝罪し、また教会は豪華になる。



 ただ1つ。職員問題だ。

 自力で教会に辿り着けないようじゃ話にならず、結局…セージとミントが就職することに決まった!!もちろん、本人達の希望あってのことだが。

 だが彼らだけじゃ回らない。ちびっ子達も協力してくれてるけど、特に食事面の改善が必要。

 なので僕も休暇を返上し、料理を重点的に練習した。その甲斐あって、失敗することはあるものの本を見ながら色々作れるようになった!








 そして生活も落ち着いてきた頃、僕は年長組皆で考えた院則を発表した。

 やっぱり規律は必要だ。今はまだいいけど…いずれ問題になる。というかすでに悪ガキいるし。

 自分より小さい子をいじめたり、割り込み、物を奪ったりする子供。その場で注意するだけじゃ、そろそろ効かなくなってきた。


 

 院則はまず大前提として、暴力などの倫理的にアウトな物は除外してある。校則に「人を殺してはいけません」なんて書いてある学校ないっしょ?…あったらゴメン。




「まず!決められた当番は守ること!」


 すでに掃除当番などは決まってる。それを守らない子は…


「今度からおやつ抜きです。それでも聞かないなら、夕飯抜きです」


 僕がそう言うと、ブーイングがあがる。悪ガキからな。「ひいきだー!」とか言う声が聞こえるが…何を勘違いしている?


「当然でしょう?どうしてきちんと守っている子と、守れない子が同じだと思うの?

 外の世界でもね、仕事しなきゃお金貰えないんだよ?お金が無けりゃ生活出来なくて、最悪どうなるか…分かるよね?」


 最悪死ぬ。つい最近まで生死の境を彷徨っていた彼らなら…分かるはず。

 現に、僕の言葉に怯んで次の言葉が出てきていない。この子らがいつか立派に社会に溶け込めるよう…心を鬼にして厳しくしなきゃ!!



「困った時は助け合い。手を貸してもらったら、ちゃんとお礼を言うように」


「喧嘩をするのはいいけれど、言葉の暴力禁止!!「馬鹿」くらいはいいけど、「死ね」とか「嫌い」はダメ」


「物資は皆で分け合う!行き渡った後まだ余っていたら、じゃんけんだ!」


 じゃんけんはすでに、教会内に浸透している。教えたら皆これまたハマり、事あるごとにじゃんけんしているぞ。

 こんな感じで決まりを作り、守れない子はちょっとしたペナルティを与える。少しずつでいいから、ルールというものを覚えて欲しいのだ。





 もう最初の頃の貧しさはなく、子供達の笑顔も増えた。

 でも、やっぱ子育て?って難しいね。世の中のお父さんお母さん尊敬するよ、本当。

 欲しい物を強請られるままに与えちゃ駄目だし、欲しい物を口にしない子も読むのが難しい。

 皆いい子で育ってほしいけど…グレる子も出てくるだろうな。そういう時の為に、やっぱ院長必要だよね…。今は僕が仮で院長してるけど、やっぱ大人探そう!




 それと…まだお墓には手をつけていない。


 あれは、補助金で解決しちゃいけない気がする。


 いつか必ず立派なお墓を建てるから。僕が、自分で稼いだお金で。

 だからもう少し…待っててね。


 



 こうして僕の初の長期休暇は、孤児院問題に全て費やすこととなった。

 

 そしてまた、学園生活が始まる。






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