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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園1年生編
20/222

17



「ふむふむ…夏に植えるならキャベツとか白菜、大根かな?玉ねぎ…じゃがいもとか欲しいなあ…。あ、秋じゃがならオッケーか!とうもろこしは時期が駄目かな…残念」



 家に戻った僕は、農業の勉強中である。あの広い…多分東◯ドーム1つ分はありそう(行ったことないけど)な土地に、小さな畑を作りたいのだ。

 でも土づくりとか肥料とか、素人が簡単に出来ることじゃないよね。誰か農業経験のある人に職員になってもらいたい。

 

 本屋で買ってきた本を片手に唸っていたら、ノモさんが僕を杖で突ついた。

 …え、土づくりしてくれるの!?そりゃ助かるけど!アクアは栄養満点の水を撒いてくれるですって?うーん、精霊に依存しそうで怖い…。

 そうだ、栄養満点といえばあの果実。実際栄養失調気味だった子供達も、2日ほどで歩き回れるくらい回復してたよね。重症だった4人は、今はもう元気いっぱいだ。


 あれ、甘くて美味しいし種植えてみよう。でも植えてから芽が出て木になって実が成るまで、何年かかるやら…まあ一応やってみるか。



 さて、そろそろロッティ達が来る時間かな。と思っていたら、ナイスタイミングで扉がノックされた。

 今日は話し合いと、一緒に課題をやるのだ。学生だからね。

 現れたロッティは、にこにこ顔で手紙を持っている。

 


「お兄様!これ、皇宮から返事来たわよ!」


「はっやっっっ!!?」


 うっそでしょ、昨日出したばっかだけど!?今日まだお昼過ぎなんですけど!?そりゃ早いに越したことはないけども、仕事が早すぎる!!

 部屋に戻り、一緒に中身を確認することに。どれ…。



「明日お偉いさんが孤児院の視察に来るのか…建物だけやたら綺麗だけど、大丈夫かな?」


「そこは正直にお兄様の精霊が綺麗にしてくれた、でいいんじゃない?他に必要な物が足りていないのは、見てもらえれば分かると思うわ。

 それと…お兄様、どうして朝食の席にいなかったの?お父様は「あいつが拒んでいる、今後同席する気は無いと言っていた」とかほざい…言ってたけど。嘘よね」


 あー、あの人そう言ってんだ。



 この屋敷の人間で、僕に好意的なのはこのロッティとバジルだけだ。

 伯爵は言わずもがな、母上…夫人も伯爵至上主義なので、彼に倣って僕の事を疎ましく思っているはず。

 使用人達は中立。だが屋敷の主人が伯爵なので、彼の言葉を最優先する。多分、食事も「用意して」って言わないと持って来てくれないよ。

 それに、彼らは常に僕とロッティを比較する筆頭だ。彼らが僕の事をどう思っていようが、僕は皆嫌いだよ。

 ハッキリ言って、僕良い子ちゃんじゃないから。嫌いなもんは嫌い。



 ロッティには昨夜の事を全て話した。彼女は子供達に直接関わっていない、と口裏を合わせてもらう必要もあるし。

 だが彼女は、僕の言葉を聞き終えるとテーブルに手をつきソファーからゆらりと立ち上がる。

 額には青筋を立て、おおよそ淑女がしてはいけない形相だ…!どす黒いオーラも見える…!!



「お兄様…今すぐお父様を暗殺しましょう。大丈夫、彼に恨みを持つ者は多そうだから容疑者は絞れないわ。

 それか馬車による事故死に見せかけましょうか、それとも眠らせた後に屋敷を燃やしましょうか?

 お母様は実家に帰ればいいし、使用人にも全員暇を与えましょう。再就職先は保証しないけど。

 私とお兄様、バジルは教会で暮らすの。それが良いと思わない?いえそうするべきだわ…!」



 あ、あの…ロッティさん?テーブルの縁が…指の形にくり抜かれてますが?握力ゴリラ超えてませんか??

 普段穏やかな彼女がここまで怒りを露わにするなんて…!


 というかロッティは、使用人の事は嫌っていない。皆ロッティには好意的だし親切だし、僕を蔑ろにしている訳でもなし。なのに突き放して平気なの?



「?彼らの優しさは偽りのものよ。いざという時は簡単に私の事も見捨てるわ。

 本当に窮地に陥った時…私を守ってくれたのはお兄様だけだったもの」


「??なんの話?」


 まるで実際にあったかのような物言いだね。でも僕、心当たり無いけど…?



「……ふふ、秘密よ!」


 そう言って笑うロッティは少し冷静になったようで、こほんと咳払いをしてソファーに座り直した。

 結局、なんの話だったのか教えてくれなかったけど…いつか分かる日が来るのかな?






 課題は早く終わらせて、明日の話に移る。視察に何人来るのか分からないけど、僕とロッティで案内しなくちゃいけない。

 僕が出しゃばると伯爵が煩いだろうから、この屋敷でのもてなしはロッティに任せようっと。



「あと、補助金貰えたら商会長と町長を屋敷に呼ぼうか」


「孤児院用の買い物ね。町長はなんの為に?」


「領民に呼びかけて、古着とか集めてもらうの」


「そうですね、貴方達が家を回る訳にもいきませんし」


 もちろん古着も、無理のない範囲でね。


 ただしその話し合いの場には、伯爵も参加するだろう。なので僕は不参加として、バジルに控えていてもらおう。

 という訳で、必要な物をリストアップしていく。寝具、衣類、食材…畑をやりたいから、最低限鍬は必要。あと家具…ん?


「どうしましたか、坊ちゃん?」


「いや、ドワーフ…ろくろが、「木材と設計図さえ用意してくれれば自分達が家具を作る」って言ってくれてる…」


「まあ!でも…いいのかしら…?」


 

 うーん、僕は彼らに碌にお礼をあげられない。たまーにお酒を持ってくるか…言葉でしか喜びを表現出来ない。

 でも材料費だけで済むのなら、お金を別の事に回せる。美味しい物をいっぱい食べさせてあげられる。うーん…。

 そう悩んでいたら、ドワーフ達がテーブルの上によじ登り横に並んだ。



 何…自分達は物作りが生き甲斐だ。他の精霊は主人と共に自然の中で過ごせれば満足だが、自分達は違う。

 物を作る事、そして主人が喜んでくれる事が嬉しい。礼など不要、主人の笑顔が最大の報酬だ…ですって…?



 

 な、なんつーこっ恥ずかしい事を…!7人揃って何言っちゃってんの!?

 恥ずかしい…でもそれ以上に、嬉しい…!

 そんな、そんな事言われたら…



「じゃあ…お願いしちゃおうかな?」


 ってなるじゃん!

 ドワーフ達は「任せろ!」と斧を振り回す。危ないからやめてね、ほらこっちおいで。…本当に、僕は恵まれている。


 んん?何やら視線を感じる…?



「ロッティ…何してるの?」


「お兄様の尊い姿を記録しているのよ」


 なんですって?彼女が手に持っているのはカメラだ。まだ希少品で高価な為、一般流通はしていない。去年の誕生日に伯爵がロッティに贈った物だったかな。

 ねえ、何枚撮ってるの?めっちゃ連写してない?心なしか息も荒い。


「そんなに撮って面白い物あった?」


「精霊と戯れるお兄様。ドワーフ達を愛で周囲をニンフとシルフとウンディーネが飛び回り、ノームは肩の上に、サラマンダーは頭の上に…。

 可愛いお兄様と美しい精霊達が合わさり革命が起きているわ。ポーズちょうだい」


 え、こう?いえーい。

 精霊達も一様にポーズとキメ顔を作る。そしてまた撮るロッティ、後ろから観察するバジル。まあ…君達が楽しいならいっか!!



「あれ、坊ちゃん。精霊は皆ここにいるのですね」


 バジルが気付いたように言う。うん、どうやら教会の警備は必要無いみたい。

 なんだかあの土地、天然の結界みたいのが張られてるらしいんだよね。助けを求める子供を招いて、悪意ある者を遠ざける。だから大丈夫…ってラナが言ってた。


「なるほど…だから僕もあの時辿り着けたのですね」


 そゆこと。詳しくは分からないけど…元々皆僕と一緒にいたいって言ってくれて、それで契約したんだから。なるべく一緒がいいんだよね!



 




 次の日。予定通り皇宮から視察団が来た。

 馬車が見えたので玄関の外で待機。精霊達は、先に教会に向かっている。

 一応公の場だからさ、可愛い子達が周囲にいたら僕の気が緩むというか…ね。


 視察かぁ、優しそうな人だといいけど…降りてきた!!

 まず年若い男性。何故かその男性は苦い顔をしている…?次に降りてきたのは、眩しい金髪の——…

 


「……は、はあっっ!?」


 思わず叫んでしまった。僕だけじゃない、ロッティも伯爵もだ。




 いやだって…皇太子殿下が来るとは思わないじゃん!!!?



 しかも第二皇子殿下に、ランドール先輩も!!?何やってんのこのトリオは!!!

 ま、まあランドール先輩はおかしくないか。でも皇子2人は駄目でしょう。

 お忍びなのか地味めの服装をしているが、彼らの高貴オーラは隠せていないぞ。子供達怖がらないかな…。



「…っ、皇太子殿下、並びに第二皇子殿下にご挨拶申し上げます。

 この度は殿下方直々にお越し頂き、恐悦至極に存じます」



 呆けていた伯爵が挨拶をし、僕とロッティも倣う。許可が下りたので顔を上げると、皇太子殿下と目が合った。相変わらず眉間の皺すごいですよ?



「どうぞ屋敷にお入りくださいませ、今—…」


「結構だ。緊急と聞いている、すぐ孤児院に向かう」


 伯爵の言葉を遮り、皇太子殿下は言い放つ。かぁーっこいーい!!

 殿下に取り入ろうったって無駄だぞ、軽くあしらわれた伯爵はたじろいでいる。



「か、かしこまりました。それでは我が娘がご案内致します」


「はい。では皆様、我が家の馬車の後に続いてくださいませ」


 うーん、ロッティも驚いていたんだけど復活早い。いつもの営業スマイル(最近本当の笑顔と営業を見分けられるようになってきた)で案内を始める。

 当然僕もついて行くが、伯爵からすんげー睨まれている事に気付いた。

「余計な真似をするな」「お前は行くな」とかかな?でも残念、聞く義務はありませーん。


 案内役としてバジルも含めた僕ら3人が、先導する馬車に乗り込むのだが…



「へ?」


「お前はこっちだ」


 

 …はいぃ!?なんで僕は、皇太子殿下に抱っこされてるんでしょうか!!?

 両手で脇の下を抱えられ、何故か2〜3回上下に揺らされ、そのまま馬車に連れ込まれ


「少々お待ちを。失礼ながら皇太子殿下、お兄様をどうなさるおつもりで?」


 連れ込まれる前に、ロッティが僕の手を掴んでくれた。本当だよ、どうするつもりさ!?



「彼はこちらの馬車に乗せる」


「あら?でもそちらの馬車は4人乗りでございましょう?お1人はどうなさるのでしょうか?」


「ふむ…グストフ、お前は向こうに乗せてもらえ」


「いやいや、何を仰っていらっしゃいますか殿下」


 グストフと呼ばれたのは、最初に馬車から降りてきた男性。なんであんな苦い顔をしていたのか分かった、この人苦労人タイプだわ。



「殿下、まずラサーニュ君を下ろしましょう」


「断る」


「いえ、返していただきますわ」



 ひいいい!!ロッティのゴリラな握力で僕の腕潰れちゃうううう!!!

 なんとかその事に気付いたバジルに止められ、手の力を抜いてくれたが。


 あの、ロッティ。なんか対抗心燃やしてない?闘る気満々な顔してますよ?

 相手が皇太子殿下であろうとなんのその、伯爵が蒼い顔をしていようとお構いなしである。



「そちらのグストフ様が我が家の馬車にお乗りになるというのであれば歓迎致しますわ。

 しかしお兄様をそちらに乗せる必要はございませんことよ?」


「同じ学園の先輩後輩として親睦を深めようと」


「あらあら、では私とバジルも後輩ですわ」


 ね?とロッティはバジルに同意を求めるが、哀れバジルは固まってしまっている。

 敬愛するお嬢様の肩を持つか、皇国の次期皇帝である皇太子殿下につくかで脳がオーバーヒートを起こしているのだろう。

 多分ロッティの命の危機とかだったら迷わず動くだろうけど…現在命の危機はどっちかっていうと彼のほうだからね。そして僕。


 ちなみに今の状況は、皇太子殿下が左腕に座らせるように僕を抱え、ロッティは僕の左腕をがっちり掴んでいる。

 わー、殿下力持ちー。5歳しか違わないのに、まるで大人と子供。ちょっと楽し…とか言ってる場合じゃない!!!



「お兄様は私と乗るのです。どうしても殿下がお兄様と同席されたいと仰るのならば、私もそちらに乗せていただきますわ」


「ロッティ!?」


 伯爵の叫びを、視線だけで黙らせるロッティ。

 確かに彼女の発言は不敬かもしれないが…頑張って!なんせ僕、当事者なのに口を挟む余裕がまるで無いんだ!!


「それは別に構わないが。ではルクトルかランドール、どちらか降りろ」


「「お断りします」」


「あ、私が降りるのは確定なんですね」


 なんというか、グストフ様はバジルに通じるものがある気がする。仲良くなれそう。

 しかしこのままじゃ、こっち(皇家)の馬車が5人になってしまう。誰が降りるかで揉め始めたぞ。

 あの、急いでるんですよね?急いでるから屋敷で休みもせずに教会に向かうんですよね?いつまで口論してるんですかね…?



「このままでは定員オーバーですわね。では当初の予定通り、お兄様はこちらへ」


「いいや、ならば私もそっちに乗せていただこう」


「まあ、偉大なる皇太子殿下をお乗せするなど…畏れ多い事ですわ」


「それに僕もラサーニュ君と一緒に乗りたいので駄目です。ランドール、お前が降りるといいですよ」


「お断りします。我々の中でセレスタンと最も親しいのは俺ですので」


「まあ、ナハト様はお兄様をファーストネームで呼ぶほど親しい間柄でしたのね?私、お兄様の妹であるというのに全く存じませんでしたわ」


「あ、うん。ちょっとね…」



 名前で呼ばれたのは初めてですがね。それは良いとして…すでにこの状態で10分ほど経過していますが。早く行かない?

 それと殿下、腕疲れてないの?僕の体重を片腕でずっと支えているのに、震えもしていない。凄いなー…格好いい…。



「?ラサーニュ君、どうしましたか?」


 皇太子殿下の後ろに控えていた第二皇子殿下からは、僕がキョロキョロしているのがバレた。いや、腕の筋肉見たくて…とは言えない。ここは当たり障りなく…


「そ、そのー…皇太子殿下、力持ちだなー…と思いまして…」


 なんか子供みたいな感想で恥ずかしい…!!プシュウウゥ…と音を立てながら、僕の顔は真っ赤に染まる。早く下ろしてください、これでも僕女ですので!!今更羞恥心に襲われてきたぞ…!!




 その様子を黙って見ていた皇太子殿下とロッティ。すると名案だと言わんばかりに、彼はこう提案した。


「そうか、私が彼を膝に乗せればいい。行くぞ」


「「はいい!?」」


 今のは僕とロッティの声だ。何言っちゃってんのこの人、この変態皇子!!!



「おほほほほ何を仰いますか。でしたら私がお兄様の膝の上に乗りますわ」


「「なんで!?」」


 今のは僕とバジルだヨ!もうどうにでもなれだよ!!!





 結果。

 伯爵の馬車:バジル、グストフ様。


 皇家の馬車:僕&ロッティ、隣に皇太子殿下。向かいに第二皇子殿下、その隣にランドール先輩。




 こうして地獄の時間がスタートするのであった。



 

 

トリオを書くのが楽しすぎる。

グストフは新人文官(18)。学生時代に皇太子と交流があり、彼の本性も知っている為割と気安い。

今回は先輩文官と一緒に来る予定が、無理やり交代した皇子2人が来てしまった。お目付役と称して宰相の息子もくっ付いてくるもんだから、彼は学生時代を思い出して胃を痛めている。

「なんでもいいから早く帰りたい」

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