72(終)
もう参列客の殆どが入場したと報告があった。
わたしは控え室の鏡の前でくるっと回り…うし完璧!
顔にはナチュラルメイクが施され、ワンポイントに薄桃色の口紅を。
コルセットを限界まで締め、ボリュームのあるパニエで腰の細さを強調する。ドレスには幾重ものレースが施され、金色の刺繍で豪奢さを演出。腰には青藍のリボンを付けている。
胸元には白銀色のコサージュを。そしてパスカルの誕生石であるムーンストーンのネックレス。
ティアラはわたしの誕生石であるタンザナイトをメインにした逸品。うーん…我ながら美しい…パスカルもメロメロ待ったなし。なんつって!!
ガッツポーズをキメていたら扉がノックされ、ロッティが入ってきた。
「わ…お姉様素敵…!私と結婚して!」
「ええ…ジスランとパスカル置いて、逃避行しちゃう?」
なんて言って、互いに吹き出した。一緒にルネちゃん、木華、ペレちゃんも姿を現し、ほんのり赤くなりながら「可愛い」「綺麗!」と口々に褒めてくれたぞ。
そろそろ時間なので、4人は先に教会内に…みんなハンカチは持ったな!?行くぞ!!!
教会の前でお父様が待っていた。わたしの姿を見ると破顔し…「いつも可愛いけれど、今日は一段と綺麗だ」と手を差し伸べる。
腕を組んで、扉が開くのを待つ。うー、緊張するう…!
後ろを見れば、ガーデンパーティーの準備も進んでいる。今日はいい天気で、風も穏やか…良い日に恵まれました。
空を眺めていたら、周囲にいた警備達が祝福の言葉を沢山くれた。
「いやあ、なんとも美しい!!パスカル君は果報者であるなあ!!!」
「あり…がとう、ござ…耳がぁ…」
「ラブレー…頼むから、少し静かにしていてくれ」
「これは失敬!!!」
お父様のお陰で、なんとか静かになった…ほっ。
その時…扉がガタガタ言っているような。入場にはちと早いが…?
「なんで…義父上はともかく、他の男が先にぃ…シャーリィの花嫁姿を見るう…!!」
「アホかお前、自分の場所に戻れ!!」
「式はもう始まるぞ!」
オウ…パスカルがこじ開けようとしてやがる。頑張れ、エリゼにルシアン!
お父様が「とっとと戻れ!娘返してもらうぞ!!」と言うと、スゴスゴ去って行く気配が…そして響く笑い声。何やってんの…もう。
…ガサ
ん?教会脇の林檎の木が…揺れた?鳥かなあ…。
「(ふふん、パスカルより先にお嬢様の花嫁姿を拝んでやったぜ。…おれのブレスレット、付けてくれているんですね。
…やっぱ未練あるなあ、おれ。それでも…お嬢様。どうか、お幸せになってください…)」
数分後、今度こそ入場だ。わたしはベールを被り…お父様の腕をぎゅっと握り、顔を合わせて頷いた。ブーケを握り締めて深呼吸…うん。
「新婦、シャルティエラ・ラサーニュ様。並びに新婦の父、オーバン・ラウルスペード様の入場です」
バティストの言葉と共にゆっくりと扉が開かれる。緊張するけれど…大丈夫、落ち着いてる。
ゆっくりと…一歩一歩踏み締めて、ヴァージンロードを歩く。左右から、ほぅ…という感嘆の声が漏れていてちょっと恥ずかしい。
精霊達も皆大人しくしている、よかった。ヨミはちゃっかり家族席にいるけども。
さて…祭壇の前で待つ、わたしの旦那様。
彼のタキシードもわたしがデザイン案を出した。白を基調とし、美しい金の刺繍が目を惹く。タイは緋色の物を、胸にはわたしのと同じコサージュ。
背筋を伸ばして佇む姿は…格好いいなあ。こっちがメロメロになっちった。
彼は微笑み、わたしを真っ直ぐに見つめてくれる…最愛のひと。ついに彼の元までやって来た。
お父様は最後に、わたしの手を強く握った。そして小声で…「幸せに、俺の愛娘」と言って離れていく…もう泣きそう。
パスカルと並んで立ち、前を向く。目の前にはすでに伯父様が。
バティスト司会の式は進み、お揃いの衣装に身を包んだ孤児院の子供達が廊下のドアから入って来た。緊張しながら壇上に並び…ロッティがオルガンを、ルネちゃんがハープで演奏を始めた。ふふ、可愛い聖歌隊さ!
お客様も一緒になって聖歌を歌う…歌詞忘れた。カンペ…無い!!雰囲気で歌おう!ふんにゃらは〜ほほんがほぉん…パスカルと伯父様が肩を震わせている…。
終了後、子供達が「おめでとうございます」と小声で言いながら退場。ありがとうね!
「それでは誓いの言葉を」
「ごほん…新郎、パスカル・マクロン」
「はい誓います!!」
「まだ言ってないよ」
パスカルのフライングに、わたしも後ろの人々も吹き出した。何やってくれてんの、厳かな雰囲気飛んじゃったじゃん!
全く…仕方ないなあ。
「もう…新郎、パスカル・マクロン。
貴方は新婦、シャルティエラ・ラサーニュを妻とし。健やかなる時も。病める時も、喜びの時も。悲しみの時も。富める時も。貧しい時も。
これを愛し、これを敬い。死が2人を分つまで…愛する事を、誓い」
「誓います!」
「最後まで聞きなさいよ」
ンフフっ。後方から、すすり泣く声と笑いを堪える声が聞こえてくる…どんな結婚式だよ。
呆れながらも伯父様が、わたしにも同じ言葉を掛けてくれる。
「新婦、シャルティエラ・ラサーニュ。貴女はパスカル・マクロンを夫とし。ボ…あっ」
「「ブッフェ!!」」
伯父様、ボケた時もって言おうとしたな!!?ふざ、ふざけんな!!ふ…ふふ…!
周囲が騒めいている。なんせ新郎新婦が、腹抱えて蹲ってるからね!伯父様だけ涼しい顔してんのが腹立つ!
ふう…なんとか治まった。気を取り直して、今度はきっちり言ってもらったぞ。
「死が2人を分つまで、愛する事を誓いますか?」
「はい、誓います」
わたしの返答に、わあっと声が上がった。
「では…指輪の交換を」
伯父様が、スッとトレーを差し出した。向かい合いまずパスカルが…わたしの指に嵌める。
「シャルティエラ様。貴女と出会ってからこれまで、沢山の出来事がありました。これからも平坦な道ではないでしょうが…どんな困難も、貴女と一緒なら全て乗り越えて行けます。
貴女は俺の太陽です。どうかいつまでも輝き…俺の隣で笑顔を見せてください」
彼の言葉に、また涙が出そう…堪えろわたし!笑顔で頷き、今度はわたしが彼の大きな手を取った。
「パスカル様。わたしは幼い頃から、ずっと苦しみの中生きてきました。沢山の人に祝福されながら、愛する人と結ばれる未来が来るなんて…夢にも思っていませんでした。
貴方はわたしの道標、暗闇から掬い上げてくれた光です。どうかこれからも…この手を離さないでください…」
左手の薬指に指輪を嵌めて微笑んだ。見つめ合い、ぎゅっと手を握る。
そして、誓いのキス。わたしは少し俯き目を瞑り、彼がベールをゆっくりと持ち上げる。
彼の手が離れたところで、顔を上げて目を開けた。…ようやくベール越しでない、パスカルの瞳が見えた。
彼は一瞬だけ目を開き、すぐに細めた。両腕を優しく掴まれて…2人の顔が近付く。目を閉じると、唇に柔らかく温かいものが重なった。同時にきゃああっ!という黄色い悲鳴が響く。
2、3秒で離れたけれど、もう少ししていたかっ…おおい!!毒されてる気がする…!!
気恥ずかしくてパスカルから目を逸らすと、頭上でふっと笑う声が。余裕だな君は!
んもう…!と内心怒りながらも参列客のほうを向くと、女性陣は紅潮した頬や口元に手を当てて目を輝かせ。男性陣は笑顔でわたし達を見ている。
目に涙を浮かべている人も多いわ。お父様なんてがっつり泣いて、ハンカチで顔を覆っているよ。…ありがと、お父さん。
ただ、それよりわたしは。お父様の隣のロッティ…の、隣。そこにいる彼、が…
『………姉ちゃん…』
ラディ兄様が。はらはらと涙を流しながら…わたしを凝視しているのだ。
※※※※※
俺は物心ついた頃から、繰り返し同じ夢を見ていた。
何処かの国の、病室のような場所で。見た事のない魔道具が沢山あって…そこからいくつもの管が伸びていて。
それは1人の少女に続いていた。よく分からないが、それが彼女を生かしている事は理解出来た。
その少女は艶のない黒髪で、目を閉じているので瞳の色は分からない。頬は痩けて手足は枝のように細い…その様子は見ていられない程だった。
俺はこんな少女は知らない。知らない、はずなんだが…どうしてか、彼女を『姉ちゃん』と呼ぶ自分がいる。
『…姉ちゃん。起きて…目え覚ましてくれよ。
見てくれよ、このトロフィー!オレ全国大会の個人戦で優勝したんだよ!おめでとうって…言ってよ…』
『……………………』
オレは必死になって姉ちゃんに呼び掛けるけど。ここ数ヶ月…まともに目を覚ましてくれていない。
頼むよ…起きて、元気になって。一緒に駅前のカフェに行こうよ。縁日にも行こう、今度はちゃんとお小遣いの配分考えてな。
オレが中学生になった頃から…姉ちゃんは未来の話をしなくなった。元気になったら何がしたい、何処に行きたい!と笑顔で言っていたのに。
多分、悟ってしまったんだろう。自分はもう…外には出れないって…。
姉ちゃんにとって、この病室が世界の全てだった。だから…オレは家族の話、学校での出来事、日常の話を沢山した。
元気を出してくれるかなって思った。だけどそれは逆効果で、姉ちゃんは『もうやめて!!私に希望を持たせないで…!』と声を上げて泣いた。オレが…追い詰めてしまった…
これは、ただの夢だ。俺は…ランドール。ユーヤなんて名前じゃない。姉ちゃんなんて、いない。
だが、目を覚ます度に…言い知れぬ悲しみに襲われた。心臓が強く脈打っていて、喉が痛くて溢れる涙が止まらなかった。
昔は年に2〜3回だったのに、成長するにつれ夢を見る回数も増えていった。そして、あの日…。
生徒会室で…初めてセレスタンに会って言葉を交わした時。この子はただの後輩、特別な感情なんて無いはず、だったのに。
何故か俺の心は喜んでいて。あの子の笑顔を見ると、たまらなく嬉しかった。それ以降すれ違う度、目で追うようになった。それと同時に、ほぼ毎日少女の夢を見るようになった。
そしてルシアン殿下と衝突した現場に居合わせて。俺は…殿下の胸ぐらを掴み、大粒の涙を流しながら叫ぶあの子の姿を見て。
セレスが夢の中の少女と重なって見えた。誰もいない病室で…『死にたくない…!もっと、生きたい!!』と叫んでいた、彼女と。オレはその時、廊下で1人涙が止まらなかった。
夢の中の少女とセレス、全然似ていないのに…どうしても他人には思えなかった。
オレ…俺、は。もう失わない。今度こそ…姉ちゃんを守り抜く。
そう決意した日から、少女の夢を見る事が無くなった。
※
『………姉ちゃん…』
『…………優也…?』
俺の視線の先に、純白のドレスを纏い目を大きく開く妹がいる。姉ちゃんではない、妹だ。だが…
…そっか。ようやく合点がいった。どうして俺が、あれ程までシャーリィに拘っていたのか。
お前の笑顔が、怒っている顔すら愛おしくて仕方なかった。泣き顔だけは見たくないが…きょうだいとして、側にいたかった。
そして今。お前は…昔からの夢を叶えたんだな。
イケメンで、高身長で、高学歴…で、金持ちで。頭が良くて、運動神経も抜群で…お前だけを、愛してくれる人。そんな男を、見つけたんだな。
俺はシャーリィの隣、パスカルに目を向けた。奴もシャーリィ同様、俺が泣き腫らす姿に唖然としている。
…信じてるぞ、この野郎。絶対に…シャーリィを守ってくれると。
「おい、お前どうした…?」
後ろから俺の肩をルキウスが揺らす。そりゃそうだ、突然大の男が号泣してるんだからな。クレールさんと結ばれた時も、クレイグとレオノールが生まれた時もこれほど泣きはしなかった。
ルクトルも、シャルロットも、周囲の人が戸惑いを隠せずにいる。そうしているうちに…シャーリィも一筋の涙を流した。…彼女はきっと…ずっと前に思い出していたんだな。
『……おめでとう、シャーリィ。もう、死にたくないと枕を濡らす事は無いな?』
『…うん。今はもう、元気いっぱい走り回っているよ。春にはお花見をして、夏には海で泳いで。秋は紅葉を楽しんで、冬は雪遊び。なんでも出来るんだよ。
……ありがとう。ずっと側で、見守ってくれていて』
『いいんだ、俺がそうしたかったんだ。それも…お役御免だな』
「どうしたんだ、2人共…?急に漢語を使って、一体なんの話を…?」
『『……秘密』』
「ええ〜…?」
俺達は涙を拭き、笑顔でパスカルにそう言ってやった。いいじゃないか、夫婦だからってなんでも教えて貰えると思ったら大違いだぞ。
シャーリィとパスカルの指に輝く指輪を見る。うん…もう大丈夫。
俺はきっと…この瞬間に立ち会う為に生まれて来たんだ。両親の分まで、あの子の幸せを見届ける為に。
さて、式を中断させてしまったな。
進めてくれ、と言えばファロさんが仕切り直した。
結婚式も終盤。後は2人が退場をする流れらしいが…突然、礼拝堂の扉がバタン!!と開く。
身構える警備、女性の悲鳴がこだまする。そんな中俺は思わず「「乱入イベントか!!?」」と叫んだ。ん…?今、ステレオ感が…?
周囲を見渡すと、握り拳のシャーリィと目が合って…ははっ!揃って笑ってしまった。
それよりも、開かれた扉から…うわっぷ、突風が!?ん?なんかヒラヒラと…色とりどりの花びらが、宙を舞っている?
かと思いきや霧のように水が漂い、室内に虹が掛かった…幻想的な風景に、誰もが言葉を失う。
更に火の粉が舞い始めた。それらは全て、床に落ちる事なくふわふわ浮かんでいる。花と、水と、火…まさか?
「ドライアドとリヴァイアサンとフェニックスだな。奴らなりの祝福だ」
風の精霊様が、欠伸をしながらそう言った…凄いな。人間の結婚を最上級精霊が直々に祝うとは…あっぱれだ。
精霊の仕業だと分かると、誰もが肩の力を抜いた。
「きゃっ!?」
んっ?いきなりパスカルがシャーリィをお姫様抱っこして、扉に向かって走り出した。
「ありがとう、精霊達!貴方達の心は確かに受け取った、俺達は必ず幸せになる!!」
と、外に叫ぶ。俺達も一拍遅れて外になだれ込むと…ガーデンパーティーの準備が整っていた。じゃなくて、精霊様達の姿はどこにも無かった。
流石、気まぐれだな。俺はルキウスとルクトルと顔を合わせて、ため息をつく。
「ちょっと、パスカル!」
「このまま控え室へ行こう」
シャーリィを抱っこしたまま、パスカルは新婦の控え室を目指して歩き出す。シャーリィは口調は怒っているものの、その表情は楽しげだ。
パスカルの首に腕を回し、子供のように無邪気に笑う。ライスシャワーする?パスカルには炊き立てのご飯を…あ、米がねえや。
「君の控え室は教会内でしょうが」
「夫婦なんだから同じ部屋で着替えてもいいじゃないか!!義兄上だって妻の服は脱がせていいって言ってたぞ!?」
「にーさまーーー!!?」
ごんっ!と…俺は扉に頭を打ち付けた。違う誤解だ!!確かに言ったけど…そういう意味じゃない!!
「ちょっとランディ君、貴方何吹き込んだの!?」
うお!クレールさんが、真っ赤な顔で詰め寄って来た。だから、その…………
「あーーーっ!?ちょっと、待ちなさーい!!」
説明を諦めた俺は逃げた。クレールさん、ルキウス、ルクトル、タオフィ君が追い掛けてきて大捕物が始まってしまった。
まあすぐ捕まってグルグルに縛られたんだけど。
「はーい、お色直しの前に皆さんで写真撮りましょう!並んで並んで〜!新郎新婦は真ん中ですよ」
おっと、ファロさんが大きな声でそう言った。教会を背に集合写真か、俺も…解けよコレを!!?
「そのままでもいいじゃないか、思い出だぞ」
「一生忘れられませんね」
ぐぎぎ…!足まで縛られてるから、蹴りをくれてやる事も出来ねえ!!この幼馴染共がぁ…!と憤っていたら、シャーリィが笑いながら解いてくれた。
「いやあ、大騒ぎだね。でもやっぱ…このくらい騒がしいほうが、わたし達の結婚式には相応しいかも!
…兄様。わたし達はこれからも…兄妹だよ。ね、兄様!」
「…ああ、そうだ。お前は、俺の可愛い妹だよ」
自由になった手で、セットを崩さないように頭を撫でた。彼女の腕を取り、皆が待つ教会へ向かって歩を進める。
こうやって馬鹿騒ぎが出来る事、それがたまらなく嬉しい。目頭が熱くなるのを感じ、急いで天を仰ぐ。
何よりシャーリィが自分の足でしっかりと歩く姿を見ると…駄目だ、また泣きそうだ。情けないな…
もうこれ以上、涙は流さない。そう決めたから。
…さようなら、姉ちゃん。
※※※※※
「シャーリィ、まだ怒ってるか…?」
「んー?最初っから怒ってないよ!」
「そっか、よかった!」
わたしはまた、パスカルの腕に抱かれている。まず2人で写真を撮るんだけど…恥ずかしいので早く終わらせて欲しい。
次に両家の家族と。もちろん、兄様もね!
ランドール兄様…貴方が何者であろうと、わたし達は何も変わらない。…話したい事は沢山あるけれど…それはきっと駄目なこと。そうでしょう?
パスカルのご家族と、わたしの家族。そして精霊達と写真を撮る。次は友人達と、パシャっとね。
「ん?」
「どうしたんですか?」
「あ、いえ。今林檎の木に人影が…気の所為ですね!」
え、怖。写真家さんはそれ以上何も語らず…ロッティは青い顔でジスランの腕を捻っている。(後日現像した写真を見たら…グラスがピースで映り込んでいた。いたんか君は!!!)
最後に、参列客全員で集合写真!大盛況の中パーティーも無事に終わった。
大好きな人達に囲まれて、かくしてわたしの願いは叶った。
パスカルと繋ぐ手に力を入れる。彼は穏やかに微笑み、握り返してくれた。
わたしは彼を、今後生まれてくる我が子を…この手で守る。そう決意を新たにし、未来に進む——
※
「シャーリィ、まだいたのか?」
「ん?どうしたの」
「こっちの台詞だよ。今日は君の団長就任式だろう?早く行かないと」
「う…プレッシャーに負けそうでね。ちょっと初心に帰ろうと思って…」
「それは…俺達の結婚式の写真か。はは、懐かしいなあ。
…もう、20年も経つんだな」
「まさかわたしが、モーリス卿の後を継いで騎士総団長になるとは…」
「女性初の騎士団長になった時も話題だったが、今日はその比じゃないだろうなあ。
まあエリゼも同時に魔術師総団長就任だし。俺も支えるから…さ、行こう」
「…うん。ありがとう、パスカル」
わたしは写真立てを机に戻し、夫の手を取り部屋を出る。
どれだけ月日が流れ、立場が変わろうと。変わらぬ温もりが、確かにここにあった。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
これはあくまでもシャルティエラの物語の為、これにて一旦完結です。
語られなかったキャラクターについては番外編として書いていく予定です。バティスト、フルーラ、ペトロニーユ等予定しておりますが、誰々のその後が見たい!というご希望があれば可能な限り頑張りたいと思います!
たまに読み返していただけると幸いです。




