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箏で過ごす間は、わたし達も着物を着付けてもらっている。…腰に刀を差すと極妻感半端ない…誰か通じてくれないかな…!騎士の皆は背中に剣を担いでいる。
『久しぶりね、シャーリィ。離れていた間のお話、沢山しましょう!』
『うん!でもルキウス様はいいの?』
『たっぷりお話したわ。それに今後は…いくらでも時間はあるもの』
へーい惚気いただきました!!箏に来てから5日、ようやく木華の予定が空いた。その為ルキウス様が気遣ってくれて、わたし達も再会を喜び合う。
『少那達、もう出発しちゃったんだね』
『去年のうちにね。急ぐ必要も無かったんだけど…命兄上が、未練を断ち切るまで貴女に会いたくないって』
そっかあ。でも…世界中を回れば、素敵な女性はいっぱいいるよ!
木華の部屋を男子禁制にし、薪名も座らせレッツトーク!
わたしはこの1年の出来事を余すとこなく語った。パスカルとの結婚、新生活。スタンピードが大変だった、弟が超可愛い!
などなど…次に木華の話も聞いた。彼女は特に変化は無かったようだが、ルキウス様との結婚報告に国民も祝福してくれたって笑った。
『あとね。命兄上のお墓を開けたら…当然中には人型しか入ってなかった。
兄上をすぐに認められない!って人達も、それで納得したわ。でも国民に公表はしていないの。
『おれは死んだ人間だ。民を混乱させる必要は無いだろ』って。でも王宮の人はシャーリィが命兄上の恩人だって知ってるわ。皆貴女に感謝しているのよ』
『そっか…皆やたら親切にしてくれると思ったら、そういう…』
王宮で出会う人々は、グランツから来たわたし達に好意的だったけど。特にわたしはめっちゃお礼言われるし色々貰うし。気のせいじゃなかったか。
グラスは王子としてでなく、一般人として生きていくと決めたんだね。旅が終わったら、剣士になって将軍目指すかなと言っていたって。…凪様のほうが大将軍って感じするけども。
で、薪名さんよお。ご両親には、ジェイルの事なんて話したん?
『……私の好きな人、で。生涯を共にしたい人と…言ってあります』
おいおいぃ…本気、なんだね。
ちなみにジェイルにも、薪名の事どう思ってんのか聞いてみた。中途半端な感情で、彼女を傷付けて欲しくないのでな。彼はこう語っていた。
「……そりゃ優しくて気が利いて、いい子だな〜とは思ってたけど。好かれてるとは、全然思ってなくて…。
でも振り返ってみると…鍛錬中オレにだけ「作ってみたんです」って菓子の差し入れくれたり。シャーリィがいない時に、姫様からの伝言をオレに言って来たり。
他にも…いつも可愛い笑顔を見せてくれてたし…格好いいですとか、お優しいんですねとか褒めてくれて…。
それと、しょっ中放置されるオレを見つけてくれるし。こんな子が嫁さんだったらいいのにな〜っては思ってたけど。姫様の侍女だし…告白する度胸は無かった…」
「気付けニブ男!!!」
そこまでされて、何故好意に気付かない!?
とにかく、ジェイルも少なからず好意を寄せていたらしい。ならば、外野が口出す事は何も無い。無い…が!!!
次の日。ジェイルがご挨拶に向かう運命の日!!!
「…なんでいるんだ」
「まあまあ」
城下のお屋敷の前で。わたしとジェイルは並んで門を見上げていた。
ガチガチに緊張しているみたいだから、付き添いです!彼も心なしかほっとした表情ですし。「魔物や犯罪者を相手するほうがまだラクだ…」とか呟いてるけど、比較対象がおかしい。
大きな屋敷も、長身のジェイルが歩くと小さく見えるわ。女中もビビって部屋に案内してくれた。
通された部屋に薪名とご両親が待っていた。ジェイルは恐る恐る足を踏み入れる。
『つ、つまらないモノです、が』
『ありがとうございます』
ジェイルは汗をかきながら、拙い漢語で手土産を差し出した。そんで薪名と並んで座り…わたしは斜め後ろに座った。
あ、わたしは彼の義妹で同僚でーす。と自己紹介をした。挨拶もそこそこに…ジェイルが背筋を伸ばして本題に入った!
『その。自分は、娘サン。真面目に…付き合い、所望する。シテマス。
まだまだ、過ごした時間、短い。だが…結婚…許してく…ください』
『お父様、お母様…どうか認めてください。わたしはグランツで、この方と一緒に生きたいんです』
薪名と揃って頭を下げる、つられてわたしも。するとご両親は…くすりと笑った。
『ジェルマン様、どうかお顔を上げてください。私共は、最初から反対する気などありません。この子が自分で決めたお相手ですし、あの気難しい咫岐も認めているんですから。
…出生から険しい道を生きてきた娘ですが。ジェルマン様となら、きっと大丈夫だと2人共言うのです』
出生?咫岐と双子ってのは聞いてたけど…なんか問題が?広いお屋敷だし、お嬢様育ちしてきたんじゃないの?
と首を傾げていたら…そこで衝撃的な事実を知らされた。
『え…お母様は元ご側室!?薪名は木華と腹違いの姉妹で、王女様って事!?』
「シャーリィ、訳してくれ…!なんか知らない単語混じってんだけど!」
聞き取れていないジェイルにも教えてあげた。すると顎が外れそうな程驚いているぞ。
詳しく聞くと、王の血を引いていても王族ではないんですって。
んと…薪名は皇后の侍女になるわけだから、準貴族の地位は与えられるんだけど…もっと強請る?要らない?そっかー。
ジェイルはびっくりしていたけれど、薪名が何者であろうと構わない。姫様も貴女も、オレが必ず守ると言ってくれた。
薪名は少し泣きそうになり…小さな声で「よろしくお願いします…」と言った。任せろ、わたしもお守りするぞ!
その後結婚を認めてもらい、ジェイルはご機嫌だ。箸と死闘を繰り広げる夕飯も終わり、屋敷を後にする。いやー…ジェイルが結婚かあ。変な感じ!
しかし薪名。以前は「国に帰っても両親が結婚を勧めて来て面倒なので、グランツに永住する!」って言ってたなあ。それが結婚報告の時は頬を染めて嬉しそうにしちゃって…お幸せに。
ブラジリエ家にも挨拶に行かないとな、と言いながらわたし達は王宮へと帰るのであった。
※※※
滞在期間は当初の予定では1ヶ月だった。だが海の移動が短く済んだので、2ヶ月に延長です!
箏のあらゆる場所に連れて行ってもらったり、剣士達と手合わせをしたりと忙しく過ごしていた。剣士達にミカさんを披露すると…
『おお…それが禍月の作品ですか!』
『禍月の性癖が詰まっているという刀!』
『若く美しい女性ばかりを持ち主に選ぶという禍月の刀!』
『しかし女性が刀を持つ事はほぼ無いので、結局使われる事の無い禍月の逸品!!』
『おいミカさん…君、わたしがお婆ちゃんになったらどうするつもりだあ…?』
【おち、おちおち落ち着け主。其方は我が終世の主。だから折ろうとするでない…!】
ミシミシミシン…と力を入れるも折れねえ。この変態刀…裏切ったら火口に放り込んでやる!!
だが、まあ。彼は今や頼りになるわたしの相棒。1人?で勝手に動いて、着替えを覗いたりしないし…大目に見よう。
ルキウス様と木華のお出掛けの際、わたしもパスカルとちゃっかり楽しんでいる。護衛は充分いるのでな!
どこに行っても精霊達は注目を浴びる。だが…新聞のお陰でわたしが精霊姫(泣)と知られているので、恐れられる事は無かったぞ。
『わあ…古い建物だな。ジンジャって言うのか』
『池に鯉がいるよ!餌あげよう、パクパクして可愛いよ』
『おお、本当だ。まるでシャーリィみたいだな』
『やーん、もう!パスカルったらあ!』
『それ褒めてんのかお前…?』
ラディ兄様も一緒になって餌をあげる。なんか言っているが、わたし達の耳には届かない。久しぶりの日本っぽい建物を楽しむのだ。
……池にトッピーが浮かんでいる気がしたが…気の所為だよね!!!
『今日は買い物だよ!!ヨミ、収納が大活躍するぞ!』
「どれだけ買うつもりなの…?」
資金が尽きるまで…は言い過ぎだけど。いっぱい欲しいものあるんだよ!!
うふふ…皆様は覚えておいでだろうか、わたしの貯金を。そう、ヘルメットバイトで稼いだ金貨を!!大金を持つ事に恐れがあった為、半分の250枚は陛下に預けておいたアレ。それを使う日が来たのだ!!
『まず畳!首都の邸宅の1部屋を和室に改造するぞ。ちゃんと測ってきたから、えーと…』
それとコタツと布団も必要だ。掛け軸もあるといいな…七輪も。窓には障子を…あと照明も…忙しや。
パスカルも不思議そうに色々眺めている。和食器も欲しいなあ、あれこれそれ…店ごと寄越せ!!
『ふう…買ったぜぇ…』
『お土産も沢山買ったなあ』
『まあね!帰ったら魔改造ビフォーアフターするぞ!』
『魔…?楽しみにしているよ』
おう、居心地のいい空間を提供するよ!
そしてもう明後日には出発するという時に…なんと近くで縁日があるんですって!?花火も上がる…行くっきゃねえ!!浴衣は寝巻きらしいから外では着ないが、パスカルと着物花火大会デートが出来る!
ウキウキで支度をして、お祭り会場の神社に向かう。おお、日本の縁日そのままじゃん!たこ焼き、焼きそば、わたあめ…金魚すくい!
『……シャーリィ。よかったら俺と回らないか?パスカル、花火までには終わらせるから』
『兄様…?』
『ん…まあ、いいですけど。じゃあ後でな』
ラディ兄様はわたしの手を取ってそう言った。パスカルは鳥居の辺りで別れて、ジェイル達と行動する。
『どしたの、兄様?』
『なんとなく。一緒にお祭りを楽しみたくてな、兄様がなんでも買ってやるぞ』
ふうん…?でもわたしも、兄様と一緒に回りたいと思ってた。パスカルに悪いかなーと思って言い出せなかったけど…じゃあ楽しもうか!!
チョコバナナ、かき氷、イカ焼き、りんご飴…片っ端から目に付いた物を食べていく。わたしは猫の、兄様は狐のお面を頭に付けている。
こうしていると、前世を思い出す。わたあめとくじ引きしか出来なかった雪辱を、今こそ果たすのだ!
『兄様、射的!ぬいぐるみ欲しい!』
『よし任せろ』
兄様は長い腕を限界まで伸ばして…でっかいぬいぐるみゲット!!悪いなおっちゃん、目玉商品貰っていくぜ!!
しかしお腹いっぱいになってきた…うっぷ。でもまだ焼きそば食べてない〜…!
『買うだけ買って明日食べよう。どうしていつも、その場で全部食べたがるんだ…』
『おお、兄様あったまいー!!じゃあ焼きそばとお好み焼きと焼きもろこし、鈴カステラとたこ焼きと…』
『はいはい、順番にな』
最後にクレープを食べながら…一通り回ったかな?楽しかったあ…!つい子供のようにはしゃいでしまったぜ、人妻なのに。…ってよく考えたら、17歳って高校生なんだよなあ。
飲み物を購入して、花火に備える。凪様が特等席を用意してくれるそうなので、そろそろ行かないと。
鳥居でパスカルと待ち合わせだが、まだ来てない。彼も楽しんでるだろうか?
『遅いなアイツ。まあ、花火は夫婦で楽しめよ』
『うん!ありがとうね、兄様!!』
『どういたしまして。…………』
?兄様はじっとわたしを見下ろす。そして…無言で頭を撫で、目を細めて…
『なんだか…ずっとこうしたかった気がする。お前とカフェでお茶したり、買い物したりするのは…俺の生き甲斐かもしれん。
クレールさんや子供達とも違う、これが妹か?』
『とんでもないシスコンだね。でも、わたしも同じだよ!』
兄様と過ごす時間は、なんだか特別なのだ。パスカルとも家族とも友人とも違う…いやあ、わたしってブラコンだったのね。
しみじみしてたその時、人だかりの向こうから頭1つ飛び出た青髪と紫髪が近寄って来るのが見えた。やっぱ長身の2人は目立つわ〜。こっちに向かって来る彼らの手には……
『『なんじゃそりゃあっ!!?』』
び、びっしりと金魚が入った袋が!!わたし達も金魚すくいは我慢してたのに!!
『違う、俺らじゃない!薪名さんが…』
『ふう…久しぶりに本気出しました』
『あの、ポイ?1つ、イッパイとった』
目を輝かせる薪名。君が犯人か!!どうすんのその金魚…!
『実家の池に放します』
いいんかそれで!?でもこれから花火なのに、そのまま見るの?
兄様が荷物を持って先に帰るよ、と言うのでお言葉に甘える事に。わたしはぬいぐるみと飲み物だけ持って花火の席に向かった。
『パスカル、縁日楽しかった?』
『……金魚ばっかりだった…。しかも俺は、すぐ破けて1匹も取ってない…』
何やってたんだ君らは。お土産買ったから、後で食べようねと約束した。
暫くすると、ドー…ン…ドン、ドォン!!…と地面を揺らす大きな音が鳴った。始まったー!
ドーン…パラパラ…ドドン、ドンッ…夜空を彩る火の花は綺麗だなあ…。ラムネを飲みながら、パスカルと手を繋ぐ。
無言で身を寄せ合い、空を見上げる。穏やかな時間…
ふと横を見ると、パスカルとばっちり目が合った。こら、花火見なさいよ。彼は微笑み…キスをしてきた。
全く…彼の腕を取り、もたれ掛かる。彼もわたしの頭に頬を寄せ…これから先の長い人生もこうして支え合っていきたいな。
ドー…ン…ドォーン…あつっ…ドンッ…パララ…あちち…
………………。
花火の影に…ヘルクリスっぽい何かが見…気の所為だな!
楽しかった箏滞在ももうお終い。皆さんに挨拶をして、わたし達は帰路に着く。
行きと違う点で言えば、木華と薪名、他侍女2人が増えた事。それと…
「木華の結婚を見届けて、シャルティエラ嬢の結婚式に参加して帰ろう」
と、凪様もいるのだ…!急遽参戦だよ、自由だな箏の王様は!!護衛は2人だけだし!
来た時と同じルートでグランツに帰って来た。いやー、もう涼しくなり始めてるじゃん!
わたしは陸に上がってすぐに、少那に通信をしてみる事に。
「少那にコール」
通信機の電源ボタンを押してそう言えば、ツツツ…と音がする。数秒後、少那の声が聞こえてくる。
『…シャーリィ?久しぶりー!』
「うん、久しぶり!今どこ?」
『テノーにいるよ。貴女は箏から帰って来たのかな?そろそろグランツに向かおうか』
「そう、今陸に上がったとこ。木華も薪名も、凪様もいるよ!」
『なんで兄上!?』
なんでだろうね…?不思議だねえ。
その足でラウルスペード邸にお土産を持って行くと…
「ねーね」
「……へ?」
セディが……お父様の足につかまり立ちをしている…!しかも、わたしに向かってねーねと…
「もっかい、もっかい言って!!」
「ねーね」
くぅ、ううう…!!感激で泣きそう…!セディを抱っこして…重くなったなぁ。で、初めて喋った単語はなんだったん?パパとか?
「「……………」」
ん?お父様とロッティが無言で指差したのは…バティスト?
「ふ…初めての言葉は「ばえっと」です!」
「は、はあああああっ!!?」
い、いや、あれでしょ。バケットとか言いたかったんじゃないの!?
「いや…確かにそいつを指しながら言ったんだ…。こんの野郎…!」
うわーん、弟の初めてを返せー!!と、わたしは彼を追い掛け回した。でも笑いながら逃げられ…覚えてろー!!!
「それとね、お姉様。報告があるの…」
ん?サロンでお父様にお土産(呪いの仮面)を渡していたら…ジスランに肩を抱かれたロッティが、照れくさそうに話しかけてきた。
「……私ね。今、4ヶ月なの」
「「…………………」」
ひゅー…ん、と仮面が床に落ちる。「ひいいい、動いてる!?」というお父様の言葉は無視して…パスカルと一緒に固まった。
…マジ?
「お、おめでとうロッティ!わたし伯母さん!?きゃー!!」
「ありがとう、お姉様!」
2人で手を取り合って、喜びを分かち合う。嬉しい…!また家族が増えるんだね!!
と、涙が出そうになっていたんだが…後ろから肩をガシッと掴まれた。ロッティとジスランは、憐れみの視線を後ろに送って…い…る。
「……パスカル?」
「………おめでとう。ロッティ、ジスラン。俺らは急用思い出したから、これで失礼する。本当におめでとう」
そのまま…わたしは腕を引かれて部屋を出る…ちょっと?
「シャーリィ。俺達も…もう、いいよな?今なら、再来週までにお腹も膨らまないよな?」
「…そりゃ、従兄弟で同い年って楽しそうだけど…いや今からじゃ無理か。とにかく落ち着こう?」
「落ち着いているよ?さあ、今すぐ帰ろうか」
「ひあ……!」
その後わたしがどうなったか…まあお察しですよね。最近こんなんばっかでごめんなさいね!この男、結婚してから遠慮が無くなったんですよ!!!




