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勘当されたい悪役は自由に生きる  作者: 雨野
学園4年生編
192/222

66



 2学期が始まった後も、緊張の毎日を過ごしているわたし達。



「え…ヴィルヘルミーナ殿下が…?」


 皇宮からの知らせを受けて驚いた。そう、殿下が出産をしたと…つまり。彼女の…最期の時も近い…。

 春のうちにセフテンス関連の裁きは終了している。処刑は…わたしも立ち会った。無理をしなくていいと言われていたけれど、関係者として見届けるべきだと思ったから。



 それと…わたしは騎士を目指している。騎士とは、魔物だけを相手にする訳ではない。時には…人間に剣を向ける事だってある。当然、命を奪う覚悟を持って。

 死に慣れておきたい…じゃないけれど。理解しないといけない。自分が、この手で誰かの命を奪う事があると。


 3人の処刑が終わった後、わたしは裏で吐いてしまった。お父様は優しく背中をさすってくれたが…あの光景は一生忘れない。

 それと同時に。もう二度と繰り返さない…そう固く誓った。




 そして最後の1人、ヴィルヘルミーナ・アヌ・セフテンス。彼女は最初の1週間だけ、赤ちゃんに母乳を与える為生かす。その後…安楽死をさせる。

 現在は母子共に健康だとか。彼女は母性に目覚めたのだろうか…?出産に立ち会ったというペレちゃんに聞いてみたけれど。


「……出産直後お姉様は。「何これ、こんな猿みたいな化け物が私のお腹の中にいたの!?ああ嫌だ、気持ち悪い!!」と…赤ちゃんを拒絶しました。

 でも私が「御子のお誕生にセレスタン様がお喜びですよ」と言ったら、嬉しそうにお乳をあげていましたが…。あの人にとって、赤ちゃんは道具でしかないんです…」


 そう涙目で言っていた。わたしは不謹慎にも…少しホッとした。子供から母親を奪うという、罪悪感が減るから。




 1週間後わたしは、お父様とロッティと皇宮に向かった。生まれたのは男の子だと言う、その子を引き取る為に。

 以前お父様が、自分が引き取るから出産まで処刑を待って欲しいと言ったらしい。だから…わたし達に弟が出来た事になる。

 応接間に通されわたし達と陛下、皇后陛下、宰相様が赤ちゃんを待つ。



「……陛下、ヴィルヘルミーナ殿下は…?」


「…先程、薬を飲んだよ」


「そう…ですか」



 それ以降、誰も口を開かない。静まり返っている部屋の扉がノックされ、ペレちゃんが赤ちゃんを抱っこして入ってきた。

 ペレちゃんはソファーに座り、赤ちゃんを見せてくれた。彼女の腕の中で眠る子は。わたしと同じ…緋色の髪をしていた。その姿を見た瞬間、わたしは涙が溢れてしまった…。



「う…ぅ、ああぁあ、あ……!」


「お、おねえ、さま…」


 わたしだけでなく、ロッティも。そしてペレちゃんも…赤ちゃんはお父様に託して、3人でくっ付いて声を上げて泣いた。


 ごめんなさい。ごめんなさい…貴方から、母親を奪ってごめんなさい。

 それでも…わたし達は貴方を愛したい。沢山可愛がってあげたい…家族に、なりたい。

 あの王女の子を受け入れられるか、不安も少しあった。でも…全然関係ないね。



 お父様も涙目で赤ちゃんを見下ろし、皇后陛下も涙ぐんで陛下に肩を抱かれている。これからは…わたし達がこの子を守る。




 わたし達は十数分泣き続け、ようやく落ち着いた。ふう…新しい家族の前で、これ以上恥ずかしい姿は見せられない!


「本来ならば、私が引き取るべきなのですが…申し訳ございません…」


 ペレちゃんはそう言って、甥をお願いしますと頭を下げた。いいんだよ、ペレちゃん本人も若いし今大変な時期なんだから!


「でも…可愛い。同じ髪だね、わたしの子みたい。ねえお父様…」


「駄目だ!どうせ自分とパスカルで引き取りたいとか考えたんだろう?お前達はまだ学生だろうが!」


「ちぇー」


 うう…ママになりたかった。せめて小さいうちはお姉ちゃまと呼んでもらおう!

 ロッティもメロメロで、優しく頭を撫でている。今赤ちゃんは皇后陛下が抱っこしているが、流石安定している。4人の子を産んだ母は違うぜ…!


 もう家は受け入れ準備万端で、最終兵器アイシャも構えているぞ。という訳で…1週間くらい学園サボってお世話しーよおっと!


「ねえお父様、名前決めた?」


「…ああ。男の子って聞いてから、バティストとか色んな人間に相談しまくって決めた。

 この子はセドリック。セドリック・ラウルスペードだ」


「セドリック…うん、いい名前!じゃあセディだね、よろしく!」


 名前を呼ぶと、セディが笑ってくれた気がした。また涙が出そうになったけど…なんとか堪えた。




 その後ルキウス様やルクトル様、ルシアンも見に来たぞ。


「おお…ルシアンが生まれた時を思い出すなあ…」


「そうですね、兄上。兄上は滝のような涙を流していましたねえ…。姉上は沢山キスをしていました」


「そ、そうだったんですか!?」


「嬉しくて、つい…」


 ルシアンは思わぬ話に、顔を赤くして照れていた。そしていつか、自分もお父さんになりたいって笑ったぞ。お母さん候補はいますかね?



 今度はラディ兄様も来た。彼は2児の父ですからね!!


「先生、ここは父親の先輩である俺が色々とお手伝いしましょう」


「そのキメ顔うぜえ…が、言えてる。なんかあったら頼むわ」


 本当に腹立つ顔をしているが、きっと頼りになるはずだ。クレイグとレオノールちゃんを連れて遊びに来て欲しい。



 色んな子育ての先輩から話を聞いて、帰路に着く。よーし、頑張るぞ!!!





 ※※※





「…んぎゃあああああああああっ!!!!」


「わーーー!!泣いた!アイシャ、アイシャー!!」


「落ち着いてください旦那様。お腹が空いたんでしょうかねえ」


 お父様情けない。セディが泣く度に慌てふためいているわ。



「オメーよ、「俺は昔、ルシファー達の遊び相手もしたんだゼ」って偉そうに言ってなかったか?」


「………だから。遊び相手で…お世話は、してない…」


「ハァーーーッ!それでよくドヤれたなあ」


「お前も子育てした事ねえだろうがっ!!!」


「うるさいですよお2人共!!!」


「「はいいっ!!!」」


 あーらら。お父様もバティストもハリエット卿に怒られちゃってー、ぷっぷー。

 ハリエット卿も5人の子を育てたと言うからね!しかも全員男、なんて頼もしいお母さん…!

 しかし赤ちゃんの泣き声は強烈だねえ。小さい身体であの声量。凄まじいわ…。


「一生懸命生きているって事なんですよ」


 アイシャがミルクをあげながらそう言った。そっかあ…。

 予定通り学園をサボっているが、お父様にも怒られなかった。むしろいて欲しいって言われたし…では遠慮なく!

 わたしとロッティ、ペレちゃんでお食事を見学する。ふにゃふにゃの赤ちゃんは抱っこも怖いわ…アイシャすごい。


 

 公爵家の皆で力を合わせて、セドリックを立派に育てるぞ!と誓った。テオファなんかは恐る恐るだけど頬をつつき、何故か泣いていた。その後はすっごく可愛がっていたぞ。

 フェイテはお兄ちゃんなだけあって扱いが上手い。ネイが俺の腹の上で寝てたの思い出しますわ〜と笑っていた。そのネイもお姉ちゃんになった気分で、積極的にお世話したがるぞ。


 お兄ちゃんお姉ちゃんがいっぱいで大変ね。わたし達の弟は!




「…可愛い。パパですよ〜、ママはあのお姉さんね」


「パパは俺だよっ!!!混乱させるからやめんか!!」


 見に来たパスカルは完全にパパの顔。お父様にべシーンと叩かれながらこっちを指差す。誰がママだ、嬉しいけど。

 そんでわたしの腰を抱いて「子供は何人欲しい?俺はいつでもいいから!」と聞いてくる。時期はともかく…2人くらいかなあ?



「ほら、ジスランも抱っこしてみなさいよ」


「怖い…俺の力で潰してしまうんじゃないかと…!」


 なんか力を制御出来ない魔王みたいな事言ってる。ジスランにあぐらをかかせて、膝の上にセディを乗せた。

 そっと優しく支えてあげると…


「うー、うあうっ」


「………………」


 セディがジスランの指を掴んだ。ジスランは優しく微笑む。


「強いな…将来が楽しみだ」


 そう言って、ゆっくりと頭を撫でる。赤ちゃんは意外と力強いらしいけど、本当に将来楽しみですな。




 友人達が代わる代わるやって来るわ、陛下も来るわ。忙しい毎日を送る。


「あれっ、わたし結婚したら離れ離れじゃん!」


「おっ、そうだな。その間にパパって呼んでもーらお〜っと」


「く、くやしいいいい!!!」


「お姉様、どっちにしても箏に行っている間はお別れよ」


「……………ぐぅ…」


 せめて、春までに「おねえちゃま」と呼んで欲しい…!そう思い、1日に何度もお姉ちゃまですよ〜と声を掛ける。


「(…赤ちゃんが言葉を発するのに10ヶ月は掛かるんですけどねえ。春までに、はちょっと難しいですね…)」


 その様子をアイシャは優しい目で見ている。応援してね!!





 警戒しつつも穏やかな毎日を過ごしていたが…10月のある日、皇宮から伝令魔術が届く。



『伝令、伝令!フェニっ君様及び専門家の解析により、2日後に瘴気が弾けると結果が出ました!!

 すでに近隣住民の避難は完了。対象者は持ち場についてください!!繰り返し…』


 …!来たか…!わたしとトッピー、ロッティとドラちゃん、バティストとヨミが準備をする。お父様と騎士達も半数は領地を守り、残りは共に向かう。よし…気合を入れろ!!



「ふう…ロッティはどこだっけ?」


「テノー側の森林よ。派手にぶっ壊していいってドラちゃん様に許可を得ているわ!!更地にしようとも、全ての緑を再生してくれるって」


 そっか。ジスランも一緒のはず、心配はいらないね。

 3人共騎士の隊服に身を包み、健闘を祈った。ヨミとバティストは丘陵地帯だったかな、頑張って!



 お父様達から激励の言葉をもらい、セディに待っててねと挨拶をして飛び立った。わたし達7人はそれぞれ通信機を持ち、離れた皆と連絡を取り合う。



「地組、現場に到着」


『闇組も到着、待機でーす』


『風組、持ち場を巡回中です』


『木組、作戦会議中』


『光組も同じく会議中』


『火組、待機』


『…あれ、私が最後か。水組、到着』


 よし。それぞれ持ち場を離れず、タイミングを待つ。


 その日はゆっくりと休み精神と身体を落ち着かせる。次の日は眠らず待機。そして…夜明けと同時に、山脈を黒い瘴気が包み、弾けた!!



「行くよ、トッピー!!!」


「やる、やるよ」


 魔物は動物型だけでなく、虫型も存在する。全ての虫が…ではないが、その数は膨大だろう。弾けると同時に山が揺れ、かなり離れているこのキャンプ場にまで怨嗟の声が轟く。

 うわ…普通に聞いたら、足が竦みそう…!だが、こっちには頼もしすぎる精霊達がいる。負ける気がしない!!!

 地組の作戦会場はグランツの小さな村があるんだが…ごめんぶっ壊す!!!後で直しまーす!!


 左手に魔本を持ち、右手で刀を抜き掲げる。炎の翼で空に飛び上がり、後ろに控えている騎士・魔術師達に向かって声を張り上げた。



「各自作戦を順守し行動せよ!!地上はベヒモスの領域、決して足を踏み入れるな!!負傷した者は即座に下がれ、従えない者は今すぐ立ち去れ!!!」


「「「「おおおおおおっ!!!!」」」」


 よっしゃいい返事!山が鳴り、地面が揺れる。…来た。



「トッピー!!」


「くらえ、くらえ!!!」


 討伐隊は全員空中待機。トッピーが地面を揺らし…木々を薙ぎ倒し。槍のように鋭く伸びた土が、次々と魔物を貫く。

 範囲内で地に足を付けている魔物は、全てトッピーが貫き潰し、埋めて始末してくれる。ノモさんもサポートをしてくれている、いける!


 わたしは魔法を使い、上から一掃する!



「【વીજળીનો વરસાદ】!!!」


 詠唱と同時に上空に黒い雲が発生し、無数の雷が魔物を捉える。でもこれ結構魔力減るわ!!



「今ので大部分は始末した!!残りは人間の仕事だ、行くぞ!!

 大仕事だよミカさん、気合入れていくよー!!」


【承った。存分に振るうがよい】


 魔本を腰の鞄に仕舞い、ミカさんを構える。残り、飛んだり跳ねたりしている魔物を1匹残らず退治だ!


 わたしも討伐隊と共に滑空する。全て急所を一刀両断、ここはなんとかなりそうだ…!




 他の皆は大丈夫だろうか…殲滅完了した地域は、余力があれば加勢する予定だ。そう考えていたら…北西の空が燃えている。ありゃ…火組だな!



 うっし、他所を心配するのは後。まずは担当地区を、犠牲者を出さずに終わらせる事!




 皆…頑張って!



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